DARK SOULS 〜AFTER STORY〜 作:OSPND
ルーヴの幻跡が消失してから、数日が経った頃。
カルディア共和国中央。
政治、外交、軍事をはじめ、共和国の重要事項を審議する元老院。その議場には、この日、十二人の元老すべてが席を連ねていた。
一地方で発生した幻跡の調査報告だけで、全員が集まることは滅多にない。
ルーヴから戻った調査隊の報告を受け、共和国軍上層部が過去の記録と照合した結果、通常の地方案件として扱うべきではないと判断して元老院へ上申したためだった。
「発見された翌日に消失しているのか」
一人の元老が報告書から顔を上げる。
「はい。正式な調査が始まった日の午後には確認されています」
「早いな」
「前例がないわけではありません。幻跡の出現から消失までに規則性は確認されていません」
「内部にいた巨大な人型を討伐したあとに消えた、とあるが」
「厳密には、討伐後しばらくしてからです。現地隊は因果関係について判断していません」
「妥当だな。一度の事例だけでは何とも言えん」
現時点で確かなのは、巨大な存在が倒され、その後に幻跡が消えたということだけだった。
「軍がここまで上げた理由は、それではないのだろう?」
「はい」
書記官が別の資料を開いた。
「消失後、現場には遺物と思われる鍵が一点残されました。それへ触れた冒険者が、一時的に周囲の呼びかけへ反応しなくなり、その間に消失した幻跡と同じと思われる砦を見たと証言しています」
砦は損壊する前の姿で、大勢の兵士が存在し、そこへ複数の巨人が攻め込んでいたという。
「遺物へ触れた者が何らかの感覚を訴えた例なら、以前にもあったな」
「あります。ただし、これまでの証言は音や光、人影といった断片的なものがほとんどです。今回のように、場所の様子や人の動きまで一続きの光景として語られた例は、正式な記録にはありません」
一人の元老が資料へ目を落とした。
「つまり、これまで確認されていた反応よりも、かなり具体的だったということか」
「はい。少なくとも記録上はそうなります」
「それが何なのかについて、現地では見解を出しているのか?」
「いいえ。過去の出来事を見たのか、遺物そのものが何らかの像を見せたのか、それとも別の現象なのか、現時点では判断できないとしています」
別の元老が口を開いた。
「遺物は魔術院へ?」
「はい。現地の記録とともに送る準備を進めています」
「なら、その結果も報告に上げさせろ」
「承知しました」
だが、問題は遺物への反応だけではなかった。
その冒険者は幻跡を初めて見たときから、来たことのない場所へ既視感を示し、内部では構造を知らない昇降機を操作した。地下で遭遇した巨人についても、討伐後になって以前にも戦ったことがあると語っている。
「遺物に触れたときだけではないのか」
「はい。幻跡を発見した直後から、似た反応が何度も確認されています」
一人の元老が興味深そうに資料へ目を落とした。
「そこまで幻跡に反応する人間が現れたのは初めてか?」
「少なくとも、これほど複数の事例が一人に集中した記録は確認されていません」
「そうか」
元老はしばらく資料を眺めたあと、わずかに口元を緩める。
「もし本当に幻跡に何か通じるものがあるのなら、ぜひ共和国領内の他の幻跡にも招いてみたいものだな」
「現時点では、まだ偶然である可能性も否定できません」
「もちろんだ。今すぐどうこうという話ではない。だが、興味深い人物ではある」
別の元老も頷いた。
「少なくとも、今後の報告は追っておく価値がありそうだ」
「本人については?」
書記官が別の資料へ目を移す。
「冒険者ギルドへの登録が三年前。現地では《宿無し》という通称で呼ばれています。本名、出身地等はいずれも不明です」
「三年も所属していて?」
「本人にも記憶がありません。モトへ来る以前にも各地を移動していたようですが、その経路も完全には辿れないとのことです」
「問題行動は?」
「モトへ来てからの三年間では、重大なものは確認されていません」
「軍は?」
「モトを離れないよう求めたうえで、過去の記録との照合を進めています。身柄の拘束はしていません」
一人の元老が頷いた。
「それなら現状のままでいいだろう」
反対の声は上がらなかった。
軍はすでに宿無しについての照会を始めており、回収された遺物についても魔術院での調査が予定されている。元老院が新たに決めるべきことは多くなかった。
重要だったのは、ルーヴで起きた一件と、そこに関わった一人の冒険者の存在が、共和国の中枢まで届いたことだった。
「この件は重要案件として扱う。今後、新しい情報が入り次第、元老院へ直接報告させろ」
「承知しました」
その決定により、ルーヴの一件は通常の幻跡調査とは別に扱われることになった。
審議が終わり、十二人の元老が席を立つ。
共和国が得たものは、まだ答えではない。
短期間で消えた幻跡。
その跡に残された遺物。
そして、その幻跡に何度も不可解な反応を示した一人の冒険者。
これまでの記録だけでは説明できない事例が、一つ増えた。
今のところ分かっているのは、それだけだった。
《元老院の円卓》
カルディア共和国元老院の議場中央に据えられた、無垢材の巨大な円卓。
十二の席に上下の別はない。
王座を持たぬ共和国において、国の行く末を決めるのは一人の君主ではないためだ。
軍事、外交、租税、交易。あらゆる国家の大事は、この卓を囲む者たちの議決によって定められる。
もっとも、同じ高さの椅子に座ることと、
同じだけの力を持つことは、必ずしも同じではない。