47話 300人委員会。
翌日、協会に呼ばれた。
いつもの応接室に入ると、綾大路が、こちらの服装に、ちらりと視線をやった。
「……その羽織はなんですか?」
「ダンジョン配信するときの定番衣装にしようかと思って。どうです、かっこいいでしょ。惚れちゃダメですよ。俺に触れると低温火傷するので」
紺と銀を基調にした長羽織の裾を、軽く払ってみせる。
綾大路は、冷めた顔で、
「……まあ、人の感性はそれぞれですので、『あなたみたいなみすぼらしいオッサンに惚れる人なんているわけないでしょう』などとは言わないでおきます」
眼鏡をクイっと上げながら、どうでもよさそうに、そう答えた。
『言わないでおきます』って言えば、ディスを言わなかったことにできるわけじゃないんだがねぇ。
傷つくわぁ……
なんで女子って、基本、俺のこと嫌いなん?
顔面殴って陥没《かんぼつ》させてやろうかな。
今の俺の立場なら、ギリ許されるんじゃね?
「今日、来ていただいたのは、あなたに、世界の真実を知っていただきたかったからです」
「世界の真実……不景気の時の消費税は悪税ってことですかね」
「……面倒くさいので、茶々を入れないでいただけます?」
「どうも、すいませんねぇ。アッパー型のコミュ障なもので」
綾大路は、小さくため息をついてから、机の上に、一冊のファイルを置いた。
「こちらを見てください」
「これは?」
「古文書を和訳したものです」
ページをめくると、古めかしい文体で綴られた文章が並んでいる。
「ダンジョンに関する出来事が描かれています。ダンジョンが出現すること。ダンジョン配信をしなければ世界が終わるということ」
読んでみると、確かに、大仰な文体でそのようなことが書かれていた。
「遥かなる太古、正式な記録すら残っていない昔から、この古文書は脈々と受け継がれ、現在では、300人委員会によって管理されています」
「……ダンジョン配信って、太古から概念が存在したんだ。ウケるんですけど。……てか、300人委員会ってマジであったんだ、へぇ」
都市伝説の中ではかなり有名な、世界を裏から操る影の世界政府。
子供の頃、そういう陰謀論系の動画を、面白半分でよく見ていたことを思い出す。
あと、フリーメイソンと、イルミナティね。
「ダンジョン対策協会は、300人委員会主導の組織ですよ……まあ、そんなことはともかく」
「……結構大事なところだと思いますが、まあ、いいですよ。それで、なんですか?」
「ダンジョンが出現するまで、300人委員会は、この古文書の予言に対し、懐疑的《かいぎてき》でした」
綾大路は、淡々と続ける。
「……が、実際にダンジョンが出現した以上、こちらの『滅びの予言』も、無視するわけにはいきません」
「だから、ダンジョンが出たと同時、『ダンジョン配信者を支援する』って声明を出したんですか……なるほど」
無職だった頃の自分に、支援制度が渡りに船だった記憶がよぎる。
まさか、あの唐突な政策の裏に、こんな大仰な理由があったとは。
「どういう理屈で世界が滅びるのか……ダンジョン配信さえしていれば無条件で世界は滅びないのか……それとも、ダンジョン配信をすることでレベルを上げなければいけないということなのか……視聴者の数を増やさなければいけないということなのか……」
綾大路は、ファイルを閉じながら、続けた。
「古文書の文章があやふやすぎて、現時点では、何が答えなのか、さっぱりわかっていません」
「……なるほど」
肩をすくめながら、俺は、内心で、別のことを考えていた。
――1000万で得た情報。
異世界から強大な魔王がやってくる、という予言。
ダンジョンの最深部を目指せ、という、あの不穏な一文。
この古文書に書かれているのは、あの話のことなのだろうか。
「……」
言うべきか、言わざるべきか。