51話 完全勝利!
クロノスは、二つの厄介な魔法を操る。
一つは、『タイムストップ』。
範囲内の対象を、一時的に完全停止させる魔法。
効果範囲は、多くても十人程度と限定的だが、直撃すれば、その間、何もできなくなる。
もう一つは、『クロックアップ』。
自身の体感時間を加速させ、周囲の動きが、スローモーションに見える魔法。
だが、時空旅団は、その両方への対処法を、すでに掴んでいた。
「タイムストップ、来るぞ! 散れ!」
猛田の声が飛ぶと同時に、前衛の面々が、一斉に散開する。
クロノスの体表に、無数の砂時計の文様が、淡く発光する予兆が走った瞬間――もう、誰もその範囲内にいなかった。
猛田は、最前線で戦いつつ、支援組に対して、常に的確な指示を飛ばしている。
火力アタッカーとしてだけではなく、タンクとしても、指揮官としても有能。
おまけに、認めたくないけど、だいぶ美少女で、スタイルも抜群。
あいつはマジで神様に優遇された天才女王。
だから、余計にむかつく。
いっそ、どさくさに紛れて殺してやろうかな。
言っておくけど、俺、お前は殺せるからな。
ガチで嫌いだから。
などと、教師にあるまじきことを考えていると、
「発動前の光り方、もう、完全にパターンわかってんだよぉ!」
猛田が、悪態と共に嗤《わら》う。
凶悪な魔法も、予備動作さえ見切ってしまえば、ただの空振りに終わる。
一方の『クロックアップ』は、クロノス自身の攻撃速度・反応速度を跳ね上げる魔法。
発動した瞬間、クロノスの動きが、目に見えて研《と》ぎ澄まされる。
「――あいかわらず、速ぇっ!」
坂田の悲鳴じみた声が響く。
坂田もレベル100超えで有能なんだけど、性格とか態度のせいで小物に見えてしまう。
そこで、猛田が、
「クロックアップ、そろそろ切れる頃合いだろ! ジュリア! 前にでろ!」
「……うるさい、命令するな。耳が腐る」
ジュリアの静かな声。
一応、指示には従っているが不満そうな顔。
彼女も、猛田のことは嫌いっぽいが、チームのためにイヤイヤ従っている感じ。
わかるぞジュリア……お前の気持ちが、痛いほど。
猛田なんかに命令されてつらかったな。
よしよし。
『カルマ様とジュリア様、どっちも美人すぎ』
『アイドルになれる見た目で、どっちも強いとか反則』
『人類最高の二人!』
『猛田様に踏まれたい人生だった』
『ジュリア様は俺の嫁』
『猛田カルマと結婚したら、尻に敷かれるどころか、尻ですりつぶされそう』
……猛田の予測通り、数十秒ほどで、クロノスの動きが、目に見えて鈍《にぶ》る。
★
激しい攻防が、何度も何度も繰り返された。
クロノスの一撃をかわしては剣や拳を刻み、
タイムストップの予兆を読んでは散開し、
クロックアップの持続時間が切れる瞬間を狙って畳みかける。
そのたびに、クロノスの体表の砂時計の紋様が、一つ、また一つと、ひび割れていく。
もはや、クロノスは完全に攻略されていると言っていいだろう。
そして――
「くらぇえ! 爆双斬!!」
猛田の剣が、十字の軌跡を描いて、クロノスの胴を斬り裂く。
「フルメテオビースト!」
間髪入れず、ジュリアの拳が、クロノスの頭部を打ち抜いた。
二つの高火力が、ほぼ同時に炸裂する。
「ガ……アアアアアアッ……!!」
断末魔の咆哮。
クロノスの体が、内側から光を漏らしながら、ゆっくりと、崩れ落ちていく。
その光景を、俺は、後方から、ただ見守っていた。
『やっぱ、時空旅団、強ぇ』
『センも強くなったけど、やっぱ、向こうはレベルが違うわ』
『時空旅団、最強』
『カルマ&ジュリアこそ至高』
俺のファンも、コメント欄で時空旅団をほめたたえている。
なんだかんだ、やっぱ、みんな、『最強のスター』にあこがれるんだよね……
「……マジで、あいつら強ぇ……ムカつくわぁ……凡人の俺の前で、これ見よがしに、天才性を魅せつけてくるの、ないわぁ……」
などと言いつつも、
目の前で繰り広げられた光景に、実は、心臓が、どくどくと脈打っていた。
ムカつくけど、カッコイイと思ってしまう心に嘘はつけねぇ。