魔法少女まどか☆マギカ [異編] 反逆のキュゥべえ 作:折無堂
黄色いソウルジェムは、薄い殻の中で明滅していた。
キュゥべえはその前に座り、じっと見つめている。
「再構成を開始する」
「待ちなさい」
ほむらが言った。
「ここで?」
「ここで行うのが最も安全だよ。結界が崩れる前なら、周囲の魔力残滓も利用できる」
「……二人とも、見ない方がいいわ」
まどかは、何を言われたのか分からなかった。
「え……?」
「見ないで」
ほむらの声は、いつもより強かった。
さやかが震える声で言う。
「な、何よ、それ。マミさんが戻るんでしょ? だったら――」
そこで、ソウルジェムの光が膨らんだ。
宝石の周囲に、黄色い糸のようなものが伸びる。リボンに似ていた。マミが戦う時に使っていた優雅なリボンとは違う。もっと細く、湿っていて、ほどけた繊維のようだった。
それが空中で絡まり、ほどけ、また絡まる。
まどかは一瞬、それが人の形を作ろうとしているのだと気づいてしまった。
「……っ」
喉の奥が詰まる。
さやかがまどかの手首を掴んだ。
「まどか、見ない」
「でも、マミさんが……」
「見ない!」
さやかは自分にも言い聞かせるように叫び、まどかを抱えるようにして背を向けた。
それでも音は聞こえた。水を含んだ布を絞るような音。
細い枝が内側から伸びるような、かすかな軋み。
何かが形を思い出そうとしている音。
まどかは耳を塞ぎたかった。
でも、手が動かなかった。
ほむらだけは表情を変えずに、銃を構えたまま見ていた。
もし失敗した時、何が起きても止められるように。
黄色い光の中で、まず骨格のようなものが立ち上がった。
白い線ではない。もっと淡く、魔力で描かれた設計図のようなものだ。
その上に、薄い膜が張り、膜の下を、光の筋が走る。
血管に似ている。神経に似ている。だが、それらが何であるかを考える前に、次の層が重なった。
肉が戻り、皮膚が戻る。髪が、ほどけた糸のように伸びる。
それは生まれるというより、壊れた人形を内側から急いで繕っているようだった。
「……想定よりも、時間がかかっているね」
キュゥべえが言った。
「あなたがやったことでしょう」
ほむらの声は冷たい。
「必要だったからね。やらなければ巴マミは失われていた」
光の中で、指が動いた。
まだ人の指には見えなかった。
関節の位置を確かめるように曲がり、伸び、それからようやく人間の手の形に収まる。
ほむらの眉が、わずかに動いた。
マミの顔が形を取る。
目は閉じていた。唇は震えていた。
呼吸のような動きが胸に戻る。
その瞬間、マミは息を吸った。
ひゅ、と細い音がした。
まどかがびくりと肩を震わせる。
「マミさん……?」
「まだ見ないで」
ほむらは言った。
マミの身体は、最後に服をまとうように黄色い魔力に包まれた。
破壊された肉体を再現するのではなく、魔法少女としての姿を基準に戻しているのだと、ほむらには分かった。
合理的だ。
だからこそ、気味が悪い。
キュゥべえは淡々と言う。
「肉体端末の再構成は完了。ソウルジェムとの接続も維持されている。人格連続性については、覚醒後の応答確認が必要だ」
マミのまぶたが震えた。
そして、ゆっくりと開く。
金色の目が、何もない空間を見た。
「……いや」
最初に漏れたのは、声というより息だった。
「いや……いや、何……今の……」
マミは自分の両手を見た。
指を動かす。
手首を見る。
胸元に触れる。
首に触れる。
その手が震え始める。
「私……食べられて……」
「巴マミ」
キュゥべえが言った。
「落ち着いてほしい。君の肉体は一度破壊されたけれど、ソウルジェムは保護されていた。だから再構成できた」
マミの顔から血の気が引いた。
「破壊……?」
「そうだよ」
「再構成……?」
「そうだよ」
マミは笑おうとした。
だが、口元が引きつっただけだった。
「なに、それ……」
まどかが振り返りかける。
さやかが止めた。
「まだだめ」
「でも……!」
「だめ!」
マミはその声を聞いたらしく、ゆっくりと二人の方を見た。
「鹿目さん……美樹さん……」
その声は、いつものマミの声ではあったが、いつものようには響かなかった。
マミは膝をついた。
自分の身体を抱きしめる。
確かめるように、何度も、何度も。
「私……生きてるの……?」
キュゥべえは答えた。
「定義によるね」
ほむらが銃口を向けた。
「黙りなさい」
キュゥべえは一拍置いてから言った。
「分かった。今の返答は不適切だった」
マミは震えながら、顔を伏せた。
「……少し、黙っていて」
「それは僕に対する要求かな」
「そうよ」
「了解した」
キュゥべえは本当に黙った。
ほむらは、マミを見ていた。
死ななかった。だが、失われなかったわけではない。
この夕方、巴マミは確かに戻ってきた。
けれど、彼女はもう、何も知らなかった頃の巴マミではなかった。