【日本事故物件監視協会/異常事象監視報告】
■ 管理番号
JSP-EH-0427
■ 発生地点
愛媛県伊予市・塩美橋周辺
■ 発生日時
○月○日 深夜帯
■ 事象区分
行方不明事案/怪異関与の疑い
■ 情報提供元
・協力非術師『窓』
・JSP現地監視班
■ 時系列概要
事象の発生
○月○日深夜、塩美橋周辺にて、児童が橋の下へ転落した後、行方不明となる事案が発生した。
警察による捜索では、現時点で児童の発見には至っていない。
発生直前の目撃情報
現地協力者『窓』の証言によれば、児童が橋の下へ向かう直前、橋梁下部に「ピエロのような人物」が単独で立っていた。
目撃された人物の特徴は、以下のとおり。
・白い顔
・派手な衣装
・赤色と思われる頭髪
・橋の下に単独で立っていた
これらは目撃者による証言であり、現時点で対象の実在や外見の詳細が完全に確認されたものではない。
児童への接近および捕捉
目撃者が児童へ近づこうとした際、橋梁下にいた人物が児童へ接近した。
その直後、目撃者は、対象の「口部が通常の人間では考えられない大きさまで開いた」と証言している。
さらに、対象の口部から長い舌状の器官と思われるものが伸長し、児童の身体を捕捉した後、対象と児童が橋梁下へ移動したとされる。
この一連の内容は目撃者の証言に基づくものであり、現時点では映像等による全過程の確認はできていない。
橋下の確認
目撃者が橋下を確認した時点で、対象および児童の姿は確認できなかった。
児童が橋下へ転落したこと、またその後に行方不明となったことは事案として確認されている。一方、対象が児童を捕捉して連れ去ったかどうかについては、目撃証言以外の確実な裏付けが不足している。
映像記録
同時刻に設置されていたJSP監視機器には、目撃証言に該当する可能性のある人物が数秒間映り込んでいる。
映像上、対象と思われる人物が橋梁下に存在していたこと自体は確認可能である。
ただし、映像の一部には著しいノイズが発生しており、顔貌その他の詳細な確認は困難である。また、対象が画面外へ移動した後、映像には一時的な異常が発生している。
映像異常の原因は現在調査中であり、対象による干渉であると断定することはできない。
現場確認
現場周辺から、赤色の風船が一個発見された。
風船には持ち主を特定できる情報はなく、対象との関連も確認されていない。
ただし、風速および周辺環境を踏まえると、発見時の位置関係には不自然な点がある。この不自然さが意図的な配置によるものか、偶然によるものかは現時点で判断できない。
現時点での判断
本事案を通常の失踪または転落事故としてのみ処理することは推奨しない。
児童の行方不明、目撃証言、監視映像、映像ノイズ、赤色の風船の発見には関連性がある可能性がある。ただし、これらが同一の原因によるものか、また対象が既知の怪異、呪霊、妖怪、その他の超常存在に該当するかは未確定である。
高専側への情報共有を要請する。
特に、以下の可能性について警戒を要する。
・児童を意図的に誘引している可能性
・対象が外見または形態を変化させる可能性
・映像機器その他の電子機器へ干渉する可能性
・赤色の風船や道化師様の外見を誘引手段として利用している可能性
安全対策
対象は、児童の好奇心や警戒心の低さを利用し、橋梁下の人物、赤色の風船、道化師様の外見などを手掛かりとして誘引している可能性がある。ただし、これらは現時点での推測であり、確定情報ではない。
現地監視班は、対象、風船、不審な人物を発見しても、接近、呼びかけ、追跡、回収を行わず、直ちに安全距離を確保して通報すること。
監視は複数名で実施し、退避経路と連絡手段を事前に確保する。橋梁下への単独進入および単独行動は禁止する。
周辺への立入制限を実施し、児童および通行人への注意喚起を行う。異常な映像ノイズ、誘引物、または不審な人物を確認した場合は、監視を中止して退避し、高専側および関係機関へ報告する。
現地監視班は、対象への直接接触を避け、追加の犠牲者発生を防ぐことを最優先とする。
――以上。
【追記】
監視映像を確認した職員数名から、「ピエロがこちらを見ていた」との証言あり。
ただし、映像上では対象がカメラの方向を向いている時間は確認できない。
――誰を見ていたのかは不明。
―――――――――――――――――――――
五条「なる程ね」
七海「時間はありません。彼等が力を強めれば、被害は拡大しフレディの力も強まる一方でしょう」
五条「となると、先ずはペニーワイズを優先すべきか」
七海「現実側で恐怖を抱く人が増えれば、例え利害一致であってもペニーワイズもフレディも力を増していきます」
五条はグラウンドを見る。
そこでは、比名子と汐莉が体力づくりのためにランニングをしていた。
汐莉は疲れた様子もなく、軽々と走っている。
一方の比名子は――
比名子「はぁ……はぁ……!」
額に汗を浮かべ、荒い呼吸を繰り返しながらも、自分のペースを崩さず走り続けていた。
五条「彼女達が、奴等を倒す鍵になる」
七海「……そうですね」
その時だった。
校舎の方から、慌ただしい足音が聞こえてくる。
伊地知「五条さん!七海さん!」
五条「お、伊地知」
伊地知は息を整えながら、手にしていたファイルとタブレットを差し出す。
伊地知「先程の件について、追加の調査結果が出ました」
七海「『獏』と『贋夢』ですか?」
伊地知「はい」
伊地知はタブレットを操作する。
伊地知「高専の記録、協力者からの証言、JSPの過去の監視記録を照合しました。その結果――『獏』と呼ばれる存在について、いくつかの記録が見つかっています」
五条「へぇ」
伊地知「ただし、同一の存在を指しているのか、それとも複数の存在を総称しているのかは、まだ判断できません」
七海「それで、『贋夢』は?」
伊地知の表情が少し硬くなる。
伊地知「こちらの方が問題です」
五条「問題?」
伊地知「『贋夢』について調べたところ、夢に関係する怪異の記録だけではありませんでした」
伊地知は一枚の資料を表示する。
伊地知「夢を見ている人間の記憶、感情、恐怖などに干渉したと思われる事例が複数確認されています」
七海「……夢そのものではなく、人間の認識に干渉する?」
伊地知「はい。しかも、発生した事例の中には『夢から覚めた後も影響が残った』という証言があります」
五条「なるほどね」
五条は資料を眺める。
五条「じゃあ、フレディが好き勝手できるのも、その辺が関係してる可能性があるか」
伊地知「断定はできません。しかし、関連性は調査する必要があります」
七海「所在地は?」
伊地知「それが……」
伊地知は一度言葉を止める。
伊地知「現時点では、特定できていません」
五条「そっか」
伊地知「ただ、手掛かりはあります」
五条「手掛かり?」
伊地知「はい」
伊地知が画面を切り替える。
そこには、いくつかの地名と日時が並んでいた。
伊地知「『獏』と『贋夢』、そしてフレディの出現が確認された地域には、一部ですが共通点があります」
七海「……これは」
伊地知「はい。現在、照合中です」
五条は画面を見ながら笑う。
五条「なるほど。だんだん面白くなってきたね」
七海「面白がっている場合ではありません」
五条「分かってるって」
五条はグラウンドへ視線を戻す。
そこでは、比名子がまだ走っていた。
比名子「はぁ……はぁ……!」
汐莉「比名子、もう少しですよ♪」
比名子「……分かって……るよ……!」
五条「まずは、あの二人を鍛える」
七海「そして『獏』と『贋夢』を探す」
五条「うん」
そして五条は、いつもの笑顔を浮かべた。
五条「フレディとペニーワイズには、悪いけどさ」
資料を掴み、立ち上がる五条。
五条「こっちも、準備させてもらおうか」
そして、比名子は汐莉と共にトレーニングを重ねていく。呪霊操術が使えなくなったとしても、ある程度戦えるようになる為に。
――――――――――――――――――――――――
1週間後。比名子と汐莉は、高専で寝泊まりして以来、悪夢は見ていない。高専の結界のお陰か、比名子は悪夢を見る事が無いようだ。
日々鍛えていたお陰か、それとも元から才能があったのか、比名子は身体能力が飛躍的に伸びた。
近接戦闘はまだ荒削りなものの、五条からのオススメで両手にそれぞれ一つずつ装備する盾の呪具を二つ貰い、攻撃と防御をどちらも出来るようにしてもらった。
五条「さて、汐莉はともかく、比名子はそれなりに体は強くなれたみたいだね」
比名子「はい。五条さんのお陰です」
汐莉「私は体を動かせて気分が良いですよー」
汐莉からすればラジオ体操のようなものだろう。
五条「さて、今回からいよいよ、獏や贋夢の捕獲に入るよ」
五条は一枚の資料を比名子たちへ差し出した。
五条「獏の生息場所や、贋夢の目撃情報があったのは――この小学校」
比名子「小学校……ですか?」
汐莉「学校なんですねぇ」
五条「うん。廃校じゃないよ。今も普通に使われてる」
比名子は資料を読み進める。そこには、過去に確認された獏や贋夢の目撃情報、出現した時間帯、夢を見た人物の証言、そしてそれらから推測された生態や能力について、細かくまとめられていた。
比名子「……かなり調べられてますね」
五条「伊地知と高専の調査班が頑張ってくれたからね」
七海がまとめた資料を指差す。
七海「特に重要なのはこちらです」
資料には、太字で記された一文があった。
――『獏は夢を食べる』
比名子「……」
――『贋夢は、夢を見ている者の恐怖や記憶に干渉する可能性あり』
比名子の表情が僅かに険しくなる。
比名子「……私たちが探しているのは、普通の怪異じゃないんですね」
五条「そういうこと」
五条は資料を閉じる。
五条「だから今回は、単純に見つけて殴れば終わり、って話じゃない」
汐莉「では、どうするんです?」
五条「まずは観察。相手の能力と行動パターンを確認して、それから捕獲する」
比名子「分かりました」
五条「それと――」
五条は比名子の両手を見る。
そこには、彼女が新たに扱うことになった二つの盾の呪具が装着されている。
五条「今回は、君自身も前に出てもらうよ」
比名子「はい」
五条「怪異を操るだけじゃなく、自分でも動く」
比名子は盾を構え直す。
比名子「……やってみます」
五条「よし」
五条は小学校の写真を指差した。
五条「じゃあ行こうか」
「獏」と「贋夢」。
そして――
まだ姿を見せていない、夢の怪異たち。
比名子たちの実地任務が始まろうとしていた。
―――――――――――――――――――――――
その頃、とある田舎町の村。其処で一人の子供が公園で遊んでいた。笹で小船を作り、小川で浮かばせて遊んでいた。それを追いかけるという、スマホすら持ったことのない子供の遊びをしていた。
子供「ん?あれ?」
子供が小船を追い掛けていると、小船は排水口の中へ吸い込まれた。
小船を取ろうと、排水口を覗き込む子供。
子供「小船……」
子供はどうしようか悩む。すると……。
ペニーワイズ『欲しいのかこれかい?』
排水口から声がする。子供はキョトンとするが、声の主は有り得ない所から現れた。
それは、排水口の窓から顔を覗かせて、子供へ優しく微笑む。
ペニーワイズ「やあ!」
ペニーワイズだ。しかし、子供はペニーワイズを知らないのか、排水口に有り得ない存在が居て怖がるだけだ。
子供「誰!?」
子供は慌ててその場から逃げ出す。そして、公園のトイレへ駆け込んだ。
個室に入り、扉を閉める。
子供「はぁ……はぁ……」
荒い呼吸を抑えながら、耳を澄ます。
静かだ。
外から聞こえるのは、小川のせせらぎと風の音だけ。
子供「……いなくなった?」
恐る恐る、個室の扉を少しだけ開ける。
誰もいない。子供はほっとして、胸を撫で下ろした。
その時。
コポ……。
どこかで、水が鳴った。
子供「……?」
顔を上げる。
トイレの隅にある排水口。
そこから、ぽつり、ぽつりと水が流れている。
そして――
ペニーワイズ「小船を探してるのかい?」
子供「!!」
声。
今度は、すぐ近くから聞こえた。
子供は慌てて後ずさる。
ペニーワイズ「大丈夫だよ」
排水口の奥から、赤い風船がゆっくりと浮かび上がってくる。
子供「……!」
風船は天井まで上がると、そこで止まった。
その紐の先には――
誰もいない。
子供「……誰?」
ペニーワイズ「僕かい?」
声がした。
今度は、背後。
子供が振り返る。
そこには誰もいない。
しかし、鏡には………排水口からこちらを覗いていたはずのピエロが映っていた。
ペニーワイズ「僕はペニーワイズ」
子供は鏡を見る。
そして、ようやく理解する。
目の前には誰もいない。
なのに――
鏡の中にいる。
ペニーワイズは笑っていた。
ペニーワイズ「君の小船、返してあげようか?」
子供「……!」
ペニーワイズ「その代わり――」
鏡の中のペニーワイズが、ゆっくりと指を伸ばす。
ペニーワイズ「僕と遊ぼうよ」
子供は扉へ走った。
だが――
開かない。
子供「開いて……!」
何度押しても、引いても動かない。
そして、鏡の中のペニーワイズが笑う。
ペニーワイズ「怖い?」
子供は答えない。
ペニーワイズ「怖いよね?」
その声が響いた瞬間――
鏡の中の姿が変わった。
ピエロではない。
今度は、子供が怖いと思っているものだった。
子供「……!」
ペニーワイズ「ほら」
ペニーワイズは楽しそうに笑った。
ペニーワイズ「君が一番怖いものになってあげるよ」
ペニーワイズが、怖がる子供へ迫る。
子供は震えて動けなくなる。泣き崩れて、頭を抱えた。
ペニーワイズは食べ時だと、口を大きく広げた。
しかし、食べる事は叶わなかった。
あやめ「あらあら………海外の妖怪は物騒ね」
ペニーワイズは、横からの声に振り向いた。その瞬間、ペニーワイズの左頬に斧が迫り、彼の左頬に深く突き刺さる。
ペニーワイズ「ぐあああっ!?」
ペニーワイズはその場に倒れる。子供は震えているが、突然左頬に深く刺さった斧を抜き取り、左頬を両手で押さえるペニーワイズの姿に、理解が追い付かない。
先程まで見えなかったが、確かにそこにいたのだ。ただ透明になって見えなかっただけだった。
あやめ「比名子ちゃんが心配だったから、合宿所の
子供が声のした方向を向く。其処には綺麗な女性が立っていた。母性溢れる綺麗な女性だったが、次の瞬間に少年は気を失う事になる。
あやめ「比名子ちゃんを狙うつもりなら……させないわ」
あやめの声から、穏やかさが消えた。
ぐぐぐっ。
あやめの首が、ゆっくりと回る。人間なら到底自然にはできない方向へ。
子供「……え?」
あやめの長い髪が揺れる。
その隙間から覗いたものを見た瞬間――
子供の表情が固まった。
あやめは、もう「綺麗な女性」ではなかった。髪の奥に、人ならざる大きな口が覗いている。長い舌がゆっくりと揺れた。
子供「」
理解できない。
怖い。
でも、逃げることすらできない。
そして――
少年の意識は、そこで途切れた。
そして、数時間後。
子供「……あれ?」
子供は目を覚ます。
子供「何だったんだろ?夢?」
子供はそんな疑問を抱きながらも、その場から走っていく。
その様子を、あやめは見ていた。
あやめ「元気でね」
あやめはそう口にした後、再びその場から歩き出す。
あやめ「さて、比名子ちゃんと合流しないと」
あやめは再び歩き出す。もう一度比名子と合流する為に。
先程のピエロには逃げられてしまった。比名子が合宿所で悪夢を操る敵に狙われた事は、あやめも把握していた。なので、あやめ自身も比名子を守る為に歩き出したのだ。
そして、街の喧騒に消えていくあやめ。その姿は人混みに紛れ、消えた。