転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る 作:『 』を応援するテト
十四分街に発生した共生ホロウ。
その内部へ足を踏み入れたユウトは、周囲の景色が切り替わると一度足を止めた。
傾いた建物、途中で断ち切られた道路、あり得ない角度で重なった高架。十四分街の面影こそ残っているものの、ホロウ特有の空間異常によって街並みは大きく歪んでいる。
「接続は?」
『問題ない。こっちからもちゃんと見えてるよ』
傍らのイアスから、H.D.D.を通じて接続しているアキラの声が返ってくる。
続いてリンの声も通信へ入った。
『こっちも大丈夫。周辺のエーテル濃度も今のところ問題ないよ』
「アンビーとビリーの位置は?」
『正確な位置まではまだ分からない。ニコから聞いた場所と、二人がホロウに落ちた地点から絞り込んでみる』
H.D.D.側でリンが情報を整理し、イアスから送られてくる現地情報をアキラが確認する。
ほどなくして、進むべき方角が示された。
『まず北東へ行こう。そこから二人を探す』
「北東な。了解」
進むべき方角を確認したユウトは、その場で軽く身体をほぐした。
それを見たアキラが、嫌な予感を覚えたように声を上げる。
『……ユウト。その準備、もしかして』
「急いでるからな」
『やっぱりか……』
ユウトはイアスへ両腕を伸ばし、その身体を抱え上げた。
以前にも何度か経験しているだけに、ここから何が始まるのかアキラにも分かっている。
通信の向こうから、リンの楽しそうな声が聞こえてきた。
『いいなあ、お兄ちゃん。今度私がイアスに入ってる時にもやってね、ユウト兄』
「緊急時にな」
『普通の時でもいいのに』
『リンは楽しめるからいいよね……』
『お兄ちゃんだって、安全なのは分かってるでしょ?』
『分かってるよ。分かってても驚くんだって』
「じゃ、行くぞ」
『ちょっと待って、まだ心の準備が――』
ユウトが地面を蹴った。
『――っ!?』
イアスを両腕で抱えたまま一気に加速し、崩壊した道路を駆け抜ける。
『だから急に行かないでって!』
「今から行くって言っただろ」
『言ってから走り出すまでが早すぎるんだよ!』
前方の交差点では、数体のエーテリアスがこちらの存在に気づいていた。
『ユウト、前方に4体!』
「ああ」
ユウトは忍者刀へ手を伸ばすことなく、道路の端へ進路を変えた。
そのまま建物の外壁へ向かう。
アキラが何をするつもりなのか察する。
『……今度は壁か』
「舌噛むなよ」
『それ言われる方が怖いんだけど!』
ユウトの足が壁面を捉えた。
勢いを殺さず、そのまま垂直に近い外壁を駆け上がっていく。
数歩駆け上がったところで壁を強く蹴り、身体が宙へ飛び出す。
『うわっ!?』
隣の建物から突き出した看板へ着地したのも一瞬だけ。そこから非常階段の手すりへ飛び移り、さらに崩れた高架の残骸へと跳ぶ。
地上から追いかけてきたエーテリアスは、瞬く間に後方へ消えていった。
『……何回やっても慣れないな、これ』
「そのうち慣れる」
『たぶん無理だと思う……』
ユウトは小さく笑いながら、そのまま高架の残骸を駆け抜けていった。
【転生者掲示板】
「シーホースCEO」
ちょっと待って。
視点が凄いことになってるんだけど。
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
壁走ってるー!
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
待て。
これずっと見てなきゃ駄目か?
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
先生。
映像を凝視する必要はないぞ。
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
先に言え。
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
アキラ君、これ何度も経験してるのよね?
ーーーーーーーーーー
「おっとり師範」
身体の感覚まで共有しているのなら、何度経験しても驚くのは仕方ないと思いますよ。
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
リンおねいは楽しんでるのに!
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
兄妹で真逆だな。
LIVE映像は転生者たちにも共有されているが、移動中のユウトが掲示板を見ることはない。
『ユウト、次の交差点を左!』
「了解」
外壁を蹴って地上へ降り、そのまま左の路地へ入る。
直後、瓦礫の陰からエーテリアスが飛び出した。
『前!』
「見えてる」
振り下ろされた腕を身体を傾けてかわし、その脇をすり抜ける。
『倒さなくていいの?』
「今は二人を見つける方が先だ」
追ってきたエーテリアスも、次の角を曲がる頃には引き離していた。
さらにいくつかの分岐を越える。
崩れた道路を飛び越え、敵が集まっている場所は建物の上を使って迂回する。進路を横切るエーテリアスも、最小限の動きでかわして先へ進んだ。
やがて、アキラの声が変わった。
『待って。前方に反応が二つある』
ほぼ同時に、崩れた建物の向こうから乾いた銃声が響く。
連続する発砲音。
続いて、刃が何かを斬り裂く音。
「見つけたな」
ユウトが瓦礫の隙間から向こうを確認する。
そこには、探していた二人の姿があった。
アンビーとビリー。
二人ともまだ動けているものの、周囲を複数のエーテリアスに囲まれていた。
『二人とも無事みたい。でも、まだ敵がいる』
「ああ。アキラ、ここにいろ」
『分かった。二人をお願い』
ユウトは崩れた壁の裏へ回り、抱えていたイアスを静かに降ろした。
敵からは見えない位置だ。
「すぐ戻る」
『うん』
ユウトの手が背中へ伸びる。
ここへ来て初めて、忍者刀が鞘から抜かれた。
そのまま姿勢を低くすると、一気に地面を蹴る。
アンビーへ飛びかかろうとしていたエーテリアス。
その側面へ滑り込んだユウトの刃が、異形の身体を斬り裂いた。
突然現れた新たな敵に、周囲のエーテリアスが一斉に反応する。
一体が腕を振り下ろした。
ユウトは半歩だけ身体をずらしてかわし、そのまま懐へ入り込む。
斬り上げる。
別の一体が背後から迫る。
振り返るより早く身体を沈め、頭上を通過した腕の下から蹴りを叩き込んだ。
体勢を崩したエーテリアスへ、銃弾が連続して命中する。
「おおっ、助かったぜ!」
ビリーだ。
「話は後だ」
「オーケー!」
アンビーもすぐにユウトへ合わせた。
ユウトが正面からの攻撃を受け流して敵の体勢を崩すと、横からアンビーの刃が走る。
さらに一体。
左右から迫る攻撃の間へ踏み込み、片方をかわす。そのまますれ違いざまに忍者刀を振り抜いた。
背後で異形が崩れ落ちる。
最後に残った一体へビリーの銃弾が集中し、そこへアンビーが斬り込んだ。
静寂が戻った。
ユウトは周囲を確認してから忍者刀を鞘へ収める。
「二人とも無事か?」
「ユウト」
アンビーがこちらを見る。
「ああ。迎えに来たぞ」
「助かった」
アンビーは短く答えると、武器を下ろした。
ビリーも二丁拳銃を下ろす。
「いや~、いいところに来てくれたぜ! マジで助かった!」
「怪我は?」
「私は大丈夫」
「俺も問題なし! まだまだ動けるぜ!」
二人とも大きな怪我はなさそうだ。
その時、先ほどまで隠れていたイアスがこちらへ駆け寄ってきた。
『アンビー、ビリー』
「イアス」
アンビーがそちらへ振り向く。
ビリーもイアスに気づいた。
「おっ、イアスも一緒だったのか! ってことは、パエトーンが迎えに来てくれたんだな!」
『うん。ニコから二人を助けてほしいって頼まれたんだ』
「親分が?」
ビリーが目を丸くする。
アンビーもイアスへ視線を向けたが、今はそれ以上追及しなかった。
『詳しい話は外に出てからにしよう。まずはここから出ないと』
「分かった」
「俺も賛成! さっさと親分のところへ戻ろうぜ!」
『リン、帰り道は?』
『今探してるよ。イアスから送られてきたデータと照合して……うん、まずは南西へ進んで』
「了解」
イアスが先頭へ移動する。
アンビーとビリーがそれに続き、ユウトは最後尾へ回った。
◇
一行はホロウの出口を目指して進んだ。
アンビーとビリーを見つけるまでとは違い、今度は全員の足並みを揃えている。
避けられるエーテリアスは避け、進路を塞ぐものだけを三人で手早く片づける。
しばらく進んだところで、アンビーが足を止めた。
「さっきの上級エーテリアスの声は、もう聞こえない」
「よ、よかったぁ……走りすぎて、足の油圧ロッドが折れるかと思ったぜ」
ビリーが大げさに肩を落とす。
アンビーは周囲を見回してから、イアスへ視線を向けた。
「少し休んだ方がいいと思う。いい? プロキシ先生」
『そうだね。ちょうどイアスの状態も確認したかったところだ』
「なら休むか。俺が見張ってる」
ユウトが壁際へ移動すると、アンビーも周囲を確認する。
「私も見ておく」
「さっきまで戦ってただろ。少し休んどけ」
「私は大丈夫」
「そう言うと思ったよ」
止めても聞かないだろう。
ユウトはそれ以上何も言わず、周囲へ視線を戻した。
イアスがその場へ腰を下ろし、アキラが接続状態を確認する。ビリーも近くへ座り込んだ。
「ふぅ……さっきはマジで危なかったぜ。まさか赤牙組のおっさんが、あんなふうに異化しちまうとはな」
「シルバーヘッドか?」
「ああ。ありゃもう人間じゃなかった。俺とアンビーだけだったら、逃げるので精一杯だったぜ」
それからビリーはイアスへ顔を向ける。
「それにしても、さすがパエトーンだな! 相変わらず頼りになるぜ!」
『プロキシとしてやるべきことをやっただけだよ』
その会話を聞いていたアンビーが、ふと口を開いた。
「それにしても、ニコがお金を払ってパエトーンに依頼するなんて、ちょっと意外」
「まあ、親分も俺たちのことが心配だったんだろ」
「うん。ニコが私たちを心配してくれたのは分かってる。でも、お金を払うところまで決断するとは思わなかった」
『ニコに聞かれたら怒られるよ?』
「たぶん怒る」
アンビーはいつもの調子で答えた。
ユウトが横から苦笑する。
「まあ、その辺は外に出てから本人に聞けばいいさ。こっちはこっちで、今回の報酬はきっちり払ってもらうしな」
「今回の?」
「ああ。今までのツケと今回の依頼料は別」
アンビーは少し考えてから頷いた。
「なるほど。それならニコの出費はかなり増える」
「アンビー! そこ冷静に計算するところか!?」
「事実だから」
「否定できねぇけどさぁ……」
少し休んだところで、ビリーがイアスを覗き込む。
「そういや店長。最初に一緒に仕事した時から気になってたんだけどさ」
『なに?』
「店長たちの店にある設備って、イアスと感覚を同期できるだけじゃなくて、ホロウの中と外でリアルタイム通信までできるんだろ?」
『まあね』
「やっぱスゲェよなぁ。治安局やホロウ調査協会だって、そんなことできないんだろ? そこまでの切り札があるなら、なんで調査協会に入らないんだ? もっといい暮らしができそうなのにさ」
『はは、それは……』
アキラが言葉を濁す。
ユウトも口を挟まなかった。
その時、アンビーが顔を上げた。
「エーテリアスの声」
「はやくね!? 俺、今から横になろうと思ってたところだぜ!」
「ここで寝てもいいよ。来年発売されるスターライトナイトの新作ベルトを、墓前に供えてあげる」
「真顔でそういうこと言うなよ! 本気か冗談か分かんねぇだろ!」
「二人とも、続きは歩きながらにしろ」
ユウトが立ち上がる。
アキラもイアスの状態確認を終えた。
『移動しよう。ちゃんとついてきて』
「分かった」
「俺も準備オーケーだぜ!」
再び一行は移動を始めた。
【転生者掲示板】
「シーホースCEO」
生アンビーとビリーの掛け合いだわ。
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
お前さっきから楽しんでないか?
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
楽しんでるけど?
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
即答か。
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
アンビーおねい面白い!
ーーーーーーーーーー
「おっとり師範」
ご本人は大真面目なのでしょうね。
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
だからこそビリーとの会話が成立しているのだろう。
LIVE映像の向こうで盛り上がる転生者たちをよそに、一行は出口を目指す。
やがてイアスが前方へ顔を向けた。
『もう少しだ。出口はかなり近い』
「やっとホロウから抜けられるぜ!」
「まだ敵がいる。油断しないで」
アンビーの警告とほぼ同時に、前方からエーテリアスが姿を現した。
「言ったそばから来たな」
ユウトが忍者刀を抜く。
今度は避けて通れる位置ではない。
アンビーが正面へ踏み込み、敵の攻撃をかわして斬り込む。そこへビリーの銃弾が撃ち込まれ、横から回り込んだユウトが刃を走らせた。
一体を倒しても、すぐに次が現れる。
「クソッ、キリがねぇ!」
「全部倒す必要はない。道を開けろ!」
「了解!」
三人が前方の敵を押し退け、その隙間をイアスが走り抜ける。
『この先だ!』
崩れた建物の間を抜ける。
そして前方に、巨大な壁が現れた。
「店長! 次はどっちだ!?」
『このまま進んで!』
「了解、このまま――って、待て待て! このまま!?」
ビリーが前方を指差す。
「壁だぞ!?」
『心配しないで』
今度はリンの声が通信へ入った。
『お兄ちゃんの案内で合ってるよ。そこは見た目通りの壁じゃないから、そのまま進んで大丈夫』
アンビーは目の前の壁を見る。
「パエトーンがそう言うなら行く」
「迷いねぇな、アンビー!?」
「安心しろ、ビリー」
ユウトがその横を通り過ぎる。
「俺も一緒に行く」
「それ、安心材料になってるような、なってないような……!」
『出口の先のルートも問題ないよ』
リンの確認に続いて、アキラが告げる。
『じゃあ、ここで感覚同期を切るよ。外で落ち合おう』
「了解」
『ユウト、あとは二人とイアスをお願い』
「任せろ」
接続が切れる。
それまでアキラの意識が宿っていたイアスは、いつものボンプへと戻った。
ユウトはそのイアスを両腕で抱え上げる。イアスも特に抵抗することなく、素直にその腕へ収まった。
アンビーは前方の壁へ視線を戻す。
「このまま進めばいいんだよね」
「ああ。アキラとリンがそう言ってたからな」
「分かった」
一方、ビリーは目の前を塞ぐ壁とユウトたちを交互に見る。
「いやいや、ちょっと待てって! 本当にこのまま突っ込むのか!? どう見ても壁だぞ!」
「パエトーンを信じる」
アンビーは迷わなかった。
「そういうことだ。行くぞ、ビリー」
「分かった、分かったよ! 行けばいいんだろ!」
ユウトはイアスをしっかり抱え直す。
アンビーが駆け出し、ユウトもその横へ並んだ。
「ちょっ、待て! せめて心の準備くらいさせろって!」
遅れてビリーも二人を追う。
三人はそのまま、壁にしか見えない出口へ向かって全速力で駆けた。
衝撃は――来なかった。
身体が奇妙な膜を通り抜けたような感覚。
次の瞬間、周囲を満たしていたエーテルの圧迫感が一気に薄れる。
「……出た」
アンビーが振り返る。
「やっと……やっと出てこれたんだな! よっしゃあ!」
ビリーが両腕を上げた。
ユウトも腕の中のイアスを地面へ降ろす。
間もなく、車のエンジン音が近づいてきた。
ほどなくして見慣れた車が停まり、運転席からニコが顔を出す。
「時間も場所も、パエトーンの予想通りね! ほら、早く乗って!」
「親分!」
ビリーが嬉しそうに声を上げる。
「ニコ」
アンビーもニコの姿を確認して車へ向かった。
ユウトは周囲に危険がないことを確認してから、イアスを連れて二人の後を追う。
救出は成功した。
◇
その後、一行は六分街へ戻った。
Random Playでは接続を終えたアキラとリンが待っており、ほどなくしてニコたちも戻ってきた。
「来たわね! ナイスタイミング!」
ニコの声に、アキラは少し呆れたような顔をする。
「ニコ、戻って来るのが早すぎないか? まさか、また信号を無視したのか?」
「そんなことないわよ、普通の青信号と、R値255の青を通過しただけだから!」
ニコは悪びれた様子もなく言い切ると、思い出したように付け加えた。
「あっ、それから……来る途中に確認したけど、尾行はされてなかったわよ!」
その横で、ビリーが首を傾げる。
「アンビー、R値255の青ってなんだ?」
アンビーはビリーへ視線を向けた。
「あなたのジャケットと同じ色。」
「……」
ビリーは自分の赤いジャケットへ目を落とした。
その様子を横目に、ユウトは何も言わず小さく息を吐く。
ともあれ、全員無事に戻ってきた。
リンは改めてアンビーとビリーを見てから、ニコへ向き直る。
「ニコ、従業員たちを助けてあげたんだから、そろそろツケを払ってもらえる?」
「待って!」
ニコが両手を前へ出す。
「まだ終わってないでしょ? あたしの依頼は『人とモノ、どちらもホロウから出すこと』。まだ半分しか終わってないじゃん!」
「覚えてるよ」
アキラが苦笑する。
「金庫だろ?」
ユウトも続ける。
「そうよ! あれを取り戻さない限り、依頼完了とは認めないんだから!」
アンビーが口を開いた。
「撤退する前に確認したけど、金庫はまだホロウの中」
「あの化け物のせいで回収どころじゃなかったからな」
ビリーも肩をすくめる。
「赤牙組の親玉が異化したやつか」
ユウトが言う。
「ああ。あいつ、とんでもなく強くてさ。俺とアンビーで金庫を回収しようとしたんだけど、逃げるだけで精一杯だったんだよ」
ビリーの話を聞きながら、ユウトは顎へ手を添えた。
戦うだけならどうにでもなる。
問題は金庫の場所だ。
ビリーも同じことを考えたのか、ニコを見る。
「っていうか親分。あの金庫、どうやって探すんだ?」
「ふふん」
ニコが待ってましたと言わんばかりに笑う。
「そこで、これよ!」
取り出したのは、赤い牙を模したペンダントだった。
「アクセサリー?」
リンが覗き込む。
「ただのアクセサリーじゃないわ。十四分街から逃げる前に拾ったの。あのシルバーヘッドが持ってた物らしいのよ」
「ちょっと見せてくれ」
ユウトが手を差し出した。
「壊さないでよ?」
「見るだけだって」
ニコから受け取ったペンダントを、ユウトは手の中で軽く返す。
外装には傷があり、一部は焦げている。
「……なるほどな」
「何か分かった?」
「いや。俺じゃ中身までは分からん」
そう答えながら、ユウトの指先がほんの一瞬だけ止まった。
それから何事もなかったように、アキラへ差し出す。
「ほら」
「ありがとう」
アキラが受け取り、リンと一緒に状態を確認する。
「これ、アクセサリーじゃなくてメモリディスクみたいだね」
「正解!」
ニコが指を鳴らす。
「シルバーヘッドが大事に持ってた物なんだから、重要な情報が入ってるはずでしょ? 金庫の暗証番号だってあるかもしれない!」
リンもメモリディスクを確認する。
「でも、少し壊れてるね」
「そこを何とかできない? パエトーンならさ」
アキラとリンが顔を見合わせた。
「中のデータを取り出すだけなら、やってみる価値はありそうだね」
「インターノットの演算リソースも使えば、破損した部分を復元できるかも」
「本当!?」
ニコの顔が一気に明るくなる。
「あんたたちはそれを解析して。こっちは金庫が今どこにあるのか調べるわ。場所が分かったら連絡する!」
「またホロウに入ることになるな」
ユウトが言う。
「もちろん。その時もよろしく頼むわよ」
「今回の依頼の続きならな」
「分かってるわよ!」
ユウトはそれ以上追及せず、ポケットから端末を取り出した。
【転生者掲示板】
「ビデオ屋副店長(仮)」
アルバート
例のあれは頼む
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
承知した。
それだけ確認すると、ユウトは端末を閉じた。
「じゃ、金庫の場所が分かったらすぐ連絡するから! 解析、忘れないでよ!」
「分かってるよ」
アキラが答える。
「頼んだぜ、店長!」
ビリーが手を振る。
アンビーも二人へ向き直る。
「また連絡する」
邪兎屋の三人を見送り、Random Playの店内に静けさが戻った。
リンは改めて赤い牙を模したメモリディスクを見下ろす。
「さて……これ、ちゃんと中身を取り出せるかな」
「やってみよう」
アキラが答えた。
その少し後ろで、ユウトも何気ない顔をして二人の手元を眺めている。
先ほど自分の指先が何をしていたのか、アキラもリンも気づいてはいない。
ユウトも説明するつもりはなかった。
今はまだ、その必要がない。
アキラとリンは解析の準備を始める。
赤い牙を模した、小さなメモリディスク。
そこに残されているデータを取り出すために。
そして三人は、次の仕事へ向けて動き始めた。