49話 なんでも言うことを聞きます。
帰宅してから数時間後に、綾大路から連絡がきた。
近日中に、全配信者に向けて『ダンジョンの最深部に到達できた者の願いをなんでも叶える(人を生き返らせる等の不可能なものを除く)』という通達が出るとのこと。
それを見て、俺は笑った。
「大金どころか、『裏世界政府がなんでも言うことをきく権利』をもらえるのか……これは、頑張らないとなぁ……」
スマホの画面を見つめながら、独り言をこぼすと、
そこで、夕飯の支度をしていたユウガが、鍋をかき混ぜる手を止めて、こちらを覗き込んできた。
「なんでも願いが叶うのですか……でしたら、15歳で結婚できる権利をいただきましょうかね」
「結婚できる権利ってだけなら、数か月待てば手に入るんだから、わざわざ、疑似ドラゴン〇ールにお願いしなくてよくない?」
女の子は16歳で結婚できるはず……
などと思っていると、
「先生、今の法律だと、男女ともに結婚できる年齢は18歳ですよ。何年前の知識で止まっているんですか」
「……えぇ?! マジで?!」
結婚という概念があまりにも縁遠すぎて知らんかった……
「というわけで、15歳で結婚できる権利というのは、なかなか価値がある、というわけです」
「でも、所詮は、2年と数か月だろ? 金とか地位とかの方がよくない?」
「いくら金を積んでも時間そのものは買えませんよ。そして、十代の数年をナメないでください」
真剣な顔でそう言われると、返す言葉に少し詰まる。
まあ、気持ちはわかるよ。
俺も、十代のころは無駄に焦っていた。
ちなみに、金を積んだら時間を買うこともできるんだぜ。
やっぱ、金はすげぇよ。
お前がナンバーワンだ。
「てか、誰と結婚する気? まさか、あの聖城とかいうヤンキーじゃないだろうな。許しませんよ、あんなカス。ユウガの旦那はせめて石油王じゃないと」
「……実は石油王と結婚するつもりです」
「許しませんよ! たかが石油王ごときにうちの娘はやらん!」
と、テンプレなボケをすると、ユウガは楽しそうに笑っていた。
鍋をかき混ぜながら、肩を揺らしている姿を見ると、こちらまで、つい口元が緩む。
楽しんでもらえて何よりだが……ただのボケではなく、マジで、普通に、『石油王ごときが釣り合うと思うなよ』と思ってしまった自分がいる。
世のお父さんは、みんなこんな気持ちなのだろうか。
大変だねぇ。
などと思いつつ、俺は、さっきユウガが入れてくれたお茶を飲んだ。
★
翌日、俺は、協会の命令に従い、
昼から、時空旅団と一緒に、8階層ガーディアンの討伐に向かった。
俺だけじゃなく、他にも最高位のダンジョン冒険者チームが集っている。
『人類の総力を合わせて、8階層を突破し、前人未到の9階層を目指そう』、
と、そういう話になったのだ。
――ガーディアンが待つ宮殿に突入する前、
俺は、松葉杖を軽く振りながら、集まった面々に声をかけた。
「俺は御覧のあり様なので、期待はしないでくださいね」
ここにいるメンツは、時空旅団以外も、みな、おおよそのことは理解しているらしい。
バビロンズのリーダーである『ショーン・コナーズ』が、流暢《りゅうちょう》な日本語で、こう言ってくれた。
「逃げるときは担いであげよう」
筋骨隆々でイケメンの彼にそんなことを言われて、思わず、胸がキュンとしてしまう。
「ふんっ、別にいい男だなんて思ってないんだからねっ!」
とツンデレメソッドで対応しておく。
『イカれたやつを見る目』を向けられたが、ご愛敬《あいきょう》ということで。
ちなみに、足に関しては、もう普通に歩くこともできる。
ただ、たまにフラつくので、一応、まだ杖を握らせてもらっている。
そこで、改めて、この場に集まった顔ぶれを見渡した。
現在、ここには時空旅団の23人。
海外を拠点にしている外国人精鋭チーム、バビロンズの5名(全員レベル55以上)。
協会日本支部お抱えの最強チーム、エンジェルライダーズの5名(全員レベル50以上)。
あと、レベル40以上のメンバーが、個人・チーム合わせて、およそ30名。
総勢60人以上の、人類の最高峰が、この一箇所に集結していた。
最強の時空旅団が前衛を張り、
他のメンツが、後方から支援に回る。
怪我人の俺は、さらにその後ろから無力の見学、
――という完璧で究極のフォーメーションで、
8階層のボスに挑むことになっている。
「……俺以外、みんな有能すぎて、なんかちょっとイヤかもぉ。自尊心的にキツいかもぉ」
なんてくだらない言葉を吐きつつ、俺達は配信魔法を起動し、スマホを浮かせた状態で、8階層を目指した。