妖怪恋愛都市 〜怪異めいた美女たちに愛されすぎて帰れないハーレム生活〜   作:ガイコツ番付

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第三夜「私、綺麗?」⑥ 帰る場所

二十章 正直に帰ろう

 

私は朝の繁華街を走りながら、けまりちゃんに返信した。

##

『ごめんなさい』

『紅子さんといました』

『今から帰ります』

送信。

既読。

返事はない。

##「……これ、人生で一番怖い既読だ」

しばらくして、スマホが震えた。

けまり

『帰ってきてください』

『話があります』

##「……はい」

朝の繁華街は、昨夜の赤い光が嘘みたいに薄かった。

それでも耳元には、紅子さんの声が残っている。

『嘘をついたら、分かるわよ』

##「……正直に帰ろう」

怒られるのは怖い。

けれど、逃げてはいけない。

私はけまりちゃんの家へ急いだ。

 

二十一章 帰ってくる場所

 

けまりちゃんの家の玄関前。

私は、鍵を開ける前に深呼吸した。

がちゃり。

リビングの明かりはついていた。

けまりちゃんが、座って待っている。

大きい。

静か。

怖い。

##「……ただいま」

けまり「おかえりなさい」

声は優しい。

でも、目は笑っていなかった。

怒っている。

それは分かる。

けれど、その奥にあるのは怒りだけではなかった。

また帰ってこなかった。

また、自分の知らない女性のところへ行った。

知らない匂いをつけて戻ってきた。

それが彼女には、ただの浮気よりも怖いのかもしれない。

##「……ごめんなさい」

けまり「紅子さんと、いましたか」

##「いました」

けまり「大人なことを、しましたか」

##「……しました」

けまり「かなり?」

##「……激しめ、かも」

けまりちゃんは目を伏せた。

けまり「そうですか」

沈黙。

私は床を見た。

##「でも、嘘はつきません」

##「紅子さまにも、そう言われて――」

けまり「……紅子さま?」

##「あっ」

空気が、ぴしりと固まった。

##「あ、いや、違うんです!」

##「違わないけど、違うというか!」

##「言わずにいられなくされたというか!」

けまり「……」

けまりちゃんが、ゆっくり立ち上がる。

##「ひい」

けまり「あなたが帰ってくる場所は、どこですか」

##「ここです」

けまり「誰のところですか」

##「けまりちゃんのところです」

けまり「……本当に?」

##「本当です」

けまりちゃんは近づき、大きな手で私の頬に触れた。

けまり「そこを分かっているのは、えらいです」

##「は、はい……」

けまり「それから」

##「はい」

けまり「帰らない時は、ちゃんと連絡してください」

けまり「待っているのは、怖いです」

##「……ごめんなさい」

##「次は、ちゃんと言います」

けまり「でも」

けまり「その呼び方は、少しだめです」

##「紅子さま?」

けまり「……」

##「あっ、また言った」

けまり「もう一回、言いましたね」

##「ご、ごめんなさい!」

けまり「染まるの、早すぎます」

##「染まったつもりは……」

けまり「ありますね?」

##「あります……」

けまりちゃんは私の頬を包んだまま、顔を近づけた。

けまり「紅子さんは怖くて」

けまり「綺麗で」

けまり「本音を聞き出すのが上手です」

##「……はい」

けまり「でも」

けまり「あなたが帰ってきた時に、最初に呼ぶ名前は」

けまり「私の名前がいいです」

胸が痛くなるほど、静かな声だった。

##「……けまりちゃん」

けまり「はい」

##「ただいま」

けまりちゃんの目が、少しだけ揺れた。

けまり「……おかえりなさい」

大きな腕が、私をゆっくり包む。

怒っている。

嫉妬もしている。

でも、それ以上に寂しかったのだと分かる抱き方だった。

そのまま私は軽々と抱え上げられ、けまりちゃんの膝の上に収められた。

##「うわ、軽々!」

けまり「力持ちなので……」

##「その理屈、怖いです!」

けまり「紅子さんの名前は、しばらく禁止です」

##「はい」

けまり「呼ぶなら」

けまり「私の名前にしてください」

##「けまりちゃん」

けまり「はい」

けまりちゃんは、ようやく少し笑った。

ただし、腕の力は緩まない。

けまり「……血みたいな、赤い匂いがします」

##「血の匂い!?」

けまり「いえ、紅子さんの匂いです」

##「香水かな……」

けまり「……少し、嫌です」

あまりにも素直な声で、私は何も言えなくなった。

けまり「でも」

けまり「あなたがちゃんと帰ってきたので」

けまり「怒りすぎません」

##「けまりちゃん……」

けまり「ただ」

大きな手が、私の背中に回る。

けまり「今日は、少しだけ」

けまり「私の匂いに戻します」

##「あ、あの」

けまりちゃんは私をソファへ押し倒した。

そのまま、私の顔の両側へ大きな膝をつく。

##「えっ」

見上げると、けまりちゃんが私の上で静かに微笑んでいた。

##「この構図、昨日も見た気がします!」

けまり「昨日のは、紅子さんです」

けまり「今は、私です」

白い服の裾が落ちてきて、私の視界を包み込む。

直後、巨大な身体の重みが、ゆっくりと私の顔へ預けられた。

##「むぐっ!?」

頬が両側から押し潰され、私の顔が自分でも分かるほど、むにっと横へ広がる。

ソファの奥から、ミシ、ミシ、と嫌な音がした。

##「いまミシミシいってるの、ソファですよね!?」

##「私の頭蓋骨じゃないですよねーーー!?」

けまり「大丈夫です」

##「何がですかーーー!?」

けまり「壊れないくらいにしています」

##「壊れる基準で体重かけてるーーー!」

けまり「でも、まだ紅子さんの匂いがします」

さらに少しだけ、重みが増した。

##「増えたーーー!」

##「顔の形ごと上書きされますーーー!」

紅子さんの残り香が、けまりちゃんの甘い匂いに塗り替えられていく。

けまり「では、帰ってきた時に呼ぶ名前は?」

##「けまりちゃーーーん!」

けまり「はい」

けまり「おかえりなさい」

大きな白い身体に包まれたまま、私はなすがままになっていた。

その朝は、会社へ行くまでの時間が少しだけ長くなった。

少しだけだめで。

少しだけ甘くて。

かなり、逃げられなかった。

 

二十二章 冷たい女

 

数十分後。

##「遅刻するーーー!」

けまり「走れば間に合います」

##「俺の走力をこういう時に使うの!?」

けまり「得意なんですよね?」

##「さっきまで離してくれなかった人が言うセリフじゃないです!」

けまりちゃんは玄関で、乱れた私のネクタイを直した。

けまり「いってらっしゃい」

##「いってきます!」

けまり「今日は」

けまり「どんな怖い人がいても」

けまり「近づいちゃだめです」

##「はい!」

私は駅まで全力で走った。

##「はっ、はっ、はっ……!」

##「趣味で鍛えた足が、出勤で活きる……!」

改札を抜けた瞬間、スマホが震えた。

差出人不明。

『おはよう、豚さん』

##「朝から強い!」

続けて、もう一通。

『逃げ足だけは、本当に綺麗ね』

##「褒められてる……?」

さらに、もう一通。

『でも、冷たい女には気をつけなさい』

##「冷たい女?」

『市立図書館の奥』

『閉館後に、吐く息が白くなる場所』

『白い髪の女を見ても』

『あまり熱っぽい顔をしないことね』

##「……」

##「図書館?」

##「冷房壊れてんのかな……」

スマホがまた震える。

けまり

『電車、間に合いましたか?』

##

『間に合いました』

けまり

『紅子さんから連絡、来てませんよね?』

##「……」

##

『来てません』

送信。

既読。

長い沈黙。

続いて、差出人不明の通知。

『嘘、下手ね』

##「ぐ、ぐさり……!」

ホームに電車が滑り込んできた。

その時、柱の反対側から男たちの話し声が聞こえた。

一人は、大きなカメラバッグを肩にかけている。

カメラマンらしき男「今度の撮影、市立図書館なんだよ」

知人「閉館後の奥はやめとけ」

カメラマンらしき男「白い髪の女の噂?」

知人「約束を破ると、帰れないらしい」

##「……」

##「この街は、私の性癖に悪すぎるぜ」

ホームへ滑り込んできた電車の窓に、一瞬だけ。

白い髪の女が、静かに本を閉じる姿が映った。

振り返っても、誰もいない。

冬でもないのに。
私の吐く息だけが、白かった。

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