魔法少女まどか☆マギカ [異編] 反逆のキュゥべえ 作:折無堂
夜は、終わりかけていた。
それでも、ワルプルギスの夜はまだ空にいた。
東の空が、わずかに白み始めている。雲の切れ間ではない。嵐の向こう側に、朝が来ようとしているのだ。瓦礫と雨と風にまみれた見滝原の空に、ありえないほど薄い光が差し始めていた。
ほむらは、ゆっくり息を吐いた。
まだ立っている。
まず視界の端に、マミがいる。
黄色いリボンを片手に残したまま、乱れた呼吸を整えていた。帽子は少し傾き、髪も風に乱れている。それでも、もう片方の手には次の銃を形作るための光が集まり始めていた。
その少し前では、杏子が槍を地面へ突き立て、柄に片手を預けている。肩は大きく上下していたが、赤い槍を手放す気配はない。ワルプルギスの夜から目も逸らしていなかった。
さやかはさらに前にいた。
剣を下げ、膝へ一度手をついていたが、ほむらが見る間に身体を起こす。息を切らしながらも、剣を握り直し、もう一度正面へ向けた。
そして、自分も立っている。
左腕には盾がある。胸元の紫の光も、まだ消えていない。
誰も無傷ではない。
誰も余裕があるわけでもない。
それでも、四人ともまだ同じ方向を見ていた。
魔女一体に対して、ここまで戦って、ここまで持っていたことがあっただろうか。
――なかった。
少なくとも、ほむらの知る時間にはなかった。
ほむらは、四人を見たまま過去の時間を思い出していた。
いつも、どこかで崩れた。
マミを失ったまま先へ進んだ時間があった。杏子まで届く前に終わった時間もあった。さやかを救えず、魔女になった彼女を倒すしかなかったこともある。
その先で、まどかが契約した。
間に合わなければ、また盾を回した。
時間を戻して、最初からやり直した。
そうして何度繰り返しても、全員が同じ場所に立ったまま、ワルプルギスの夜を見上げるところまでは来られなかった。
誰かがいない。
誰かを失っている。
あるいは、まどかがもう魔法少女になっている。
いつも、そのどれかだった。
今は違う。
マミがいて、杏子がいて、さやかがいる。
まどかはまだ、まどかのままだ。
そして自分も、戻らずにここに立っている。
自分一人で抱えようとしていたことは、やはり間違いだったのだと、ほむらは思った。
その間違いを認めるのは苦かった。
だが、今はその苦さすら、足場になっていた。
「暁美さん!」
マミの声。
ほむらは顔を上げる。
黄色いリボンが、空へ何本も伸びている。ワルプルギスの夜の周囲を取り巻く歯車、瓦礫、ねじれた舞台装置。その隙間にリボンが入り込み、一本ずつ、静かに、だが確実に絡みついていた。
「位置は?」
「次で合わせる」
ほむらは答えた。自分の声が、驚くほど落ち着いていた。
杏子が、折れた標識の上に立つ。
赤い槍が長く伸びる。さらに節に分かれ、四方へ打ち込まれる。まるで巨大な杭のように、空中の瓦礫へ、建物の残骸へ、ワルプルギスの夜の外縁へと繋がっていく。
「おい、さやか!」
「分かってる!」
さやかは瓦礫の斜面を駆け上がっていた。
息は荒い。足も震えている。
それでも、剣を握る手は落ちていない。
胸元の青い光は濁っていなかった。
「いけるな!」
杏子が叫ぶ。
「いける!」
さやかが叫び返す。
まどかは後方で、キュゥべえを抱きしめていた。
白い獣は、飛び出さなかった。
ただ、じっと見ている。
「四人の接続値が上がっている」
「それ、今言うの?」
まどかが言う。
「言う必要がある。これは、さっきまでとは違う」
「違う?」
「そうだよ」
キュゥべえの赤い目が、四つの光を追う。
「今の四人は、同じ攻撃をしているだけではない。互いの魔力の欠けた部分を、一時的に補い合っている」
まどかには、難しいことは分からない。
でも、見れば分かった。
マミさんのリボンが、みんなの足場になっている。
杏子ちゃんの槍が、届かない場所を引き寄せている。
さやかちゃんの剣が、一番前で道を開こうとしている。
ほむらちゃんが、その全部の時間を合わせている。
「みんな」
まどかは胸の前でキュゥべえを抱いたまま、小さく言った。
「お願い」
嵐に消えてしまいそうな声だった。
それでも、四人には届いた。
黄、赤、青、紫。それぞれに灯っていた光が強くなる。
だが、今度はただ明るくなったのではなかった。
マミのリボンから伸びた黄色い光へ、杏子の槍を走る赤が触れる。二つは弾き合わず、そのまま互いの中へ入り込んだ。そこへ、さやかの剣から溢れた青が重なり、最後にほむらの紫がその全体を縁取る。
四つの魔力が、四つのまま隣り合うのではない。
互いを通り道にして、流れ始めていた。
ほむらは盾を構えた。
必要なのは、時間を奪うことではない。
この流れを、同じ瞬間に完成させることだった。
マミの拘束が深く入る瞬間と、杏子の槍が最も強く引ける瞬間。さやかの足が地面を蹴り切り、剣へ全身の力が乗る瞬間。そして、自分の魔力がそのすべてへ噛み合う瞬間。
ほんのわずかずつ、ずれている。
ほむらは、そのずれだけを削った。
一秒を止める必要はない。半秒もいらない。コンマ一秒にも満たない差を、一枚ずつ重なった薄い硝子を揃えるように合わせていく。
黄色が赤へつながる。
赤が青を押す。
紫がその流れを時間の中へ固定する。
そして、四つの光がさやかの剣へ集まった。
刃はもう青一色ではなかった。
中心には青がある。その周囲へ黄色と赤が螺旋を描くように絡み、さらに外側を紫の光が薄く包んでいる。
四人の魔法が、そこで初めて一つの形を取った。
「今!」
誰が叫んだのか、ほむらにも分からなかった。
その瞬間、マミのリボンがワルプルギスの夜の巨体を締め上げ、杏子の槍が逆方向へ引く。
だが、それはもう二つの攻撃ではなかった。
拘束も、牽引も、そのまま剣へ流れ込む魔力の一部になっている。
ほむらが撃った。紫の弾丸は魔女を傷つけるためだけに飛んだのではない。命中した場所から時間のずれを押さえ込み、四人の魔力が逃げる先を一つに絞る。
そこへ、さやかが踏み込んだ。
「届けえええええっ!」
剣が走る。四人分の光が、その一振りに乗った。
黄色が縛り、赤が引き寄せ、紫が瞬間を固定し、そのすべてを青い刃が一つの魔法として叩き込む。
剣が届いた。音が消えた。
いや、あまりにも多くのものが同じ瞬間に重なって、まどかにはそう感じられた。
ワルプルギスの夜の外殻に、一本の光が走る。
青だけではない。黄色も、赤も、紫も、その中にある。
四色は混ざりきって白くなることもなく、それぞれの色を残したまま一本の亀裂となって、これまでどの攻撃も届かなかった奥へ沈んでいった。
笑い声が途切れる。
空が割れたように見えた。爆発ではない。何かを外から壊したのでもない。
四人が別々に叩いていたときには触れられなかった層へ、一つに束ねた魔法が初めて届いた。
まどかにも、それだけは分かった。
今のは、四人の攻撃ではなかった。四人で使った、一つの魔法だった。
キュゥべえが小さく言った。
「入った」
誰にも聞こえないくらい小さな声だった。
「今のは、入った」
土煙が空へ舞い上がった。空の上なのに、土煙と言うしかないものが広がった。巻き上げられた瓦礫と灰と雲と魔力の残滓が混ざり、ワルプルギスの夜の姿を覆い隠す。
四人は着地した。
さやかは膝をつきかけ、すぐに剣を地面へ突き立てて踏みとどまった。
杏子は肩で息をしている。
マミはリボンを戻しながら、胸元に手を当てた。
ほむらは盾を下ろさない。
誰も、勝ったとは言わなかった。
言えなかった。
土煙の向こうから、笑い声が聞こえたからだった。
同じ笑い声。高く、遠く、壊れた舞台の上で鳴るような笑い。
ワルプルギスの夜が、姿を見せる。
外殻は欠けていた。少なくとも、そう見えた。
歯車の一部が崩れ、周囲を回る瓦礫の軌道が乱れている。巨大な体の一部には、確かに傷のようなものが走っていた。
それでも、魔女はそこにいた。
落ちない。
倒れない。
まだ、笑っている。
「今のでも駄目なのかよ」
杏子が、槍を地面に突き立てる。その声に絶望はなかった。
苛立ちと、疲労と、まだ続ける気配があった。
さやかが剣を引き抜く。
「もう一回やってみる?」
杏子は口の端を上げた。
「ああ。次はもっとでかいのがいけそうだ」
「でしょ」
さやかは笑った。
息は荒いし、肩は上下しているが、目は死んでいない。
「こんなに長く戦えるなんて思ってなかったな」
マミが、静かに言う。
「私も、まだやれるわ」
ほむらは、マミを見る。
マミのソウルジェムは濁っていない。
杏子も。さやかも。――自分も。
とっくに魔力切れを起こしていてもおかしくない。とっくに足が止まり、判断が鈍り、濁りが溜まっていてもおかしくない。
それでも、まだ魔力は感知できる。
四人の光は、そこにあった。
「暁美さんは?」
マミが聞いた。
ほむらは、ワルプルギスの夜を見上げたまま答えた。
「私も、これからが本番よ」
それは強がりではなかった。
少なくとも、ほむら自身はそう感じていた。
まだ戦える。
まだ、戻らなくていい。
まだ、この時間で前へ進める。
キュゥべえが、まどかの腕の中で言った。
「四人とも、魔力量は予測より大きく残っている。濁度上昇も低い。消耗していないわけではないけれど、従来方式とは明らかに違う」
「それなら」
まどかが言った。
「まだ、いけるんだね」
「そうだね」
キュゥべえは答える。
「まだ、いける」
その言葉が終わる前だった。
ワルプルギスの夜の笑いが、止まった。世界から音が一つだけ抜け落ちたようだった。
風は吹いている。高台の木々は軋み、巻き上げられた瓦礫は空でぶつかり合い、遠くでは避難を促す警報も鳴り続けている。
それなのに、あれほど空全体を満たしていた笑い声だけが消えていた。
四人が、ほとんど同時に顔を上げる。
ワルプルギスの夜が動いた。
それまでの魔女は、こちらを見ているのかどうかさえ分からなかった。
逆さまの巨体を空に浮かべ、笑いながら通り過ぎていく。攻撃されれば反応することはあっても、四人を敵として見ているようには思えなかった。
人間も、魔法少女も、街も。
進路の途中にあるものを、ただまとめて嵐へ巻き込んでいる。
そういう災害だった。
そのはずだった。
巨大な歯車が、ゆっくり回る。
逆さまになっていた人形めいた輪郭が傾き、周囲を巡っていた瓦礫まで、その動きに引かれるように軌道を変えた。
そう見えた。
本当に上下が反転したのか、魔女そのものの向きが変わったのか、まどかには分からない。
ただ、一つだけ分かった。
こちらを向いた。
顔と呼べるものがあるのかさえ曖昧なはずなのに、四人のいる高台へ、その巨大な存在の正面が向けられていた。
同時に、魔女の周囲を無秩序に回っていた瓦礫の流れまで変わる。散っていたものが、一つずつこちら側へ弧を描き始めた。さっきまで街全体へばらまかれていた圧力が、細く、鋭く、一点へ集まってくる。
マミが息を止める。
杏子の槍が、わずかに下がったまま止まる。
さやかが剣を握り直した。
ほむらだけは動かなかったが、その目が細くなった。
四人とも、同じことを理解した。
見られている。
今まで何を考えているのかさえ分からなかったものが、初めて明確にこちらを選んだ。
まどかの背筋を、冷たいものが走った。
ワルプルギスの夜に、さっきの一撃で、自分たちの存在を認識させてしまった。
「キュゥべえ」
「分からない」
キュゥべえが、即座に言った。
「でも、何かをする」
ほむらは、すでに盾へ手をかけていた。
ワルプルギスの夜が笑うのをやめ、こちらを向いた。
その時点で、来ることだけは分かった。
何が来るのかが分からない。
瓦礫ではない。突風でも、歯車でもない。
空の一部がこちらへ倒れてくるように見えた次の瞬間には、地面の方が持ち上がってくるようにも見えた。
距離がおかしい。
まだ遠くにいるはずのワルプルギスの夜が、一瞬だけ目の前まで迫ったように見え、次にはまた空の彼方へ戻っている。
ほむらは反射的に盾を回した。
世界が止まる。風が止まり、舞い上がった瓦礫が空中に縫い止められる。マミの髪も、杏子の槍も、さやかのスカートも、その瞬間の形のまま静止した。
それなのに――。
ほむらは息を呑んだ。
攻撃だけが、一つの場所にいなかった。
動いているわけではない。止まった世界の中で進んでいるわけでもない。
ただ、同じ攻撃が、少しずつ違う位置に重なって見える。
高台の上。
四人の正面。
頭上。
さらに、もう通り過ぎたはずの背後。
どれが本物なのかではない。全部が同じ一撃だった。
昨日、まどかが話していた自分の因果構造を、ほむらは一瞬だけ思い出した。
前と後ろだけでは整理できない線。見る位置を変えれば上下が入れ替わり、交差していたはずのものが離れて見えたという、あの構造。
似ている。
ワルプルギスの夜の攻撃は、一枚の時間の中に収まっていない。
「……止まらないんじゃない」
ほむらは呟いた。
時間停止が効いていないのではない。自分が止めたのは、今という一枚だけだ。
向こうは、その前後までまとめてこちらへ重ねている。
ほむらは時間を戻した。
「防御!」
声を上げたのはマミだった。
ほむらの説明を待つ必要はなかった。
マミの両腕から黄色いリボンが一斉に走る。
だが、壁を何枚も作ったのではない。最初の数本は地面へ突き刺さった。
アスファルトを貫き、その下へ潜り、地中で枝分かれする。根を張るように広がったリボンが魔力で硬化し、何十か所もの固定点を作る。
そこから別のリボンが斜めに立ち上がった。
一本を一本で支える。さらにその外側から、逆方向へ力を逃がす。
正面には弧を描く層。その後ろには斜交いに張った層。
さらに後方には、衝撃を地面へ流すための支索。
黄色い光が一瞬のうちに組み上がり、四人の前へ巨大な立体構造を作った。
ただ受け止めるための壁ではない。
衝撃を分け、曲げ、地面へ逃がすための防御だった。
「美樹さん、正面!」
「はい!」
さやかが一番前へ出る。
攻撃の輪郭は見えない。それでも、胸元の青い光が最も強く反応した場所へ剣を叩き込んだ。
何もない空間を斬ったように見えた。
次の瞬間、腕全体が跳ね上がる。
「っ……!」
受けたのは点ではなかった。
剣の刃全体へ、違う方向から同時に力がかかっている。
上から押されながら、横へ引かれ、そのまま手前へ潰される。
さやかは両足を踏み込んだ。
ブーツの下で地面が割れる。
「杏子!」
「見えてる!」
赤い槍がさやかの横を抜けた。杏子も攻撃そのものを貫こうとはしなかった。
槍を地面へ深く突き立て、節を分裂させる。
一本はさやかの剣へ絡み、もう一本はマミの防御構造へ、さらに数本は別々の方向へ地面を噛んだ。
さやか一人に集中する力を、槍を通して横へ引き裂く。
「何だよ、これ……!」
赤い槍が弓のようにしなる。
節の一つが悲鳴を上げる。
それでも杏子は離さない。
ほむらは再び盾を回した。
今度は、世界そのものを止めようとはしなかった。
止めても意味がない。
ワルプルギスの夜の攻撃は、一つの時刻にも、一つの場所にも収まっていない。なら、全部を同じように止める必要もなかった。
ほむらは、重なって見える軌道の一つだけを選ぶ。
そこへ時間停止を薄くかける。
もう一つは、そのまま流す。
別の一つは、ほんのコンマ一秒だけ遅らせる。
世界全体ではない。
攻撃の一つ一つへ、必要な分だけ時間を使う。
その方が消耗も少ない。そして何より、同時に来るものを同時に受けなくて済む。
ほむらの視界の中で、同じ瞬間へ重なっていたはずの攻撃が、少しずつ前後へずれていく。
一つ目、次、その次。
順番などなかったものへ、無理やり順番を作る。
一度に受ければ防げない。
それなら、処理できる形へ並べ替える。
ほむらは、さらに一つの軌道だけを遅らせた。紫の光が盾の縁を走る。
重なっていた攻撃の輪郭が、一枚ずつ剥がれていく。
「マミ、今!」
「ええ!」
最初の衝撃が黄色い防御へ入った。
正面のリボンが大きくたわむ。力はそのまま後ろへ抜けず、斜めの支索へ分かれ、地中へ打ち込まれた固定点へ流れた。
高台全体が揺れた。
一本目の固定点が抜ける。土と砕けた舗装がまとめて噴き上がった。
二本目。
三本目。
リボンそのものが切れるより先に、地面の方が耐えられなくなっていく。
「まだ!」
マミが両手を広げた。
抜けた固定点のさらに奥へ、新しいリボンが潜り込む。
黄色い構造が崩れながら、その後ろで次の構造を作る。
一層目が潰れる。二層目が受ける。そこも曲がる。三層目へ流す。
それでも止まらない。
さやかが剣で一つの流れを逸らし、杏子が別の方向へ引き裂き、ほむらが到達時刻そのものをずらし、マミが残った衝撃を地面へ逃がす。
四人で、一つの攻撃をばらしている。
それなのに――。
ほむらには分かった。
まだ全部ではない。
紫の光が軋む。盾の奥まで冷たさが伝わる。
時間を薄く引き伸ばすたび、別の時刻にあったはずの衝撃が次から次へと現れる。
今までなら、ここまで来る前に終わっていた。
マミの防御は破られ、杏子の槍は折れ、さやかの身体は耐えきれず、自分の時間停止でもどうにもならない。
誰かのソウルジェムが砕ける。
誰かがいなくなる。
まどかが契約する。
自分は盾を回す。
そうして、また最初へ戻る。
だが、今回は違った。
誰も離さない。
さやかの剣が軌道を一つ外へ押し出す。
杏子の槍がそのずれをさらに広げる。
ほむらが重なっていた時間をばらし、マミのリボンが一層ずつ衝撃を受け渡していく。
受け止めた。そう思った瞬間だった。
ほむらの視界の奥で、まだ一枚残っていた。
「――まだ来る!」
最後の一つは、ずらせなかった。
時間の前後も、空間の上下も関係なく、四人のいる場所そのものへ重なってくる。
マミが反射的に最後のリボンを張る。杏子が槍を地面へ叩き込む。さやかが剣を両手で構える。ほむらは盾を正面へ向けた。
その瞬間、まどかの腕の中でキュゥべえの耳から伸びる輪が開いた。
「保護外装を同期する」
「キュゥべえ?」
返事はなかった。
まどかの周囲に薄い光が浮かぶ。
同時に、離れた四人の身体を包んでいた光が一斉に強くなった。
黄、赤、青、紫。
その四つとは別に、白い光が一瞬だけ全体をつないだ。
次の瞬間、ワルプルギスの夜の一撃が、高台そのものへ落ちた。
だが、まどかは腕を離さなかった。
その視界の先で、四人の身体がまとめて高台へ叩き落とされる。
最初に地面へ触れたマミが、転がりながら反射的にリボンを放った。黄色い帯が砕けた舗装へ食い込み、そのまま横へ流される杏子の身体へ絡む。
引かれた杏子は宙で身体をひねり、槍を地面へ突き立てた。穂先が舗装を割り、長い傷を刻みながら二人分の勢いを削っていく。
その脇をさやかが滑った。剣を両手で地面へ押し込み、刃を削りながら無理やり身体を起こす。そこへ飛ばされてきたほむらが盾を傾け、残った衝撃を正面から受けるのではなく地面へ逃がした。
四人の武器が、それぞれ別の場所で地面を噛む。
黄色いリボンが張り、赤い槍が軋み、青い剣が火花を散らし、紫の盾が砕けた瓦礫を押しのける。
それでも数メートルは引きずられた。地面が裂け、瓦礫が跳ね、張り詰めたリボンが今にも切れそうに震える。
やがて、その全部が止まった。
荒い呼吸だけが残る――誰も、消えていなかった。