センエース   作:閃幽零

54 / 83
54話 朧月華がエグすぎる……かも。

 

 54話 朧月華がエグすぎる……かも。

 

「俺、おかしなこと言っているか? めちゃくちゃ普通のことしか言ってねぇぞ」

 

 極めてシンプルな理屈のつもりだった。

 

 だが、ジュリアは、何かを言いかけて、結局、言葉を飲み込んだ。

 

「……」

 

 その沈黙が、何を意味しているのかは、俺には、よく分からなかった。

 ……うそだよ。

 わかっているさ。

 俺はバカだが、そこまでバカじゃない。

 

 ……と、そこで、病室の入り口から、綾大路が姿を現した。

 人をかきわけ、俺の前までくると、

 

「あなたの献身には敬意を表します」

 

 いつもの、抑揚の少ない声で、綾大路は続けた。

 

「おかげで、今回も、人類の宝である時空旅団を失わずに済んだ。あなたは、彼らの担任として……一人の英雄として、非常に有能だと言わざるをえない」

 

「どうも」

 

 英雄ねぇ。

 

 そんな強い言葉を使うなよ。

 弱く見えるぞ。

 

「あなたへの敬意というのもかねて、今回は9階層には下りていません。9階層に下りるときは、あなたも一緒です。当然でしょう、今回の件は、あなたが最大の功労者なのだから」

 

「……はぁ。まあ、その辺はどっちでもいいすけど」

 

 綾大路は、こちらの反応を気にする様子もなく、続けた。

 

「今回は前回よりも、明らかに体の状態がマシのようですね。体が慣れてきたということでしょうか。本当によかった。この程度ですむなら、もしもの時は、また、あのリングに頼ることもできるでしょう。……もちろん、軽度の障害は残っているようですが……この程度なら、明日にでも、9階層に――」

 

 と、そこまで言った時点で。

 隣にいたユウガが、無言のまま、綾大路の頬を張った。

 

 パァァアアンと、力強い音が病室に響き渡る。

 

 その場にいた全員が、一瞬、動きを止めた。

 

「……なにをする、小娘。私を誰だと――」

 

 頬に手を当てながら、綾大路が、怒りを込めた目でユウガを睨む。

 だが、ユウガは、それ以上の怒りの目で、まっすぐに睨み返した。

 

「こんな状態の先生を、明日にでも9階層に引っ張り出して、どうする気ですか。また強い敵が現れてピンチになったら、先生に、ダークリングを使ってもらおうってことですか?」

 

「必要であれば、頑張ってもらうことも当然――」

 

「そもそも、前よりはマシって……先生が言うならともかく、あなたが口にするのは、不謹慎にもほどがある」

 

 ユウガの声が、次第に熱を帯びていく。

 

「杖ついて、五感に障害残っている状態で、また無理して、指が動かなくなって、五感がさらにやられて……そんな先生を前にして、これなら、また使えるって? 先生を使い捨ての道具か何かだと思っているんですか?」

 

「……」

 

 綾大路は、何も言い返せずに、ただ、押し黙った。

 色々と言いたいことはありそうだが、ユウガの剣幕に押されているという印象。

 

 病室の空気が、しんと張り詰める。

 

 そこで、俺は、ベッドの上から、そっと口を挟んだ。

 

「あの……ユウガさん。そんな深刻にならなくていいよ。マジで、今回はさほどでもないから……」

 

 おそらくだけど、今回、後遺症がマシだったのは、朧月華の効果じゃないかな。

 

 この羽織を着ている間は、ダークリングのダメージも軽減されるんじゃないだろうか。

 ダークリングを使っている間はレベル100以上だから、朧月華の効果も高くなる。

 

 そう考えると、非常にいいシナジーと言え――

 

「先生は黙っていてください。あなた頭おかしいんだから、喋るとややこしくなる」

 

「……今、一番、俺の心をえぐったのは、ソロモンでも、ダークリングでも、綾大路でもなく、ユウガさんだってことには気づいてほしいかな……」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。