Fate/spurious calix   作:sorsan

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序章「始まりの時」⑤
※本作は『Fate』シリーズの二次創作小説です。
※オリジナルマスター、オリジナルサーヴァント、独自解釈・独自設定が含まれます。


第五話「聖杯戦争」

長い道のりを初対面の人と一緒に歩いたのは始めてだ。

その長い道のりを足を痛めていたがために、恥ずかしくもずっと肩を貸してもらって歩いたことも。

彼女から名前を教えてもらい、しばらく沈黙の中歩いた。

 

セイバーさんを横目に見る。

俺と話すときには笑顔を見せていたが、それ以外の時は周りを警戒するような少しの険しさを含む面持ちをしていた。

まあ無理もない。セイバーさんが来る前のさっきのこともあるし、怪我をした俺を支えながら歩いていることもある。

まだ夜道を歩く俺達に、安心する余地はないわけだ。

でもそんな真剣以上の顔が、俺に話しかける勇気を削ぐ。

とりあえず宿につくまで彼女に身を委ねて歩くことにしよう。

 

そうして、本当に宿につくまでの間の会話は、

 

「あの段差は危険です、注意して歩いてください。」

 

「あ、ああ。」

 

こういったものだけだった。

 

もう時刻は午後七時を優に超えている。

街の人々に俺達の状態を見られるのは気が引けるように感じたので、なるべく大通りを避けて道を選んだ。

そのせいか、街の中であまり歩く人は見かけない。

宿泊先の宿を道の先に見つけた時、俺は安堵の息を漏らす。

そのため息を聞いたセイバーが俺を見る。

心配をするような顔をしていたので、慌てて言葉を出した。

 

「ああいや。やっと宿が見えたもんだから、つい嬉しくて疲れが出てきたんだ。すまない、セイバーさん。」

 

セイバーさんは心配の顔を引っ込め、また微笑みを浮かべた。

 

「⋯そうでしたか、てっきりもう歩けないのかと思いました。拠点はすぐそこなのですね、これで休息は取れる。それと、セイバーさんというのは堅苦しい。セイバー、と呼び捨てにしてもらって構いませんよ。」

 

「え、そうか。じゃあ、とりあえずありがとう、セイバー。」

 

「はい。」

 

扉の目の前についた時、セイバーの肩から回されていた腕を外し鞄から鍵を取り出して錠を開ける。

そういや、セイバーに聞きたいことがたくさんあるんだった。

そう思って、彼女の方へ振り返る。

 

「なあ、セイバー。聞きたいことが山ほどあるんだ、お礼がてら宿に上がってくれないか?」

 

「ええ。傷のこともありますし、もとから上がるつもりではありましたが。」

 

え、そうなのか。

まあいいか、とりあえず中で話そう。

俺は壁に体重を乗せながら歩き、宿の中へ入った。

それに続いてセイバーも、宿へ上がってきた。

痛む足を我慢しながら数秒歩き、辿り着いた食卓の椅子に腰を下ろす。

セイバーは座らずに立とうとしていたので、「椅子に座ってもらっても、大丈夫だぞ」と促した。

そうしてセイバーは「ではお言葉に甘えて」と、俺の反対側の席に腰を下ろす。

 

「そういや、もてなしがまだだったな。ちょっと待ってくれ、今お茶を出す。」

 

そうして椅子を立ち上がり手をついた食卓に極力、体重を乗せながら足が痛まないよう歩く。

 

「手を貸しましょう、あなたは足が痛んでいる。」

 

セイバーはまた心配してそう言って俺を手伝おうとしたが、俺からすれば客人だ。

手伝わせるのもあまりいい気分はしないので、

 

「この距離くらい大丈夫、セイバーは座って待っていてくれ。」

 

そう言葉を返し、セイバーは心配しつつも席に座る。

お湯を沸かせるために電気ポットに電源を入れ、そのまま立つ。

待っている時間も暇なので、早々に聞きたいことを聞くことにした。

 

「なあ、セイバー。本題に入るんだけど、いくつか質問していいか。平静を装ってるが実は結構、一気に聞きたいほど慌てている。」

 

「質問ですか? ええ、応えられる範囲で何でも構いませんよ。」

 

「まず最初に聞いておく、セイバーは俺を追ってきたあの連中を知っているか?」

 

あの連中というのは、セイバーが現れる前に俺を殺そうとしてきたあいつらのことだ。

 

「あれは、修道服からして聖堂教会の人たちではないのですか?」

 

「聖堂教会⋯?」

 

「私も教えられたのは名や特徴だけなので詳しくは知りませんが⋯、おそらく合っているとは思いますよ。」

 

なんだ、聖堂教会って。教会⋯、宗教関連か?

でもなんでだろう。

 

「たかが宗教組織の教会を見ていただけで、人を殺そうとする連中なのかそこは。」

 

「そのような理由で追われていたのですか? 何故でしょう、何か隠さなければならない秘密があるのではないでしょうか。それにしてもあなたは魔術師なのだから、簡易的でも防御の魔術くらい開いていればよかったのに。」

 

「⋯⋯⋯え?」

 

聞き間違いかな、確か今魔術師って言葉が聞こえたけど。

なんだ、こんなときに冗談か?

 

「魔術師なんて⋯。そんな夢物語な冗談はよしてくれよ、セイバー。」

 

「夢物語? 何を言ってるんですかマスター、まだ意識が朧げなのですか?」

 

真剣な眼差しでこちらを見返す、その顔には全く冗談を言っているように見えなかった。

嘘だろ、本当なのか?

まさかこの世にそんなものが存在しているのか?

 

「いや、俺は至って正常だが。そんなことよりどういうことだ、セイバー。魔術師なんてものが存在するのか?」

 

「え⋯? あなたは魔術師ではないのですか?」

 

「俺は魔術師なんかじゃない。始めて耳にしたぞ、魔術師が本当に存在するなんて。」

 

「なんと、魔術師ではないのですか⋯! すみません、マスター。右か左の手の甲を見せてもらっても良いですか?」

 

「え? ああ。」

 

そう言って両手の甲を目の前に挙げる。

セイバーは困惑した顔になる。

 

「確かに右手に令呪は宿っていますし魔力のパスも感じられるのですが⋯。」

 

令呪?

そう思って言われた右の手の甲を見る。

そこにはいつの間にか赤色の紋章のようなものが描かれていた。

 

「なんだ、これ⋯。」

 

そう言うとセイバーがすかさず驚いた声で言葉を発した。

 

「令呪も知らないのですか!? まさか聖杯戦争の知識を得ずに召喚を行ったのですか?」

 

「なんだ、その聖杯戦争っていうのは。召喚っていうのもした記憶はないし⋯。そうだ⋯!! そういやサーヴァントっていうのも聞こうと思ってたんだよ。」

 

セイバーは少し、しかめっ面を浮かべた。

 

「もしや、この戦いで聖杯が誤って巻き込んだ者なのでしょうか。」

 

「巻き込まれ⋯⋯?」

 

セイバーはしばらく考え込み、理解を集中し終えたのかこちらを見て話す。

 

「席についてください。一から、聖杯戦争について知識を深めましょう。」

 

これから何かが始まるようだと考えていると、後ろでカチッという音が鳴る。

お湯を沸かしてたのをすっかり忘れていた。

お茶の準備を済ませ、食卓にセイバーと俺の分のお茶を先においた。

そしてまた食卓に手をついて歩き、椅子に腰を下ろした。

 

「じゃあまずは、聖杯戦争というものについてから教えますね。」

 

「ああ、頼む。」

 

「聖杯戦争というのはどんな願いも叶える万能の願望器、『聖杯』を巡って七人の魔術師とそれぞれに従属する七騎の英霊たちが最後の一組になるまで殺し合う、争奪戦のことです。」

 

「信じられない、そんなものがあるのか。願いを叶える聖杯、それを求めるということは参加する奴らはみんな願いを持ってるということか?」

 

「そうですね、皆願いを持って戦いに臨んでいると思いますよ。」

 

願いを叶えるために、お互いを殺し合うのか。

なんて醜い争いなことか、人の欲は恐ろしいものだ。

 

「次にあなたも聞いたサーヴァントについてですが、サーヴァントというのは過去の歴史や神話に名を残す英雄が、聖杯に呼び出されて実体化した魔術師の使い魔で、さっきのように言い方を変えれば『英霊』とも呼ばれます。」

 

「山を降りていた時、確かセイバーも自分のことをサーヴァントと呼んでいたよな。セイバーも、過去の英雄なのか?」

 

「ええ、私も七騎のサーヴァントの一人です。サーヴァントにはそれぞれセイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、バーサーカー、アサシンとクラスが振り分けられていて、私はセイバーのクラスのサーヴァントとして呼び出されました。」

 

「だから呼び方がセイバーということなんだな。ということはセイバー自体は、本当の名前じゃないのか?」

 

「はい、サーヴァントには真名があります。真名を知るということは、真名を明かされたサーヴァントの性能が敵に露呈するということと同義です。相手がいつどのような魔術を使うか分からない、あなたがどのレベルの魔術師か分からない、これらを踏まえて先程は真名を伏せさせてもらいました。」

 

ここまでの話を聞いていて、信じられないものばかりだ。

それにしてもどれくらいのレベルか。

そもそも魔術師じゃない俺は、一生セイバーの真名を知ることは出来ないわけか⋯。

そう考える俺を目の前に、セイバーは話を続ける。

 

「次にマスターと令呪についてです。マスターとはサーヴァントを従えて魔力を供給し、サーヴァントを戦わせる主のことを指します。サーヴァントを従える主というその証にあなたのように、手の甲には令呪が宿ります。本来マスターの役割には魔術回路という魔術を使うための要素を持った熟練の魔術師が選ばれるものですが、聖杯が何らかの異常をきたしてしまったことであなたが選ばれたというのが現状でしょうか。」

 

「なるほど、つまり俺は殺し合いの戦いの魔術師の一人に選ばれたのか。なんで俺が選ばれるんだ、魔術師じゃないし魔術回路というものも俺は持ち合わせてはいないというのに。殺し合いだって、望んじゃいない。」

 

「それには誤りがあります、マスター。」

 

誤り?

俺は首を傾げてそう思う。

 

「マスター、あなたは明確に魔術回路を有しています。」

 

「は⋯? 俺が魔術回路を有している?」

 

「はい、あなたからは微量ながら魔力のつながりが感じられます。それに令呪というのは工作がなければ魔術回路を持っている人にしか発現しません。現にあなたは右手に令呪を授かっているではないですか。だから、私はあなたを魔術師だと思ったのです。」

 

「ちょっと待て、俺は今まで魔術なんてものには無関係で育ってきたぞ。」

 

「一般人でも稀に魔術回路を持って生まれる突然変異がいると聞きます。おそらくはその類でしょう。」

 

「⋯そうなのか、生まれてこの方知らなかった。」

 

俺には、魔術回路がある。

とても信じがたいが、この令呪がそれを証明するものらしい。

セイバーは至って真剣で嘘をついているように見えないし、令呪というものは実際にこの目に映っている。

目の前にあるものはあるんだ。

なら魔術回路のことも、事実なのだろう。

 

「はあ⋯⋯。本当に信じたくない悪夢だよ、俺はこれからどうすれば良いんだ⋯。」

 

「私はあなたのサーヴァントなので、あなたの意向に従います。」

 

「例えば、俺がそんな戦いに参加したくはないと言ってもか?」

 

「ええ、マスターの意向ですから。それにあなたは巻き込まれた者だ、魔術のことなど忘れて元の日常に戻る権利がある。もちろん、聖杯戦争中はマスターとして既に選ばれているから、あなたのことを殺そうとする者は現れるでしょう。でも安心してほしい、その時は私があなたのために盾となることを誓おう。」

 

過去の英雄が俺を守ってくれるなんて、頼もしい言葉なことだ。

でも聖杯戦争というのはみんな願いを持っていると話していたし、戦いはペアでするものだ。

そのままじゃあ、彼女は⋯。

 

「セイバー、あなたに叶えたい願いはあるのか⋯?」

 

「どうしたのですか、急に。ええ、叶えたい願いは持ち合わせています。」

 

「この意向で、その願いはどうなる。叶えられないんじゃないのか。」

 

「まあ⋯、そうですね。ですが何も無実なあなたがリスクを冒してまで戦いに参加することは私も望んではいません。その意向ならば、今回の聖杯戦争で願いは諦めます。」

 

なんて優しい英霊なのだろう。

己の願いより、他人を優先するというのか。

ここまで来たら彼女は度の過ぎたお人好しだ。

そんなことを知るくらいだったら、質問しなければよかった。

どう答えるべきかとても悩む。

 

「すぐに出すべきものでもありません、しっかり考えて意向を出せば良い。私は待っていますから。」

 

そう言って、セイバーはまた微笑みを見せる。

その顔に俺の慌てた心は少し落ち着いた。

今、俺の中で迷いを生んでいるのは正義感だ。

確かに自分の命は大切だし、参加するべき戦いではないのだろう。

しかし俺は偶然だとしても、彼女をこの地へ呼び出してしまった。

右手の通り、マスターに選ばれてしまったのだ。

俺はマスターとして、サーヴァントっていうのを尊重することも大切なことのように感じてしまっているん

だ。

自身の安泰を取るか、自身の正義を取るか。

俺がセイバーの言う通り、ゆっくり悩んでいたその時。

 

「サーヴァントの気配を感じます⋯! ⋯こちらへ向かってきている?」

 

そう言ってガタッと、突然に椅子を立ち上がった。

なんだ?サーヴァントの気配?

敵陣ってやつが来たのか?

そう困惑しているとセイバーは宿の扉へ行き、外へ出ようとする。

 

「どこ行くんだ、セイバー。」

 

「サーヴァントの迎撃に出ます。危険なので、マスターはこちらで待機をしていてください。」

 

立ち上がろうとした俺をその言葉で座らせる。

本当に始まるのか? 殺し合いの戦争が。

そうしてセイバーは扉から出ていった。

 

一人部屋に残された俺は、セイバーが心配になるばかり。

サーヴァントが戦っているのに、マスターは何もできないで座りっ子のままなのか?

確かに俺は何も出来ない一般人だ、部屋で待機するほうが良いだろう。

でも俺は、それでもマスターに選ばれたんだ。

まだ戦争に参加するかどうかは決まってない。

だけどマスターに選ばれたのに何も見れないまま、この戦争に巻き込まれていくのか?

という気持ちが、安泰が欲しいという気持ちより打ち勝っている。

そうなれば、やることはただ一つ。

救急箱を取り出し、足首に応急処置を施した俺は足踏みをする。変わらず痛みはあるが、ゆっくりなら一人で歩けるだろう。

俺はドアノブをひねり、セイバーの後追いをすることにした。

 

外に出ると左に向いて、およそ十五メートル先にセイバーを見つけた。

どこにしまっていたのか分からないあの大剣を携え、俺から見て左の空を見上げて何かを待っているようだ。

おそらくは彼女の察知したというサーヴァントだろう。

あの様子じゃ、俺にも気づいていない。

ゆっくりとした足取りで進んでいるのだから、尚更だ。

距離が五メートルくらいまでに縮まったところで、怒られることは重々承知でセイバーに声をかける。

 

「セイバー!」

 

セイバーは驚いた様子でこちらを見る。

 

「なんでこっちに来たのですか、マスター! 宿の中で待機していてと言ったではないですか!」

 

予想通りの返答が来る。

セイバーに申し訳ない気持ちはある。

だけど、自分の意思には逆らえないものだ。

 

「すまない、セイバー。自分が馬鹿なことは分かっている。だけどこの目で戦いを見なければ、悩みの答えは出ないと思ったんだ。」

 

「マ、マスター⋯⋯。」

 

セイバーは戸惑いの色を隠せない。

彼女がなにか言葉を発そうとしたその時、その言葉が出ることはないまま首が右に素早く向いた。

俺も流れるように同じ方向を見る。

視線を送った先の三角屋根の上に、スッと大きくはないが小さくもない、だけど確かに音がなった。

それと同時にそこには、一人の人影が立ってる。

月明かりの逆光でうまく見えない。

目を細めていたところ、隣りにいたセイバーが一歩踏み出した。

 

「下がってください、マスター。サーヴァントです。」

 

彼女の左腕が、俺の前に地面と平行に挙げられる。

サーヴァント。

その言葉を聞いて、悪寒が体中を巡る。

セイバーの言うとおりに、俺は数歩後ろへ下がる。

注視していた人影が動いて、続いて声を発した。

 

「⋯その姿に武器。お前は『セイバー』のサーヴァントだな。」

 

「ああ、そうだ。」

 

セイバーがそう返す。

空気が緊張して、悪寒がさらに増す。

セイバーだとすぐ理解できるあたり、やはりあの人影はサーヴァントなんだ。

そう考えていると、月が雲に隠れて逆光がなくなる。

その姿を視認して俺の目は見開いた。

大きな弓を携えているあの人には、獣の如き大きな耳がついている。

 

「お前は『アーチャー』、というところか。」

 

セイバーの声色が変わったように感じる。

先程よりも低く、威厳を持ったものに。

そう感じていると、アーチャーのサーヴァントがはっきりとこっちを見た。

その鋭い眼光は、俺にさらなる緊張をもたらすものだった。

 

「ひ弱なマスターを側に置いておくなんて、考えものだなセイバー。」

 

「仕方のないことだ、巻き込まれたマスターの自己責任に過ぎない。」

 

「巻き込まれたマスター? そうか、望んでこの戦いに足を踏み入れてはいない者か。」

 

鋭く睨んでいた眼光が和らぎ、またセイバーの方へ視線が向いたようだ。

 

「私が様子見の了見で良かったな。安心しろ、端からマスターを殺すつもりなどない。だが不注意とは良くないぞセイバー、私がお前の目の前に現れず遠くから彼に矢を放っていたら、どうするつもりだったのだ。」

 

「さあ、どうしただろうか。彼を殺して私を屠ろうとするのは構わない。まあ、彼の命にその矢が届けばの話だがな。」

 

冷静でそれでも力のこもった言葉をセイバーは送る。

アーチャーはその言葉で怪訝な顔をした。

 

「⋯どうやらお前は強さに自信があるようだな。面白い、戦う気はなかったが気が変わった。」

 

アーチャーは、持っている弓を構えた。

その標的はセイバー、ではなく明らかに俺へと向いていた。

 

「試させてもらうぞ、セイバー。その言葉が真か、戯言かをな。」

 

引かれた弓には矢が一本、その言葉と同時に放たれた。

放たれた矢は一本から三本に分岐し、異なる方向から俺を目掛けて飛んでくる。

その卓越した一連の動きに、俺は逃げる暇もなく撃たれるーーーー

カッ、カッ、キーンーー!!!

そうなると思いきや、目の前で三回の音が同時に鳴り響く。

いつの間にか目の前にセイバーが立ちふさがり、三本の矢をひとまとめに迎撃し落としてみせた。

アーチャーが弓を構えたときには既に走り出して、俺の目の前まで滑りこみ立っていたようだ。

 

「ほう、真であるか⋯⋯。」

 

微かにアーチャーはそう言った。

 

「マスター、遮蔽物の後ろへ退けますか?」

 

セイバーが俺に退避を促す。

すぐ近くにあった木箱の後ろへ、俺は回り込む。

それを確認したセイバーは、一気にアーチャーの方へと走り出した。

すかさずアーチャーはセイバーへ幾本もの矢を放ち、その猛進を止めようとする。

しかしセイバーは迫りくる矢を目に捉えきれない剣戟を以て、何度も薙ぎ払っていく。

そして地面に強く踏み込み、アーチャーの立つ屋根上へと飛び乗る。

 

「はあああ!!」

 

素速い剣戟から打って変わり、重い一振りを放つ。

アーチャーはそれをかわして隣の建物に飛び移り、立ち直る。

セイバーと同じ高さの目線でお互いを見合う。

 

「この攻めの凄まじさは、アレを使ったとて劣勢になりうるか⋯。状況を鑑みて、私はここで退かせてもらうことにしよう。」

 

「下がるか、アーチャー。」

 

「ああ、今は特にお前たちを本気で屠ろうとは考えてもないのでな。それにここで返り討ちにあって傷を負っても困る。お前の言葉が真だと知れただけで、今は十分さ。」

 

そう言ってアーチャーは、どこか遠くへと去って行った。

二人の戦いは一瞬だったが、その中で部外者の俺が何度悪寒を感じ命を落としかけたことか。

この目で戦いを見たいなんて、そんなことを言った俺は本当に馬鹿だとつくづく思う。

結果としてセイバーの足を引っ張りかけたのだし。

それでも、俺の意思に間違いなんてなかった。

アーチャーを見送ったセイバーが地に降りて、少し駆け足で俺の元へ寄ってくる。

木箱の裏で考えを改めていた俺も、それに気づいて立ち上がった。

 

「大丈夫でしたか、マスター。」

 

「ああ、セイバーのおかげでね。愚考に付き合わせて悪かった。」

 

「ええ、理解を得ているなら許しましょう。それに、どんな状況においてもマスターを守り切るのが、サーヴァントである私の務めなので。」

 

心強いな⋯。

そう思いながら、セイバーと共にまた俺は宿へ戻った。

宿へ入った俺は、少し歩いて立ち止まる。

決心がついた。

 

「セイバー。」

 

自身の安泰を取るか、自身の正義を取るか。

それについてだ。

セイバーも俺の呼びかけを聞いて、「どうかしましたか?」と玄関で立ち止まる。

確かに命は大事だ。

死ぬ気だって俺にはない。

だけど、俺は既にマスターに選ばれてセイバーも呼び出してしまった。

俺は義務は極力果たしたいという心がある。

どうせ日常へ戻ったとて、絶対忘れられやしないし他の陣営に命を狙われることには変わりやしない。

この先に後悔の道を歩んでも構わない。

ずっとびくびくしながら日常を送るくらいなら、俺はセイバーを呼び出したマスターとしてこの戦いに向き合いたい。

ならば、出すべき答えはただ一つ。

俺は振り返ってセイバーを見る。

そうして心から決めた、俺の本心をはっきりと口に出す。

 

「セイバー。俺は聖杯戦争に参加して、セイバーのために戦う。」

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