転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る 作:『 』を応援するテト
六分街。
いつもと変わらない一日を迎えていたRandom Playでは、店の奥にあるスタッフルームのテレビからニュースが流れていた。
アキラとリン、そしてユウトの三人は、それぞれ思い思いの姿勢で画面を眺めている。
普段なら映画やビデオの話でもしているところだが、今テレビに映っているのは十四分街からの中継だった。
治安局が追っている犯罪組織――赤牙組。
以前発生した研究所襲撃事件にも関与しているらしく、治安局による捜査が続いているという。
だが、現地でホロウ災害が発生。
その影響で捜査にも支障が出ているらしい。
画面が切り替わる。
そこに映ったのは、治安局のブリンガーだった。
記者から状況について尋ねられた彼は、一度咳払いをする。
『え、えーと……』
リンが首を傾げた。
「この人、すごく緊張してない?」
アキラは画面を眺めながら答える。
「カメラを気にしすぎてる感じはするかな」
ブリンガーは言葉を詰まらせながら説明を続ける。
そして――。
『極めて危険な益荒男――』
妙な言葉が飛び出した。
直後、本人が慌てて犯罪者と言い直す。
「……益荒男?」
リンが目を瞬く。
アキラも僅かに眉を上げた。
「ずいぶん勇ましい犯罪者になったね」
「そこは訂正してやろうぜ」
ユウトが苦笑する。
「本人もすぐ気づいたみたいだし」
そう言いながら、ユウトは転生者掲示板を開いた。
アキラとリンにとって、赤牙組もブリンガーも今ニュースで知った事件の関係者にすぎない。
だが、ユウトたちにとってブリンガーという名前には、まったく別の意味があった。
【転生者掲示板】
「ビデオ屋副店長(仮)」
益荒男
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
そこ拾う!?
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
犯罪者と益荒男って
どうやったら間違えるの?
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
本人にしか分からないだろうな。
ーーーーーーーーーー
「おっとり師範」
随分と緊張しているようですねぇ。
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
誰だこいつ
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
前に話したブリンガー
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
……ああ
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
讃頌会の奴か
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
そう
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
最後は星見雅の妖刀の力を利用して
自分からサクリファイスになる奴だったな
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
それ
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
なら覚えてる
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
先生
急に機嫌悪くなった?
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
当たり前だ
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
こっちは侵食で苦しんでる患者を診て
どうすれば助けられるか研究してるんだぞ
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
その横で人間をサクリファイスにする研究を
続けてる連中をどう好意的に見ろっていう
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
讃頌会そのものが
先生の研究とは真逆の方向を向いているからな。
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
それだけじゃない
凌霄のこともある
ーーーーーーーーーー
「おっとり師範」
……私ですか?
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
お前を実験体として作って
用済みになったら処分しようとした連中だろ
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
医者としても
仲間としても
あいつらを嫌う理由なら十分だ
ーーーーーーーーーー
「おっとり師範」
……ありがとうございます、先生。
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
礼を言うところじゃない
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
先生の讃頌会嫌い
筋金入りだな
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
お前らだって似たようなもんだろ
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
否定はしないわ
少しだけ重くなった掲示板の空気。
しかし、それを一瞬で吹き飛ばしたのはテレビだった。
画面の中で記者が口を開く。
そして――。
『――――!!』
盛大な電子音が響いた。
「……今の何?」
リンが固まった。
アキラも画面から目を離さない。
『――――!! ――――!!』
再び電子音。
しかも一度では終わらない。
「……お兄ちゃん」
「うん」
「これニュースだよね?」
アキラは数秒考えた。
「少なくとも番組表にはそう書いてあったよ」
「そういう意味じゃないんだけど」
さらに。
『――――!!』
また電子音。
アキラは無言でリモコンを手に取り、画面に表示されているチャンネルを確認した。
間違いなくニュース番組だ。
「確認したの?」
「念のため」
「ニュースだった?」
「残念ながら」
「残念なんだ……」
ユウトは横で口元を押さえた。
知っていた光景とはいえ、実際にニュースとして目の前で流されると妙な破壊力がある。
【転生者掲示板】
「ビデオ屋副店長(仮)」
いや記者
相変わらずすげえな
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
言葉!!
ニュースで使っていい言葉を選びなさいよ!!
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
ピー音ばっかりで
途中から何言ってるか分かんない!
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
既に何度目か数えることを諦めた。
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
何なんだこの記者は
ーーーーーーーーーー
「おっとり師範」
随分と赤牙組へ腹を立てているようですねぇ。
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
怒ってるのは分かるけど
ニュースでここまで行く?
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
そこなのよ!
知ってたけど実際に見ると酷い!
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
お前らはこれを知ってたのか
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
まあな
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
先に言え
普通に放送事故かと思ったぞ
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
事情を知っていても
放送事故という評価については
大きく変わらないと思うが。
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
それもそうだな
テレビの中では、記者の勢いがさらに増していた。
赤牙組に対する怒りを隠そうともせず、物騒な言葉を次々と放つ。
さすがにブリンガーも制止しようとする。
まだ自分が報告している途中だ。
そう伝えようとしているのだが――記者は聞かない。
ホロウへ逃げ込んだところで、治安局の航空戦力が待ち構えている。
そんな話まで持ち出しながら、赤牙組への威嚇を続けていく。
リンはいつの間にかニュースの内容より、記者そのものへ意識を奪われていた。
「この人、ブリンガーさんの話を聞く気ないよね?」
「自分で喋る方が忙しそうだね」
アキラが答える。
「記者って聞く方が仕事じゃないの?」
「今日は違うみたいだ」
ユウトが口を挟む。
「完全に赤牙組へ喧嘩売りに来てる」
画面の中では、ブリンガーが明らかに困っている。
「なんだかブリンガーさんが可哀想になってきた……」
リンが呟く。
アキラはブリンガーと記者を見比べた。
「少なくとも今は、僕も記者の方が怖いかな」
ユウトは何とも言えない顔になった。
事情を知らない二人からすれば、当然の感想ではある。
【転生者掲示板】
「ビデオ屋副店長(仮)」
今だけ見ると
ブリンガーがまともに見える不思議
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
やめて
後のこと知ってると笑うから
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
知らない人が見たら
絶対この記者の方を警戒するよね?
ーーーーーーーーーー
「おっとり師範」
この場面だけでしたら
そう見えても仕方ありませんねぇ。
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
ブリンガーが讃頌会の一員であり
我々の敵であることに変わりはない。
だが、それと今この瞬間
記者への対応に苦慮していることは
別問題だろう。
実に奇妙な光景ではあるが。
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
冷静に分析すんな
余計面白くなる
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
敵なのは分かった
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
それはそれとして
今だけは少し同情する
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
先生まで!?
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
それとこれとは別だ
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
医者は公平だな
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
うるさい
そして。
散々赤牙組を煽り倒した記者は、最後になってブリンガーへ話を振った。
「そこでブリンガーさんに聞くの!?」
リンが思わず声を上げた。
アキラは小さく息を吐く。
「今までの発言まで同意を求められているように見えるね」
「逃げ道塞いだなぁ」
ユウトが笑う。
【転生者掲示板】
「シーホースCEO」
最後にブリンガーへ振るな!!
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
散々自分で喧嘩売っといて
最後だけ治安局を巻き込むな
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
立場上、赤牙組の逮捕を否定することもできない。
記者自身の発言を肯定しすぎるわけにもいかない。
随分と答えづらい質問を投げたものだ。
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
この記者
味方にも容赦ないね!
ーーーーーーーーーー
「おっとり師範」
ある意味では大物ですねぇ。
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
この記者
怖いものないのか
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
ある意味では尊敬するわ
真似は絶対したくないけど
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
先生
ブリンガーへの同情は?
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
今ので少し増えた
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
敵なのに
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
敵でも気の毒なものは気の毒だ
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
公平だな。
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
お前まで言うな
ユウトは小さく吹き出した。
「ユウト?」
アキラがこちらを見る。
「いや、悪い」
「何か面白かった?」
「記者が強すぎるなと思って」
リンが真顔で頷いた。
「それは分かる」
テレビでは、そのまま十四分街で発生した事件の続報が流れ始めた。
治安局による赤牙組の逮捕作戦中、高層住宅で爆発が発生。
治安局と、協力する市民から借り受けた航空戦力が対応しているものの、赤牙組のリーダーはいまだ確保されていない。
ホロウへ転落した可能性もあるという。
十四分街は六分街から離れている。
Random Playまで爆発音や振動が届くはずもない。
三人が知ることができるのは、テレビから流れてくる情報だけだった。
その時――。
店の方から、勢いよく扉が開く音が響いた。
続いて、慌ただしい足音が近づいてくる。
そして。
「もう見なくていいわよ!」
スタッフルームへ勢いよく飛び込んできた人物を見て、三人が振り返った。
ニコだった。
息を切らし、服もあちこち汚れている。
「ニュースでやってる爆発、あたしが当事者だから!」
ニコはそのまま一息に続ける。
「ビリーとアンビー、それとあたしの依頼のターゲットが全部ホロウに落ちた!」
そして三人を見て、
「プロキシの助けが必要なの!」
そこまで一気に言い切ったニコに、アキラはいつもの落ち着いた調子で返した。
「……ニコ。ノックしてから入って来てくれるかな?」
「今それ言う!?」
ニコが思わず声を上げる。
詳しい話を聞く必要がある。
だが、Random Playはまだ営業中だった。
これ以上の話――特にプロキシとしての仕事について話すなら、店を開けたままというわけにはいかない。
アキラが立ち上がる。
「詳しい話を聞く前に、店を閉めよう」
「うん」
リンもすぐに動く。
「俺は入口を見てくるよ」
ユウトもスタッフルームを出た。
幸い、売り場に客はいなかった。
三人は手早く閉店の準備を済ませ、入口を閉めて営業中の表示を切り替える。
これ以上客が入ってこないことを確認してから、スタッフルームへ戻った。
ニコは落ち着かない様子で待っている。
アンビーとビリーは、今もホロウの中だ。
三人が戻ったところで、ニコは改めて口を開いた。
「本当に緊急事態なの。一生のお願い!」
その言葉にリンが反応する。
「……ニコの『一生のお願い』、月に三回は聞くよね」
「好きなだけ揶揄ってくれて構わないから、今はこの危機を乗り越えるために力を貸して!」
ニコはアキラ、リン、そしてユウトを見回した。
「お願い、伝説のプロキシ『パエトーン』!」
三人は顔を見合わせる。
ニュースで報じられていた爆発。
そこへ巻き込まれたアンビーとビリー。
さらにニコの依頼のターゲットまでホロウへ落ちたという。
長い付き合いだからこそ、三人から出た言葉は同じだった。
「「「今度は何をやらかしたの、ニコ?」」」
「そこから!?」
ニコの声がスタッフルームに響いた。
◇
「それで、本当に何があったんだい?」
アキラが改めて尋ねる。
「最初から説明するわよ!」
ニコは一度息を整えた。
邪兎屋が今回受けた依頼。
研究所から赤牙組に奪われたものを取り戻すため、連中を追っていたこと。
その途中で赤牙組と衝突したこと。
さらに十四分街でホロウ災害が発生し、アンビーとビリー、それに回収するはずだった依頼品までホロウへ落ちてしまったこと。
ニコから一通りの事情を聞き、アキラとリンはようやく先ほどのニュースと邪兎屋を結びつけた。
「それで赤牙組を……」
リンがテレビへ視線を向ける。
アキラも事情を理解したように頷いた。
つい先ほどニュースで知った犯罪組織。
まさか、その事件に知り合いが直接巻き込まれているとは思っていなかった。
ユウトは余計なことを言わず、ニコの説明を聞いていた。
リンが少し考える。
「ホロウ調査協会に救助を頼むのは?」
「それは無理!」
ニコは即座に首を振った。
「そんなことしたら、あたしたちがホロウレイダーだって自分から治安局に名乗り出るようなもんじゃない!」
邪兎屋は正式なホロウ調査資格を持った組織ではない。
普段から無許可でホロウへ出入りし、そこで仕事を請け負っている。
つまり、分類上は紛れもなくホロウレイダーだった。
「それに協会へ正式に救助を頼んだら、今までの活動まで調べられるかもしれないし……」
ニコは一瞬だけ視線を逸らした。
「救助費用だって高いし」
「最後のも結構大きな理由でしょ?」
リンがじっと見る。
「そ、それは否定しないけど!」
ニコはすぐに顔を上げる。
「だからってアンビーとビリーを放っておくわけにはいかないでしょ!」
リンが少し意地悪そうに笑った。
「ニコなら放っておくかと思った」
「やらないわよ!」
ニコは即座に反論する。
「あたしはちゃんと『社員事故支援予算』を用意してるんだから!」
「ちゃんとあるんだな」
ユウトが感心したように言う。
「何よ、その意外そうな顔!」
「いや、普通に感心してる」
「本当に?」
「七割くらい」
「残り三割は何よ!」
「驚き」
「結局意外だと思ってるじゃない!」
アキラとリンが揃って苦笑する。
ニコは咳払いして話を戻した。
「とにかくお願い! 後で、これまでのツケをまとめて払うから!」
「ニコ」
ユウトが即座に反応する。
「……何よ?」
「今までのツケと今回の報酬は別だぞ」
「そこ分けるの!?」
「分ける」
ユウトは指を一本立てた。
「今までのツケ」
続いて二本目。
「今回の仕事の報酬」
「長い付き合いじゃない!」
「長い付き合いだから待ってるんだよ」
「うっ……」
ユウトは、金がない相手から無理やり取り立てるような真似はしない。
邪兎屋が本当に金に困っているなら待つ。
これまでもそうしてきた。
だが、今回は依頼が成功すれば邪兎屋にも依頼人から報酬が入る。
それなら話は別だ。
「今回の依頼が成功したら、報酬は入るんだろ?」
「……入るわよ」
「なら今回の仕事は今回の仕事だ」
アキラも頷く。
「僕もそれが妥当だと思うよ」
「私も。昔のツケと今回の依頼料は別だよ、ニコ」
「三対一……!」
「多数決じゃないぞ」
ユウトが即座に返す。
ニコはしばらく三人を睨んでいたが――。
「分かったわよ!」
ついに折れた。
「今回の仕事の報酬も払う! 今までのツケも払う!」
「よし」
ユウトが満足そうに頷く。
「安心しろ。利息は取ってない」
「取られてたまるかー!」
スタッフルームにニコの声が響いた。
ユウトは笑いながら立ち上がる。
「じゃ、金の話は終わり」
その一言を境に、声から軽さが消えた。
「アンビーとビリーを助けに行こう」
「ええ!」
ニコも勢いよく立ち上がる。
「じゃあ、あたしも――」
その身体がぐらりと傾いた。
「ニコ!」
アキラがすぐに身体を支える。
「……っ」
アキラの視線がニコの傷へ向いた。
「怪我をしたのかい?」
「これくらい平気よ……!」
「平気には見えないよ」
アキラはそのままニコを座らせる。
それでもニコは引き下がらなかった。
「でも、アンビーとビリーが……それにユウトもいるんだから、あたしも――」
「俺がいるからこそだよ」
ユウトが遮った。
ニコが顔を上げる。
「現場は俺とイアスで行く。怪我してるニコまで無理して入る必要はない」
「でも……」
「アンビーとビリーのことは任せろ」
いつもの気の抜けた雰囲気とは違う。
ユウトはまっすぐニコを見た。
「二人とも連れて帰る」
しばらくユウトを見つめていたニコだったが、やがて観念したように息を吐いた。
「……分かった」
リンもすぐに動き始める。
「お兄ちゃん、先にニコの傷の手当てをしてくれない?」
「ああ」
アキラは救急箱を取りに向かう。
「私はホロウへの『潜入』に向けて、H.D.D.システムを調整しとくから!」
「頼む」
ユウトも立ち上がった。
自分も装備を整えなければならない。
アキラがニコの手当てをする。
リンがH.D.D.の調整を進める。
そして準備を終えたユウトは、イアスを連れて十四分街のホロウへと向かった。