※本作は『Fate』シリーズの二次創作小説です。
※オリジナルマスター、オリジナルサーヴァント、独自解釈・独自設定が含まれます。
私は走った。
その予感がきっと杞憂であることを願って。
私はすぐ小屋に着いて、扉を勢いよく開けて中に入った。
九畳程度しかないこの中で、入って扉のすぐ左側には固定電話が置かれている。
その受話器を焦りながらも正確に左手に取り、気が付くと小刻みに揺れている右手で順にボタンを押して番号を並べた。
一度深く息を吸って深く息を吐いた。
ひと時の間を空けて、私は神父たちへ電波を飛ばす。
ピッピッ⋯プルルルル⋯プルルルル⋯
そのコールの音は、何度も受話器を押し当てる左耳に響いて聞こえた。
先に走ったこともあるのでしょう。
その音に重なりながら、音よりも素早く打つ私の鼓動も響いて聞こえた。
じっと直立したまま、私はその声が出てくることを待った。
その数秒は、酷く長く感じられた。
プルルルル⋯プルルルル⋯
『グレゴワールだ、誰が何の用かね。』
しばらく待って、次に響いたのは神父の声だった。
「グ、グレゴワール神父! 私ですそのえっと、エレオノーラです。」
『ああ、エレオノーラか。街の見張りは順調であるか。』
神父の声はやはりいつもと変わらなかった。
だけどどこか、妙な落ち着きを感じる。
その様子に私もつられて、焦っていた感情に冷静さを取り戻していった。
「街については、まだ相手は分かりやすく攻めて来る様子は見られないです。」
『そうか。まだ計画は始まったばかりだ、今は見られなくてもすぐに奴らは動くだろう。今まで通りに配置に就き、じき迫るだろう脅威に警戒を怠るでないぞ。』
「はい、承知しています。それと神父、聞きたいことがあって電話を掛けたのですが宜しいですか?」
『⋯聞きたいこと? ああ構わんよ、何でも聞きなさい。』
本当に聞いてしまってもよいのだろうかと、少し迷いを感じて言葉に詰まった。
それと同時に視界の隅にアサシンさんが映る。
その影を目の先に捉えて、私は考えを改める。
私は一人じゃないのだから、アサシンさんは居るのだから自信を失う必要は無い。
先の結果を顧みないよう、悪寒と迷いを強引に払拭して私は口を開いた。
「街から悲鳴が聞こえたので、敵の仕業もありますし様子を見に行ったんです。でも皆さんは急に苦しみだしたようで、敵の姿も見られませんでした。一体どうなっているのか、状況が気になって尋ねたかったんです。」
『そうか、街ではもう既に人々は倒れ始めているのだな。』
神父は驚く様子もなく、まるで分かりきっていたかのような口ぶりで言葉を返してきた。
「神父は、何か理由を知っているのですか?」
『ああ、それは先程我々が展開した結界によるものだよ。』
結界、確かアサシンさんもさっき口にしていたことだ。
それよりも神父は、街の人々が倒れる理由は自分達が展開したという結界によるものと言った。
冷静さを取り戻しかけていた心には、最悪の予感に等しい言葉を聞いてまた焦りが募り始めた。
まるで振り子のように、焦りという高みから冷静という低みに駆け下りた玉が、流れるように駆け上がり高みに戻ってきたような。
でもまだ結界の詳細は聞いていない。
此処で断定し切るのは駄目だと思った私は、しっかり神父の話を聞こうと出かけた言葉を抑えた。
『そういえばあの時は大規模な作戦を行うとだけしか伝えてなかったから、エレオノーラには結界について話していなかったね。』
「何ですか、その結界というものは。」
『あの時話したであろう、今回の作戦は魔力を集めて石を完成させることが目的だと。この結界は〝魔力を集める〟という部分の役職を担うものだ。範囲内に蔓延る魔力を地下に張る霊脈を通して、要の一点に集めるといった能力を持つ。』
蔓延る魔力を要に集める。
その〝蔓延る魔力〟というのは一体何を指すのだろうか。
私はその指すものを、きっと分かっている。
でもそれは神父の声がはっきり言わなきゃ信じることは到底出来ない。
出さないことばかりを、私は強く願った。
待てず我慢ならない体は、既に指先のように唇は震えている。
その口から、私は尋ねた。
「⋯⋯それが何か、街に倒れる人々に関係するのですか⋯?」
『⋯まあ君のような純粋な子に聞かせたい事でも無いのだがね、無機物だけじゃなく生物の魔力をも無差別的に吸収していくものだ。彼らが倒れたと言うなら、おそらくは生命力が魔力として少しずつ吸収されているのだろう。』
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯やっぱりそうなんだ。
きっと言葉を聞いたその時から私は、体の震えも焦りも一切消え失せたのだろうと思う。
それだけじゃない、血の気だって。
私はその指すものを、だって分かっていた。
神様はいつだって、私の願いは聞いてくれなかった。
多分、信仰もまだ報われるに達していないんでしょう。
だから聞き入れる願いも、無いのでしょう。
ーーー焦りなど無く、
『物事を成すには代償が必要だ。我ら数人意外は対象外だが、一般人は違う。何事にも天秤は釣り合わねばならないのだよ、エレオノーラ。彼らには辛いだろうが、今は我らが神の為に耐え抜いてもらうしかあるまい。』
「⋯⋯そうですね。はい、私たちは敵に警戒しながら皆さんの手助けをしてきます。」
この口は、意味を持たない空っぽの言葉を返した。
呆れた心は既に言葉を求めてなかったから、もう会話を切り上げたかったのでしょう。
もう、今の私には神父の言葉など届かない。
『ああそうしてやってくれ、だが怠りはすることがないようにだぞ、エレオノーラ。』
「⋯はい。」
空返事を口にして、私は力なく受話器を置いた。
脱力は腕だけに留まらず、全身に行き渡り私は床に座り込んだ。
ーーー焦りなど無く、ただ私は悲しかった。
何も考えたく、感じたくなかった。
だけれどそれに反して、考えた矢先に感受性はよく働いた。
悲しかった。
恐くなった。
厭になった。
それだけに収まらなかった。
不安になった。
憂鬱になった。
恥ずかしくなった。
憎たらしくなった。
ただ私は、〝最悪〟だった。
もう何も考えたくなくて瞬きもせず、ただ外の明かりに照らされる床を見つめる。
長い髪の房は、視界の横側をカーテンのように覆いかくして狭かった。
悲愴した私が見つめたその先は、突然に影の黒色に塗り替えられた。
呆れるほど辛い言葉の衝撃で忘れていたその人を思い出し、顔を上げた。
「⋯⋯すみません、アサシンさん。私は、頑張らなくちゃならないのに⋯⋯、」
アサシンさんにそれでも強くあろうと、気丈に振る舞おうと捻り出そうとした言葉は、この体は最後まで口に出させてくれなかった。
視界がぼやけて、目が熱くなってきた。
そうして途切れた言葉は、違う言葉が紡いだ。
「⋯⋯もう無理です。⋯⋯私はもう戦う意欲なんて無い。救済を望む資格なんて、無い。」
私は神父の言葉を思い返すだけで、ネガティブな感情が絶え間なく混ざりあった。
私は神父の言葉を思い出すだけで、どんどん強く歯を食いしばった。
だってつまりそれは、そうゆうことに他ならないのだから。
か細く震えた声で感想を口にした時、目から涙は零れ落ちた。
「うっ⋯⋯、神の名の下ならば⋯人間など消費価値に過ぎないということですか⋯。」
最後に感じたことは、ただ悔しかった。
ただ座り尽くしていた私に、声が掛けられた。
「⋯もう何もしないつもりか。」
そのノイズ掛かった声は、それでも慈愛を感じて自身を責めるような声色には聞こえない。
きっとアサシンさんのことだから、私を鼓舞してくれようとしてるんだろうと思った。
でも、もう私には。
「⋯⋯もう私には戦う意思もないですし、その権利もないのでしょう。」
今まで私は『世界の救済』を祈って歩んできたのに。
まさか無差別テロとなんら変わりのない、あるまじき行為に加担していたなんて。
「これじゃあ私は、弟の命を奪った魔術師と同じ側の人間じゃないですか⋯。」
そう項垂れるしか、私には出来なかった。
だからこそ、私は情けなくて悔しかった。
しかし、
「まだ諦めるのは早いのではないか。」
アサシンさんはそう言った。
何の理由を以ての言葉なのか私には分からなかった。
困惑した私は、アサシンさんを見る。
ゆらゆら揺れる陽炎のような目は、意志の強さを感じられる。
「こんな私に、何が。何が出来ると言うのですか⋯。」
もう純真なんかじゃない。
そうありたいと願っても、既にこの手は穢れているんだから。
ただ辛くて、私はそう尋ねる。
でもアサシンさんは、揺らがぬ意志を見据えて言葉を返した。
「⋯もう後にするべき事は、奴らの計画を止める事しか残ってないだろう。いや、残っていると言うべきか。街の人はまだ息絶えたわけではない、しかし君が奴らを見過ごせば絶命するのは時間の問題だ。」
私は歪んだ眉の下で、涙の溢れた目を見開いた。
「君にまだ彼らを救いたいという気持ちが少しでもあるのならば、君の感じる罪悪感に多少なりとも償いを捧げるために反旗を翻すべきではないのか。」
私は言葉を聞いてハッとした。
そう、そうでした。
まだするべき事は残っていたのでした。
街ではまだ、人々は苦しんでいる。
ならば助けて救うことが、せめてもの償い。
まだこんな私に残っていてくれたするべき事を、今の私は大切にしなければならない。
ならばこんなところで悲しんでいる暇なんて無い。
一刻も早く、原因を止めなければ。
「⋯立ち上がれ、マスター。私は君に忠誠を誓う者、⋯ならば君のするべき事は私も共に背負おう。⋯私に命令を下して君の意志を示すが良い、朱い朱印はそのためにあるのだから。」
私が立ち上がったその時、ずっと身を隠していた真っ黒なマントから真っ黒な手が覗いて、私の右手に浮かぶ朱い令呪を指差した。
私はアサシンさんのその鼓舞と優しさにまた涙が溢れそうになって、右手を左手で包んで顔を隠すかのように押し当てた。
覚悟は決めた。
だって私にはアサシンさんが居るのだから。
そうして左手で両目に残る涙を拭って、私なりに力強く立ち直した。
考えるまでもなく、右手を拳にして顔の横まで上げる。
手の甲にある令呪を優しきその人へ向けて、命令の言葉を渡した。
「⋯では命じます。アサシンさん、私と一緒に戦って、神父たちの計画を止めて⋯!」
右手の甲が仄かに発光して、痛みを感じる。
その痛みを私は、私自身への罰の始まりに感じた。
だからこそ受け入れるしか無い、そう思って私は責めを負う覚悟を固めた。
そんな私へ、アサシンさんは頼もしい意志を言葉にしてくれた。
「⋯承知した。サーヴァントとして、マスターのその命に奉じることをここに誓おう。」
* * *
「っ⋯⋯!!!!!!!!!!!」
弓兵は獣の如き耳をピンと立てて、目を見開く。
嫌になるほど気味の悪いその空気の変化を、突然に肌で感じたからだ。
不快感で気分が苛まれそうな状況で、敵意を剥き出しにした声を彼女は出す。
「何だ、これは⋯!? 気分が悪い、醜悪だ⋯!」
「⋯何かしたみたいね、たちが悪い結界を張るのかしら。」
どうやら悪寒はクラウディアでも感じたようで、常に無表情を見せる彼女もこの時は目を細めて嫌悪を示す表情を見せた。
弓兵は窓枠まで走って両手を突くと、街の様子を見据えた。
「⋯なるほど、結界か。ならばこの空気の唐突な変化に納得はいく。それにしても誰がこんな真似を⋯、」
一体何が何を始めようとしているのか弓兵が考え始めた矢先、ゴゴゴゴゴ⋯と床が揺れ始めた。
「む、地震⋯か?」
床を見たのと同時に、後ろから「はっ⋯」とクラウディアが声を漏らしたのを聞いて弓兵は彼女の方へと振り返る。
「どうかしたか?」
「⋯⋯⋯⋯アーチャー、今すぐ外へ出て。」
クラウディアはいつもより真剣な面持ちで突然そう言った。
彼女の不穏な様子から察して、弓兵は尋ねる。
「何だ、何かあるのか。」
「結界を張って地揺れがしてる。ドロミティには世界的に見ても良質な霊脈が通っていると聞くわ、おそらくはその霊脈を使った何かを行おうとしているのでしょう。この地の霊脈の所有権は確か聖堂教会、逆算すれば事を犯したのはきっと黒幕ってことね。」
「あれは事前の予兆だったか。おい、その何か、具体的には何を指す。」
「朝話したでしょう、街を巻き込みかねない凶行。それよ、というかこの山荘まで結界の気配を感じるなら必然的に街も範囲内に入ってるでしょうね。なら考えるまでも無いわアーチャー、止めなきゃお終いよ。」
その回答は弓兵の逆鱗をなぞったようで、彼女には更に不快感と敵意が増したようだった。
「⋯了解だ、すぐに向かう。⋯チッ、外道の屑共め、性悪などでは済まされんぞ。」
舌打ちまでして嫌悪を露わにした弓兵は、山荘のベランダに繋がる扉を開ける。
そして出てすぐ、高く飛んで周りに立ち並ぶ木々の一つに飛び乗ると早々に駆け始めた。
ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ、⋯
慣れた様子で木々を飛び移る弓兵の姿は、まるで獣だった。
そうして駆けていて、一度見晴らしの良かった木で立ち止まり様子を見た。
———因の要は街の方ではない⋯、山奥か。
しばらく駆け、魔力の高まりを感じる方へ向かっていると、夜の暗闇に在れどはっきりと見える謎の大きな城を見た。
近づけば近づくほど、そこが一番気味の悪い雰囲気に包まれていることが分かる。
———あれが、要⋯。
その城は森の中に在るため、山荘のように周りは木々に囲まれているようだった。
木々の守りの中に、更に高さは四、五メートル程ある石造りの城壁で囲まれているのも見られる。
そこでまた、一つ木の上で城をよく観察したいために立ち止まった。
しかし周辺は霧が立ち込めていてよく見えない、息も少し苦しく感じるので本当に謎の城だと弓兵は感じた。
だが一つだけ、そこは静かでは無かったことは分かった。
視覚で捉えられなくても、彼女には発達した耳がある。
そこには、この距離では通常届くはずもない不気味な音が届いていた。
「っ、生き物がいるのか⋯?」
小さく声を漏らす。
なぜなら何かが蠢く音が、今も聞こえ続けていたからである。
しかもその音は一つのみに収まらず、幾つもの数がいるようであった。
野生動物の群れのような、そんな音に弓兵は戸惑った。
「いや、森の動物には聞こえない音だ。使い魔の類であろうな⋯。」
そう考えを改めると、弓兵はその手に携えた弓を構えた。
周りに人も見当たらない、霧が立ち込めるから相手側も視認しにくい、それらの状況を踏まえて撃ってみることにしたのだ。
霧の薄くなり始めた時に、動きを見せる影に狙いを定める。
矢の先端を鋭く光らせて一撃、矢を放つ。
矢は薄い霧を円に切り裂いて進んだ。
そしてその先で、狙い通りに何かに当たったようだった。
蠢いていた形の定まっていないそれは、まるで液体のように飛び散ったようだ。
———形が崩れただと⋯⋯?
するとまた、破壊したそれの居た場所に新たに形が作られていくのが見えた。
すこし呆然として、弓兵はその様子を見ていた。
その形が完成すると同時に、突然と周りに数体ほど同じ形が作られた。
———先より数が増えたな、ならばこちらも相応に矢の数を増やすのみ。
そうして幾本か矢を手に取った弓兵は、また動くものすべてに狙いを定めて矢を放つ。
放たれた矢は剣士と弓兵の邂逅の時のように、空中ですべて別の軌道を描き始めた。
シュタタタタッ⋯とそれぞれが狙いを定めていた動くそれらを撃ち抜くと、またも液体のように飛び散って形は崩れた。
しかし、
「⋯なんとまあ。」
蠢くそれらはまたもや元の形を取り戻してゆく。
近づかねば何なのかも分からないと、弓兵は地上に降りて石造りの城壁に沿って走る。
不気味な音を絶え間なく拾いながらしばらく走っていると、城への入口らしき大きなロートアイアンの門が見えた。
弓兵は門の扉を挟む大きな柱まで近づくと、柱に背中を付けて格子の間から見える敷地内を覗いた。
そこから見た内部には、ふらふらと歩く人形のクリーチャーや、先程見たような形の定まっていないスライムのようなモンスターばかりが数多に存在し、何かを探すようにうろうろしていた。
その体は銀色で、金属のような光の反射を見せている。
———金属の生物、錬金術か⋯?
姿は確認することが出来たので、弓兵はまた隠れながら木の上へと退いた。
息を少し切らしながら木の上へ登ってすぐ、彼女は夜闇を向いて話し掛けた。
「⋯マスター、聞こえるか?」
直立して主へと言葉を送る。
すると時間も空けずに返事は帰ってきた。
『ええ、聞こえているわ。もうそっちは着いたのかしら。』
弓兵の頭にクラウディアの声が鳴り響く。
「一際奇異を放つ城を見つけたのだが、⋯おそらくは此処が要らしい。」
『何か、異変はないの?』
「自己防衛のためだろうが、城内部に数多の生物のようなものが見られる。さっき撃ち抜いた時は水のように飛び散るし、側は鉄のように反射をしている。あれは錬金術の造物か?」
『金属の液体生物ならそういうことになるわ、水銀で出来ているんじゃないのかしら。なら厄介なことになったわね⋯。』
クラウディアは少し切羽詰まった声を出した。
『アーチャー、あなたはこの結界の深刻さに気づいているかしら。』
「何⋯?」
『この結界、妙に息の苦しさを感じると思ったらどうやら魔力を無条件で吸い上げるものだわ。今はまだ一ミリ無いくらいのホースで水を吸う程度の吸収力だし、私も魔力量には自信があるから倒れるほどのものじゃないけどね。』
「⋯さっきから息切れが早いと思ったんだ、なるほどそういう訳か。」
弓兵は眼光を鋭くして城を見据えた。
そしてまた、不快感と敵意で場の空気をピリピリとさせた。
『多分相手はキャスター、魔術の策士よ。⋯仮に結界の吸収力が時間経過で強まるものなら、範囲はかなり広いんだから早く止めないと被害は甚大化するでしょうね。教会側にキャスターが居るなんて、面倒なことこの上ないわ。』
「⋯どこまでも倫理を欠けた真似を。良いだろう、お前達の非道は見逃さん⋯!」
弓兵は弓を持つ手に力が入る。
そして片足を一歩踏み込み、今にも飛び出しそうな気迫を見せた。
「おい、もう単独で攻めても構わんのだろう? というより、今にも私は
奴らの息の根を止めたいくらいだ。」
『別に抑止はしないわ、私も黒幕を攻められるのなら是非暴れて欲しいものよ。もとより権限はあなたにもあるのだしね。』
弓兵は右腕の朱い幻影に目線を向ける。
「⋯これは何回使えるものか?」
『あなたには三画与えてるわ。私の令呪が残っている限りは使っても時間経過で足されるものだけど、その時間は長いし今持つ三画のみで戦ってちょうだい。』
「三画か⋯。まあ良い、うまく立ち回りに活用するのみ。」
その言葉と共に、弓兵の単独侵攻は始まった。
まず手始めに、霧が邪魔になるこの場所からは撃てまいと地上に降りて走り、石造りの城壁の上へ飛び移る。
そして弓に矢を番えて、数多に蠢く水銀の造物を狙う。
矢を摘む指を離すと、それぞれが先のように別の軌道を描いて命中する。
しかし結果も先と同じ。
何度も何度も矢を番え、何度も何度も矢を命中させても。
水銀の造物は何度も形を取り戻すし、何度も撃ったからだろう。
弓兵を見つけて城壁の内側には、既に這うように水銀と造物が張り付いている。
———本当、なんとも醜悪な。
弓兵は城壁の上を駆け出し、内部の様子を窺う。
中に点在するその造物の多さに、弓兵はとても驚いた。
魔術師が居るのはおそらくはあの城、しかしそこへゆく道を門番かのように造物は蔓延っている。
矢で撃ち抜いても倒せないそれを真正面から相手できるはずも無い。
比較的造物の少ない、離れた場所に立ち止まりしゃがむ。
どうしたものか、と弓兵は悩んだ。
そうして立ち往生していると、不意に後ろから声が響いた。
「アーチャー⋯!?」
弓兵は声の方へ、バッと振り返る。
そこにはセイバーが居て、驚いた顔で彼女を見据えていた。
「お前は、セイバー⋯!」
二人は地上から、城壁の上から、驚きながら互いを真っ直ぐに見合っていた。