走り続けたナマモノの二周目 作:須々木三郎
『もしもし、
電話をとって聞こえてきた第一声はそんな感じだった。
セールスか何かにしては遅すぎる…お母さんの知り合いか?
「はい、母に何か御用でしょうか」
ちょうど外に出ようとしていたところだったボクは、少しイラッとした声で話した。
『夜分遅くに申し訳ございません。
私は豊田くんのクラスメイトの
イネくんに代わっていただくことは出来ますか?』
…こいつ、ボクの声すらわからないのか。
「イネでしたらボクですが。何の用ですか?
急ぎの用事じゃなかったら切りますよ?」
そしたら、いきなり電話から感じる雰囲気が変わった。
『…あー、色々とゴメン。家の電話を買い換えて、
ちょうどウチの部屋に子機がやって来たんやわ。
そんで折角なんで誰かと電話したかったんやけど、
思いつく相手がアンタしかおらんかったんよ』
…え?コイツ、女子の友だちとか親戚とかいないのか?
というか、普段教室でコイツこんな喋り方してたか?
『…てか、急ぎの用事でなければ切るとか、
なかなか随分な言い方しよるね…
何しようとしとったん?
…はい?コイツ本当に女子なのか?というか人間なのか?
そんなこと言ってくる奴、男子でもあまりいないぞ…
「別に…ただちょっと散歩でもしようと思ってただけ」
…本当は自殺しようとしてたんだけど、まぁ外に出る分には間違いないでしょ。
『…ちゃうやろ。お前ホントは死のうと思っとらん?』
なんでわかるんだよ!このまま隠し通すのも無理そうだ…
「…ああ、そうだよ。んで?それがお前に何の関係がある?」
『死ぬつもりのクラスメイトをほっとく。
ウチ、そんな冷たい奴やと思われとるの?
それはそれでえらい傷つくんやけど…
てか、なんで死のうと思っとるん?』
…あれ?コイツ、ボクがイジメられてること知らないの?
待てよ…田上?確かボクの前にイジメられてた奴じゃなかったか?じゃあこいつが大体元凶じゃないか!
「誰かさんのせいでイジメられてて辛いんだよ。
イネなんて去ね!みたいな感じで、ね!」
『イネ…あー、確かにそうともとれるわねー
別にウチは、そんな悪い名前だとは思っとらんけど。
…まぁ、死ぬ覚悟が出来るのは、ある意味羨ましいわ。
ウチなんて、先輩方にこの前
それでも、死ぬなんて怖くて出来ないもん』
…はい?休んだ原因ってそんな大惨事だったの?
そんなの、軽々しく言えるようなものなの?
正直、ボクなんかよりもよっぽどボロボロにされてる。
それでも、死ぬなんて怖くて出来ない?
…あれ?ボクって実は正気じゃなかったのか?
そんなことを考えていたら、電話口から声が聞こえた。
『…まぁエエわ。んで、どう死ぬつもりやったん?』
よくよく考えたら、死ぬ覚悟なんて消えかけていた。
だから「死ぬなんてやめた」と伝えたら、
この話はここで終わっていたのかもしれない。
ただ、今のボクは、どうやら相当壊れていたらしい。
「その辺の車にでも轢かれてこようかと」
ボクは正直に答えて…しまった。
『…は?』
絶対零度。そう表現してもいいくらいの寒気を感じた。
それが、どれだけ彼女の傷をえぐる言葉だったのか。
今のボクには知るはずもなかった…