大体コンビを組んでから一ヶ月。2032年は、現在5月6日を迎えている。
そして、今日は学生にとっては日常の大イベント。ドキドキワクワク、席替えがある。楽しみで仕方ないな!
まあ、その楽しみなイベントの前……というか、登校前にちょっとした準備運動あるけど。
まず、シャボン玉を浮かばせる。割れないように念入りに魔力をコーティングしたあと、【
精度が上がり、ギリギリ分身体と呼べる頭脳が備わった「俺」とするのはシャボン玉の奪い合い。
足よし、腕よし、体よし。けれど、スキルと魔力は禁止。鍛錬じゃなくて、寝起きの運動のようなもの。
ただ、その規模がドラゴンなだけで。
「俺がキープね……うし、来い!」
迫る分身体はストレートで奪いにくる。単純だが、竜系統の力が備わることで脅威となる。
前は意表を突かれて取られたけど……俺だって成長してんのさ。
二度も同じヘマはしない!
魔力コーティングに干渉し、「前→左半身→背後→右半身→前」の順番に上へと回転するように細工を仕掛ける。
突然のことに一瞬動揺しているが、すぐにもシャボン玉を取りに行きそうだ。でも、その隙は大きいぜ?
こんな風に……頭を踏まれるかもだなぁ!
シャボン玉をキャッチする俺に続いて空へと跳び上がるが、同じ身体能力では追いつけない。
「はい!俺の勝ち!時間オーバーだぜ!」
不服そうに消えていく「俺」に対して、俺は少し冷や汗を流す。
元は俺なのに、「俺」は終わるギリギリに身体能力が上がっている。分身体とは離れつつあるのは間違いないだろう。
さっすがドラゴン。ただの分身魔法じゃねえな。そろそろ自我獲得とかすんのかな。
「まだやってんの?そろそろ学校に行く準備しなさいよ」
「大丈夫だって。結構早く済むから……
「……イラつくわぁ。数秒で着替えが完了するってなに?私も欲しいんだけどそれ」
「姉ちゃんもドラゴンになったらできるよ」
「なれるわけないでしょ。イカレポンチのアンタじゃないんだから」
「だーれがイカレポンチだ!……あ、前姉ちゃんが欲しがってたコスメ、リビングの机に置いてるから」
「え?…あぁ!誕プレか!いやー持つべきは優秀な弟だねえ!ありがと!」
「まあ。……俺はもう朝飯食べたからさ。適当に食べといて」
気分的には竜翼で空高く飛び上がりたいが、それをしてしまうと近隣の方が腰を抜かしてしまうので却下。
歩いて向かうのも嫌いじゃないから良いんだけど。
「あ」
「「あ!」」
歩いてから10分ほどで会ったのは、双葉霊と双葉桜。幼稚園からの幼馴染の双子コンビだ。
一年生の頃は別クラスだったが、今年から一緒だ。
……始業式の日にいなかっただろって?なんか、体調不良で休みだったらしいぜ。
桜って基本的に体調管理完璧ウーマンだから、ちょっと意外な俺がいるんだよね。
まあ、いつの時代にも完全はないしな。俺が竜性種になったりするんだから桜も体調不良になったりもするか。
「よっす、元気か?」
「元気かって……先週会ったばかりだろ!」
「んー、感覚的には久しぶりなんだよな。あれか、土日のダンジョン潜りのせいかな」
「そうですよ、兄さん。奏多はダンジョンに潜っているんです。魔力なし、スキルなしの条件下でゴブリンジェネラルを倒しているんですから」
「えぇ……お前本当になにしてんの?」
「これはお恥ずかしい。プライベートなお茶目がクラスメイトに知られてしまうとは」
「お茶目かぁ?これ……まあ、それだったら久しぶりって感覚も否定できなくはないな!」
「そんなことより!そろそろダンフェスの時期だろ?今年も行くよな!」
呆れた瞳を向ける霊に苦笑いを浮かべつつ、早急に話を切り替える。
切り替えた話はダンフェス。通称、「ダンジョンフェスティバル」だ。
文字通りダンジョン関連の祭りだ。ドロップした国宝級魔石や、最先端の技術を見学できる。
また、極上の旨みを兼ね備えている魔物の肉の試食があったり、魔力を用いた遊びなんかもある。
本来魔物の肉だったりは高額になる。全部が美味しいわけじゃないし、美味いのは大抵強い。
だが、このダンフェスでは別だ。強い直属探索者が魔物を狩り、格安で販売する。そうすることによって、市民も美味い飯を食うことができる。
「あー……ダンフェスね…」
「……?どうした。何か予定が入ってたりするのか?だったら全然断ってくれてもいいぞ?」
「いや、そのな?えぇと、なぁ…」
「はぁ…兄さんが言えないなら私が言いますよ。兄さんはクラスの女の子とデートに行くので、私たちとは行けないと言いたいんです」
「……わぉ。春がきてるならそう言えば良いじゃん。友達と好きな人なんて比べるまでもないだろ。俺とお前の関係は一生だけど、好きな人は変わるかもしれない。もしかしたらその人が終わったら好きな人なんて現れないかもしれない。だったら、そんな人との経験は重ねていくに限るさ」
その言葉を聞いた双葉双子は……一人は感動したように顔を振るわせ、もう一人は「だと思った」と言わんばかりの表情を浮かべる。
「だから言ったじゃないですか、兄さん。奏多はどこまで行っても奏多ですよ。どれだけ強くなったとしても、ね」
…そんなに変わってないか?竜性種になってから結構大人びてきたと思ってるんだが。もしかして全然そんなことない?
「ん、そゆこと。だからあんま気にすんなよ」
「……おぉ!!ありがとな、お前ら大好きだ!」
道の真ん中で友愛と親愛を叫ぶ。少し気恥ずかしいけれど、悪い気はしない。
だから俺も桜も霊に対して注意してない。すこし顔が赤面するけれど、心にあるのは嬉しさだ。
「喜び大きすぎません?そこまで大それたこと言ってませんよ?」
「そうだぞ。霊がデートしてるとき、俺も桜とデートしてるんだからな?」
「……あんまり肯定したくないですけど、そうかも…」
「おぉ!奏多が俺の義弟になるのか。大歓迎だぞ!」
「なりませんから!!奏多も何か言ってください!」
「……うぅむ、全然アリ」
「奏多!!」
いいじゃないか、お遊びしても。俺だって中学生だ、色々とちょっかいをかけてみたいじゃないか。
「そもそも、奏多は相沢さんと親しい仲でしょう。私が入り込む余地はありませんよ」
「……俺と相沢、そんな仲じゃないけど」
霊と桜は、その言葉を聞いた瞬間にカチっと固まった。
まるでその言葉を信じられないような、そんな姿。
事実、信じられないんだろう。まあ、結構仲良さそうに見えるもんな。羽田から見たら恋仲と疑っても仕方ない。
どんなに疑っても、俺と相沢がカップルという証拠は出てこないんだけどな!
「放課後、よく一緒に帰ってね?」
「そりゃコンビで活動している探索者なんだ。作戦とか立て合うだろ」
「SNSで二人でカフェ行ったって……!」
「ダンジョン帰りの簡易打ち上げみたいなもんだ。俺も相沢もカップルみたいなことしたくてやっている訳じゃないぞ」
「「そんなバカな……」」
バカなって言われてもなあ。俺が述べたことは事実のイコールでして。どれも現実なのさ。
最初は俺も脈アリと疑ったが、ない。あれは心の底から友達としか思っていない顔だ。
探索者としての話題から他の奴らよりは仲良い自覚はあるが、ただそれだけ。他よりも親密なだけだ。
アタックしたら可能性があるのかも知れないが、本気で惚れていない相手にアタックは失礼に当たるだろう。
「私がなに?」
背後にはビックリドッキリ話題の相沢さん。
「いたの?」
「い〜ま〜し〜た〜け〜ど〜!!」
「ごめんて。気づかなかった」
「別にいいよ。朝倉くんって、そういう人だから…。それで、私がなにって?」
「相沢、ってよりかは俺とお前の関係だな。なんかカップルって思われてんだってよ」
「……どこが?」
ほらこれだぞ。勘違いされて「もうやだ〜!」だとか「全然違うからね!?」とかじゃない。
心の底からの疑問符だ。わかるだろ、双葉兄妹。こいつと対峙して俺と相沢に脈アリとか言えるか?言えないだろ?
「あ、朝倉くん。5月15日空いてる?特別が来てる」
「おけ、空けるわ。任せろ。……んで、桜とのデートの話なんだけど」
「え!?デート!?詳しく詳しく!」
「そこ掘り返さないでいいですから!!」