灰被りの狼   作:アサカケゴハン

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解体者達と騙す者

その日の夕方頃。

浮遊式のホバーバイクに跨りながら、サガタとユラ、そして補助席に座っているカーチの三人はメトロポリスを出て封鎖区域へと向かっていた。道中に破壊されたホバーバイクが目に映ったカーチは、不安からか二人に声をかけた。

 

「あ、あの。さっき銃痕だらけの乗り物が見えたんですけど…本当に大丈夫なんですか?この先の封鎖区域に入っても」

 

「はっはっは。大丈夫じゃあないな勿論!俺たちがこうして封鎖区域に寄ろうとしているのも上層の人間からすれば危険なことだからな。警備ドローンに見つかったらうっかり蜂の巣にされちまうぞ?」

 

砂塵を防ぐためのゴーグルを掛けたサガタが笑いながら話す。

 

『封鎖区域とは、フォクスによって汚染された爆心地から半径10km離れた外周の事を指します。中止地点に向かうほど汚染も強く、また強力な機械と機械生体が媒介している危険性があります』

 

エレが話し終わるのと同時に、ユラが付け加えた。

 

「つまり、中心地点に向かうほどリスクがあるけど得るものも大きい!って事。まあ…あんな所に行くのなんて腕っぷしのあるソロのスウェイラーか徒党を組んだ人たちしか居ないんだけど、それでも大体半分くらいしか生き残らない感じかな」

 

「そんな所に今から行くんですか…!?」

 

親指を立てるユラに、カーチは衝撃的な顔をした。

 

「ああ、滞在時間はざっと二時間くらいの予定だ。ちなみに警備ドローンの巡回地点からはかなり外れた所を狙ってる、お得意さんから聞いた穴場のスポットだそうだぜ」

 

「お得意さんのスポット?…ふーん」

 

それを聞いたユラは何か考え事をするように眉をしかめ、しかしすぐに元の表情に戻った。そうして三人は目的地周辺に乗り物を止めて降りると、徒歩で向かうことにした。

乾いた土とアスファルトの混じった地面を踏みしめる音だけが響く中、カーチは服の袖に取り付けた端末を起動させる。

 

「…ソナーを使って、周囲の確認をします」

 

ポーーン、ポーーンと2回短い音を発した後、カーチの腕の使い込まれた端末が反応しディスプレイにソナーで感知したミニマップが表示される。周辺の地域に異常な物体や生命体は存在しないようで、画面には異常なしの文字が表示された。

 

「特に敵性存在は居ないようですね」

 

「ほー、そいつソナー端末だったのか。今じゃ中々高価で持ってるキャラバンズの人間もそうそう居ないぞ?…もしかして、それがお前の言ってた親御さんの残したガジェットか」

 

「…はい。父さんが僕に遺してくれた形見の一つです。これでよくお父さんはお宝を探しに向かってたんですよ。なんでもこれで探すと良いものが見つかるって言ってたような…」

 

普段は明るいカーチの表情がやや曇る。その目は何処かもう帰ってこない父親の背中を見ているようで、寂しそうな目をしていた。

 

「待てよ、そんじゃあお前がキャラバンズに入るって言ってた理由は、もしかして親御さんの為か?」

 

「…僕の父さんはある遺物を探しに行って、そしてそのまま帰って来なくなったんです。皆は遺物を持ち出して雲隠れしてるんじゃないか。なんて言ってますけど、でもそんな事をするような人じゃないのは、僕が一番分かってるんです!お父さんが約束を破らなかった事なんて一つも無くて、あの日も必ず帰ってくるって…言ってたんです」

 

説明していく内に語気を強めながら話していたカーチは、ただ俯きながら手に握り拳を作っている。それは怒りと悲しみの混じったやり場のない感情の現れでもあった。

ぽとり、と荒れたアスファルトに雫が落ちた。

 

「─っ。だから僕が父さんを探すんです。お母さんは僕のことを心配してくれてるけど、僕だってもう15です。自分で考えて自分で判断できる歳ですから…だからこそ僕の力でお父さんを見つけたいんです」

 

袖で顔を拭い、決意を固めた表情を見せるカーチ。

 

「…立派な考えだね、カーチ」

 

「グズっ…そんな理由があったのかぁ…」

 

先程の話を聞き男泣きしているサガタは、その顔を涙と鼻水で濡らしながら感動しているようだった。

 

「そ、そこまでして泣くこと無いじゃないですか。ほら行きますよ二人とも」

 

「お、おう。悪かった悪かった…こういう話に弱くてなぁ俺」

 

改めて周囲を探索し始める三人。時折ソナーを使っては周辺に敵性存在が居ないかを確かめつつマッピングも怠らない。サガタは鼻歌交じりに歩き、カーチやや緊張の面持ちでマッピング作業を行なっている。

 

その中で、ユラ一人が周囲を警戒していた。

 

「…ねえねえサガタおじさん。その情報ってどこから聞いたの?美味しい遺物があるって、中々人には教えないと思うんだけど」

 

「うん?ああ、ユラやカーチにはまだ話してなかったが…俺たちキャラバンズには独自の情報網ってやつがあってだな?それをどーにかこーにか聞き出してこの居場所を知ったんだよ」

 

「…その、どーにかこーにかの部分がものすごく気になるんだけどなぁ。でもちゃんと裏は取れてるんでしょ?」

 

訝しげな表情のまま、サガタへ声をかけたユラの背後にある廃材置き場からガサリと物音が聞こえる。いち早く反応したユラがブレードに手をかけて戦闘態勢に入った。

 

「!!皆離れて!」「えっ?!」「敵か!?」

 

「チュー」

 

廃材を抱えて何処かへ向かっていく小さな20センチくらいのネズミのような生き物が中から出てくると、三人の前を通り過ぎていく。

 

『データ照合…今横切った生物は廃材を組み上げて巣を作る"ネズミズ"の生体であると考えられます』

 

流れる気まずい空気をきり裂くような電子音を発しながらエレが話すのと同時に、ユラが恥ずかしそうに照れ笑いをした。

 

「あ、あはは…なんだネズミズか」

 

「ふう、てっきり機械生体かと思ったぜ…」

 

「ソナーに反応は無いですし、だ、大丈夫ですよきっと」

 

微妙な空気を残したまま、さらなる奥へと進む。

すると次第に左右を岩肌に挟まれたような道になり始め、通るのが難しくなっていく。体を横にしてなんとか隙間を通っていく三人は急に広い空間に出た。天然の岩壁を丸く不自然に削ったような場所だった。

 

「うおっ、と。急に広い場所に出たな…っておい、待て待てこいつは─」

 

それだけなら天然の洞窟か、はたまた昔は広場だったのだろうかと思いを馳せることも出来ただろう。しかしサガタの視界の先に広がっていたのはそんなノスタルジーに浸れるような空間ではなく。

 

解体されて主要な臓器や部位を抜き取られた無残な死体たちがピラミッドのように山となり、恐ろしいほどの血と鉄錆のようなニオイが入り混じった空間だった。

 

─────────────────────────

 

「ぅっ、…!」「うわっ、わわわ!?」

 

思わず鼻を押さえるユラと、光景に唖然とするカーチ。その中でサガタだけは冷静に今の状況を分析していた。

 

「(この死体から乱雑に臓器を抜く感じ、間違いなくスカベジの連中だろう。とするとここは宛ら奴らにとっての大事な場所に違いない。パトロールの目を掻い潜り人を攫っても特に怪しまれる事のない場所だからな…つまり俺達がここに来てしまったと言うのは)…計算されてたって訳か。どうやらまた騙されたようだな俺は」

 

「もう、ちゃんと下調べしないから!どう見たってスカベジの作業場じゃない!早く出るよこんな所!」

 

「待ってください、僕のソナーでもう一度探知を…」

 

カーチが端末を操作して周囲のスキャンを行う。

…すると、彼らを囲うように動体反応が点々と表示されていく。

 

【警告、警告。近くに熱源反応多数】

 

「グェヘ!ネギが鴨背負ってやってきたぜぇ!」

「今晩もありったけの肉にありつけそうだなぁ!」

 

お手本のような言葉を吐きながらぞろぞろと三人の前に現れたのは人間の新鮮な臓器を抜き取り皮膚を剥がして鞣したり、それを身にまとう異常な輩…通称「スカベジ」と呼ばれる禄でもない連中。メトロポリスでもその存在を忌避されるような彼らは、しかし新鮮な臓器を提供する事で一定のヤーラを稼いだりしている…人体を解体するという疎ましいことをしているが、ある種スウェイラーの同業者とも呼べる存在だ。

 

彼らの群れの中で、一際大きな男がのしのしと出てくる。

 

「オレたちの聖なる場所に来たからには、生きて返したりしないからなぁ〜!!その身包み文字通り剥ぎ取ってやるぜ〜!!はっははは!」

 

前に出てきた大柄なスカベジが笑いながら口を大きく開けて声を発し、背後にはぞろぞろと同じような仲間を連れて出てきた。恐らくは隊長格、ボスのような存在なのだろう。体に刻まれた多くの弾痕や傷跡は並々ならぬ死線を潜ってきた貫禄を感じさせる。

 

ボスの背後に居る末端のスカベジは、ざっと20人ほどの多さだった。

 

「──殺れぇ!金儲けの時間だぁ!」

 

「「イャッハァ!!!」」

 

ボスの背後から躍り出る身軽なスカベジは、血に濡れたナイフを持って襲い掛かってきた。

 

「まだアンタ達の世話になる気はない、っての!」

 

ユラが駆け出すと二人のスカベジに対して鞘をつけたままブレードを振り抜き、片方の顎に打ち据えて吹き飛ばした。

 

「あ!?速えな!」「アンタもおネンネよっ!」

 

続いて横に振り、こめかみ部分を強打されたスカベジは回転しながら吹き飛び地面に倒れて動かなくなった。痙攣はしているので生きてはいるだろう。

 

「こ、殺したんですか!?」

 

「大丈夫。ちょっと昏倒させただけよ…ねえ、おじさん!とっとと蹴散らして出るよ!あとカーチ、ちょっとごめん!」

 

「うわっ!?」

 

迫り来るほかのスカベジに蹴りを交えた体術で相手をしつつカーチを小脇に抱えて、他のスカベジの手から守りながらサガタに声をかけるユラ。それを見て頷くサガタ。

 

「あいよぉ、とっとと帰るか…ってアブねぇ!」

 

不意を突くように投擲されたナイフを、間一髪の所で身を躱してサガタは避ける。どうやら群れの一人が投げ込んだ様子で、細身のナイフを舐めながら近寄って来た。

 

「出れると思ってんのかぁ!?オッサン!!あっちのオンナより新鮮さは無ぇけど…ナカをバラして売ってやるよ!!」

 

そう吐き捨てて幾多のナイフを相手へ向けて投げたスカベジ。しかし、サガタはそのナイフを全て避けていき間を縫うようにして懐へ入り込むと懐から重厚な大きい拳銃を取り出した。

 

「残念ながらバラされるのは、お前さん達だがな」

 

トリガーが引かれ、シリンダーが回転する。

弾丸の代わりに放たれたのはプラズマの衝撃波で、至近距離で撃たれたスカベジはその体を超高温と衝撃波により爆散していった。

 

「痛ってぇ〜…!接射モードに切り替えると腕がビリビリすんなぁ、久しぶりに撃ってみたがまだまだ現役で良かったよ」

 

次いで迫ってくるスカベジに対しても一発、また一発と撃ち込んで焼け焦げた肉片へと変わっていく。その威力に驚いたであろうボスが、目を丸くしてたじろぎながらサガタに声をかけた。

 

「おいおいおい!なんだそのデタラメな出力はよ!?」

 

「んー?コイツか?」

 

サガタはガンスピンを繰り返しながら、レセプターを触り遠射モードに切り替えると腰を低く構えてハンマーに手を当てる。

 

「コイツは年代モンのプラズマガンってだけさ。ただちょいとオレが手を加えてるだけだが──なっ!」

 

まず引き金を引き、一発

ハンマーを手で弾き、また一発

そしてもう一度引き金を引くことで、一発

系三発の早撃ちされたプラズマ弾がボスの背後に居るスカベジの頭部を見事に撃ち抜き、首から上を焼き焦がしていく。

再度ガンスピンを行い銃身の冷却を行うと、ホルスターへと銃を収めた。

 

「腕は鈍ってないみたいで安心したな」

 

普段は温和なサガタの顔は、今回だけは獲物を狩るような狼のオーラを醸し出している。その鋭い眼光は静かな…しかし冷たく恐ろしいほどの殺意を漂わせた。ボスはその目を見て額に汗をにじませる。

 

「う、ぐ…!」

 

襲撃者はその半分以下に減りつつあり、流石に二人に戦力差を覆されるとは思ってなかったのか他のスカベジ達は士気を下げてしまい逃げ腰になっている。

 

「っ、なんだってんだ…オレは此処にカモが来るからそいつらを狩れって依頼があったから待ってただけなのによ!」

 

「へえ?それちょっと気になるんだけど、聞かせてくれない?」

 

大半を昏倒させたユラは片手で腰のブレードに手を置き、まだ小脇にカーチを抱えたまま悠然と近寄ってくる。

 

「ここはアンタ達に依頼した人間を教えるって事で手打ちにしない?私達だってアンタ達みたいなスカベジに手を出したくない。それにこれ以上ドンパチやり合ってたら、いくら警備ドローンがルートを外れてたって音を聞きつけて飛んでくるわよ」

 

地面に寝っ転がる部下を見回しながら、苦虫を噛み潰したような顔でボスは舌打ちをした。

 

「ちっ…クソ!ずらかるぞ!」

 

「でもボス!まだコイツらを解体してねえです─痛っ!」

 

「うるせぇ!ここが見つかって駆除される方が面倒だ!おら、目を回してる奴ら抱えて逃げるぞ!」

 

口答えする部下を小突きながら、ボスは広場の奥に消えていった。恐らくカムフラージュを施していたのであろう。それを見送りながらユラ、カーチ、サガタの三人も急いで広間から出ていくのであった。

 

────────────────────────

 

外はすっかり夜になっており、警備ドローンのパトロール強化が行われる前に三人は逃げ遂せることが出来た。

身体はそう傷ついていないが、収穫物はゼロだったため精神的に満身創痍になっている。

 

「ふう、今日はえらい目に遭ったなあ…カーチ、大丈夫か?」

 

「えっ、あ…はい。大丈夫ですよ。でもまさかスカベジの連中に出会うなんて思ってませんでしたけど…あと"また"騙されたって何なんですか!?」

 

「うぐ。覚えてたか…あーっとそれはだな」

 

ホバーバイクを運転しているサガタの顔が曇っていく。

それは私の口から、とユラが割って入った。

 

「あのね、おじさんは人が良いのか騙されやすいのかよく分からないんだけど…特に根拠もなく"この地点に遺物があるよ〜"っていう同業者の言葉を信じてホイホイ行っちゃう人なの。前なんか…」

 

『前回は穴場スポットという言葉に踊らされて、巨大な機械生体の蔓延るエリアに危うく向かいそうになりましたね』

 

「なははは…」

 

情けなく笑うサガタを冷ややかな目で見つめる二人。

 

「この人って何と言うか…単純なんですか?」

 

「そこまで言うのはなんだ、違うんじゃないか?おじさんショック受けちゃうぞ…?」

 

「単純なのは本当なんだけど、時々掴みどころがない感じがあるんだよね〜。私も昔…おじさんにキャラバンズに所属する前は何してたの?って聞いたらはぐらかされた時あるし」

 

「こらこら、人のプライベートを聞くものじゃないぞ!もうこの話は終わりだ終わり!おら加速するから舌噛むなよ!」

 

「うわっ!?ちょっ速…!」「わぁあ!?」

 

サガタがまくし立てるようにしてホバーバイクのハンドルを操作すると、ガクンっと体が揺れてスピードが上がる。

 

その軌跡を追う男が一人居た。男は黒ずくめの衣装を身にまとっており、彼らを追うようにしてスポーツタイプのホバーバイクに跨るとエンジンを作動させ始めた。

 

「あいつら、しくじりやがったな…!ったく、せっかく大量のヤーラを積んだのによ、やっぱスカベジはクソ野郎共だな!アイツラはやっぱり死体漁って臓器抜き出すしか脳のない医者もどきが!こうなったら直々にオレがアイツらを──あ?」

 

すると、男の目の前を阻むようにして一人の男が現れる。その体には数多くの傷跡が見受けられ、どうやら数多くの修羅場を潜ってきたように思える。

 

目の前の男は、拳を捻ってゴキリと音を立てた。

ライトに照らされたその顔には明らかな怒りが浮かんでおり、今まさにこちらを襲うとしても可笑しくないものだった。

 

「よう、依頼者サマよ。ヤーラを渡してくれた事はひじょーに感謝してるがよ…その言い方は無ぇんじゃねーか?あぁん?」

 

「な、なんだと!?お、オレはキャラバンズの一員だぞ!?オレに手を出したらキャラバンズの仲間がタダじゃ済まさねえぞ!!」

 

震える手でホルスターに手をかけ、銃を抜こうとする男の手は投げられたナイフによって阻止される。既に周りは…相当数のスカベジ達によって包囲されていた。

 

「お前のせいで仲間を何人か失っちまったんだ。散っていった仲間達が可哀想だと思わないか?なあ…アンタ」

 

ボスは男へわざとゆっくり近寄ると、丸太のような腕をその肩に乗せて耳元でこう囁いた。

 

「テメエをバラして、路銀にしてやるよ」

 

「や、やめ──がふっ!」

 

男がバイクを作動させる前に、ボスはその顔に岩のような拳を叩きつけて降車させる。そして、数人のスカベジによって担がれ…バイクもろとも姿を消すことになった。

 

メトロポリスの外では、特に珍しいことでは無い。

このような出来事は往々にして起こる。

それは新たな命のサイクルのようになっており、誰にも止められない不文律として蔓延っていた。

 

誰もが、生きる事に必死になっている。

 

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