境界記録帯(ゴーストライナー)×ストーンワールド 作:ターミナル カフェ
・本作品は『Fate/Grand Order』×『Dr.STONE』のクロスオーバー二次創作です。
・原作には存在しないオリジナルキャラクター、オリジナル設定が登場します。
・原作キャラクターの設定や関係性に、独自解釈・改変があります。
・原作とは異なる歴史、展開、世界観が存在します。
・読みやすさや文章表現の統一を目的として、既存話の文章・構成を一部改稿しています。そのため、以前公開していた内容と表現や描写が異なる場合があります。
・今後の展開によっては、複数のFateシリーズ作品および関連作品の設定を扱う予定です。
以上の点をご了承いただいた上で、お楽しみください。
第十三話「電来の発明家たち」
【涼音side】
千空先輩が「発電所を作る」と言い出してから、科学王国の空気は一気に慌ただしくなった。昨日まで鉄を作るだけでも村中を巻き込む大仕事だったはずなのに、本人はそんな苦労を忘れたような顔でクロムの倉庫を漁り、使えそうな石や金属を次々と外へ運び出している。私とお兄ちゃんも手伝っていたけれど、正直なところ、三千七百年後の世界で「発電所」という単語を聞いていること自体がまだ現実離れしていた。
「千空先輩、本当に作れるんですか?」
「作れるかじゃねぇ。作るんだよ」
「相変わらず答えになってないですね」
「必要なモンは大体揃ってる。鉄もある。自然銅もクロムが集めてやがった。あとは強力な磁石さえ作れりゃ、次へ進める」
千空先輩はそう言いながら、倉庫の奥から材料を引っ張り出していく。その横ではクロムが「俺のコレクションが文明を進める!」と妙に誇らしげで、ゲンは少し離れた場所から半信半疑の顔をして眺めていた。
「で、その強力な磁石ってどうするわけ?」
「雷だ」
「……はい?」
思わず私とゲンの声が重なった。
「雷の力を使う。条件さえ揃えば、一気に磁力を持たせられる」
「いや千空ちゃん、それ天気次第でしょ? 今日ピンポイントで雷なんて――」
ゲンが言い終えるより早く、遠くで低い音が鳴った。全員が同時に空を見上げる。さっきまで薄雲しかなかった空の一角が急激に暗くなり、風が木々を大きく揺らし始めていた。続いて、空の向こうで白い光が走る。
「……来ましたね」
「来たねぇ……最悪のタイミングで」
ゲンが頬を引きつらせる一方で、千空先輩の目だけが完全に科学者のそれへ変わった。
「最高のタイミングじゃねぇか。全員動け! この雷逃したら次がいつ来るか分かんねぇぞ!」
そこからは本当に戦争みたいな騒ぎだった。千空先輩が指示を飛ばし、クロムとコハクが準備を進め、お兄ちゃんも運搬を手伝う。私も何かしようとした時、村の入り口の方から荒っぽい声が聞こえてきた。ゲンの顔から一瞬で軽さが消える。
「……マグマちゃんだ。今来られるとドイヒーね」
「邪魔されるとまずい?」
「ジーマーでまずい。千空ちゃんたちは雷追いかけるので手一杯でしょ」
なら、やることは一つだ。私とゲンは顔を見合わせ、そのまま村の入口へ向かった。
マグマと呼ばれる男は、遠目から見ても分かるほど大柄だった。腕を組んでこちらを睨みつけ、科学王国が何をしているのか確かめようとしているらしい。正面から力で止めるなんて私には無理だし、今のフェイト・レプリカントを自分の意思で使える保証もない。
「ゲン、どうする?」
「力で勝てないなら、相手に勝手に止まってもらえばいいのよ」
「なるほど。いつものやつだ」
「いつものって何かなぁ?」
口ではそう言いながら、ゲンはもう笑顔を作っていた。そこから先は、メンタリストの独壇場だった。千空たちが山で何をしているのかをわざと曖昧にし、今近づけば危険な“科学の儀式”に巻き込まれるかもしれないと匂わせる。私は横で話を合わせ、時々わざと空を見上げて意味深な顔をする。
「今行くなら止めませんよ?」
「ただ、何が起きても私たちは責任取れませんけど」
「……何をしやがった、お前ら」
「さあ? 知りたいなら自分で確かめれば?」
少し挑発的に笑うと、マグマの足が止まった。完全に信じたわけではない。それでも、空で鳴り続ける雷と、ゲンの大げさな演技が合わさって、警戒させるには十分だった。しばらく睨み合ったあと、マグマは舌打ちしながら引き返していく。
「……成功?」
「成功成功。涼音ちゃん、笑顔で脅すの地味にバイヤーだねぇ」
「褒めてる?」
「半分くらい」
気が抜けたのも一瞬だけだった。山の方を見ると、さっきまで空を覆っていた黒雲が急速に薄くなり始めている。雷鳴の間隔も長くなっていた。
「まずい……」
胸の奥が冷える。千空先輩たちは、雷が落ちやすい場所へ装置を運んでいるはずだ。でも、自然現象は待ってくれない。このまま雷雲が消えたら、全部やり直しになる。次に雷が来るのが明日なのか、一週間後なのか、それとももっと先なのか、誰にも分からない。
(もし、間に合わなかったら)
足が止まりそうになった、その時だった。
『天才と努力家に、大した差などない。最後に残るのは――進むか、止まるかだ』
「……え?」
知らない声だった。なのに、なぜか懐かしい。頭の奥に直接響くような、力強く、どこか芝居がかった声。
『そうだろう、■■■・テスラ?』
別の声が笑った。
『フッ。珍しく意見が一致したな。だから涼音よ、恐怖を恥じる必要はない。足が震えていようと、一歩前へ出れば――』
胸の奥にあった不安が、少しずつ熱へ変わっていく。誰なのか分からない。何を思い出しかけているのかも分からない。それでも、その言葉だけは不思議なくらい信じられた。
「……それは?」
『『偉大な一歩だ!』』
私は顔を上げた。雷雲はまだ完全には消えていない。なら、まだ終わっていない。
「ゲン、先に行って!」
「涼音ちゃん?」
「まだ間に合う。だから――私も行く!」
走り出しながら、私は自分の胸に向かって叫んだ。
「力を貸して! 人類に電気を授けた発明家たち! 私に前へ進む勇気をくれた人たち――!」
腕輪が強い光を放つ。
《英霊反応――二騎を感知》
《適合条件を照合。雷電、発明、文明進展》
《現状に最適な霊基を選定》
《照合完了。“現代の雷神”――ニコラ・テスラ》
《フェイト・レプリカント、暫定リンク開始》
身体の奥を、熱とも痺れとも違う何かが駆け抜けた。怖い。前回と同じように意識を失うかもしれない。それでも今回は、自分から手を伸ばす。
「我が声を標に、我が意志を回路に。記録の彼方に眠る発明家よ――人の手で雷を掴み、闇へ光をもたらした者よ!」
右手を空へ掲げる。
「今だけ、その知恵と、その勇気を貸して!」
《リンク確立》
【千空side】
雷雲が薄くなってやがる。最悪だ。山の上まで装置を運び終えた頃には、雷鳴の数が目に見えて減っていた。だがゼロじゃねぇなら可能性は残ってる。自然相手に文句垂れても一ミリも状況は変わらねぇ。
「来い……あと一発でいい」
空を睨んだ、その時だった。
「フハハハハ! 見よ、この偉業を! 今こそ神の雷を、人類の手へ!」
「……あ゛ぁ?」
聞き覚えのある声が空から降ってきた。見上げる。そこにいたのは涼音――のはずだ。
まず、飛んでいる時点で意味が分からねぇ。次に服装が変わっている。現代の礼装とも新選組の格好とも違う、妙に派手で機械的な装飾。そして決定的なのが、全身の周囲で暴れ回る青白い放電だ。普通の人間なら近づくことすら危ねぇレベルの電気現象をまといながら、本人はむしろ楽しそうに笑っている。
「またかよ……!」
達人が頭を抱える。
「ククク。笑えてくるわ。今度は雷人間か」
理屈は後だ。あれが涼音の中にある英霊とやらなら、今使える現象は利用する。
「涼音! 狙う場所は分かってんだろうな!」
空中の涼音が、こちらを見下ろして口元を大きく吊り上げた。
「当然だとも! 人類が積み重ねた科学の道標、この私が見誤るものか!」
「完全に別人じゃねぇか!」
達人の叫びを無視して、涼音――いや、そいつは両手の間へ眩い電光を集中させる。周囲の空気が震え、残っていた雷雲が低く唸った。
「刮目せよ!」
その声と同時に、雲の奥で白い光が走る。
「神の雷霆は此処に在る。人が恐れた天の光を、人が進むための力へ変えよう!」
そして、空へ手を掲げた。
「『人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)』――!」
次の瞬間、視界が真っ白に染まった。
落雷。いや、さっきまでの自然雷とは規模が違う。凄まじい閃光が千空たちの用意した雷受けへ吸い込まれ、地面そのものが低く震えたように感じる。衝撃がおさまるまで数秒。煙の向こうに残ったのは、狙い通り強い磁力を帯びた鉄だった。
「……ククク」
思わず笑いが漏れる。
「やりやがった」
空から降りてきた涼音の身体から光が消え、そのままふらりと傾く。達人が慌てて駆け寄り、倒れる前に抱き止めた。
「涼音!」
「……あれ? 私、また何かやった?」
「また覚えてねぇのかよ!」
ゲンまで遅れて山へ辿り着き、磁石と涼音を交互に見ながら乾いた笑いを浮かべる。
「いやぁ……科学王国、想像以上にバイヤーなメンバー揃ってるねぇ」
だが、これで一つ目の壁は越えた。雷そのものを人間が作ったわけじゃねぇ。英霊とやらが最後に一押ししたとしても、狙った現象を受け止め、次の文明へ繋げる準備をしたのは人間の科学だ。
強力な磁石は手に入った。
次は――発電機。
三千七百年の闇を終わらせるための、本当の科学の灯まであと少しだ。
第十三話 了