走り続けたナマモノの二周目 作:須々木三郎
次の日、
遠くから見る分には何の異常もなかった。
昨日の花瓶みたく、机には何も置かれてはいなかった。
だが、いざ机の上を見てみると、そこは…少なくともキレイな、まっさらな空間ではなかった。
鉛筆、ボールペン、マジック、チョーク…教室の中にあるありとあらゆるもので落書きされていた。
そして、その後彫刻刀か何かで削ったのだろう。
机の中心に、太陽に縦線が入ったようなナニカが彫られていた。
それを見たクラスメイトの女子は、何か恥ずかしいものを見てしまった、という感じですぐに目を反らした。
落書きを消すことならまだしも、削られた机を元に戻すことは出来ない。
そして、何よりナニカを彫られた机を
怖気づいたボクは、すぐに自分の席に座った。
昨日と同じくらいの時間に、アイツが教室に入ってきた。
そして、机を見た瞬間、アイツは頭痛でも感じたのだろう。
一本しか無い右手を額に当てていた…だが、それだけだった。
席に座ったアイツは、とりあえず下敷きを出した。
そして、そのまま授業を受けていた。
次の日、アイツの机は新品に変わっていた。
そして、その日は珍しく、アイツよりも先に担任が教室に入ってきて、朝礼が始まった。
『一応みんなも知ってると思うが、学校の備品、
それと皆が持ってる教科書類には税金が使われている。
後、ノートや文房具、体操着や制服は大切な財産だ。
だから、それらを汚したり傷つけたり、
ましてや捨てたりして使えなくする行為は慎むように』
…敢えて逃げ道を作っているような、妙な言い方だった。
『先生からは以上です…おい、豊田!
保健室に行って
先生からの指示を受けたボクは、何も気づけなかった。
汚したり傷つけるのを慎む対象に
アイツが入った教室で1時間目が終わった。
先生の姿が見えなくなった頃に、聞き慣れない声がした。
一番早く反応したのは、他でもないアイツ自身だった。
ボクが気づいた頃には、アイツは不良の先輩方と一緒に教室を後にしようとしていた。
その時にはもう、アイツは助かることを諦めていたのだろう。
アイツの目は…死んだ魚のようになっていた。
それから給食が始まる頃になっても、アイツは帰ってこなかった。
給食の時間になって、入ってきたのは担任だった。
『田上だが、家庭の事情で早退するそうだ。
豊田、悪いが荷物をまとめといてくれ。』
ボクが急いでアイツの荷物をリュックに詰め込むと、
担任はそれを持って教室を出ていった。
その次の日から、アイツはしばらく学校に来なくなった。
一日?くらいはアイツの姿を見た気もしなくもない。
その頃にはもう、ボクは自分のことで精一杯だった。
今思えば、アイツがいたからこそ、ボクに対するイジメはあの程度で済んでいたのかもしれない。
アイツが先にイジメられてなかったら、ボクの教科書類はばら撒かれる程度では済まなかった。
机だって、あの日みたく落書きされてたかもしれない。
それこそ、制服や体操着だって、無事では済まなかったかもしれない…
アイツが休んだのは、確かにボクへのイジメがスタートしたきっかけだったのかもしれない。
でも、その原因が、さっきアイツが言ってた「トイレ扱い」だったというのなら…
ボクは、あの日、保健室に彼女を迎えに行くときに気づいてなければいけなかったのだ。
ボクが気づかなかったから、彼女は
そう考えてしまったボクは、その日、遅くまで寝付けなかった。