DARK SOULS 〜AFTER STORY〜   作:OSPND

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7.調査の限界

 調査終了を決めた翌日の午後、リュイスはこれまで使っていた地図をもう一度机の上に広げた。

 

 数週間前には何もなかった紙面に、今ではモトから西へいくつもの印が並んでいる。商隊の護衛、熊を仕留めた村、狼を追った土地、崩れた街道。そのほかにも宿無しと思われる旅人の痕跡は断続的に続き、最も古いものは十年ほど前まで遡っていた。

 

 調査は終わった。あとは、その結果を本人へ伝えるだけだった。

 

 約束の時間になると宿無しが現れ、部屋へ入るなり机の上の地図へ目を向けた。何度も聞き取りに呼ばれているうちに、見慣れたものになったのだろう。

 

「座ってください。今日は聞き取りではありません」

 

 リュイスが椅子を示すと、宿無しは黙って腰を下ろした。

 

 同席していたラモンドが手元の報告書を閉じる。

 

「久しぶりだな。お前の過去について、調べられる範囲は一通り調べた。共和国軍としての身元調査は、これで終わりだ」

 

「分かった」

 

 返事はいつもと変わらない。

 

 ラモンドは地図へ手を伸ばし、モトから西へ連なる印を順に示した。

 

「ここにあるのが、今回確認できたお前の足取りだ。全部がお前だったと断定できるわけじゃないが、記録に残っていたことと、お前が思い出した内容は何度も一致している。主なものについては、同じ人物と見ていい」

 

 宿無しは説明を聞きながら、示された場所を目で追っていた。

 

「今回これを調べた一番の理由は、ルーヴへ行く以前に、お前が別の幻跡へ入ったことがなかったかを確認するためだ」

 

「ああ」

 

 そこからはリュイスが引き継いだ。

 

「確認できた足取りと、共和国に残っている幻跡の出現記録を照らし合わせました。少なくとも、今回追えた範囲では、既知の幻跡との接点は見つかっていません」

 

 宿無しが地図から顔を上げる。

 

「過去に別の幻跡へ入ったことがない、とまでは言えません。ただ、ルーヴで道や仕組みを知っていたように見えた理由を、以前の経験だけで説明するのは難しいと思います」

 

「そうか」

 

「それが今回の調査で分かったことです」

 

 ラモンドは地図から手を離した。

 

「調査のためにモトを離れないよう頼んでいた件も、これで終わりだ。もうその必要はない」

 

 その言葉には、宿無しもわずかに反応した。

 

「もう出てもいいのか?」

 

「ああ。この調査のために留まってもらう理由はなくなった」

 

「分かった」

 

 話はそこで終わるはずだった。

 

 リュイスが地図を畳もうとして端へ手を伸ばすと、宿無しがそれを止めた。

 

「待ってくれ」

 

 見ているのは地図の西端だった。

 

 十年ほど前、大雨で崩れた街道の復旧を手伝った町。その地点を最後に、宿無しの足取りを示す印は途切れている。

 

「その先は?」

 

「十年ほど前より古い記録ですか?」

 

「ああ」

 

「確かなものは見つかっていません」

 

 宿無しはしばらく地図を見たまま黙っていた。

 

「もう調べないのか?」

 

 以前にも、それより古い記録はないのかと尋ねられたことはある。けれど今回は、軍の調査が終わると告げられたあとで、それでも続きを求めている。

 

「軍の調査としては、ここまでです」

 

 リュイスも地図の西側へ目を移した。

 

「十年以上前になると、残っている記録そのものがかなり少なくなります。あなたがどの道を通っていたのかも分からない。今ある手掛かりだけで範囲を広げ続けるのは難しいです」

 

「見つからないだけか」

 

「そうです。十年前より前に何もなかった、という意味ではありません。今のところ、そこへ辿るための記録が見つかっていないだけです」

 

 宿無しは返事をせず、印が途切れた先を見ていた。

 

「十年前の町へ来る前のことは、何か思い出せそうですか?」

 

 しばらく考えたあと、宿無しは答えた。

 

「……分からない」

 

「今までと同じかもしれません」

 

 地名や年代だけを示して、宿無しが自分から過去を思い出したことはなかった。商隊、熊、崩れた街道。具体的な出来事が見つかって初めて、それを手掛かりに記憶が繋がっている。

 

「何か具体的な出来事が分かれば、それをきっかけに思い出すかもしれません。ですが、十年前より前については、その手掛かり自体がまだないんです」

 

「ああ」

 

 そう答えても、宿無しは立ち上がろうとしなかった。

 

 リュイスは急かさずに待った。

 

 調査を始めた頃なら、説明が終わればそれで席を立っていただろう。尋ねられたことには答えても、自分から続きを求めることはなかった。

 

 今は、地図の上に並んだ印を見ながら、その途切れた先へ視線を向けている。

 

 やがて宿無しが顔を上げた。

 

「リュイス」

 

「はい」

 

「俺は、どこから来た?」

 

 答えられる問いではなかった。

 

 リュイスは少し間を置いてから首を振った。

 

「それは、今回の調査では分かりませんでした」

 

「そうか」

 

 短い返事はいつもと同じだったが、宿無しの視線はもう一度地図へ戻った。

 

 ラモンドも何も付け加えず、その様子を見ていた。

 

 しばらくして宿無しは席を立った。

 

「今のところ、俺たちから言えるのはそこまでだ」

 

 ラモンドが告げる。

 

「ルーヴでの反応については別に扱うことになる。何か決まれば連絡する」

 

「ああ」

 

 宿無しはそれだけ答え、部屋を出ていった。

 

 扉が閉まったあと、リュイスはしばらく地図を見たままにしていた。

 

「……こっちは残りましたね」

 

 リュイスが言うと、ラモンドも何を指しているのか分かったらしい。

 

「ああ。身元調査とは分けて上へ出す」

 

 それだけ告げると、ラモンドは閉じていた報告書をリュイスの方へ戻した。

 

「明日まとめろ」

 

「分かりました」

 

 リュイスは地図を畳んだ。

 

 宿無しの過去を辿る仕事は、そこで終わった。

 

 




《旅人のレザーブーツ》
厚くなめした革を縫い合わせて作られた、丈夫な長靴。

街道の石や泥、森の根から足を守るため、 底は厚く、傷めば革を継ぎ足して使われる。

長い旅では、剣より先に靴が駄目になることも珍しくない。
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