Fate/spurious calix   作:sorsan

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一章「背徳の魔境孤城」⑪
※本作は『Fate』シリーズの二次創作です。
※オリジナルマスター、オリジナルサーヴァント、独自解釈・独自設定が含まれます。


第十六話「宣誓の駆け出し」

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、⋯

城内へ飛び降りて走り始めた剣士は、まるでこれから地獄を駆け始めるような気がした。

四方八方に在する錬金術の魔物は皆、形は違う。

人のような四肢を持ったクリーチャーも居れば、液体として在るかのように地を這うドロドロとしたモンスターさえ。

その徒ならない造物達が無数に蔓延る様子、それこそがこの光景を彼女に地獄と思わせる最たる理由だった。

そして、幾つかの魔物は走り近寄る彼女を、どこにあるかも分からない目で捉えた。

途端に魔物も、相手を迎え討たんと唸りながら彼女に近寄り始める。

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。

一匹、彼女の左側から人型の魔物が跳び掛かる。

それを見て彼女は足を止めた。

両手で握り持つその大剣を更に強く握りしめ、右脇腹に地面と平行に持たれた大剣を加減無しに斜めに振り上げる。

———チャキ、ブォンッ!!

一閃が直撃すると、魔物は腹から体を真っ二つに両断された。

両断された体は背後に飛び、飛び散る様子を見届ける暇も無く今度は三匹が跳び掛かる。

同じ人型、液体のスライム型、翼を持った鳥型。

———ザンッ、ザンッ、ザンッ

多種多様の造物を、それでも慈悲無く薙ぎ払い再度走り始める。

城内は広く、城に辿り着くまでの道も長いようだった。

今は少し緩やかな傾斜のある坂道を走っており、目前には広葉樹の森が見える。

その奥には此処からでも上側は見える大きな城。

それらを見据えながら、頻りに襲いかかる魔物を切り進む。

左脇腹から斜めに振り上げた一閃、そしてすぐ大剣に魔物は噛み付く。

 

「この⋯⋯、邪魔っ!!」

 

立ち止まって大剣を振り下ろし、付いた魔物を地に投げて叩きつける。

そしてバチンと地に体を打ち、跳ね返った体を彼女は一歩踏み込んで即座に両断する。

その体を切っても再生する、だから再生し切るその前に進まなければならない。

そうして剣士は魔物を一網打尽にして、弾丸のように迅速に歩を進め直に森へ突入する。

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、⋯

森の道に入ると、広葉樹の間に一つ小さな光が現れる。

それは一つのみならず、左右の木々の間に幾つも現れて彼女を囲んでいるようだ。

警戒して走っていると一つ、彼女に光が飛んで来る。

———ダンッ!

体当りしてきた光を透かさず大剣で受け止めると、その正体はどうやら魔物の眼光だった。

大剣で跳ね返った体を、また彼女はザンッ、と両断する。

そうして斬り伏せた時、周りに居た十匹程の魔物が一斉に跳び掛かる。

まず四、五匹を問答無用に横に払いながら捌き切る。

しかし残り数匹を彼女は仕留めきれず、隙を与えてしまう。

まずいと、そう思ったのも束の間。

その数匹を背後からの矢が撃ち落とす。

どうやらそれは先程、一時の共闘を組み合ったばかりの弓兵から放たれた矢らしい。

剣士が背後を振り返ると、木の上に彼女は付いて来ているようだった。

 

「⋯⋯期待相応。いえ、それ以上に腕が良いのですね。」

 

そう言葉を漏らしながら向き直り、再度剣士は走り始める。

弓兵はその言葉にも無言で顔色も変えず、剣士の後ろを追う。

森を進むと、木々に囲まれた直径三十メートル程ある円形の広場らしき場所に出る。

そこでの光景に、剣士も弓兵も息を呑む。

 

「これまた、数の多い⋯⋯。」

 

剣士が見る限りその場には、箱に隙間無く詰められる物のように沢山の魔物が埋め尽くして居た。

沢山居るという点ではこれまで通って来た道でも同じだったのだが、此処で違うことといえばその全ての個体が一斉に剣士を認識したことにある。

剣士はわらわらと集まる多種多様の魔物たちを、左から右へ流し見る。

唸り声を大きくした魔物たちはその認識を外敵と定めると、彼女を目掛けて襲いかかり始める。

大剣を持ち直すと、彼女は構えてその迎撃を始めた。

その後方で木の上から剣士の様子を、弓兵は見ていた。

 

「⋯なんとも無茶な。」

 

言いながらに弓兵は弓に複数の矢を番えると、騎士の周りに集まる魔物へと放つ。

この時の彼女の射撃は、一度で五体の魔物を元の液体に帰す。

先程から、無数に魔物がいる道を剣士が長く止まらずに進めているのは、周りの魔物をこの神域と言える腕前で何十体も再生状態にしているからだ。

剣士は目前の何十体を、弓兵は周囲の何十体を。

二人はそうやって順調に此処まで進んでいた。

 

真正面から猿のように跳び掛かって来た魔物を、彼女は大剣を振り上げて両断する。

———ザシュッ!!

時を隔てず、地を這ってスライム型の魔物が足に絡みつこうとしているのを視認する。

そして迷うこと無く、彼女は身を少し屈んで刃の側面を魔物に振り下ろして叩き潰す。

———バァァン!!

まだ跳ぶ前で地面に立つ魔物たちの足を狙い、叩いて跳ね上がった大剣を時計回りに振り回す。

———ブォォォン!!

足を切られた魔物たちは地面に体を落とし液体に戻る。

そうして見晴らしが良くなり周りを見ると、何本もの矢が魔物を貫き潰すのが見える。

剣士は残った魔物へ向かって走り、一匹、二匹、三匹と、流麗な剣技で無数の魔物を簡単に帰す。

そうしてあんなにも居た魔物の巣窟は、いとも容易く再生状態へと壊され銀色の海面へと変わった。

 

「いくら壊すのが容易いとはいえ、さすがに数に切りが無い。一体何匹錬金生物を作ったのでしょうか⋯⋯。」

 

波紋を作りながら歩く剣士は、面倒そうな声で愚痴を零す。

 

「分かっているから皆まで言うな、セイバー。さあ早く行くぞ。」

 

木から降りて弓兵は、そう冷淡に返す。

そうして剣士が弓兵を背に先へ進もうとした時、

———ガシッ。

突然に、剣士の右足にその海面から触手のように伸びた水銀が巻き付いた。

剣士は咄嗟に反応し、右足を素早く上げて足と海面の間を繋ぐ触手を大剣で切り、跳んで海面が至ってない地面に退く。

銀色の海面を剣士と弓兵が挟む形となる。

二人が警戒視する銀色の海面は、これまでの再生状態とは違う異変を感じさせる。

海面の中心で一つ波紋が起こると壊した無数の魔物の水銀は、中心へ集まってゆく。

全てが一つにまとまった所で今までの比では無い速度でグニャグニャと形を定めていく様子に、剣士も弓兵も少し唖然とした。

 

「何だ⋯?」

 

剣士がそう言った時、新たな魔物は変動が止まる。

見た目は人型で四肢があり、それでも新たな体は完璧に形が定まっていないのか泥を纏ったかのようにドロドロとしている。

ドロドロの体のまま、眼光を赤く光らせると唸りながら魔物は剣士に向かって動き出した。

動きはゆっくりで、慣れない自重に耐えるかのように歩いている。

剣士は走り出すと、手始めに魔物の右腕を切り落とす。

しかし直後、腕の断面が瞬時に結合し落とし切るに至らなかった。

その様子を見て魔物の背後から弓兵は矢を一本射る。

強力な一本は魔物の左脇腹辺りを豪快に抉る。

しかしそれも、直ぐに再生して元通りとなる。

 

「何という再生能力⋯。」

 

魔物は剣士と弓兵の方へ向き直ると、また歩き始めた。

剣士が大剣を構えた時、魔物は左腕を剣士へと上げて向ける。

すると、その腕は胴体から狂い咲き、伸長しながら鞭の如き軌道を描いて一直線に剣士へと射出される。

文字通り弾丸となったその腕は、瞬く間に間合いを食い破る。

剣士は大剣の側面を盾のように構え、それを受け止める。

側面に腕がぶつかった時、腕は流れるように大剣の上を這って絡み付く。

弓兵がその様子を見て瞬時に伸びた腕に矢を放ち、更に絡もうとする腕を貫いて断ち切る。

しかし水銀は止まらず、切られた腕を全て剣士に引き付けると大剣のみならず、剣士の体にまで絡み付こうとする。

剣士は大剣を振るうが、水銀は離れない。

弓兵が助けに行こうと足を出そうとするが、唐突に足を上げるのは止められる。

どうやら魔物の本体に気を取られて、気づかない内に先程抉って飛び散ったであろう水銀が、弓兵へ近づき足に絡み付いていたようだった。

 

「チッ、この⋯!」

 

矢を取り出し矢先で水銀を切り離し、立ち直して助けに行こうと剣士の方を見る。

その時の光景は、もう手遅れだった。

魔物の本体が泥のように液体化し、剣士の方へ荒波の如き勢いで近づくと更に高波のように剣士を覆うとしていた。

剣士は大剣も腕も絡まれて封じられているので跳んで退こうとするが、既に足が本体の波に掴まれている。

弓兵が見たときには、そうして為す術無く剣士は水銀の波に覆われた。

剣士は顔だけを覗かせて全身を水銀に纏わり付かれる。

蠢く水銀はそのように絡み、強く圧迫する事で剣士を殺そうとしていた。

 

「セイバーっ!!」

 

弓兵は近づくが、波から大きな触手が現れて彼女を薙ぎ払う。

そうして剣士がこのまま締め付け殺されるのは時間の問題だった、が。

 

「⋯良いだろう、もはや貴様は跡形も残さん⋯!!」

 

言うと剣士は目を細めて水銀を睨みながら、全身を力む。

そして、剣士に纏わり付く水銀が瞬時に蒸気を発し始めた。

弓兵はその肌に、剣士の方から熱い風が吹き付け始めたのを感じる。

その風は急激に勢いを増し、熱を高めているのが分かる。

———シュウゥゥ⋯、ボワアァァァ!!!

全身に炎を纏った剣士は、熱風を巻き起こして纏わり付く水銀を見る間に蒸発させてゆく。

そうして、剣士は水銀を跡形も無く消滅させた。

銀色の海面も、先程の集合体の魔物も居なくなった広場に「ふぅ、」と息を漏らしながら剣士は直立している。

 

「セイバー、何をしたんだ。」

 

「熱を起こして奴を溶かしただけです。先に水銀の体と聞いた時、我が魔術の熱は効くのてはないかと思いまして。想定通りでしたね。」

 

「そうか、汝は炎の魔術を使うのか。水銀に熱が効くというのが本当ならば、造物対処は尚の事楽になるではないか。何故ずっと使わなかった。」

 

「熱風の放射は魔力を使いますし、あの程度で魔物を壊して進めるのなら、浪費する必要はありませんよ。」

 

「なるほど、道理だな。」

 

弓兵は納得したように短く頷く。

魔力の浪費を避けて、極力自らの肉体と剣技だけで盤面を削り取っていた剣士の判断は、この長丁場になるであろう攻略に於いて極めて合理的だ。

剣士のマスターの事も思い出し、それも理由かと弓兵は思う。

剣士は大剣を一度軽く振って、森の奥の城へ視線を向き直す。

 

「行きましょう、もう城は近い。今からも一気に城の目の前まで、」

 

剣士が踏み出そうとした、まさにその時だった。

 

『———ずいぶんと暴れているようですね、外の訪問者であるお二方。』

 

突如として頭上から、男らしき声が響き渡る。

この広場を囲む空間そのものが震えるような増強された魔術の波動を伴うその声は、どこか狂気を孕んだ優雅さを帯びている。

剣士と弓兵は即座に足を止め、同時に視線を険しくして頭上を見上げる。

 

『我が錬金術の防衛機構を、力任せに容易く掻き分けて進むとは。サーヴァントとしての格の違いを、少し見せてもらいましたよ。』

 

どこから響いているのか分からない声を、二人は辺りを見回して聞いていた。

 

「黒幕のサーヴァントか! 誰だ、どこに居る!」

 

弓兵の問いに、その声は声色を変えずに応える。

 

『私はキャスター、言わずもがな黒幕に加担するサーヴァントの一人。そうですね、少なくとも貴方達の直ぐ近くには居ませんよ、声は送っているだけなので。』

 

「⋯黒幕?」

 

剣士は弓兵と魔術師の会話に困惑した顔をする。

それを横目に弓兵は見て、分かり易いように説明をした。

 

「どうやらこの聖杯戦争は仕組まれているものらしい、我らが求める聖杯というのも今回は模造品だ。」

 

「⋯聖杯が⋯⋯⋯模造品⋯⋯?」

 

「⋯事が済んでから話す、今は敵に集中しろ。」

 

そう軽く諭して弓兵は魔術師との会話を続ける。

声の聞こえる頭上に向かって、弓兵は眼光を鋭くする。

 

「血迷ったかキャスター、こんな非道の大結界を開いて何をするつもりか⋯!」

 

『さあ、どうするのでしょうね。私はマスターの望むままに、自分で動いているだけですから。』

 

「ふん、そうか。自我の低い軟弱者め、お前は正邪の弁も分からぬようだな。問うまでも無いが、お前は今私がこの結界を解けと言ったら聞くか?」

 

威厳に満ちた声で、弓兵は魔術師に期待も微塵も無い問いを投げる。

 

『それは無理な要求ですね。』

 

しかし結果は弓兵の予想通り。

相変わらず場の空気をピリピリとさせたまま、不快感と嫌悪を示す。

すると、隣で困惑しながらもひとまず会話と現状を見て気を切り替えた剣士が一歩踏み出す。

 

「⋯そう、お前は戦いの掟と倫理を捨てて戦うのだな。」

 

それは弓兵よりも厳格な雰囲気を漂わせて、右手に携えた大剣を声の方へと向けた。

城を見据えながら、剣士は吠えた。

 

「キャスター、私は貴様達を滅ぼすためだけに剣を執る⋯!!」

 

その宣誓に、魔術師は笑った。

 

『フフッ、貴方という方は本当に、面白い騎士だ。どうぞ、この城の深淵まで辿り着けるのならば到達して見せなさい。』

 

その言葉と同時に、城へと続く先の道に眼光の光が続々と現れる。

それに臆さず、剣士と弓兵は同時に駆け出し始める。

そして剣士は大剣を構え、城を見据えながら魔物の群れへと猛攻を始めたのだった。

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