境界記録帯(ゴーストライナー)×ストーンワールド 作:ターミナル カフェ
・本作品は『Fate/Grand Order』×『Dr.STONE』のクロスオーバー二次創作です。
・原作には存在しないオリジナルキャラクター、オリジナル設定が登場します。
・原作キャラクターの設定や関係性に独自解釈・改変があります。
・原作とは異なる歴史、展開、世界観が存在します。
・今後の展開によっては、複数のFateシリーズ作品および関連作品の設定を扱う予定です。
以上の点をご了承いただいた上で、お楽しみください。
第七話「星の導き」
【達人side】
レフが消えたあと、森には言葉にしづらい重さだけが残っていた。南米へ行け。まずはイシガミ村で“科学使い”を探せ。両親は石化現象を調べ、俺たちを未来へ逃がした――短時間に詰め込まれた情報が多すぎて、頭の中でまだ整理できていない。
涼音も黙ったまま、レフが消えた場所を見ていた。いつもなら何かしら言葉を出す妹が静かなのを見ると、余計に現実味が増す。
その時、俺たちの腕輪が同時に光った。
「なんだ?」
「お兄ちゃん、これ――」
空中にホログラムが展開され、白い光が丸い輪郭を作る。やがて現れたのは、小型犬ともリスともつかない、白くてもふもふした生き物だった。宙に浮いたまま、こちらをじっと見ている。
「フォウ」
可愛らしい鳴き声と同時に、字幕が浮かんだ。
《やっと起動しました。遅いですよ、あなたたち》
「……は?」
見た目と態度の差がすごい。
《第一印象:思っていたより頼りなさそうです》
「初対面でそれ言う!?」
涼音が堪えきれず吹き出した。
「かわいい……」
「フォウ」
《涼音は問題ありません。達人は要努力》
「なんで俺だけ減点方式なんだよ!」
フォウと名乗るらしいナビゲーターは、尻尾を機嫌よさそうに揺らした。どうやらレフが言っていたサポーターはこいつらしい。見た目は完全に小動物だが、腕輪と連動したAIのような存在で、俺たちの現在位置や装備情報まで把握している。
「で、レフが言ってた南米は?」
「フォウ」
《焦らない。現在位置、日本。第一目的地、イシガミ村》
空中に日本地図が表示され、山間部の一点が光った。
《そこに“科学使い”がいます。その人物と会わなければ、南米へ向かう前に旅が破綻します》
「破綻って言い方怖いな」
《特に達人は迷子になる可能性が高いため、勝手に行動しないでください》
「俺そんなに信用ない!?」
「お兄ちゃん、方向音痴だもんね」
「お前まで乗るな」
重苦しかった空気が、ほんの少しだけ軽くなった。レフがこいつを残した理由が分かった気がする。案内だけじゃない。俺たちが立ち止まらないように、無理やりでも前を向かせるためなのかもしれない。
地面へ光の矢印が伸びる。フォウは先頭へ飛び、当然のように進み始めた。
【涼音side】
森の中をしばらく歩くと、地形が急に変わった。木々が途切れた先に、深い谷が口を開けている。谷底までは十数メートル以上。向こう岸へ渡るための道らしいものは、飛び石のように並ぶ岩だけだった。
「……これ、道って言っていいの?」
「フォウ」
《これを渡らないと目的地へ近づけません。推奨、一人ずつ慎重に》
「橋は?」
《ありません》
「文明滅んだの実感するな……」
お兄ちゃんが谷を覗き込み、嫌そうな顔をする。岩は一つ一つ離れているうえ、表面にひびが入っているものまである。
「私が先に行くよ。身軽さなら私の方が上だし」
「いや、俺が行く」
「お兄ちゃんの方が体重あるでしょ。落ちたら岩ごといくよ?」
「妹を先に危ない道へ行かせる兄がどこにいる」
「ここに、過保護な兄ならいる」
「うるさい」
結局、お兄ちゃんが先に進むことになった。一歩ずつ体重を移し、次の岩へ渡っていく。最初の数個は安定していた。フォウくんも何も言わない。このまま行けるかもしれない――そう思ったのは、中間地点へ差しかかった時だった。
ぐらり、と岩が傾く。
「お兄ちゃん!」
【達人side】
足元が崩れた、と理解するより先に身体が動いた。傾いた岩を蹴り、隣へ跳ぶ。ところが着地した岩まで嫌な音を立て、連鎖するように崩れ始める。
(やばい、どこへ――)
谷底を見るな。次の足場を探せ。頭では分かっているのに、視線が揺れる。その瞬間、聞いたことのない声が頭の奥へ叩き込まれた。
『足を止めるな! 踏む場所ではなく、離れる先を見ろ!』
暑苦しいほど力強い声。視界に一瞬だけ、灼熱の陽射しの下で盾と槍を構える大男の姿が重なる。
『考えてから動くな。動きながら次を決めろ!』
誰だ。なぜ知っている。そんな疑問より先に、身体が言葉へ従った。崩れる岩ではなく、その向こうの安定した足場だけを見る。右、左、前。着地と同時に次を選び、最後の岩から大きく跳んだ。
「っ……ぐ!」
対岸の土へ転がり込む。背中を強く打ったが、落ちてはいない。
「お兄ちゃん! 大丈夫!?」
「なんとか……!」
振り返ると、今まで渡ってきた岩が谷底へ落ちていく。数秒遅れていたら、俺も一緒だった。
「フォウ」
《別ルートを検索します。涼音はその場から動かないでください》
フォウが淡々と指示を出す中、俺は胸の鼓動を落ち着かせようとした。さっきの声は何だった。夢じゃない。身体には、あの言葉通りに動いた感覚が残っている。
槍。盾。赤いマント。焼けるような太陽。
昔から時々見る、俺のものではない記憶と同じ感覚だった。
少し離れた場所で、偶然倒木が谷の両岸に架かっている場所が見つかった。涼音はフォウの指示通り慎重に渡り、ようやくこちら側へ合流する。
「怪我してない?」
「背中打ったくらい。平気」
「本当に?」
「お前こそ、心配しすぎだろ」
「誰のせいだと思ってんの」
言い返せない。
歩き出そうとした時、フォウが俺の顔の前へ回り込んだ。
「フォウ」
《達人。先ほど、何かありましたか》
「……何かって?」
《身体能力だけでは説明しづらい動作を確認しました》
一瞬、さっきの大男の声を話そうかと思った。でも言葉にすれば、また何かが変わってしまう気がした。
「いや。たまたま身体が動いただけだ」
《……そうですか》
フォウはそれ以上追及しなかった。ただ、その目は明らかに何かを知っている。
地面に再び光の矢印が伸びる。俺たちはイシガミ村へ向けて歩き出した。
頭の奥には、まだ知らない誰かの声が残っている。
そして俺はまだ知らなかった。あの一瞬の動きが、これから何度も向き合うことになる“英霊の力”の最初の兆候だったことを。
森を歩きながら、俺は何度か自分の手を開いたり握ったりした。谷で動いた時の感覚はもう薄れているのに、身体の奥だけが「できる」と覚えている。自分のものではない技術が、自分の身体に馴染んでいる。その事実は頼もしいより先に気味が悪かった。それでも、次に涼音を守るため必要になるなら、無視するわけにもいかない。
涼音の背中を見ながら、俺はもう一度だけ拳を握った。怖くても、正体が分からなくても、使えるものなら知るしかない。守ると決めた約束を、今度こそ口だけにはしたくなかった。
フォウは何も言わず先を進んでいるが、ときどきこちらを振り返っていた。さっきの出来事を記録しているのか、それとも俺が話す気になるのを待っているのかは分からない。少なくとも、あいつはあの声の正体について何か知っている。それだけは確かだった。
知らない力を持っていることより怖いのは、自分だけがその理由を知らないことだ。それでも、谷を越えられたのは紛れもなくその力のおかげだった。拒絶するだけでは前へ進めない。なら、次は正体を知る。使うかどうかを決めるのは、そのあとだ。そう順番をつけると、少しだけ頭の中が整理された。
少し先を歩いていた涼音が振り返り、俺が黙り込んでいるのを見て眉を寄せた。何か言おうとして、結局何も聞かずに歩調だけを少し落とす。そういうところは昔から変わらない。俺が話したくなるまで待つつもりなのだろう。だからこそ、いつかは自分から話さなければならないとも思った。
第七話 了
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回はナビゲーター役となるフォウが本格的に登場しました。
そして達人の中でも、封印されていた英霊の力が少しずつ反応し始めています。
本人にはまだ分からない技術や感覚が、身体だけには残っている。
これが今後、達人にとって大きな意味を持つことになります。
次回もよろしくお願いします。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。