妖怪恋愛都市 〜怪異めいた美女たちに愛されすぎて帰れないハーレム生活〜   作:ガイコツ番付

8 / 16
第三夜「私、綺麗?」① 赤いコートの注意喚起

零章 赤い問い

 

夜道で、赤いコートの女に声をかけられる。

黒いマスクの奥から、女はこう聞く。

「私、綺麗?」

答えてはいけない。

黙ってもいけない。

嘘をついても、たぶんいけない。

その問いは、顔を見ているようで、顔だけを見ているわけではない。

その人間が、何を見ているのか。

何を隠しているのか。

何を欲しがっているのか。

赤い女は、それを聞く。

 

一章 赤いコートの注意喚起

 

ここしばらく続いた雨も一区切り、本日は曇りだが雨の心配はないという。

私は、けまりちゃんの家の玄関で靴を履いていた。

けまり「今日は、本当に寄り道しないでください」

##「はい」

けまり「白い傘の人にも」

##「はい」

けまり「赤いコートの人にも」

##「はい」

けまり「……他の怪しい女性にも」

##「範囲が広い!」

けまりちゃんは、少しむすっとした顔で私を見下ろした。

けまり「あなたは、そこが一番危ないです」

##「信用がない!」

けまり「信用はあります」

けまり「でも、心配もあります」

そう言って、けまりちゃんは白い大きな手で私のネクタイを直した。

けまり「いってらっしゃい」

##「いってきます!」

外は曇り。

雨は降っていない。

##「よし……今日は何も起きない」

##「定時で帰る」

##「赤いコートの、おそらく綺麗なお姉さんにも流されない」

しまった。

期待してしまっている。

駅へ向かう途中、電柱に貼り紙が増えていた。

『夜道で赤いコートの女性に声をかけられる事案が発生しています』

昨日のニュース。

差出人不明の通知。

そして、この貼り紙。

どうやら、見間違いでは済まないらしい。

##「……」

私は貼り紙をじっと見た。

##「やっぱり、現実にいるのかよ」

##「いや、いたら怖いけど……」

##「でもいるならいるで、絶対惹きつけられるんだろうなぁ」

##「一度でいいから本物に追いかけられてみてえなあ」

私は、怖そうな女の人に弱い。

それは自覚している。

でも、けまりちゃんはけまりちゃんだし。

ましろさんは、雨の日が似合うだけの白い傘の人だ。

だから、たぶん普通だ。

たぶん。

スマホが震えた。

けまり「まっすぐ会社に着きましたか?」

##「まだ駅前です」

けまり「寄り道してませんよね?」

##「貼り紙を見てただけです」

けまり「……赤いコートの貼り紙ですか?」

##「なんで分かるの!?」

 

二章 奇行クエスト

 

会社に着いたあとも、私は妙にそわそわしていた。

##「おはようございます……」

間宮「おはよう。なんか目、ギラギラしてんな?」

間宮さんが、コーヒー片手に私の顔を覗き込んだ。

##「してないです」

間宮「昨日の続きか?」

##「何の?」

間宮「奇行クエスト」

##「真面目なサラリーマンを変質者扱いしないでください」

コピー機の前では、春日井さんがスマホを片手に首をかしげていた。

春日井「先輩、もしかして今朝の赤いコートの注意喚起、見ました?」

##「見たことも聞いたこともないですよ」

春日井「嘘下手ですね」

##「なぜバレる」

間宮「顔が『行きたい』って言ってる」

##「行きたいとは言ってない。確認したいだけです」

三原「それを普通は行きたいって言うんです」

間宮さんがニヤニヤした顔で語り出す。

間宮「聞いた話だけどな」

三原「うわ、出た」

間宮「赤いコートの女は最近、夕方から夜にかけて繁華街の方で目撃情報が多発してるらしい」

その時、佐伯守彦部長が資料を抱えて通りかかった。

佐伯部長「朝から何の確認だ」

##「街の治安です」

佐伯部長「それは警察の仕事だ。君の仕事はこっちの資料だ」

間宮「部長、今日なんか分け目が攻めてますね」

佐伯部長「分け目ではない。資料を見ろ」

白石「それより、朝から物騒な話をしない。こういう噂は、話せば話すほど寄ってくるものよ」

間宮「注意喚起ですよ。聞いた話ですけどね」

白石「あなたの『聞いた話』は、いつも少し楽しそうなの」

間宮「ひどいなあ」

午前中のメール確認、資料修正、上司からの確認依頼。

いつもの業務は進んでいるはずなのに、頭の隅にはずっと赤いコートが揺れていた。

春日井さんが、スマホを見ながら言った。

春日井「しかも、その辺最近ナンパもヤバいらしいですよ。女の人囲んだり、腕掴んだり」

三原「赤いコートだけでも怖いのに、治安も終わってますね」

##「……繁華街」

##「赤いコート」

##「黒マスク」

##「悪質ナンパ」

##「……確認しなきゃ」

間宮「何を?」

##「街の治安」

間宮「警察気取りか?」

##「違います」

間宮「じゃあ何?」

##「……走るオカルトマニアです」

三原「一番危なそうなタイプだ」

春日井「先輩、なんで少し嬉しそうなんですか」

白石「行くなら勤務時間外にしなさい。できれば行かないでほしいけど」

佐伯部長「勤務時間外でも行くな。あと俺の頭を見るな。今はそこじゃない」

##「見てません!」

 

三章 夜の街で運動会

 

昼休み。

間宮「今日はまっすぐ帰るのか?」

##「帰ります」

間宮「さっき、繁華街って言ったよな?」

##「バレちゃあ仕方ないですよ」

間宮「仕方ないって何が?」

##「彼女のところに帰る前に、繁華街で激しく運動するつもりです」

間宮「お前……マジか」

春日井「運動って、そういう意味じゃないですよね?」

##「何がって、運動だよ。こう激しく」

三原「言い方が最悪で動きも激キモです」

間宮「お前、ぶっ殺されるぞ」

##「大丈夫。俺は逃げ足はやいんで」

三原「そういう問題じゃないです」

間宮「彼女には絶対その言い方で言うなよ」

##「え、なんでですか?」

間宮「お前、バカなの?」

春日井「先輩、キモさと奇行が限界突破しつつあります」

私は首を傾げた。

会社のみんなの中で、繁華街の運動が何を意味しているのか。

私の中では、赤いコートの女に追いかけられた場合に備えた、極めて健全な有酸素運動の話だった。

 

四章 本屋に寄って帰ります

 

退勤時間。

私はパソコンを閉じ、勢いよく立ち上がった。

##「よし、夜の街で運動会だ!」

間宮「言い方!」

##「何が?」

三原「本当に行くんですか?」

春日井「先輩、万が一もし赤いコートの女がいたら普通に通報してくださいね」

白石「あなたが変な人側だとも自覚しておきなさい」

##「白石さん、急に怖いこと言わないでください」

白石「極めて普通のことよ」

間宮さんは、笑いながら私の肩を叩いた。

間宮「まあ、もういい……生きて帰れよ」

##「はい。余裕ですよ」

間宮「お前、タフだな」

会社を出ると、空はすっかり暗くなっていた。

けまりちゃんからメッセージが届いた。

けまり「お仕事、終わりましたか?」

##「終わりました」

けまり「まっすぐ帰ってきますか?」

私は少しだけ指を止めた。

##「本屋に寄ってから帰ります」

けまり「……本屋ですか」

##「本屋です」

けまり「繁華街の近くの、大きい本屋ですか」

##「なんで分かるの!?」

数秒、既読だけがつく。

けまり「長居しないでください」

けまり「赤いコートの人にも」

けまり「綺麗な人にも」

けまり「追いかけっこをお願いしないでください」

##「最後のはまだしてないよ!?」

まだ、していない。

私はスマホをしまった。

駅前の明かりが、いつもより赤く見えた。

たぶん、信号のせいだ。

たぶん。

##「……本屋に行くだけ」

自分に言い聞かせるように呟く。

でも、足はもう、繁華街の方へ向いていた。

 

五章 人間クエスト

 

繁華街の奥は、駅前よりも空気が重かった。

酒の匂い。香水の匂い。濡れたアスファルトに吐き捨てられた煙草の匂い。

笑い声は多いのに、安心できる声は少ない。

怪異を探しに来たはずなのに、最初に目につくのは、だいたい人間の方だった。

##「うわ……思ったより治安が悪い」

遠くのショーウィンドウに、赤いものが一瞬映った。

赤いコート。

黒いマスク。

##「……いた?」

##「今のって、ぜぇったい例の女だよなぁ……!」

目が、勝手にキラキラした。

##「いや、違うかもしれない。ただの赤コート黒マスク美女かもしれない」

##「どっちにしても最高では?」

私は拳を握った。

##「怪異クエスト続行だぜぇ!!」

繁華街の奥へ進む。

派手な看板。怪しい煙。細い路地には、笑っているのに目が笑っていない男たちが立っている。

客引き「お兄さん、遊んでく?」

##「大運動会中なので!」

客引き「……なんか怖い」

##「怖い?楽しいですよ!」

客引き「……大変だね」

##「ありがとう!」

少し先で、女性の小さな声が聞こえた。

女性「やめてください……本当に帰ります」

男「だから、ちょっと話すだけだって」

男「奢ったんだからさ、少し付き合ってくれてもよくない?」

もう一人の男が、退路を塞ぐように立っている。

男「ここら一帯、誰のシマか分かってんの?」

男「変な態度取ると、あとで面倒だよ」

男の手が、女性の腕へ伸びる。

##「……」

怪異クエスト。

その前に。

##「人間クエスト発生じゃねえか」

私は息を吸った。

怖いのは怖いが、好きな怖さではないな。

##「おーーーい!」

##「そこの人、嫌がってますよーーー!」

男「……あ?」

二人の男が、同時にこちらを向いた。女性はその隙に、少しだけ後ずさる。

##「ていうかキモイですよー!」

##「臭そう!」

##「いや! 臭い!」

##「ゲロ以下の匂いプンプンですよー!」

繁華街のざわめきが、一瞬だけ止まった。

客引き「……アイツやっぱ変な奴だった」

通行人「なんだなんだ」

男「てめえ、今なんつった?」

##「聞こえなかったんですかー!」

##「耳まで臭いんですかー!」

男「ぶっ殺すぞ」

##「出たー! 脅迫いただきましたー!」

私はスマホを掲げ、録画ボタンを押しながら、女性に目配せした。

##「お姉さん! 今のうちに大通りへ!」

女性「は、はい……!」

女性が大通りへ駆け出す。

男の一人が女性へ向き直った。

私はその瞬間、全力で地面を蹴った。

##「追うならこっちだ、下水道メーン!」

男「待てコラァ!」

足音が、背後から迫る。

そして、そのさらに奥。

赤いコートの裾が、ふわりと揺れた。

##「オラオラどうしたー! 捕まえることもできねえのかー!」

男「待てっつってんだろオラー!」

ダダダダダッ。

##「待てっつって待つ奴見たことあんのかお前ー!」

##「この街の危険人物はなんでこんなに頭ワリーんだよ!」

男「何言ってんだテメー!」

##「ほら! やっぱり腐ってんじゃん! 理解できないんだろ???」

男「テメー!」

##「テメーしか言えねえのか……なんか可哀想だぜ……」

通行人や客引きに見られながら私と男は追いかけっこだ。

以前の殺人犯に比べると、足も遅いし、たいしたことはない。

私は余裕で地図アプリを見ながら角を曲がった。

##「こっちだな」

そして交番を見つける。

##「おまわりさーん!」

##「ナンパした上に脅迫してきた男! 現行犯でーす!」

##「クズのハッピーセットでーす! 証拠ありまーす!」

警官「君、テンション高くない?」

男「テメー、覚えたからな!」

##「うるさいなー。お前なんてどうでもいいんだよ」

##「口裂け女探してんだ俺は」

警官「……口裂け女?」

##「はい。赤いコートで、黒マスクで、“私、綺麗?”って聞いてくる人です」

警官「ああ、赤いコートの通報ね。黒いマスクの女性に声をかけられたってやつ」

警官「ただ、口裂け女って言われると急に都市伝説になるから」

警官「こっちは今のところ、不審者情報として見てるよ」

##「不審者でもいいです! どこにいますか!?」

警官「知らないよ」

##「ですよねー、クエスト続行!」

警官「クスリやってる?」

##「やってません。タバコはたまに吸うくらいです」

警官「何で探してるの?」

##「性癖です」

警官「余計にダメだな」

私は交番を離れた。

繁華街のネオンが、またちらちらと目に入る。

##「ふう……人間クエスト完了」

##「さて、本題だ」

その時、ビルのガラスに、赤い影が映った。

黒いマスク。鋭い目。こちらを見ている。

私は振り返った。

誰もいない。

##「……いやいや、どういうこと?」

背後から、低く艶のある声。

赤いコートの女「ねえ」

赤いコートの女「今の、あなた?」

背筋が冷えた。

同時に、心臓が少しだけ跳ねた。

最悪だ。

私はたぶん、今、嬉しそうな顔をしている。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。