※本作は『Fate』シリーズの二次創作小説です。
※オリジナルマスター、オリジナルサーヴァント、独自解釈・独自設定が含まれます。
日の落ちた宵。
夜の帳が下りた森は、木々を靡かせて生きているようだ。
そんな深い森の中、相まみえる二つの影。
ーーーチャキッ!! ガコンッ、キキンッ!!!
双影は木々を介してお互いを狙い、隙を探っては遠慮のない一撃を繰り出し合う。
「フンッ!!!!」
騎兵は木の死角から飛び出して槍兵を目掛け、刃を豪快に振り払う。
しかし槍兵はその攻撃を槍で受け止め、側へ受け流す。
そして流した槍の動きを止めずに、騎兵へ向けそのまま突きを繰り出す。
騎兵は先端の鋭利なその槍の一突きを躱して、守りの抜けたその胴へ蹴りを放つ。
しかし槍兵は地を蹴って飛び立ち、その蹴撃を避ける。
「その身のこなし、なんとも巧みなものだ。面白い、俺の攻撃が当たりやしないではないか。」
「其方こそ、動きに環境を使うなど戦術として巧妙に感じる。分明に戦術家として、伊達ではないのが分かるぞ。」
叩き合いながらも彼らは、英雄としての矜持から来るものなのかお互いを称賛し合う。
槍兵は気を取り直し姿勢を構え、騎兵もその動きに応じて走り始めた。
ーーーゴン!!! シャッシャッ、シュキンッ!!!
森の中で交わる刃と槍は、ただの金属音ではなく明らかに大気を震わせる轟音を鳴り響かせている。
地を粉砕し風圧で瓦礫を散乱させるその激しい戦闘は、既に人に為せる所業その域を超えている。
弾く。踏み込む。一閃。しかし、届かない。
互いにその拮抗の繰り返しで優劣は見えてこない。
戦況を変えうる一手すら、騎兵も槍兵も避けて見せる。
戦いにおける主導権を握ろうと伸ばされるその手を、双方共引こうとはしなかった。
表面的には実力に差は見られず、動きのない戦い。
槍兵はまた騎兵の攻撃を避け、距離を隔てて直立する。
騎兵と槍兵は、お互いを同じ高さで見合う形となった。
「ふん、事がなかなか進まぬな、ランサー。まあ此処まで地味な打ち合いも、またそれで興が乗るものではあるがな。」
「それに関しては同感だ。某も出来るのならば地味に敵を消耗をさせたいのだが、我がマスターは機敏質直な方で戦いは早く終わらせるよう某も命じられている。」
「そうであるか。ならば貴殿、まだ何か策を隠しておるな? それこそ事をすぐに終わらせられるほどのものを。」
騎兵のその言葉は、槍兵の反転した目の瞼を細めさせる。
動きは見せたものの、槍兵は動揺はしておらずその言葉が事実であることを物語っていた。
「これはあまり潔い戦いで開きたくはないが、全てはマスターの意向に準ずるために開眸させてもらおう⋯。」
そうして槍兵は目を瞑った。
空気が澱んだ事を感じて騎兵は何かが来ることを察し、身構えた。
その視線は、槍兵を捉えて。
一刻の静寂に包まれ、その先に見たものは。
⋯⋯キィーーーン
槍兵は目をパッと見開いた。
その瞬間、周辺一帯に重圧が掛かる。
それはまるで重力が何倍にもなるかのように。
木々からはミシッ⋯と、地からはズズズ⋯と微かに音が鳴る。
「なんだ⋯!?」
騎兵は突然の状況変化に驚いた。
体が地面に引っ張られるかのように重く感じ、一歩後退しても状況は同じ。
不慣れな感覚に、その体は強張っていた。
しかしサーヴァントとしての体なので、まだ重圧を軽く受けている。
なので先程より動きにくさはあれど、動くことは出来るようだ。
「我が流儀にはいまだ早い道具なれど、事を我がマスターに合わせるべく只今使わせて貰った。」
「こ、れは一体、何の術だ⋯?」
「重圧に対しての疑問ならば、それは我が魔眼を開眸したことによる効果だ。」
「魔眼⋯? なるほど、これが魔眼というものであるか⋯!!」
槍兵は目を見開いたままその槍を右手で騎兵へ向け、左手を添える状態で構えた。
そして、騎兵目掛け槍の刺突を繰り出す。
ーーーシュピンッ!!!
騎兵はその一撃をまたも避けようと身を翻そうとした。
が、その体は重圧が邪魔をして素早く身を翻せなかった。
ーーーバシュッ!!!
そうして一歩遅れた騎兵の左脇腹に、槍兵の一撃の槍が掠ってしまう。
「クッ⋯!!!」
脇腹から出血し、騎兵はその点を掌で抑える。
「こりゃあなんとも面倒な環境にする術なこと、まさか一撃を入れられようとは⋯。」
「某の真の実力はいまだこの程度ではない。だが、それは其方も同じことであろう。自分の身を案ずるのならば、今の内に実力はある程度発揮しておいたほうが良いぞ。」
「どうやら現状は貴殿の言うことが正しい、ではそうするとしようか⋯!」
そして騎兵は右手を天に掲げる。
「いざ落つれ、我が軍馬よ!!!」
その呼び声と共に、騎兵の隣に光の柱が降臨する。
そして光の柱が消え去った時、そこには布が敷かれ防御性は見られなくともピストルの差し込まれたホルスターなど実戦において優秀な武力を携えられた派手派手しい馬が呼び出されていた。
「⋯⋯ほう、馬であるか。」
「これは我が軽騎兵隊の至高の軍馬、その俊敏さにおいて誰にも引けを取らない足を持つものよ。」
騎兵はそう言って軍馬に跨り、手綱を握る。
「それはこの重圧の環境においても変わりはせん、さあ走るぞ我が軍馬!!!」
手綱を鋭く一振りすると、軍馬もその張り詰めた合図に応じて体を大きくしならせる。
『ヒヒィィィィィン!!!!!!』
その嘶きと共に、軍馬は槍兵のいる地点と反対方向へ駆け出した。
ーーーパカラッ、パカラッ、パカラッ、⋯
騎兵の言ったことは大方事実で馬は重圧をものともせず森の中を素早く駆ける。
槍兵はその素早い騎兵と軍馬を逃すまいと、地を踏み込んで追いかける。
軍馬は木々の合間を縫う動きを見せ、槍兵を錯乱させようとする。
ーーーバッ、バッ!!
しかし森の中であることと重圧が多少作用しているために、槍兵は難なく軍馬へ追いつく。
そしてその姿が視界に入るたび軍馬諸共、騎兵を狙って槍撃を繰り出さんとする。
騎兵も軍馬の足を止めないために槍撃を持ち前の豪快さで撥ね除ける。
ーーーザッ、シュバンッ!!! キンッ、カカン!!!
「フフハハハハハ!!!」
騎兵は笑い、この追撃戦を楽しむ。
槍兵はそれを気にせず軍馬を落とそうと連撃を繰り出す。
しばらく走り軍馬は木々を抜けて一直線の山道に出る。
そして軍馬は槍兵との距離を引き離さんと爆発的な速力で駆け始めた。
さすがの槍兵も加速を続けた軍馬には追い付けず、闇に軍馬を見失う。
そしてそれでも逃さんと軍馬の駆けた方向へ走り続けていると、不穏に側の木々から澱みを感じた。
その瞬間、木々の合間から一閃の光が突撃してきた。
ーーーギュバァッ!!! ガキンッ、シュイーン⋯!!!
間一髪槍を側面に構え、光をその槍で受け止めて流す。
槍兵は立ち止まって槍を構える。
そして、またも時を隔てず光が雷のように突撃してくる。
受け流しても受け流しても、何度も突撃をしてくる光に対し槍兵は槍を旋回して閃光の攻撃に合わせた槍捌きを見せる。
そしてまた一撃を止めた時、その光は霧散して正体が現る。
「我が軍馬の光の進撃をも受け入れないというのか⋯!!」
そして槍兵は受け止めた槍で軍馬ごと振り払う。
ーーーギギギ、ブゥン!!!
「今の連撃は宝具の類か⋯?」
「フフッ⋯。まあ、限定的な使用ではあるのだがな。しかし今のでも討てないとなるとこれは参ったな⋯。」
騎兵は考えた。
今までの戦況を考えると、自分が槍兵より劣っていることは確実と騎兵は判断している。
そしてこのままでは宣告通り、槍兵にこの地で散らされる事も。
「このまま戦いたいのも山々なのだが此処で屠られるとなると、我が第二の主に面目がない。」
「⋯なんだ、身を退くというのか?」
「そうだ、確かに俺はすぐに死なない騎兵はろくでなしとは言ったことがあるが、今は主に帰ってくると誓いを申したからな。その契りを果たすためにも此処で死ぬわけにはいかん、俺は全霊を以て退散を図ろう。」
「そうか。其方も主に、律儀にも忠誠を誓える英雄なのだな。」
そうして騎兵は手綱を握る。
いつでも軍馬を走らせられる準備は整った。
対して槍兵は、直立したまま騎兵をしっかり見据えて言葉を放った。
「しかし某も我がマスターのために、簡単に其方を見逃すわけにはいかない。」
「まあ、であろうな。俺も簡単に見逃してくれるとは思ってはあるまいよ。」
「なのでライダー、英雄である其方に敬意を払って試練を与えよう。馬を走らせろ、今から某は逃げる其方に向かって最大級の刺突を繰り出す。」
「最大級の刺突⋯⋯なるほど、宝具か。」
「ああ、その一撃を受けて逃げ延びたのなら某は其方を見逃そう。」
「フハハッ、やはり貴殿は面白い!! その提案、乗った!! 退散のチャンスが有るのなら、俺はその提案を受けようではないか!!」
「フッ⋯。」
豪快に笑い返答をした騎兵に、槍兵は多少の笑みを見せる。
そして騎兵は手綱で命じ、槍兵から逃げるように軍馬を走らせた。
それを追わず、槍兵は右手に携えた槍を地面と平行に上げる。
上げられた槍は段々と赤く魔力を帯び、どんどん密度を高めてゆく。
そして猛火の如き勢いで盛る魔力の渦は、槍を取り巻く。
ーーーギュッ⋯、ゴォォォォォ!!! ⋯⋯シュゥゥゥゥ。
そして槍兵の槍を握る手の握力を強めた時、その魔力の渦は穏やかになり陽炎の如き魔力を纏うだけの槍と変わった。
騎兵は軍馬に跨りつつ、振り向きながらその様子を見定める。
「これは一筋縄では逃げ切れないであろうな⋯。」
そして槍兵は左手で騎兵に狙いを定め、溜め切ったその槍を上に構える。
目を見開いて騎兵へと叫んだ。
「さあ。我が奥義の刺突をその身で受けよ、そして見事逃れてみるが良い⋯!!」
闇に消えた騎兵の影を目掛け、全身の力を込めて一撃を放つ。
ーーー「宝具、『
瞬間、轟音を森に響かせ全てを打ち穿つ槍の猛攻が始まった。
騎兵もその音を聞き、槍の軌道から逸れようと軍馬を木々の死角へと動かす。
ーーーパカラッ、パカラッ、パカラッ、⋯
そして音源の方を見返す。
そこには、軌道外であるはずの自分に先端を向けて穿とうとする一撃が見えた。
その一撃は既に間もなく迫ろうとしている。
「追跡の効果も持ち合わせるのか⋯!!!!」
軍馬に守りの光を展開させる。
しかしその守りはいとも容易く突破して見せた。
これは不可避、そうして騎兵が覚悟を決めた時。
ーーー『令呪を以て命ずる。ライダー、こっちへ戻って来い⋯⋯!!』
槍の一撃が騎兵を貫こうとしたその瞬間、騎兵は朱い光を発して姿を消した。
そして行き場を失った刺突は、目の前の木を何十本も破壊しながら穿ち貫く。
ーーーバァァァァァァン!!!!!
効力を失い地に突き刺さった槍は、誰かに引き抜かれるように自ら動く。
そしてその槍は槍兵のその手に戻っていった。
ーーーパシッ。
槍を掴んだ槍兵は、騎兵へ向けた方の先端に目を向ける。
「そうか、逃げ切ったのか⋯。さすが英雄、その契りを果たしてみせたか。」
槍兵は背を向けて魔術師のいた場所へ戻ろうと歩き始める。
「我がマスターは漁利を狙い潜伏を貫くと言っていたな⋯⋯某はまた、其方と再戦することは出来るのだろうか。」
そう小言を呟きながら槍兵は歩いていった。
* * *
ーーー『令呪を以て命ずる。ライダー、こっちへ戻って来い⋯⋯!!』
一度宿舎に戻って装備を整えてライダーの下へ向かおうとしたが、すぐに自分のサーヴァントが危機に陥っているのを感じ、悩んだ末結局令呪を一画使ってしまった。
目の前で朱い光が発生する。
その光が霧散した時、しっかりとアイツは此処に戻っていた。
床に大の字で倒れ込みながら、ライダーは喋った。
「ああ、主か。令呪を使ったのだな。」
ライダーは見るからにボロボロとなっていた。
「何があったんだ、ライダー。そんなに身を削って。」
「ランサーと戦った、それだけのことだ。」
「なっ、あの先にはサーヴァントも居たのか⋯!?」
「ああ、主が同行せんで俺も助かったわい。」
あの先に魔術師とサーヴァントが両方居たのなら、尚更俺は同行を拒否して正解だったか。
そのおかげでライダーを引き戻せたこともあるし、しかし。
「すまないライダー、引き戻すために令呪を一画使った。」
「ハハッ、何を言うか。主が令呪を使って引き戻さんかったら、あのまま死んでたところだ。むしろ俺は感謝する!」
「そうなのか?」
「ああ、主が令呪を使う直前に俺はランサーに宝具を使われた。あと一歩でこの胴に槍が貫くところであったよ。」
なんと、宝具使用までに戦いは苛烈化していたか。
なら、この負傷も当然の結果か。
「ランサーの術や宝具。魔術師の術系統まで全てこの目で見てきたから、今回生き延びれたのは大勝利だぞ。」
「そうか⋯! よし。良くやった、ライダー。」
「うむ、その言葉はありがたく受け取るとしよう。」
そうして緒戦の一幕は下りた。
英霊召喚、それは主従関係のある互いの利益のために契りあった関係の始まりである。
しかしそれは時折、互いを敬う友好関係の始まりともなりうる出来事である。