魔法少女まどか☆マギカ [異編] 反逆のキュゥべえ   作:折無堂

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2. 巴マミの復元

 黄色いソウルジェムは、薄い殻の中で明滅していた。

 キュゥべえはその前に座り、じっと見つめている。

「再構成を開始する」

「待ちなさい」

 ほむらが言った。

 

「ここで?」

「ここで行うのが最も安全だよ。結界が崩れる前なら、周囲の魔力残滓も利用できる」

「……二人とも、見ない方がいいわ」

 

 まどかは、何を言われたのか分からなかった。

「え……?」

「見ないで」

 ほむらの声は、いつもより強かった。

 さやかが震える声で言う。

「な、何よ、それ。マミさんが戻るんでしょ? だったら――」

 

 そこで、ソウルジェムの光が膨らんだ。

 宝石の周囲に、黄色い糸のようなものが伸びる。リボンに似ていた。マミが戦う時に使っていた優雅なリボンとは違う。もっと細く、湿っていて、ほどけた繊維のようだった。

 それが空中で絡まり、ほどけ、また絡まる。

 まどかは一瞬、それが人の形を作ろうとしているのだと気づいてしまった。

「……っ」

 喉の奥が詰まる。

 さやかがまどかの手首を掴んだ。

 

「まどか、見ない」

「でも、マミさんが……」

「見ない!」

 さやかは自分にも言い聞かせるように叫び、まどかを抱えるようにして背を向けた。

 

 それでも音は聞こえた。水を含んだ布を絞るような音。

 細い枝が内側から伸びるような、かすかな軋み。

 何かが形を思い出そうとしている音。

 

 まどかは耳を塞ぎたかった。

 でも、手が動かなかった。

 

 ほむらだけは表情を変えずに、銃を構えたまま見ていた。

 もし失敗した時、何が起きても止められるように。

 

 黄色い光の中で、まず骨格のようなものが立ち上がった。

 白い線ではない。もっと淡く、魔力で描かれた設計図のようなものだ。

 その上に、薄い膜が張り、膜の下を、光の筋が走る。

 

 血管に似ている。神経に似ている。だが、それらが何であるかを考える前に、次の層が重なった。

 肉が戻り、皮膚が戻る。髪が、ほどけた糸のように伸びる。

 それは生まれるというより、壊れた人形を内側から急いで繕っているようだった。

 

「……想定よりも、時間がかかっているね」

 キュゥべえが言った。

「あなたがやったことでしょう」

 ほむらの声は冷たい。

「必要だったからね。やらなければ巴マミは失われていた」

 

 光の中で、指が動いた。

 まだ人の指には見えなかった。

 関節の位置を確かめるように曲がり、伸び、それからようやく人間の手の形に収まる。

 

 ほむらの眉が、わずかに動いた。

 

 マミの顔が形を取る。

 目は閉じていた。唇は震えていた。

 呼吸のような動きが胸に戻る。

 

 その瞬間、マミは息を吸った。

 ひゅ、と細い音がした。

 

 まどかがびくりと肩を震わせる。

「マミさん……?」

「まだ見ないで」

 ほむらは言った。

 

 マミの身体は、最後に服をまとうように黄色い魔力に包まれた。

 破壊された肉体を再現するのではなく、魔法少女としての姿を基準に戻しているのだと、ほむらには分かった。

 

 合理的だ。

 だからこそ、気味が悪い。

 

 キュゥべえは淡々と言う。

「肉体端末の再構成は完了。ソウルジェムとの接続も維持されている。人格連続性については、覚醒後の応答確認が必要だ」

 

 マミのまぶたが震えた。

 そして、ゆっくりと開く。

 金色の目が、何もない空間を見た。

 

「……いや」

 最初に漏れたのは、声というより息だった。

「いや……いや、何……今の……」

 

 マミは自分の両手を見た。

 指を動かす。

 手首を見る。

 胸元に触れる。

 首に触れる。

 その手が震え始める。

 

「私……食べられて……」

「巴マミ」

 キュゥべえが言った。

 

「落ち着いてほしい。君の肉体は一度破壊されたけれど、ソウルジェムは保護されていた。だから再構成できた」

 マミの顔から血の気が引いた。

「破壊……?」

「そうだよ」

「再構成……?」

「そうだよ」

 

 マミは笑おうとした。

 だが、口元が引きつっただけだった。

 

「なに、それ……」

 

 まどかが振り返りかける。

 さやかが止めた。

 

「まだだめ」

「でも……!」

「だめ!」

 

 マミはその声を聞いたらしく、ゆっくりと二人の方を見た。

「鹿目さん……美樹さん……」

 

 その声は、いつものマミの声ではあったが、いつものようには響かなかった。

 

 マミは膝をついた。

 自分の身体を抱きしめる。

 確かめるように、何度も、何度も。

 

「私……生きてるの……?」

 キュゥべえは答えた。

「定義によるね」

 

 ほむらが銃口を向けた。

「黙りなさい」

 キュゥべえは一拍置いてから言った。

「分かった。今の返答は不適切だった」

 

 マミは震えながら、顔を伏せた。

「……少し、黙っていて」

「それは僕に対する要求かな」

「そうよ」

「了解した」

 キュゥべえは本当に黙った。

 

 ほむらは、マミを見ていた。

 死ななかった。だが、失われなかったわけではない。

 この夕方、巴マミは確かに戻ってきた。

 けれど、彼女はもう、何も知らなかった頃の巴マミではなかった。

 

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