軽口ヴィーヴル♡ラースちゃん   作:七巳 梟幻

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プロローグ2

 茜色の空が次第に暗くなっていく。

 戦地から少し離れた平地にて、ただ一人の男の前で、数百近くの傭兵たちが列をなす。

 即席の壇上には、白髪を後ろに流した漆黒の角を生やす男。

 男は居並ぶ戦士たちを前に、堂々とした佇まいで口を開いた。

 

「この夜をもって、長く続いたバベルとの戦いに終止符を打ち、真なるカズデルを取り戻す足掛かりとする」

 

 その場の空気が無言の熱気を伴う。それは、これから始まる大戦への期待であり、恐怖であり、勝利の確信であった。

 真剣な面持ちの戦士たちのなかで、呑気な声が小さく響いた。

 

「ふぁぁ。ねむ……」

 

 ラースは登壇する男の長話に早々に飽き、頭に残る眠気が口から溢れ出てしまう。

 そのだらしない態度に、隣の傭兵仲間から肘打ちを食らう。

 小突いてきた傭兵を睨んだあと、舞台に視線を戻すと演説を止めた男と目が合った。

 

「あ、ごめんなさーい。続けてどうぞ。テレシス殿」

 

 テレシスは、ラースのあっけからんとした態度を一瞥し、そのまま眉一つ動かさず演説に戻った。

 演説が進むにつれて、ラース以外の戦士たちの士気が高まっていく。

 

「━━━私と、お前たちとで魔王テレジアを倒し!この戦争を終わらせるぞ!」

 

 テレシスの演説が終わると共に大歓声が上がる。ラースも彼らに合わせて声を上げた。

 

「キャー!妹殺し予定のテレシスさまー!━━━いって!」

 

 ラースの両脇へと肘打ちが飛んだ。

 

◇◇◇◇

 

 戦端が開き、バベルとの激しい戦いが始まった。

 鉛玉が飛び交い、アーツによって大地が裂け、互いの兵士が血を噴き出し宙を舞う。

 ラースは口元に笑みを浮かべながら、迫りくるバベルの兵士を急所を避けて無力化していく。後ろに続く傭兵が止めを刺すが、生き残る選択肢を与えている分、自分は善人だとラースは考えていた。

 

「いや、みんな元気すぎ!いけない薬でもキメてるわけ?」

「減らず口を叩く暇があったら、敵を殺せ!」

「もうヤダ!うちのリーダー人使い荒すぎ!それに、お前たちより俺の方が敵を倒してるけど?」

 

 ラースへ向けて銃を発砲する兵士の懐へと、地面すれすれの低姿勢で瞬時に近づき、飾り気のない使い古された剣で銃身を半ばから両断する。

 

「おやすみグッナイ」

「まっ━━━」

 

 兵士の顔面を剣の腹で殴りつけ、意識を刈り取った。

 ラースは、リーダーへ見せつけるように、先ほど倒した兵士を手で大袈裟に示す。

 

「ほらぁ。ちゃんと仕事してますよ?」

「ちっ。これだから、思想を持たない傭兵はっ!」

「その思想ってどこのスーパーで売ってるの?教えてよ、セールで安くなったら買っとくからさ♡」

「ああもう!お前は黙って剣だけ振れ!」

 

 ラースはカラカラと笑いながら、バベルの兵士を倒していく。その後ろにはラースを雇う傭兵団が続いていた。

 ラースたちは中央から攻める本隊とは別に迂回して横から攻める部隊の一つだった。正面戦闘から外されたバベル兵士は個々の戦闘能力は高いが、集団戦闘は練度不足だった。

 

「よぉし!このまま、愛しのテレジアちゃんの首でもチョンパしちゃいますか!」

「先走るな!……だが、それもありか」

「お?やる気だねぇ。けど、サルカズの思想的には魔王って重要じゃないの?」

「ふん。アタシたちも一枚岩じゃないってことさ」

「前から思ってたんだけど、一枚岩っておかしくない?俺達なら岩じゃなくて肉じゃない?」

「ええい!黙ってろ!このクソトカゲ!」

「ぴえん!クソトカゲだって悲しいぞ?」

 

 軽口を叩きながら進み続けると、いつのまにか味方本隊よりも奥深くに、敵本陣近くまで足を踏み込んでいた。

 強風吹きすさぶ廃ビルの屋上で、ラースたちは小休憩をとりながら周囲の様子を確認する。

 先ほどまでの戦場とは打って変わり、人気のない廃墟地帯には歩哨小隊が点在している程度で、ここがバベルの本陣営なのかと、ラースは疑いたくなった。

 本陣から少し離れた所では、アーツが炸裂する光が空を焼き、地面を揺らしている。

 

「ラース、お前はどうみる?」

「ポテチを齧りながら、この戦争を見てたいね」

「誰がそんな事を聞いた!ここが、バベル本陣営なのかどうかと言う話をだな━━━」

「たーぶん。本陣営だと思うよ?けど、魔王はいなさそうだね」

「なに?」

 

 ラースは手にした双眼鏡を覗きながら、廃墟群のなかから、真新しいアンテナが伸びる建物を指差した。

 

「あれは?」

「奴さんの掘っ立て小屋だろ。建物の中で人影がチラチラ見えてるし」

「魔王がいないというのは?」

「護衛の数が少なすぎる。それによくよく考えると、危ない戦場に大切な宝物を持って来るわけないし。……テレジアちゃんはバベルの本丸かな。こっちに来てるのは……テレジアちゃんのベストフレンドの猫ちゃん勲爵あたりじゃない?」

「なるほど……お前の推測は理解した。それと一人のサルカズとして言わせて貰う。魔王をちゃん付けで呼ぶな」

 

 ラースはリーダーに双眼鏡をひったくられ、渋々煙草に火をつけた。

 

「拠点を潰せば大きな功績だな……お前たち。休憩は取ったか?」

 

 リーダーの言葉に傭兵たちは頷く。

 

「ラース。お前は……どうした?」

 

 ラースは無精髭を撫でながら、思案を巡らすような顔で煙を吐く。

 

「どうも、バベルどもの戦い方が気に食わない」

「……続けろ」

「いやね、俺達が長いことやり合ってきたバベルには、頭が切れる『神の覗き魔』とやらがいたじゃん?覗き魔の奴に何度も煮え湯を飲まされたなら分かると思うんだけど……今回の向こうの打ち手からは、俺達に勝つこと以上の思惑がありそうに見えてな」

「だらだらと貴様は学者か?要点だけ言え」

「覗き魔のやつ、総力戦のように戦いながら、どういう訳か味方を足止めしてるきらいがある。……ああ、テレシスちゃんが今回やたらやる気なのって覗き魔ちゃんがこっちに寝返ったから?」

「ほう。あの預言者がこちらに寝返ったと。なるほど……それなら今回の大規模交戦にも納得がいく」

 

 ラースはしたり顔のリーダーに退屈そうな視線を向けながら、煙草の吸殻を投げ捨てる。

 

「リーダーさぁ。オレちゃんの話聞いてた?」

「どういう意味だ」

「アレだけバベルにゾッコンのあの気色悪い未来予知野郎が、ここにきて何で裏切る必要がある?絶対俺たちにも不都合な裏があるぜ」

「裏切りすらフェイクの可能性があると……」

「そゆこと」

 

 ラースは壁に立てかけた剣を手に、敵拠点を睨む。

 

「取り敢えずあそこ叩いてさ、企ての全容掴もうぜ。そうすれば、テレシスから褒美どころか、弱みを握れるかもよ?」

「まったく……お前というやつは。アタシはテレシス様に忠誠を誓っているんだ。今のは聞かなかったことにしておく」

「分かんないなぁ。他人の思想に傾倒する気持ち。功罪全部おっ被せようとしてるようにしか見えないってのに」

「テレシス様が裁かれるならば、アタシも一緒に裁かれるさ」

「……ならいいけど」

 

 ラースを先頭に、傭兵たちはビルの屋上からロープを使って飛び降り、敵拠点に襲撃を仕掛ける準備に入った。

 

 傭兵団のなかには消音系のアーツを扱える男がいる。その男のアーツを用いて、戦闘は極力避けて拠点近くまで近づいた。

 

「いやぁ、連中手練ばかりだから、便利なアーツ持ちがいると楽できるね」

「へへっ。それ程でもねぇよ」

「うん、ほんと。戦闘能力はミジンコ以下だもんね」

「泣かすぞクソトカゲ!」

「そこの馬鹿二人を黙らせろ!……おい、遠眼鏡をよこせ」

 

 馬鹿二人を背にリーダーは物陰から望遠鏡を用いて拠点内部を確認する。

 

「あれは……本当に勲爵が来ているな」

「え、噂の猫ちゃんいるの?見たい見たい」

 

 ラースはリーダーの上に覆い被さるような姿勢で、自前の双眼鏡で拠点内部を覗き込む。

 

「わぉ。結構可愛いじゃん。あの猫ちゃん♡ナンパしちゃおっかなぁ」

「ふん。カズデルに関係ない異物同士お似合いだよ」

「まじ?なら結婚までいっちまうか!」

「そうだな、結婚してそのまま消えろ。というか、今すぐ私の背中から降りろ!デカトカゲ!」

 

 ラースは後ろから来た傭兵に頭を叩かれ、リーダーの背から引きずり降ろされる。

 

 傭兵団は部隊を二つに分けて行動する事となった。

 リーダー率いるチームとラース率いるチームだ。それぞれが、拠点の表口と裏口に回り込み挟撃する。

 

「てな訳で、はい!やって来ましたるは敵拠点の表口!では皆さん!手を振って挨拶しましょう!」

「するわけないだろ!バカ野郎が!━━おらっ、手榴弾投げ入れたから離れるぞ!」

「へいへーい」

 

 ラースたちは入り口周りの敵兵を最速で処理し、入り口を爆破した。

 

「た~まや~」

「茶々入れないと死ぬわけ?!黙れよ本当!」

「いや、でもさ。俺ってば実は騎士の端くれだから、挨拶なしに爆破って卑怯じゃないかなって思うわけ」

「冗談はいいから!ほら、誰か来たぞ!」

 

 土煙の奥で数人の人影が揺らめく。

 

「……敵は三人か。手早く片付けるぞ」

「了解しました」

 

 淡々とした冷たい声が場を支配する。

 現れたのは薄緑色の毛を揺らす不機嫌顔のフェリーンとサルカズ兵だった。

 

「げぇっ?!ケルシー勲爵直々かよ!」

「え、いいじゃん!へーい、そこの激マブフェリーンちゃん!今晩、俺と一緒にディナーでもどう?」

「馬鹿!阿呆!クソトカゲ!煽るな!他はとも角、俺たちで勲爵相手は無理だ!」

 

 傭兵二人がラースを盾にするように前へ押し出し、ケルシーを睨む。

 しかし、この状況にあってもラースの顔から笑みが失われる事は無かった。

 

「なぁ、お前ら。勲爵ちゃんの横にいる奴らは余裕って言ったよな?」

「ああ、余裕とは言ってないが……お前、まさか!」

「へい!猫ちゃん!それで、ディナーの誘いは受けてくれるのかな?」

 

 ケルシーの眉間に皺が寄る。戦場にあって、こうもふざけ倒す輩を見るのは初めてだった。

 

「生憎だが、ディナーを受ける事はできない」

 

 ケルシーは手に持つ杖を構えると、その先端をラースへと向ける。

 

「あら、そうなの?残念。……残念ついでに教えて欲しいんだけどさ、あんたらの作戦立案者、勝つ気あるの?」

「……なに?」

 

 空気がピリつき、ケルシーたちから発せられる圧が一段と増す。

 ラースの言葉に、後ろの傭兵たちが肩を叩きまくる。

 

「もうヤダ!このクソトカゲ!死ぬなら一人で死ねよ!」

「そうだ!俺たちを巻き込むな!この赤トカゲ!」

 

 後ろの二人を無視して、ラースはケルシーの目を見据える。

 

「だってさ。君らの指揮官なら、いつもみたいにもっと効率よく俺たちを叩くだろ?だってのに、今回の戦い方はどうも、無意味な消耗戦をしてるように見えてさ」

「何がいいたい?」

「俺的には、すんげぇ強いって噂の魔王ちゃんと戦いたいわけよ?だから、もう少しこの戦争が続いてほしいし、魔王ちゃんに死なれると困るの。……おたくの指揮官裏切ってない?」

「Mon3ter」

 

 ケルシーの呟きと共に、彼女の背中から影が膨らむ。

 

「うん。……うん?なにそれ?」

 

 ラースの軽口が一瞬止まった。

 目の前に現れた、硬質な黒い外殻に覆われた怪物を前に、流石のラースも驚きを隠せなかった。

 

 宙を泳ぐそれは、四本の鎌状の爪で大地を削る。形容しがたいその存在を前にラースの口元から僅かな間、笑みが消えた。

 

「Mon3ter。そこの軽口ヴィーヴルを……倒せ」

「ちょいちょい!なにその……なにそれ?!」

 

 素早い動きで接近してきた得体の知れない怪物を前に、ラースは傭兵二人を遠くへ投げ飛ばし、振り下ろされる鋭利な鎌状の爪を剣で弾く。

 

「いってぇ?!何すんだよラース!……は?」

 

 起き上がった傭兵たちが見たのは、先ほどまで立っていた地面に刻まれた切断痕だった。

 

「悪いけど、こっちは手を離せそうにないんで、自分の身は自分で頼むわ!」

「お、おう!勲爵とその……なにそいつ?まぁ、いいや。それ以外は任せろ!」

 

 傭兵二人が、敵兵士を引き付け怪物から逃げるように駆けていく。その姿を視界の端に捉えながら、迫りくる四本の腕を剣で弾いていく。

 

「たんま!マジで、たんま!お茶しようぜ、お茶!……話通じてる?ねぇ、ちょっと?!」

 

 怪物はラースの軽口に反応することなく、素早い動きで目の前の敵を翻弄する。

 

「ちっ。一撃が重すぎる。……仕方ねぇ」

 

 ラースは地面を転がり、怪物から距離を取ると腰からナイフを抜く。

 

「あーもう。アーツを出し惜しみできる相手じゃねぇの!本当にヤダ!」

 

 軽口と共にラースが握る二本の刃に黒い炎が蛇のように纏わりつく。

 怪物の動きが止まり、警戒するようにラースから一定の距離を保ちながら周遊し始めた。

 

「おいおい、怪物がビビったら駄目だろ?」

「Mon3ter!その炎を受けるな!」

「ふふーん。避ける?そりゃあ━━無理」

 

 剣に灯る黒炎がラースの全身を包み込んだ瞬間、大地が爆ぜ、怪物がケルシーの元まで吹き飛ぶ。

 

「うぉっ、硬いなっ?!何でできてるんだよ!あーあ。刃毀れしてねぇ……な!よし!」

 

 ケルシーと怪物は困惑した。幾らヴィーヴルとはいえ、あのような速度を出せる者がいるのかと。

 

「その炎……攻撃型アーツではない?それにお前、本当にヴィーヴルか?」

「なに?俺のことが好きになった?付き合ってくれるなら、色々と教えちゃうけど?」

「……Mon3ter。奴を殺せ」

「ヤダ怖い!」

 

 金切り声のような叫びと共に怪物がラースへと迫る。しかし、ラースは怪物を上回る速度で死角に潜り込み、着実に剣を叩き込んでいく。

 

「その硬さズルくない?俺のナイフもうボロボロなんだけど」

「なら、諦めて捕虜になるといい」

「俺って自由を愛する男だからさ。捕まるとかはちょっとねぇ。あ、愛の束縛はいつでも大歓迎!」

「……」

 

 ケルシーの怒りに同調するかのように怪物の攻撃速度が増し、段々とラースの動きに対応し始める。

 死角に回り込もうと、見えているかのように振り返ることなく鎌を振り下ろし、ラースの脇腹を掠めた。

 

「あらら、この革鎧お気に入りだったのに」

「お前の動きは読めた。投降したらどうだ?」

「……モンちゃんと戦って思ったんだけどさ、君ら思考や感情を共有してない?俺が死角に入っても対応してるの、そのせいだろ?」

「……だとしたら、なんだ?」

「さっき、俺ちゃんの滾る情熱が攻撃型じゃないっていったろ?アタリ♡物は燃やせないし、熱くもない。けど、普通の炎じゃ燃やせない物は燃やせるんだよね」

 

 直後、ラースは怪物の攻撃を躱し、最早使い物にならないナイフを捨てると、黒炎を纏う手で怪物の頭に触れる。

 掌に伝わる冷たい外殻の下に、一本の見えない線がケルシーまで延びているのを感じ取る。

 

「━━━捉えた♡」

 

 瞬間、黒炎が怪物の全身を包み込むと、怪物は狂ったようにのたうち回った。

 

「━━━っ?!Mon3ter!」

「当たり前の事が急に出来なくなるって……怖いよねぇ」 

「━━━っ!あの炎か。炎が私たちの情報共有を妨げているのか!」

「ピンポーン!大大大正解!正解者には俺からキッスをプレゼント!」

「いらん!」

 

━━━━ドカンッ!

 

 ケルシーの拒絶の叫びと同時に、背後の拠点が爆発した。

 

「っなに?!」

「お、リーダーちゃんの仕業かな?」

「他にもいたのか!」

 

 ラースは振り注ぐ瓦礫を剣で弾きながら、ケルシーへと近づくと、彼女を抱きかかえる。

 

「なにを?!」

「危ないし離れようか?」

 

 怪物は未だ混乱から回復せず、地面で転がり回っている。逃げる手のない彼女を瓦礫の下敷きにしては、ラースとしても寝覚めが悪かった。

 

 拠点から少し離れた場所に移動し、ケルシーを地面に放る。

 

「戦いじゃ俺の負けだけど、戦争じゃ俺の勝ち♡」

「……ACEからお前の話は聞いていた。お喋りな手強い赤毛のヴィーヴルがいると。お前は……何がしたいんだ?」

「楽しみたい。ケルちゃんとの戦いも、この戦争も」

「それだけだと?……信じられん。カズデルの歴史に残るこの戦争で、何の思想、信条も持たずに、ただ遊び歩いていると?」

 

 ラースは取り出した煙草に火をつけると紫煙を吐く。

 

「言ったろ?俺は自由を愛してるって。それが俺の信条。何者にも囚われず、誰かの頑張りを嗤い、けど否定はしない。冷笑系って流行りじゃん?」

「……腐っている」

「よく言われるよ」

 

 遠くでリーダーが炊いた発煙筒の煙が上る。それは撤退の合図だった。

 

「それじゃ、このへんでお暇させてもらいますかね」

「とどめは刺さないのか?」

「なんで?」

「なんでだと?……本当にどうかしているぞ」

 

 ラースはケルシーから、信じられない者を見る目を向けられながら歩き出す。

 

「そうそう。今回のテレシスの作戦だけど、多分この戦い自体が陽動だぜ?今頃、暗殺部隊が魔王ちゃんの首を取りに向かってるかもな」

「━━っ?!ありえない!ドクターが……」

「そのドクターの考えは分からないけど、奴さんからしてもテレジアちゃんが邪魔なんじゃない?それじゃ、テレジアちゃんにお誘いの返答聞いといて。あとグラサンAceによろしく」

 

 ラースは後ろを振り返ることなく、傭兵団と合流するために足早にその場をあとにした。

 傭兵団と合流後、分かれた仲間の無事も確認し、仕事を終えたラースたちは軍事委員会の本隊へと向かった。

 

 夜も更け、本隊と合流したころに、ラースたちのもとに魔王暗殺の報せが届いた。

 戦争が終わったのだ。

 

 朝日に照らされる戦士たちが、思い思いに酒を飲む。

 広場の端で、身体に付いた泥を落とすラースの隣にリーダーが座った。

 安い酒瓶を無言でラースに手渡し、リーダーは一息で瓶の中身を飲み干す。

 

「俺の推測って、本当によく当たるな」

「どうした?」

「いや、別に?魔王ちゃん死んで悲しいなって」

「会ったこともないだろ」

「あるよ?けど、食事の誘いの返答もらえてないし」

「お前と魔王が結ばれるような事があれば、お前を殺してアタシも死ぬよ」

「リーダーちゃんって俺のこと好きなの?惚れるよ?」

「阿呆言うな。誰がアンタみたいな喧しい奴に惚れるもんかい」

 

 二人は笑いながら酒を飲む。

 傭兵団の他の者たちも、勝利に浮かれ酔いつぶれたり、酔っぱらいに絡まれ喧嘩したりと様々だ。

 

「ラース。アンタがよければ……正式にうちに入る気はないかい?」

「有難い誘いだが、傭兵家業も飽きたし別の所にでも行くよ」

「傭兵家業以外でお前みたいのがやっていけるのかい?」

「さぁね。龍門とかなら仕事はありそうだし、行くだけ行ってみるさ」

「ふーん。そんじゃ、アンタの門出に乾杯でもする?」

「お、いいね!」

 

 宴会場に小さな乾杯の声が響いた。

 

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