原子番号九十二より小さい元素の生成可能性 1
一応はあれの名付け親である。少し探したらそれ以前から仮説として命名されていた色々なものがあったし、その時の名称は様々だったのだが、各地で主に使われているこの
ようやく各地の研究機関に
「このままでは資金が底をつきます」
とはいえ、そんな楽しい思索はミセス・ブラッケンに声をかけられて、出された図を見たことで終わってしまった。支出見込みがこのまま続くと予備費まで食い潰してしまう。いや、予備費なんてものがあることを私は今日初めて知ったのだがこれ私が知ってしまっていていいものだろうか。
「通信費。印刷費用。別刷りがない場合もあるし、翻訳も必要となるわけだから……」
「
「臣民の貴重な税金をそういうものに使うのは十分な効果がないと思うから感心しない」
「この数字もその税金なのですがね」
ミセス・ブラッケンは息を吐いた。まあそれはそうなのだが、だとしたら公僕は好きに金を使えなくなるということではないか。そんな馬鹿な話はない。一度振り込まれてしまえば私的な性質を帯びる金になるのだ。
「……ただ、その方法はちょっと本格的に考えます」
架空の夫を殺しながら、私はミセス・ブラッケンの作った帳面と会計士事務所からの書類に目を通していく。こうなれば
「……あなたがこれをやる必要があるのですか?」
私が書類から目を上げると、ミセス・ブラッケンが言う。
「必要は……ない」
「でしたら、諦めを持つことも大切です」
「そうなんだけどね……」
そりゃあ、私は色々なことを諦めてきましたよ。外交界の華になることも、才媛として学術界で動くことも、あるいは職業女性として働くことも。ただここで諦めたという言い方をするとおそらく少なくない語弊がある。そもそもそこまで望んでいなかったわけだからな。
外交。誰があんなものをやりたがるのだろうか。いや弁務使の人はわかりますよ、彼らには祖国があって、派遣先があって、その中で国益を求めている。その上で個人としての出世とか学びとかもあるわけだし、私に構ってくれた人達はちゃんと慈愛みたいなものもあった。まあ、もちろん実に紳士的ではあったのだがな。
そういう精神まで同盟国から学ばなくていいよという紳士的な発想について聞いたところ、彼らの祖国では伝統的な発想だったようだ。税が九割ってなんだよ。帯剣を許された騎士にして公僕の割合がそれなりにいたので税率が高くなるというのはわかるんだがね。
学術。ああ、確かに私はそのあたりである程度のことはできるだろう。でもそれはある程度に過ぎない。金をもらって報酬としてやるような仕事では楽しめないだろうし、私にはそういう仕事をしなくてもいいだけの立場がある。確かにその地位あってこその発言であるが、それを言えば生者は死者に対して何も言えなくなってしまうではないか。
職業女性。一応大学を出たのでそれなりに知識があるが、現場で使えるようなものではない。計算機を操るだけの指の速さも、丁寧に文字を書くだけの能力もない。というかもしそういう事をするなら今すぐにでも女中訓練学校あたりに行くべきだろう。その手のものは色々とあるし、なにより働き先は色々とある。
結論。私は現実から逃げて、だらだらと過ごしている。世界には働き、戦い、そして自分の立場を決めた人達がいる。私はそうではない。勧められた道を進まないという形で拒み、そしていつの間にか屋敷に籠もっているだけだ。
ということを数字から読まされている。辛い。働いていないのに金をもらっている身で、金が足りないなどと言うべきではないだろう。とはいえ働いたところでこの損失を補填できるわけではない。
「……いっそのこと、私が雑誌を作るか?」
馬鹿げた提案だと思う。ただ、それは不可能ではないとは思う。考えなくてはいけないことは多いが、多いだけだ。問題は一つずつ解決していけば、大抵はどうしようもないものだけ残るし、それぐらいになれば無視して突破してもいいのだ。
「もしそうするのであれば、何人か紹介できる人がいますが」
「いいの?」
「植民地省にいた時の人達です。退職後に『女性
「ああ、あの雑誌」
たまにミセス・ブラッケンが読んでいるものだ。内容としては求人に計算の技法、そしてかなり高度な理論まで扱われている。おそらく計算哲学における中心的な議論が行われている雑誌の一つである。そうか、実際にそういうところを見ておくのは重要だよな。
私自身が使用した装置は以下の通りである: 中性子源はベリリウム粉末と
FERMI, Enrico. Radioattività indotta da bombardamento di neutroni. I. La Ricerca Scientifica. 1934, vol. 1, no. 5, p. 283.
エンリコ・フェルミ『中性子照射によって誘発される放射能 I』、1934年