※本作は『Fate』シリーズの二次創作小説です。
※オリジナルマスター、オリジナルサーヴァント、独自解釈・独自設定が含まれます。
第一話「旅立ち」
ーーー『聖杯戦争』とは、魔術師とその従者たちが己が願いを叶えるがために『万能の願望器』を求めて争う、殺し合いの儀式である。
一九九四年、極東の島国でその第四回目の儀式が行われた。
『第四次聖杯戦争』、その戦いは異常であり過激なもので街一つを壊滅させるほどの甚大な被害をもたらした。そしてもう一つ、この戦いを異常と言える驚くべき事実があった。
ーーー聖杯の破壊、
それは彼らが求めていた万能の願望器そのものを彼らが自らの手で破壊したということ。
なぜ彼らが聖杯を破壊することに至ったのか、その理由は不明だがその事実がこの戦いの異常さをより際立たせるものとなっていた。
冬木の聖杯は強力なもので、破壊跡から常軌を逸したエネルギーで破壊されたようだったが物体の形は消滅しても、その全てを破壊しつくすことは不可能だった。
聖杯の魔力や含まれていた泥は形が破壊された後もその周辺で霧散しており、それらは戦いの後いくつかの組織に秘密裏に回収された。
その行き先の一つには、「聖堂教会」が含まれている。
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一九九九年 初夏
俺は少し疲れていた。
ロンドンから飛行機に乗り、そこから飛び立っておよそ二時間と三十分近いフライト。
空港に降り立ち「マルセイ・ルーカス」の名が書かれたパスポートを持って入国の手続きをすませ、やっと席につくことができたからだ。
左腕に巻き付けた時計を見て時間を確認すると、時計の針は午前十一時あたりを指していた。
少しの疲労からなのか、ただ今が昼頃だからなのかなんだか小腹も減っていた。
お腹すいたな・・・・・・、もう昼だしご飯を食べようか。
そう考えてしばらくし、席を立って腹を満たすためのちょっとした軽食を買った。
軽食として買ったのは具材をパンで挟んだサンドイッチ、この国発祥のグルメで「パニーノ」と呼ばれているものだ。
見た目としては、それはこの国らしいトマトやバジル、それにチーズと生ハムも使われたスマートで洗練されたフォルムだった。そしてそれを実際に食べてみたらそのスマートな見た目を良い意味で裏切る、具材の味の重なり合いが口の中でいっぱいに広がる鮮烈な美味だった。
意外と自分好みな軽食を取った後、荷物をもって空港の外へと向かった。
空港の外に出ると、その目の前には今回の旅の目的のひとつでもある大きな連山があった。
あの連山はイタリア、アルプスの北東部に位置する山地で、その名前は「ドロミテ山脈」という。
ここはその山の麓に位置する旅人の間では「秘境の街」と呼ばれる、世界的に知名度は低い『ドロミティ』という街だ。
俺は学生の初めの頃から放課後とかの学校生活の空いた時間の退屈、それを埋めるためにアルバイトをしていたんだが、その仕事は意外と報酬も良かったんだ。だけど暇を埋めていたせいでその金を使うタイミングは全く無く、結局そのまま卒業を迎えていた。
卒業後、俺には有り余ったその金の使い道を考えていたとき、俺には「世界を旅してみたい」という願望があったことを思い出した。だから一年ほど前から各国の名所を旅してきたんだ。
今回俺が「ドロミティ」を選んだ理由は「秘境の街」と呼ばれるそのワケを自分の目で確かめてみたかったからだ。
雑誌に写真が掲載されていて、実際に見てみたかったその山々を今目の前にして、俺は感動している。
幾分か立ち尽くし、ハッとして俺は歩き始めた。
しばらく歩いて街へ入った。街の外観はこの地らしい文化的な建物ばかりが並んでいて、俺の家があるゼブノークスの街並みとは全く違っていた。始まりからこういった自分の国との文化の違いを感じられたりするから、旅というものは楽しいのだ。
すれ違う人々は皆、結構ラフな格好をしていてそれにも驚いた。イタリアのこのあたりなら民族衣装のような服装をしている人も見かけるのかなと思っていたので、逆にシャカシャカしたやたらとカラフルな装いをしている人々を見ているとこの街に安心感も覚える。
この街の旅は、楽しくなりそうだ。
そう思いながら、この街への出発前に予約していた宿へと足を進める。
* * *
【一週間前】
月の淡い光が差し込む薄暗い部屋に、一人少女が入ってきた。部屋の奥の床には方陣のような不気味なものが描かれている。
外の様子はもう初夏に近いというのに今もまだ静かに雪が降っているようで、あたり一面雪景色が広がっていた。そしてその森の中にたった一つ、佇んでいる城があった。
そんな、いまだ寒さの中に囚われたこの城の一角で、今まさに儀式が行われようとしていた。
少女は描かれた方陣へと手をかざす。
ーーー「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。」
そうして言葉を紡ぎ出した彼女に反応するかのように、目の前の方陣も光を発し始める。
紡ぐにつれてその光も段々と強くなり、何かが誕生するような雰囲気を醸し出していた。
ーーー「我は常世全ての善と成る者、我は常世全ての悪を敷く者。」
異様な雰囲気はさらに強まり、周りには霧ができていく。
ーーー「汝、三大の言霊を纏う七天の檻、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ・・!」
その紡ぎが終わったその時、方陣の光は最大限に強まった。上に竜巻が起こるかのように光が集まり、少女もその眩しさに少し目を細める。そうして光が霧散した後に居たのは、目を瞑ったまま立つ、獣人のような耳、緑色の長髪を持った女弓兵だった。
「サーヴァントアーチャー、聖杯に命を受け現界した。お前が私を呼び出した、マスターか?」
瞑っていた目を開き、目の前の少女を見る。そのマスターらしき人物を目の当たりにし、呼び出された英霊は
「っ・・・!?」
と少し驚いていた。なぜなら、今目の前にいる英霊を呼び出した人物の容姿が、子どもだったから。
「ええ、私はクラウディア・フォン・アインツベルンよ。今回の聖杯戦争であなたのマスターを務めさせてもらうわ、よろしくアーチャー。」
そう返した彼女は、言葉遣いもその表に出す表情も見た目以上に大人びていた。まるで心を宿さない機械かのように、子供に見合わない感情のない声が響いたのだ。
そんな彼女は言葉を返した後すぐ部屋を退出していった。一人残ったアーチャーは、未だ驚きの色を消せなかった。
「なんと、近頃の聖杯戦争というものは、子どもが戦いに身を投じてしまうものなのか・・・。」
アーチャーのその声色には、驚きの他にも哀れみと悲しみ、そして少し怒りが混ざっていた。
* * *
ーーーーコツ、コツ、コツ、
軽く、しかし重厚な足音が鳴り響く廊下。
長髪で右目の隠れた彼はただならぬ雰囲気を纏って少し焦りを滲ませながら、足早に歩いていた。自身を呼び出した首位の部屋、その扉の前へ辿り着くと心なしか、いつもに増して部屋から畏怖の気を彼は感じ取る。
しかしその気に臆さず彼は扉をノックする。
「失礼します。」
そうしてドアノブを握り、扉を開けて足を進めた。
入室に気づき目の前で背を向けていた首位が、こちらを向く。そして、彼女の鋭い眼光が彼へと向けられる。その顔はいつも以上に険しさを帯びているように見える。
「いかが致しましたか、ロード・バルトメロイ。」
「・・・・・・ヴィクター、よく来ました。唐突ですが、この書を検めなさい」
そう言って机の上に置かれていた書を滑らせ、私の方へと差し出した。それを手に取り内容を深々と見てみると、ロードがなぜ怒りを見せていたのか理解した。
その書には、『聖堂教会の一端が冬木の聖杯を利用し、模造聖杯を作り出しそのシステムを完成させた。』『その模造聖杯を使って、聖杯戦争を開こうとしている。』
要約すると、そう書かれていたのだ。
「ロード・・・。これは、事実なのでしょうか。」
「私も先ほど見て目を疑ったのですが、どうもここは現実のようです。このような不祥事、他所のロードに知られでもしたら時計塔の権威は失墜し、聖堂教会との全面戦争にまで発展しかねません」
この紙に書かれた内容が本当で、あの「万能の願望器」と呼ばれる、冬木の聖杯のシステムそのものを聖堂教会が完璧に模造して見せたのなら、それは魔術教会にとって大きな問題となる事案だ。
「聖堂教会の塵め・・!魔術世界の法を、その泥で穢そうとは万死に値する・・・!」
「いかがなさるのですか、ロード。このような出来事、我々法政科が見逃すわけにもいきませんが。」
「そんなこと当然です。そのために貴方を呼びました。ヴィクター、貴方に実務を命じます」
「実務、ですか?」
「そうです。イタリアの地で開催されるという、このふざけた聖杯戦争に参入し、模造聖杯ごと完全に平定してきなさい。私はここに残り、科を挙げてこの情報の隠蔽と、教会への圧力を即座に完了させねばなりませんので。」
「なるほど、聖杯戦争への参加ですか。」
聖杯戦争、私はそれを噂にしか聞いたことはなかった。しかしその噂だけでも苛烈なものだと言われている戦いだ。実際に五年前の第四次聖杯戦争、それに参加した鉱石科の前首位であるケイネス・エルメロイ・アーチボルト。彼はその戦いで、妻と共になんとも無惨な遺体で見つかったと聞いた。
「かつてのロードでさえ無様に殺されたあのような戦いに、私は参加して勝機があるのでしょうか。」
「さあ。ですが、戦力という盤面において不覚は許しません。こちらで至宝の触媒を用意してあります」
ロードは机の上に取り出した木箱を置いた。
「これは?」
「我がバルトメロイの宝庫に眠る、最高位の聖遺物です。召喚に成功したならば、武力において遅れを取ることは万に一つもありません。貴方にとって絶対的な武器となるでしょう」
「なるほど、承知いたしました。しかしロード、一つだけ提案したい愚考が。」
「愚考?構いません、述べなさい。」
「『模造聖杯』なのですが、現地で破壊してしまうのではなく、我が法政科、ひいては魔術世界のために回収しそれを管理すべきではありませんか?」
「・・・何?聖堂教会の穢れた模造品を、我らが時計塔に持ち帰ると言うのですか?」
ロードの眼に、さらに鋭利な光が増したように感じた。それも当然、今私が言うことはロードにとって逆鱗をなぞる言葉そのものだ。それは私も理解している。だが、
「はい。その模造品が穢れたものだとしても、『聖杯の奇跡』を本当に再現できているのならば、我々魔術協会が手中に収めればそれこそ、魔術世界に多大な益をもたらせるものに変えられます。魔術世界の未来を憂う者として、あれをただ灰燼に帰すのは損失が多いと考えます。」
私の言葉を聞き、ロードはしばし考え始めた。そしてロードはこちらを見る。その目には先ほどの眼光は和らいでいる。
「・・・魔術世界の利益、ですか。確かに貴方の言い分には一理あります。いいでしょう、貴方のような主義者がそこまで確信するならば、その判断を採択せざるを得ない。ではヴィクター、貴方に『聖杯戦争の平定』、および『模造聖杯の回収』を命じます」
「御意。その穢れた模造聖杯を我らの神秘で浄化し、魔術世界の益としましょう。我が命に代えても、我らがの時計塔の勝利を持ち帰ってみせます。」
ロードからの命と、与えられた聖遺物を受け取り私は部屋を出る。その時、ロードから微かに声が聞こえた。
「くれぐれも、私の信用を裏切らないように。」
【三日後】
聖杯戦争の開催地であるイタリアの「ドロミティ」と呼ばれるこの場所に着き、今は近くの山の奥で見つけた小屋に私はいた。そこで私はロードから受け取った聖遺物から、サーヴァントと呼ばれる英霊の召喚の準備をしていた。
「よし。方陣はこれで良いのだな。しかし聖堂教会の端くれが、舐めた真似をしやがって。」
冬木の聖杯を模造しようと画策し実現して見せようとは。何度考えても至って度し難く、実に呆れたものだ。そんな愚か者たちには、私自らが適正な断罪を課さなければ。
「では始めようか。」
作り上げた召喚の間に私は手をかざす。そして、召喚のために聞かされた詠唱を紡ぎ始めた。