※本作は『Fate』シリーズの二次創作小説です。
※オリジナルマスター、オリジナルサーヴァント、独自解釈・独自設定が含まれます。
第六話「必然の道と修練の道」
ーーー夢を見た。
俺が主役じゃない、古き世界の夢を。
「父上の大軍でも奴らに敵わないという事なら、私が直接奴らの下へ出向いて散った仲間たちの仇を討って来ましょう。戦士としての我が名を、この地に轟かせるのにも丁度が良い。」
誰もが敵を諦めようとしていたその宮廷会議の雰囲気を、黒い髪色と紅い目を持つその騎士が立ち上がって言葉で切り裂く。
騎士は何故かどことなく、彼女と瓜二つだった。
老騎士を共に連れてその騎士は、城を旅立ちどこかへと向かっていった。
おそらく騎士は、自身が宣誓したことを果たすために仇の下へ向かっていったのだろう。
騎士のその真剣な顔には、負けるという結果を生み出しそうにない、屈強な勝利の確信を纏っていた。
そこで夢は途切れ、その夢の記憶も脳の覚醒と共に靄がかかるように曖昧になっていった。
目を覚ました俺は体を起こす。
夢を見たという結果だけが頭に残り、寝覚めを悪くする。
忘れちゃダメなような。何を、見たんだっけ。
俺は曖昧な夢の内容を思い出そうと、片手で頭を抱える。
そうして記憶を探っていた俺に、突然と声がかけられた。
『目をお覚ましになられましたか、マスター。』
その声の元を探そうと部屋中を見回しても見当たらない。
あれ? 誰か今、俺に声をかけたよな⋯。
そうするとまた突然、目の前にスラっと空気から姿が現れる。
「っ!?」
声も出ないまま、俺は驚いてベッドの上でひっくり返った。
その姿をよく見てみると、それは馴染みのない彼女だった。
ああ、そういえばそうだった。
彼女を見て、昨日の出来事がだんだんと蘇ってゆく。
山の中で追われて転けて、彼女、セイバーを呼んだこと。
魔術師というものについて知ったこと。
アーチャーとセイバーの戦いを実際に目の当たりにしたこと。
そして、聖杯戦争をセイバーと共に戦うと決めたこと。
自分の人生に無関係だった事柄が、偶然にも出会ってしまったばかりなのだった。
今は昨日身に着けていた鎧を着ていなくて、これまた見慣れない古風な衣装を着ていた。
おそらくは鎧の下にいつも着ている服なのだろう。
それにしても今のはどうゆうことだ。
何もなかったところから幽霊のように現れてきた。
空気に消えるのもサーヴァントっていうやつの特権なのだろうか。
どうせ魔術関係の何かなんだろうから、今はまあ⋯流しておこう。
「朝早いんだな、セイバー。」
左足を少し捻って痛みが引いていたことを確認しながら立ち上がった後、俺がやることは昨日と同じ。
「ええ。サーヴァントには本来、睡眠は必要ないのですから。」
すごいな、サーヴァント。
そう言いながら食卓に座ったセイバーを横に、俺は台所に立つ。
とりあえず朝飯を食いたいが、今日からはセイバーが居るので昨日のようにパックヨーグルトのみというのは良くない気がした。
だからとりあえず、最初の買い物の時にパニーノのように買い漁って置いていた、「アップル・シュトゥルーデル」という街のパン屋で買ったものを手に取った。
一袋に二つ入っているもので、何袋か買っていたためちょうど二人分を賄えた。
なのでセイバーにもと袋からそれぞれ取り出して二つずつ皿に置いて持ち、食卓に座って彼女の目の前にシュトュルーデルを置く。
俺は自分のシュトゥルーデルを一口を食べる。
うん、美味しい。さすがイタリアだ。
そう賞味しているとセイバーは戸惑った声で言った。
「これは?」
「朝食だよ。アップル・シュトゥルーデルって食べ物だ。」
「いいのですか? サーヴァントには睡眠だけじゃなく、食事も必要はないんです。 私の空腹具合を案じているなら大丈夫なので安心して良いのですが⋯。」
セイバーはそう言っているが、やはり食べたいことはあるのだろう。
顔がそう言っている。
だってそう言いながらもシュトゥルーデルから視線を一切離さず、興味津々な顔をしているのだから。
セイバーは食べ物が好きなのか?
「まあでも⋯、別にまだまだ飯はあるから食べたかったら食べてもいいけど⋯。」
「そ、そうですか。マスターがそう言うなら遠慮はいりませんね! ではお言葉に甘えて頂くとしましょう。」
返答してすぐセイバーはシュトゥルーデルを頬張る。
不思議そうな、美味しそうな、そういう嬉しそうな顔をしてセイバーはシュトゥルーデルを食べていた。
そんなセイバーを横目に先にシュトゥルーデルを食べ終わった俺は、朝支度を始める。
そういや今日は何をするんだったか。
昨夜俺が決意表明をした後、セイバーは「まずは体を休ませたほうが良い。」と早急に寝かせてきたもんだから参加すると言ったって、戦いについてこれという作戦会議はしてなかった。
「セイバー、今日はなにかするのか?」
とりあえず何も分からない俺が一人で考えてもしょうがないので、直球にセイバーに聞くことにした。
俺の問いかけに反応してセイバーは食べかけのシュトゥルーデルを一気に頬張って飲み込み、一息むせてから喋り始めた。
「そうですね⋯。まずはあなたが現状のままで、この戦いを生きれるのかどうかを確認したい。そのあとに色々深く考えるとしましょう。」
「確認って、具体的に何するとかあるのか?」
「体力面だと運動ですね。軽く私から逃げてみるとか良いのではないですか?」
笑顔でそれを言うのが怖いよ。
多少の手加減はあるのだろうと思いつつも、アーチャーとの戦いの時のセイバーを思い出してあれから逃げるのかと想像するとゾッとするものだ。
「走るとなると、宿を出ることになるか。行き先は山の中か?」
「それが最善になるかと。あなたの護身用に魔術なども伝授したいですし、あまり人目の少ない木々の中というのは適しています。」
「魔術の伝授?」
「はい、昨日も教えた通りあなたは魔術回路を持っている。魔術を使える土台があるなら使わない手はありません。命の取り合いの戦いで、自分の利になることはできるだけ利用するべきというのが私の見解ですからね。まあ習得が出来るかは別の問題ではありますが。」
確かに、使えるものは使うというのは正しいか。
でも本当に魔術というものは、こんな俺が使えるものなのか?
いや、今は疑問を払拭してとりあえずセイバーに委ねておこう。
知識のあるセイバーに行方を定めてもらうほうが、今は安全だしな。
「セイバーはもう出る準備はできているのか?」
「ええ、私はいつでも臨戦態勢ですから。」
「そうか、じゃあ俺の支度が終わったらすぐに出よう。多分この戦いで時間は惜しい、少しでもセイバーの足を引っ張らないよう力をつけなきゃ。」
「良い覚悟をお持ちだ。それでこそ私のマスターに相応しい。」
屈強な勝利の眼差しを見せる笑顔でセイバーはそう返したんだ。
こりゃ努力すること逃げられないな。
セイバーはまた残ったシュトゥルーデルを食べ始め、俺は支度の続きを始めた。
支度が済み、俺はセイバーの方へ振り返る。
既に食べ終えて待っていたセイバーが立ち上がる。
「準備ができたようですね、では行くとしましょうか。」
「ああ」と頷いた俺は、昨日洋服に入れっぱにしていたお守りペンダントを取り出す。
思えば昨日、これを持ってたから今の俺は命があるのかも知れないな。
そう思ってペンダントを見ていると、セイバーが横から声をかけて来る。
「⋯おや、それは魔法石ではないですか?」
「ん?」
「純度が高い、これは⋯。」
セイバーが黙り込んで俺のペンダントを見つめている。
魔法石? このペンダントの宝石が?
「お守りなんだ、俺の。子供の時見つけた宝石だ。魔法石っていうのがなんなのかは知らないけど、価値のあるものなのか?」
「⋯なるほど、そうでしたか。」
「これが、どうかしたのか?」
「い、いえ! なんでもありません、さあ準備が整っているのなら行きましょう。」
セイバーが振り返って扉の方へと顔を向け歩き出す。
気になるな、何だったのだろう。
そうやって歩き出した時、微かに「必然⋯だったか。」とセイバーが言っているのが聞こえた。
俺は小言だろうとその言葉を流してセイバーの後を歩いた。
「街を監視する陣営がいるかもしれません。魔力消費の節約にもなるので、私は霊体化をしてあなたの後を追いますね。」
「霊体化?」
「ああ、そういえば教えていませんでしたね。サーヴァントは実体化されども本質は霊、実体は魔力で構成されているのです。なので体を構成する魔力を一時的に霧散させ、元の本質である霊体に変化することが出来るのですよ。」
「なるほど、朝起きたときに突然目の前に現れたアレもそういうことか。」
「はい、マスターが起きるまでの間は霊体化していました。」
これで何回目だろうか。すごいな、サーヴァント。
本当にすごいことだらけだ、魔術というのは何でもありじゃないか。
セイバーが実際に目の前から霧のように姿を消す。
納得してすぐだったからもうあまり驚きもしないけど。
俺は扉を開けて外へと出た。
時刻は午前七時半。
朝早い旅立ちを、朝日が差す街が出迎えた。
しばらく歩いて俺は商店の多い大通りに差し掛かる。
歩いていると脳に反響するように声が聞こえる。
セイバーの声だ。
『すごいですね、この前は小道続きを歩きましたがこのような大きな道を歩くと人がいっぱいです。』
「そうだな、こんな朝なのに結構活気があるもんだ。」
散歩をする人も、買い物をしに行くだろう人も、みんな今の普通な日常を歩む人とすれ違った。
きっと今この大通りを歩く人の中に、普通ではない魔道を歩み始めたのは俺だけなんだろうな。
この先を考えると不安な気持ちになる。
そんな緊張な心に包まれていた自分を多分気づいていないだろうセイバーは、俺に対して街のことをシュトゥルーデルの時のように興味津々な声で喋っている。
『右の店を見てくださいマスター! あそこに売られている食べ物は何でしょうか!?』
とか、
『マスターのもそうですが、あそこに飾られている服は洒落ていて愛らしいですね!』
とか色々だ。
サーヴァントは過去の英雄だったか。
英雄と聞くと何か人とはかけ離れた感性を持っているのだろうかと思うけど、彼女の発言や行動からはとても親近感の湧く人間らしさを感じる。
基が人間なのだからそりゃそうだろうとなるけど、そこは少し意外なところだった。
街を抜けて、麓の入口に着く。
昨日通った場所とは全く違う方向を目指して進む。
セイバーの案内を受けつつ人目のないところを探して向かった方向だったが、しばらくして運良く木々に囲まれた平地を見つけることが出来た。
『この平地なら広さも十分ですね。ここを修練の場としましょうか。』
その声と共に目の前にセイバーが姿を現せた。
修練って、と思いながらもやるしかないと根気強くあるために今で気を固める。
「それにしてもマスター、かなりの距離を歩いていたのに疲れていないのですね。」
「そうか? このくらいは短いと思ったのだが、今まで何度も旅に出て歩き回ったからかな。アルプス、スカンディズ、そして今回のドロミテか、1年と少しの間にかなり回ったな。」
「そう、何度もですか。それは良いですね、私も旅にお供して歩き回りたかったです。」
「はは、そりゃ楽しそうだ。」
地につく足面は動かさず、軽く体を動かしながら体操をしながら俺はそう言葉を返す。
「体力面に関しては、今の時点で持久力がかなりあることを察しました。なので後の瞬発力などを試しましょうか。」
「それはやっぱり⋯、セイバーから逃げるっていうアレか?」
「そうですね、そのほうが力も付きやすいし試しがつく。それにしましょう。」
「分かった、それするなら剣は使わず手加減をしてくれよ。」
「はい、しっかり心得てますからご安心を。」
そういってセイバーは両手の指を絡めて腕を前に伸ばしていた。
どうやら準備は万全を期すらしい。
「さあ、いつでも走り出して構いませんよ。十五数えます、その数えが終わったら追いかけますので。手のひらがあなたに付いたら終わりですので、腕を弾いたりしてでも避けてくださいね。」
ようは鬼ごっこということだな。
良かった、殴りや蹴りの派手なものじゃない。
焦らず見切ること避けることに集中しよう。
セイバーを横目に見ながら走る体制を整える。
「じゃあ走るぞ。せーの⋯。」
足を踏み込んで息を大きく吸う。
そして俺は力強く号令の言葉を上げた。
昨日以来の全力逃走、その開始の合図を。
「スゥ⋯⋯、ドンッ!!!!」