※本作は『Fate』シリーズの二次創作小説です。
※オリジナルマスター、オリジナルサーヴァント、独自解釈・独自設定が含まれます。
セイバーは突然立ち上がり、走り飛んで行った。
何かが起きたらしいのだが、俺にはよく分からない。
この息が詰まるような、分からぬそれが何か関係しているのか。
ただ、
——————っ。
セイバーはその時突然に目を見開いて立ち上がった。
そして周囲をキョロキョロと見回し、不審そうな顔をして立っていた。
「どうかしたのか? セイバー。」
することもなくただ体を休めるようにベッドに倒れ、セイバーと雑談をしながらしばらくの時間を過ぎた頃。
唐突に立ち上がったセイバーへ、俺は事情を尋ねた。
「⋯⋯何か物々しい魔力を感じます。」
ベッドに置く足の先、そこの壁に取り付けられた窓の外を見つめながら、そう呟くような声を返して間を置かず。
———ゴゴゴゴゴ⋯⋯
地面が揺れ始め、この二人の空間には緊張が走った。
セイバーは走って玄関のドアを開けて、外の様子を見ているようだった。
「⋯⋯⋯なっ、結界を張っているのか⋯!!」
奥のセイバーから微かにそう言ったのが聞こえる。
「ケッカイ? ケッカイって何だ。」
セイバーがすぐに自分の元へ小走りで戻ってきて、それについて聞く。
「結界というのは土地や一定の空間に魔術的な網を張って、内と外を隔てることで基本的に内側へ効果を齎す領域魔術のことですが、何故か外に今それが張られ始めているようです⋯!」
早口で結界について説明するセイバーは、少し焦るような声色をしていた。
つまり何か悪いことが起きたということに違いは無いんだろう。
「⋯それって、大丈夫なのか?」
「まだ確定するわけではありませんが、⋯⋯大丈夫とは言えない。感知だけでも今まで見てきた結界の比ではない大きさになるはずだ、展開した陣営はどれほどまで潤沢に魔力を保有しているのか気になる程だ。」
未だ慣れない連ねられる事象に、俺は混乱する。
そんな時、気のせいなのかどうか突然に重力というものを改めて知覚するほどに重たく雰囲気の変化を感じた。
今は九月の始めでイタリアにはまだ夏の名残が残るであろう時期というのに、その変わった空気は冷めて肌寒く感じる。
妙に息が詰まった雰囲気に、きっと俺は嫌な顔をしていたのだろう。
セイバーが俺を案じるように声を掛けた。
「大丈夫ですか、マスター。⋯⋯結界が閉じ効果も始まったのでしょうか、空気が悪くなった。」
どうやらその空気感は気のせいでは無く、しっかり現実の事らしい。
感じ取ったのは俺だけじゃなくてセイバーもいる。
多分俺でも感じ取れる空気感なんてそこらの一般人にだって感じ取れるはずだ。
「なあ。魔術云々って、俺も含めて一般人にかなり有害じゃないのか?」
「ええ、それにこの結界の空気は甚だ底気味悪い。大きく部外者の集落をも囲う結界ですしまだ分かりませんが、早く止めねば最悪死人が出そうだ。」
セイバーは苦虫を噛み潰したような顔で、最悪のパターンを話す。
死人が出るって、行き過ぎた話じゃないのか。
いや、きっと行き過ぎた話じゃない。
この戦いの名は『聖杯戦争』、つまり〝戦争〟なんだ。
夢物語の要素を省いた常識世界の上でだってそれは、いつだって死と隣り合わせに行われてきたものだ。
———『死』という隻語が響かなかった戦争なんて、存在したことはきっと無い。
この世界だって、過程は何にしろ基盤は変わりなどしないのだろう。
その中で行われる、おそらくは暴挙。
「⋯⋯止めたほうが良いじゃないか、それ。」
それは何にしろ、誰だって常識的に考えれば分かる止めるべき事案だ。
そうして零した言葉に、セイバーは迷う顔を見せていた。
何に迷っているのか不思議に顔を見つめていると、セイバーはそんな俺に気づいて言葉を発する。
「⋯あっ、どうすべきかと思いまして。このまま止めに行くのがそれは最善ですが、仮に全速力で結界の基を破壊するために行けばあなたは追いつけない。つまり最善を取るのならあなたをここで置いて行くことになる。私はあなたに忠誠を誓う身として、常にあなたの側で安全を守らねばならない。だから迷っているんです、行くべきかどうかを。」
まったく、呆れた。
俺がそんな事言える立場じゃないが、本当にセイバーは俺という一個人に目を向けすぎだと思う。
そう思いながら俺は言葉を返した。
「⋯はぁ、迷う必要なんて無い。俺を置いてでも行け、行ってくれ。」
「なっ、マスター、考えなしに命じないで下さい。サーヴァントはマスターが居るから存在できるのです。あなたは我がマスター、私が置いて行くことで一人になり、それを狙う他の陣営が居たらどうするのですか!」
「居たのなら、その時は出来る限り逃げ延びてみるさ。だってそのために昨日の鬼ごっこがあったんだろう? というかセイバーでも危険だと感じるそれに、他の参加者が危険視しない訳無いとは思うんだけど。」
「そ、それはそうですが⋯。」
言葉を詰まったセイバーに、最後の一声を投げる。
「無差別に人を死に至らせるとか、そんなの人としてあり得ないことだ。それに対象が俺みたいに巻き込まれとか参加者じゃない、住んでいただけの一般人までなら尚更だろう。とにかくだ、どのみち死ぬんだったら最善を選んだほうが良いと思うぞ、セイバー。安心してくれ、そう言うが俺だって死ぬ気は更々ない。」
「⋯⋯⋯。」
セイバーは両腕を組み言葉を発さず、最終回答を出すべく悩む姿を見せる。
彼女の目頭に力が入った、更に、更に、更に強く。
そして、
「⋯そこまでマスターが行けと命じるのなら断れません、行くことにしましょう。」
目を開いて、真剣な面持ちに戻ったセイバーはそう言った。
「しかし無策に残すのも安心なりません、行く前に布石は打っておきましょう。」
そう言うと突如、セイバーの左手に苔のような深い緑色をした盾が現れ握られる。
その盾は美しく、中世の騎士物語に出てきそうな形をしている。
表面には優雅な薔薇の花と、花に繋がる蔦のように描かれた沢山の刺々しい茎の表現も見られた。
「何なんだ、その盾は。」
「私がかつて打ち倒した小王が持っている園の能力を再現する魔術兵装の盾です。この盾を私の行っている孤立する間はあなたに預けておきます。もし襲撃をされたならその盾で場を凌いでください、硬いのである程度の攻撃には耐えます。願えば能力は発動しますが、死の危険を感じた時意外、能力は使わないで下さい。」
セイバーはそう注意をしながら、伸ばされた足の太ももの上を覆い被さるように盾を置いた。
そうして玄関へと向かう。
ドアノブを握る前、また彼女は振り返った。
「もし盾でも状況が悪ければ、その右手の朱い令呪で私を呼んで下さい。」
「呼んだら来るのか?」
「はい、令呪はサーヴァントへの絶対命令権ですのでその力の命じは必ず通じる。3画しか無いので無駄遣いは避けて下さい。」
令呪か⋯。
この右手の甲にある赤色の紋章、そういうものだったんだ。
視線をセイバーへ移す。
「セイバー、あんまり無茶はするなよ。⋯まあ、どうか容易く事が終わることを願うよ。」
「その言葉、そっくりそのまま返します。マスター、どうか無茶は避けるように。」
そう言葉を微笑んで言い残したセイバーは、扉の外へ駆けていった。
そうして今に至る。
セイバーは強いし頼もしい。
だからこそ、事は迅速に進めてくれるだろう。
「⋯本当に、後は俺の問題だな。」
呟いた俺は、置かれた盾に手を触れた。
* * *
魔力の霧に包まれ、その中には水銀の造物が蔓延る異常な光景を持った城。
城からまるで蛸の足のように伸びる何本もの魔力の通り道は、妖しい紫の光を発しなら脈動をするようだった。
そんな蠢く城で、二人は対面する。
「アーチャー⋯!?」
弓兵は声の方へ、バッと振り返る。
そこには剣士が居て、驚いた顔で彼女を見据えていた。
「お前は、セイバー⋯!」
二人は地上から、城壁の上から、驚きながら互いを真っ直ぐに見合っていた。
その間には、今にも破裂しそうな張り詰めた雰囲気が流れる。
面倒な仕事が一つ増えたと、弓兵は顔を少し歪ませた。
「何故貴様がここに⋯!。あぁ、なるほど⋯⋯。」
剣士の事情を問おうと声を上げた弓兵は、しかしすぐに理由が分かり零すような小さい声を漏らす。
「貴様もこの不穏な結界を止めようと走って、此処まで辿り着いたという理由か。」
依然、剣士は警戒するような面持ちで見据えながらも「ああ」と小さく彼女は頷く。
そして両手に握った大剣を構え、木々を抜けてゆっくりと歩を進めた。
「どうやら私の感は間違っていなかったらしい、お前が此処に居るということはそこの建物が結界の基なんだろう? そこをどいてくれ、アーチャー。私は我がマスターのために手早く事を済まさねばならん、お前の相手をしている暇など無いんだ。」
弓兵は溜め息を漏らす。
「お前、上がって中の様子を見てみろ。こんな様子では、単独だと容易に突破する事は出来んぞ。」
不思議そうな顔をした剣士は地面から城壁の上へ飛び移る。
そうして見た城の中は、まさに造物による地獄の再現だ。
「⋯何だ、あれらは。」
「ほらな、見るだけで分かるだろう。あの奥に在る城の中で、おそらくキャスターとその連中が結界から無差別に魔力を集めて何かをしているようだが、あの生物は二つの攻撃が効かん。止めようにも守る壁は厚い。」
剣士は少し絶句して、城内を見回す。
その蠢く生物は見るだけで既に百体を優に超える数だ。
それらが攻撃の効かない壁役ならば、確かに容易突破は難しいだろう。
「このような地獄絵図、どう手早く事を済ませるっていうのだ。」
弓兵は城内を見ながら、吐き捨てるようにそう言う。
その一言で、現状をどうすべきか思考を張り巡らせて、剣士は考え込んだ。
そうして十秒ほど考え、もうこれ以外に手立ては無いだろうと結果を話す。
「⋯ならばアーチャー、私と一時的に手を組まないか?」
「⋯⋯何だと?」
手を組みたいという予想だにしない言葉を剣士から聞き、弓兵は少し驚いた。
我が力が一強なりというような雰囲気を醸し出す剣士が、他人の力を乞うような発言をするとは思っていなかったからだ。
「まさかお前がそんな事を言い出すなんてな。」
弓兵は考える。
確かにあの造物達をサーヴァント二人で相手するのなら効率も良い。
出来る限り互いに早く済ませたいなら、共闘は善策だ
その後の戦闘関係をも弓兵は考えたが、思えばアーチャーの陣営が標的にする相手は聖堂教会の陣営のみ。
無駄に剣士と戦う必要などありはしない為、彼女に能力を知られたところで支障など来さないことも分かる。
———確かに、利害は一致するか。
「⋯ならば私は共闘に賛成だが。待て、今マスターに聞いてみる。」
そうして静かに目を閉じ直立した弓兵を、剣士は待つ。
まさか剣士自身でも『聖杯戦争』というもので共闘を持ちかけることがあるとは思っても見なかった。
だからこそ、剣士には弓兵の返事の予想はつかない。
そのようにいろいろ考えていると、しばらくして弓兵は口を開いた。
「⋯ふっ。マスターのやつ、利用を此処で留めないつもりか。」
そう言いながら彼女は剣士を見る。
「マスターから許可が降りた。汝の案を、私達は受け入れよう。」
剣士は少し目を見開く。
『聖杯戦争』での〝共闘〟と考えると、切り出しておきながらその可笑しさに彼女は少し口角を上げる。
「セイバー、笑っている時間はないぞ。⋯⋯汝の力、存分に使わせてもらうからな。」
弓兵は真剣な眼差しで剣士を見る。
そして剣士は口角を上げたまま眉を寄せて返した。
「使う⋯か。面白い、良いでしょう。私こそあなたの力、使わせてもらいますからね。」
二人は目前の地獄を同時に見据える。
そうして互いに携える武器を持ち直した。
「ある程度の情報は言っておく。マスターによるとあれらはおそらく、水銀で出来た錬金術の造物だ。単なる物理攻撃なら受けて形が崩れても、すぐに元に戻る。」
「なるほど、水銀ですか⋯。」
「なので戻る前に先へ進む。汝には前に立って奴らを薙ぎ払って貰おう。私は少し後ろから汝の行く先の造物を狙撃する、それで良いな。」
「ええ、構いませんよ。では、あなたに背中は任せます。」
そう言いながら剣士は、城内へと飛び降りた。
弓兵は剣士のその背中を見ながら、何本か矢を持ち弓に番える。
「⋯すぐ攻め落としてやるぞ、この冒涜者共め。」
そうして二人の共同戦線は、魔境孤城への攻めを開始した。