妖怪恋愛都市 〜怪異めいた美女たちに愛されすぎて帰れないハーレム生活〜   作:ガイコツ番付

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第三夜「私、綺麗?」⑤ 部屋

十五章 昨日の路地

 

定時。

私はゆっくり立ち上がった。

間宮「帰れ」

##「はい、行ってきます」

間宮「だから帰れ」

##「呼ばれたので」

間宮「最悪の方向にまっすぐだな」

##「自分、不器用ですから」

スマホが震えた。

けまり

「お仕事、終わりましたか」

私は少しだけ指を止めた。

##

「少しだけ遅くなります」

嘘は、ついてないよな。

私はスマホをしまった。

もう、足は繁華街へ向いていた。

 

十六章 口で答えなさい

 

夕方の空は、赤い。

まるで繁華街のネオンが、先に空まで染み出しているみたいだった。

そして私は、また繁華街へ向かった。

二日連続。

普段ならあまり近づかない場所。

なのに今日は、昨日より足取りが軽い。

##「……いや、軽いな」

##「まずいな」

##「怖い女王様に呼ばれて嬉しくなってるな」

ネオンが近づく。

客引きの声。

酒の匂い。

細い路地。

昨日、あの男が壊れた場所の近く。

私は喉を鳴らした。

##「……怖い」

##「でも、来ちゃった」

その時、背後から声。

紅子「正直ね」

##「ひゃいっ」

振り向くと、赤いコート。

黒いマスク。

昨日と同じ目が、私を見ていた。

紅子「逃げずに来たのね」

##「逃げ足には自信ありますけど」

##「今日は、逃げずに来ました」

紅子「そう」

紅子さんは、少しだけ目を細める。

紅子「じゃあ、答えなさい」

一歩、近づく。

紅子「私、綺麗?」

私は息を止めた。

昨日より近い。

昨日より怖い。

でも、昨日より目が離せなかった。

##「き、きれいですうううう」

紅子「……キモいわ」

##「すみません!」

紅子「もっと落ち着いて言えないの?」

##「綺麗です……」

紅子「震えてる」

##「怖いので……」

紅子「でも、目は逸らさないのね」

##「逸らしたくないので……」

紅子さんが、ゆっくり近づく。

赤いコートの裾が、ネオンの光を吸っている。

紅子「嘘はない」

紅子「下心はある」

##「ひい」

紅子「でも、悪意はない」

##「そ、それはありません!」

紅子「知ってるわ」

紅子さんは、ほんの少しだけ笑った。

紅子「あなたみたいなの、初めて」

##「褒められてます?」

紅子「気味悪がってる」

##「ですよね!」

紅子「でも」

紅子「退屈はしない」

彼女の指が、私のネクタイに触れた。

紅子「じゃあ、次の質問」

##「は、はい」

紅子「私が怖い?」

##「怖いです」

紅子「怖いのに、来たの?」

##「来ました」

紅子「どうして?」

##「……怖いのに、綺麗だったからです」

紅子「……正直でよろしい」

##「あ、ヤバいぃ」

紅子「何が?」

##「今、ちょっと、戻れない扉が開いた音がしました」

紅子「大げさね」

##「でも本当にヤバいです」

紅子「何がヤバいの」

紅子さんの指が、ネクタイを軽く引く。

逃げられない。

##「怖いです」

紅子「うん」

##「綺麗です」

紅子「うん」

##「あと、なんか」

##「めちゃくちゃ性癖に悪いです」

紅子「……最低な褒め方」

##「すみません!」

紅子「でも、嘘じゃない」

##「嘘じゃないです……」

紅子さんは、少し楽しそうに目を細めた。

紅子「じゃあ」

紅子「少し、ご褒美あげる」

##「あ、あ、あーーー……」

紅子「逃げる?」

##「……逃げません」

紅子「けまりに怒られるわよ」

##「怒られます……」

紅子「それでも?」

##「……はい」

紅子「正直でよろしい」

 

十七章 部屋

 

赤いコートの裾が、夜の路地で揺れた。

紅子「来なさい」

紅子「今日は、逃げ足じゃなくて」

紅子「本音を見せてもらうわ」

案内されたのは、繁華街の奥にある小さなバーの個室だった。

赤い照明。

黒いソファ。

壁には飾り物みたいに、細い鞭と、古びた燭台。

本物なのか、店の雰囲気作りなのか分からない。

##「……あの」

##「ここ、ジャンル強くないですか?」

紅子「好きなんでしょう?」

##「怖いです」

紅子「でも、目が逃げてない」

##「逃げたいけど、見たいです……」

紅子「正直ね」

紅子さんは、コートを脱がないまま、私の前に立った。

紅子「跪いて」

##「えっ」

私はぎこちなく膝をついた。

##「あ、あの、これ」

##「俺、大丈夫なやつですか?」

紅子「あなた次第ね」

紅子さんは、壁に掛けられた鞭を指先で撫でた。

紅子「これ、飾りだと思う?」

##「思いたいです」

紅子「残念」

細い鞭が壁から外される。

軽く振られただけなのに、空気が鋭く鳴った。

##「本物だあああ!」

紅子「鞭、好き?」

##「こ、怖いです!」

紅子「質問に答えなさい」

##「た、多分、好きです!」

紅子「蝋燭は?」

##「それも怖いです!」

紅子「好きか、嫌いか」

##「怖い女の人が持ってるなら、好きかもしれません!」

紅子「本当に、性癖に素直な男ね」

黒いマスクの奥で、紅子さんの目が細くなる。

紅子「では、もう一つ」

鞭の先が、私の顎をそっと持ち上げた。

紅子「怖い女に、上から見下ろされるのは?」

##「好きです……」

紅子「逃げられないようにされるのは?」

##「好きです……!」

紅子「椅子にされるのは?」

##「えっ」

紅子「口で答えなさい」

##「そ、それはまだ、質問の意味が――」

紅子「横になって」

##「展開が早いです!」

促されるまま、私は黒いソファに背中をつけた。

赤い照明の下、紅子さんが私を見下ろしている。

赤いコートを脱がないまま、彼女は私の頭の両側に膝をついた。

##「あの」

紅子「なに?」

##「距離が近いです」

紅子「怖い?」

##「怖いです!」

紅子「嫌?」

##「……嫌じゃないです!」

紅子「正直でよろしい」

赤いコートの裾が、私の頬の両側へ落ちた。

視界が、赤と黒に包まれる。

そして、紅子さんの身体がゆっくりと下りてきた。

##「えっ、待って、これ――」

次の瞬間。

私の視界が、完全に塞がった。

##「むぐっ!?」

紅子「静かに」

##「顔が!」

##「大変でずーーー!」

紅子「まだ喋れるの?」

乾いた音が鳴った。

鞭の先が、シャツ越しに私の胸元を軽く弾く。

##「鞭まで来たあああ!」

##「情報量が多すぎますーーー!」

紅子「では、一つだけ覚えなさい」

もう一度、鞭が鳴る。

紅子「今、あなたの上にいるのは誰?」

##「紅子さんですーーー!」

紅子「違う」

鞭の影が、赤い壁を走った。

##「紅子さまですーーー!」

紅子「聞こえない」

##「紅子さまああああ!」

紅子「よくできました」

上から降ってくる声が、ひどく楽しそうに笑った。

紅子「今夜は、何度でも正直に答えさせてあげる」

紅子「私の名前しか、言えなくなるまでね」

##「あ、あ、あーーー!」

##「ご褒美の圧が強すぎますーーー!」

紅子「うるさい豚さん」

##「ぶ、ぶひーーーーーー!」

乾いた鞭の音。

赤い照明。

黒いマスクの女王様。

そして、何度叫んでも塞がれてしまう私の声。

夜はそのまま、赤と黒の向こうへ消えた。

 

十八章 おはよう、豚さん

 

翌朝。

私は、赤い天井を見上げていた。

##「……ぶひい」

横から、艶のある声。

紅子「あら、人間やめたのね」

##「紅子さま……」

言ってから、私は固まった。

##「あっ」

紅子「……ふふ」

紅子さんは、いつの間にか黒いマスクをつけ直していた。

その奥で、愉快そうに目を細める。

紅子「ほら」

紅子「呼ばずにいられなくなった」

紅子「おはよう、豚さん」

##「その呼び方、朝に聞くと破壊力すごいですね……」

紅子「嫌?」

##「……嫌じゃないです」

紅子「正直でよろしい」

昨日の記憶は、赤い照明と、乾いた鞭の音と、上から降ってくる紅子さまの声と、何度も赤と黒に塞がれた視界でできている。

##「俺、昨日……失礼なこと言ってませんでした?」

紅子「たくさん」

##「ひい」

紅子「でも、嘘は少なかったわ」

 

十九章 正直に帰りなさい

 

その時、スマホが震えた。

画面には、差出人不明。

ではなかった。

けまりちゃんだ。

血の気が引いた。

『おはようございます』

『帰ってきてません』

『どこですか?』

##「……終わった」

紅子「始まった、の間違いじゃない?」

##「紅子さま、朝から煽らないでください!」

紅子「もう自然に呼んでるわね」

##「あっ」

私は慌てて起き上がった。

##「で、出ます!」

紅子「逃げるの?」

##「社会的に死ぬ前に帰ります!」

紅子「けまりに怒られるのは、もう確定でしょう」

##「確定演出やめてください!」

けまり

『どこですか?』

『紅子さんといますか?』

『返事してください』

##「……」

##「紅子さま」

紅子「なに」

##「俺、今から帰ったらどうなりますか」

紅子「知らないわ」

紅子「でも」

紅子さんは赤いコートを羽織り、黒いマスクの奥で目を細めた。

紅子「嘘をついたら、もっと悪くなるでしょうね」

##「ですよね!」

紅子「正直に言いなさい」

紅子「あなた、そこだけは綺麗なんだから」

##「……それ、褒めてます?」

紅子「少しだけ」

私は靴を履き、ドアの前で振り返った。

##「あの」

紅子「なに」

##「昨日は……ありがとうございました」

紅子「礼を言うの?」

##「怖かったけど」

##「楽しかったです」

紅子「……本当に変な男」

紅子さんは小さく笑った。

少しだけ楽しそうだった。

紅子「行きなさい」

紅子「そして怒られてきなさい、豚さん」

##「あ、朝からその呼び方ーーー!」

私は部屋を飛び出した。

朝の空気は冷たかった。

でも、それより冷たいものが、きっと家で待っている。

##「……今度こそ、本当に命が危ないかも」

私は走った。

逃げるためじゃない。

帰るために。

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