灰被りの狼   作:アサカケゴハン

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護衛任務と荒ぶる災禍・上

東西南北に置かれたメトロポリスの内部には、当然と言えば当然だが企業というものが幾つか存在している。企業の管轄する場所は階層ごとに分かれており、例えるならば〇〇階〜〇〇階までが✕✕企業の管轄区という風にだ。

 

その中で、兵器を扱う企業は特に重要である。

50年前、嘗て種の生存を脅かされフォージの災禍に晒されてしまった人類は何とか生き延びた後、その技術力を兵器開発に傾倒するようになった。 

 

一昔前は指向性の電磁波を撃ち出してフォージを細胞ごと動けなくする装置や、単純に大火力を以てしてフォージを殲滅出来るように炸薬量を調節された砲弾、護身用の為に携行可能な強力無比の弾丸を一発のみ装填してコアを装甲ごと撃ち抜き対象を葬るハンドガン等。

 

しかし実弾は次第に費用が高くなってしまい、限られた資源を使うしかない人類は窮地に追い込まれてしまうのは時間の問題…かと思われた。

 

ある天才が、雷をエネルギーとして使用可能な装置を開発した。これはメトロポリスの頂点に設置することで雷を誘発、打たれる事で全体に電力を供給して稼働出来るように調節したものだった。この発明は人類に革命を巻き起こし、更に余剰の雷で得たエネルギーは巨大なバッテリーとして内部に蓄えることが可能となった事で、天候には左右されることはあるが当面のエネルギー不足は解消された理由である。

 

このバッテリーを兵器転用したものが、現在主に使用される事の多い初歩的な火器──プラズマである。

 

弾丸を込めたマガジンの代わりに、それを模したプラズマパックを接続する事により大容量の弾丸の持ち運びを容易にしたのだ。これにより護身用として持ち運べる数が多くなり、数多の市民やスウェイラーにとってフォージと出会った際に生き抜くための必需品と変化した。

 

プラズマパックを装填し、トリガーを引くだけで数千℃の弾丸が発射され命中したフォージの細胞を超高温で破壊する事が可能だ。しかしこれだけでフォージを倒す事は不可能であり、そうする為には数発撃ち込んでコアを露出させてそこを狙い破壊するしかない。だが逃げるのであれば部位を崩壊させ動きを緩慢にすれば良いだけなので、護身用には大いに役立つ。

 

そして、このプラズマ火器を一手に引き受ける企業が存在する。それがコルイスラー・テルミヌス社…通称"コルテミ社"なのだ。コルテミ社はフォクス災害の後に生き延びた人類が発足した企業の一つであり、主に兵器開発を主軸としている。

 

"人類の道標"をスローガンとして掲げており事実最初期に開発されたとされる、重くまるで砲台のような大きさを誇った試作型プラズマガンはまだフォクスの脅威に怯えていた人々にとって一縷の望みとなり、当時無敵と謳われていたフォージにその有効性を示したと伝えられる程だ。

 

「…皆様方のお手元にあるパンフレットの通り。初代会長であるコルイスラー氏は、自ら試作型のプラズマガンを背負うと迫りくるフォージの群れへ向けて白銀色の光弾を雨あられのごとく浴びせたのです。その気高い心を宿した弾丸の前にフォージは撃ち抜かれ、斃され、死体を彼の前に晒す事になったのです」

 

ミニスカートのスーツを着用したセミロングの女性が、巨大なプロジェクターの隣に立っている。パチン、という音と共に数十人は着席可能な大きい会議室のような場所が明るく照らされた。照明が点くと…そこには等間隔の椅子に座らされているスウェイラー達が入社の際に配られたパンフレットに目を通している。

 

「ここ、南のメトロポリスに本部を置いている弊社、コルイスラー・テルミヌス社は今や業界一のシェアを誇る兵器開発の企業となりました。偏にこれも愛用して下さるユーザーの皆様のお陰でも御座います。此処に集まられたスウェイラーの皆様方も、我が社の開発した商品を装備している方が多いようで、誇りに思っております」

 

照明が戻った会場の隅っこの方に、ユラとカーチはキャラバンズのメンバーとして座っている。その胸には菱形のバッジがキラキラと輝いており、一目でその所属だと分かるようになっていた。

 

二人が今居るのは、コルテミ社の本部。

そこで今回の依頼内容についてのブリーフィングを行うと聞いて招待されて来たのは良いことなのだが…時間になって始まったのは約30分ほどのプロパガンダにも似た企業紹介だった。

 

「なあなあ、コルテミ社の事は分かったからよ。いい加減ブリーフィング内容を教えてくれても良いんじゃないか?」

 

ガラの悪そうなスウェイラーが手を上げ、退屈そうに言い放つと主催者はメガネをクイッと指で押し上げる。

 

「…申し訳ありませんでした。それでは今回における、この依頼を受注し応募された中に見事弊社の参加条件を勝ち取ったスウェイラーの皆様に今回の依頼内容を詳しく説明致します」

 

再度照明が落ちると、目の前のモニターに大きく映し出されたのは巨大な構造物らしき物と数多くの数字が羅列されたデータだった。

 

「これは…もしや、兵器の図面か?」

 

落ち着いた男性の声が聞こえると、主催者は首を立てに振った。

 

「ご明察でございます。こちら、弊社の新型兵器のデータになっております。そしてこちらの兵器は今日まさに他のメトロポリスへと配達されるようになっているのです」

 

「分かったぜ!つまりその兵器を護衛すれば良いんだな!?」

 

「その通りです。此処に集まった皆様には弊社の新型兵器を守って頂きたいのです。移動の際は弊社の武装車両に乗車して頂き、そこに設置された砲座や火器を使用、フォージや破落戸の皆様を迎撃若しくは殲滅して下さい。…ちなみに、搬送ルートはコチラになっております」

 

モニターの画面が切り替わり、映し出された画像に多くのスウェイラーが息を呑むことになった。それはまさに、搬送ルートの道中真横にある"爆心地"の存在が彼らの懸念となったからだ。 

 

「搬送までの時間は約2時間ほどとなっております。それまでの間に皆様スウェイラーの方々…にはトレイラーの護衛を務めて頂きます」

 

「はぁ!?爆心地のほぼ真横を突っ切るのかよ!安全な搬送ルートってもんがあるだろ!?」

 

「フォージが目撃される場所にこれでは…護衛どころか俺達の身も危ないじゃないか!」

 

自分の身の危険を感じたのか、ワイワイ騒ぎ立てるスウェイラー達を他所に、ユラとカーチは搬送ルートを静かに眺めていた。

 

「爆心地の真横を突っ切るルートかぁ…たしかにブツを早いとこ配達するんだったら最適解だけど、うーんなんだろう…なんだか変に思うんだよね」

 

「違和感、ですか…」

 

ユラの抱いている違和感として、まず【時間はかかるが安全なルート】より何故【時間は早いが危険が伴うルート】にしたのかが引っ掛かっていた。これまでにコルテミ社の本部は数多くの兵器を他メトロポリスに輸出してはいるが、こんな危険なルートを選ぶメリット等向こうには存在しない。そもそも新型兵器をフォクスに汚染されてしまう危険に晒す意味が無いからだ。

 

「…あのー!すみません!」

 

ユラは心の中に抱えた違和感を吐き出したくなり、挙手をして主催者に大きな声をかけた。が…それと当時に会場にパトランプの赤い光が差し込み、けたたましいブザー音が鳴り始めた。

 

【間もなく搬送を開始します。スウェイラーの皆様は持ち場に付いてください。繰り返します…間もなく搬送を開始します。スウェイラーの皆様は持ち場へ…】

 

「では、皆様持ち場に付いて頂きます。私がご案内致しますので会場を速やかに出て下さい」

 

主催者はメガネをクイッと持ち上げ、足速に会場を出ていった。

 

「それどころじゃ無くなっちゃったね、行こうカーチ君!間に合わなくなる!」

 

「は、はい!ユラさん!」

 

続いていくスウェイラー達を追いかけるように、二人もその後ろを並んで歩き始めた。

 

──────────────────────

 

数分後、スウェイラー達はかなりの大きさを誇る武装車両に乗り込み移動していた。車両はA、B、Cの三つに分かれており、新型兵器が搭載されているのはBの車両らしく、この車両にだけ大きなコンテナが備え付けられていると追加のブリーフィングで知らされている。Aが先頭、Bが真ん中、Cが後ろをカバーするように動くよう全自動での運転プログラムが組み込まれているらしい。

 

何か起こると思われていた道中も、特に何事も無く1時間が経過しようとしていた。道のりは半分程、爆心地が横にあるものの比較的楽な道であった事から拍子抜けした者達で溢れていた。

 

「こんな武装車両、中々お目に掛かれやしねえな…マシンガンタレットが両側に三つ、前方には構造物破壊用のラムが付いてらぁ。戦争でもする気か?コルテミ社は」

 

「いや、そうではないだろう。このマシンガンタレット、今は手動で操作できないようにロックがされている。恐らく戦闘になればロック解除されるのだろう。人間がメトロポリスに向けて斉射出来ないように内部の人工知能が工夫してるんだな」

 

「んだよツマンネー、じゃあフォージが来たらコイツラが全部掃射してくれるって事かぁ?」

 

防衛機能を確認している者と、景色を純粋に楽しんでいる者に車両の中では分かれていた。各車両にスウェイラーは10人程振り分けられており、ユラとカーチは幸運にも同じ車両…Bチームに乗り込むよう班分けされていた。

 

「うわぁ…!全自動で動く乗り物なんて、イマドキ珍しくは無いですけど、こうして乗っていると凄いですね…」

 

アスファルトと砂の混じった悪路を走破する、六輪駆動の灰色をした全長20mはある車両の足場に立ち、手すりを掴みながら外の世界をゴーグル越しに見つめているカーチ。その目は輝いており無邪気な子供のようだった。それに気づいたのか、咳払いをしてユラの隣へ駆け寄る。

 

「うっうん。ユラさんはどうしてるんです?」

 

腕を組んで何かしらを考えているユラの代わりに、エレが電子音声で回答した。

 

『オーナーは現在考え事をしているようです。代わりに私が応答しましょう』

 

「あ、じゃあ…えーっと。今から向かうメトロポリスについて教えてくれるかな?エレさん」

 

ピピピ…と電子音が鳴り、鞘のインターフェイスに顔文字が浮かび上がった。

 

『検索…。今回向かうのは、メトロポリス東ですね。極東の文化がより顕著に表れている場所だと結果が出ました。しかし、独自の文化が根付いているせいで他のメトロポリスよりやや遅れたテクノロジーであり、それから住民も排他的な印象を持たれているようです』

 

「…あ、ごめんごめん!カーチ君!考え事してたや」

 

「どれだけ集中してたんですか…」

 

エレのボイスで気がついたのか、ユラは物憂げな顔からパッと明るくなった。そんな二人を離れた場所から見守っている男が一人…。

 

「(あの女、南のメトロポリスで噂されてた人食い狼か…?マジで耳と尻尾が生えてるんだな。珍しい奴もイマドキ居るもんだ。獣化施術でもやったのかねえ)」

 

男は、片手でクルクルとコインを遊びながら回しており、時折ピンッと上に弾いては手の甲に乗せて表裏を当てていた。

 

「表。……あー、ハズレかぁ。参ったなぁ」

 

独り言を呟くと被っていた帽子を傾け、太陽の日の光を隠すようにして空を見上げる。男の腰には数発のプラズマ弾倉と拳銃のホルスターが取り付けられていた。

 

「おい、そこのお嬢ちゃん、坊っちゃん」

 

ヂャリ、とカウボーイを模したブーツの音を鳴らしながら男は二人へゆっくりと歩いていく。無精髭を手で触りながら気怠げな瞳を向けて。

 

「はい?どうか…しましたか?」「ん?」

 

不思議そうな顔をしたユラとカーチに向けて、男は淡々とした口ぶりでこう話した。

 

「そろそろ備えておいた方が良い。嵐が、来るぞ」

 

「嵐…?」「そんな天気では無いですけど…」

 

カーチが周りを見渡してみるが、外は晴天であり太陽が顔を出して雲一つない天候だ。すぐに雨が降ったり急な嵐が巻き起こるにしては条件が整っていないのは確か。だがこの目の前の男ははっきりと言いのけたのだ。

 

嵐が、来ると。

 

次の瞬間、目の前を走行していたA車両が大きな音を立てて何かに弾き飛ばされるように左に吹き飛んだ。道を逸れた車両は廃ビルに突っ込むと大きな衝撃音を発生させ、ギシギシと鉄の軋む音を響かせる。乗組員は振り落とされてはいないが、右側面にまるで殴られたような跡が残っていた。

 

【Bチーム!何が起きた!Aチームの車両が止まっているぞ!】

 

『こ、攻撃です!A車両が何かから攻撃を受けました!位置は不明!車両は動けますが、少し時間が掛かります!』

 

コルテミ社の無線に返答しながら、Aチームは戦闘準備を整え始める。六輪駆動のタイヤがザリザリと地面を削り、ルート修整を始め砲座に何人かのスウェイラーが位置に付いた。

 

『畜生、なんだってんだ…!まだ爆心地の中心にも近づいてねえってのに!横を通るだけでこれかよ!』

『機銃を構えろ!俺たちは左側からやられた!左側を見ろ!』

 

車両は立て直したものの、乗組員のスウェイラー達は軽いパニックに陥っていた。機銃を矢鱈に撃ちまくる者や怖気づいてトリガーを握る手が震えている者までいる。ユラとカーチは辛うじて無線の内容を聞くことは出来るが介入しようにも未知の攻撃により手も足も出ないといった感じだった。

 

「見えなかった…!何か飛んできたのか、それとも当たったのかは分からないけど、あの車両に出来た凹みはちょっとやそっとの衝撃じゃないってことは判るよ」

 

ユラはA車両の左側を見て、一撃で途轍もない力が加えられたのだと判断した。

 

『ちくしょお!どこにも居ねえ!早く出せ!』

『ダメだ!システムが故障して治るのに時間が掛かるってモニターに出てる!それまで動けねぇよ!』

 

Aチームの車両が動かなくなったのを見ると、BとCの車両は左右をカバーするように前へ進む。すっかり警戒状態になった三つの車両側面には砲座にスウェイラー達が座っている。

 

『どうだ、あれから襲撃はあったか!?』

『いや、それが全く…ほんとに何かに襲われたのか?』

『当たり前だろ!左側がベッコベコに凹んじまってんだぞ!?何かに襲われたとかじゃねーと辻褄が合わねーって!』

 

「い、一体何が起きてるんですか…!」

 

「カーチ君、私から離れないほうが良いよ」

 

「…お前たち、装備の確認をしたほうが良い」

 

慌てるカーチを他所にホルスターから拳銃を取り出した男は、慣れた様子で弾倉を込めると安全装置を外して構えた。ユラもブレードに手をかけて何時でも抜けるようにしている。

 

「もうすぐ此処は狩り場になる。奴ら、フォージのな」

 

男がそう言った途端、悲鳴のような声が無線から聞こえる。そして次に砲座のプラズマタレットが火を噴いた。三人が射線の方向を見つめると、黒くヌメリのある物体に覆われた4足歩行の異形がこちらへ猛スピードで近づいていた。

 

それは4m程あり、手足が細く、鋭い爪を持ち、ヤツメウナギのような口を揃え、胴体は長く頭は楕円形の形をしていた。一目で異形の生命体だと理解できるような見た目である。

 

「フォージだ!近づけさせるな!殺せ!」

 

唸り声を上げながら黒々しい身体から雫を地面に垂らし、近づいてくるフォージの身体に瞬く間に超高温の穴が幾つも空けられる。しかしそれを意に介さずフォージは車両に向けて口を動かした。楕円形の頭部がグワッと大きく膨らんでいく。

 

「なんだ、一体何を──」

 

ジジジ、と空気が揺れた。その次に起こったのはフォージの口から放たれた電磁砲が目の前の道をを吹き飛ばし破壊していく光景。大量の土煙と破壊が巻き起こり視界が塞がれてしまう。最期の抵抗ったのか、同時にフォージの身体が塵になる。

 

「じ、自動運転が機能しない…!畜生!さっきの余波で空気中に電磁波が生成されたのか!」

 

全車両が沈黙した事により、前に進む事が出来なくなってしまい致命的な状況に陥ってしまったのだ。砲座は幸い動くものの手動での狙いが求められる。

 

「くそっ…!タレットは俺たちで撃つことが出来るが…自動運転が邪魔になってやがる」

「こいつの自動運転が邪魔だ!どうにかならねえか!手動で動かせるようになれれば…」

 

「ボクが車両のシステムを復旧させます…少し時間を下さい!」

「できるのか、ボウズ!」

 

何かすることを模索していたカーチは、ハッチに乗り込むとシステムに自分のデバイスを繋げ、無理やり手動運転モードに切り替えるようにオーバーライドを始めた。

 

「…やってみます!皆さんはフォージの対処を!」

 

「恐らく砲座では処理しきれないフォージが乗り込んでくる可能性がある、降りて備えろ!車両を乗っ取られたら終わりだ」

 

「何も起こらないはやっぱり無いわけね…!」

 

ユラと男は車両から飛び降りると、戦闘の構えを取る。

目の前の廃ビル群から数体のフォージがこちらへ迫り、彼らは奇しくも砲火を交える事となったのである。

 

絶体絶命な状況の最中、コンテナの内部。

棺を模した白い装置に、一つの光が灯った。

 

 

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