絶体絶命の危機に陥ったスウェイラー達は奮戦するべく、プラズマタレットを手動で動かし敵へ向けて撃ち込み始める。誰も知る事のない爆心地の近い部分で命をかけた戦いが始まっていた。
『300m先!フォージ複数!デカい奴の種別はハウラー級が2体!近寄らせないように制圧射撃を行なって!また電磁砲を撃たれたら今度こそAチームの車両がお釈迦になる!』
建物から、その後ろの景色から今まさに自分たちを狩ろうとしている黒い怪物を肉眼で捕捉するとおおよその位置を知らせて備えるようにユラが急ぎ足で無線連絡を返すと、向こうから了解の声と
『んなこたわかってらぁ!砲火を集中させろぉ!ぜっったいに近寄らせるんじゃねえぞっ!』
「勿論!」
と強気な感じ言い放つスウェイラーの声が聞こえる。まだ士気は落ちていないと直感した彼女はブレードを掴み、土埃を巻き上げながらこちらの車両へ走り来る獣型の小型フォージへ向き直った。その顔からは普段の快活さは微塵と失われていない。むしろ生き生きとしたような顔で内心暴れることが堪らないといった感じだ。獣尾は揺れ動き、獣耳はピンと立っている。
『心拍数の上昇を確認。戦闘本能が刺激されますか?』
「まあそんな感じかな。…行くよエレ。電磁抜刀!!」
『READY』
バッテリーの表示残量が減るのと同時に、青い雷が鞘とユラに生じ始める。髪の毛と衣服が電気で持ち上がるとそれらは鞘に集約され──1つになったのと同時に獣型の小型フォージがユラ目掛けてその鋭い鉄製の爪で引き裂こうと襲いかかる。
「おおぃっ!お嬢ちゃん!そんなとこ居たら危ねえぞ!」
「いや待て、あの風貌どっかで見たような気がすんぞ…あ!アイツまさか、人喰い狼か!?」
刃物のような爪がユラに触れるか触れないかの瞬間、周囲の小型フォージが全員真横一文字に切り裂かれて地面にばら撒かれた。胴体部分に存在するコアごと切断された数十体のフォージは身動きする事なく塵になって霧散した。空気の焼けるようなニオイと土煙の真ん中に立っているのは、青白く赤熱したブレードを抜いている彼女だった。
『電気信号による肉体のパワーアップを開始。バッテリー消費終了まで10分ほどです、オーナー』
「オーケー…!」
ブレードの鞘に取り付けられたモニターに、10:00と記されたタイマーが浮かび上がる。持ち主の身体に電気を駆け巡らせ肉体の強化を促す独特な機構を備えたブレードを振るい、彼女は向かってくるフォージの群れに雷の如く駆けていく。飛び掛かるフォージを横に切断し、その死体を前に蹴って他の個体に当てると怯んだ隙を見て斜めに斬った。
「さあ!来なさいよ!アンタ達なんてバラバラにしてやるんだから!」
乱戦の最中に背後から迫る敵を獣耳の可聴範囲で認知すると、迎え撃つ為にブレードを逆手に持って対応し、見ずに突き刺すと捻り上げるようにして上へ斬り回転して周囲のフォージを切断すると距離を置いて、向こうから仕掛けるように誘っている。これはあくまでヘイトを自分に向けて車両へ向かう数を少しでも減らす為だった。
「へぇ、これはこれは。ちょっと前から噂になってた悪徳スウェイラーを狩りまくってる名高い人喰い狼がこんな女性だったとはな…どれ、ここは年長者らしいちょっといい所を見せてみるか」
無精髭を触り、カウボーイブーツを穿いた男がハウラー級の前に立つと建物の影から急に小型フォージが飛び出してきた。しかしそれにも男は反応し、腰のホルスターからリボルバー型の拳銃を抜くと目にも止まらぬ速さで早撃ちを行う。高密度のプラズマバレットが正確に、そして無慈悲に両者の胴体を捉えるとコアを撃ち砕き塵に還した。
「不意討ちとは、まるでお前たちに知能があるような素振りじゃないか…んん?」
眉を上げて相手を誂うように言うと、今度は男を取り囲むようにして小型が襲い掛かって来る。四方八方からの攻撃に男はしゃがんで姿勢を低くすると、懐から何かを取り出して地面に置き大きく前転しながら銃を構えて攻撃を掻い潜るのと同時にソレを撃った。弾丸が命中した瞬間物体は大爆発を起こし周囲の小型フォージを霧散させる。
「おお…凄いなぁ、コルテミ社の爆雷は綺麗に爆発するもんだ」
だが、男の背後からハウラー級が迫り来ると大質量で押しつぶそうと前腕を振り下ろして来た。しかしそれを見越していたのか弾倉に弾を入れ終えリロードをした男は先ほどと同じ早撃ちの構えで敵の四肢を撃ち抜いた。赤い超高温の弾丸は部位に命中すると弾けて大きなダメージを与える。
「数千℃の弾丸だ。さすがのバケモノでも再生にも時間が掛かるだろ?」
「よし!アイツが転ばせたな!チャンスだ…プラズマの弾丸雨を食らわせてやるぜ!撃て撃て撃て撃てェー!!」
転倒したハウラー級にタレットを向けて連射するスウェイラー達。超高温の弾丸を受けた相手は蜂の巣になって胴体部分のコアを撃ち抜かれ砕かれる。それを見届けてクルクルとガンスピンをした後、ホルスターに納めてカウボーイハットのつばを指でなぞる男はキザな素振りをしているがその実力はとても高いようだった。
「あのキザ男、腕は確かみたいね…にしてもあのリボルバー従来のプラズマパックタイプじゃないって事は、わざと弾丸用に改造して弾数を犠牲にして威力の上昇を狙ったチューンを施してるって感じかな」
『オーナー、考察は良いのですがフォージにも注意をしてください。北西から反応があります』
「ああもう、うるさいわね!わかってるわ…よっ!」
青い雷を纏ったユラは、依然として迫ってくる小型フォージの群れをブレードを振るい焼き斬りながら活路を開いている。電光石火の速さで移動しては小型を斬り捨ててまた移動、それの繰り返しをしている時にもう1体のハウラー級へと詰め寄る。その素早さによる接近を察知していない相手の懐へと潜り込むと、素早く前腕を斬り飛ばす。
「(こいつは懐に入れば弱い、だからそこを叩く!)」
頭から倒れ込むハウラーに向かい、ブレードを回転させジャンプすると振り抜き、上から下へ捌くように縦へ切り開いていくユラ。胴体中心部分にあるコア諸共を真っ二つにしてそのまま着地すると車両のほうを見て無線送信の切り替えをする。
「カーチ君、そっちはどう!?こっちはまだ抑え込めてるけど、あんまり長くはもたないかも!」
一方その頃カーチは一人でB車両のAI制御を外そうと奮闘しており、手首に装着した端末から接続用のケーブルを取り出しメインモニターとリンクさせてハッキングを試みていた。
「ポートを介して無理やりハッキングしてますが、もう少し時間が掛かります!企業の皆さんと連絡が取れたら向こう側から操作する事も可能なんでしょうけど、今はハウラー級のEMPに邪魔されてますし…そうだ、ハウラー級はどうなりましたか!?」
「今やっと2体共消えた感じ!次の群れが来るまでまだちょっと猶予はある!最悪仕方ないけど…他の車両を破棄して囮に使った後にコンテナを収納してるB車両だけ逃がす事も考えたい!あと何分くらいで動かせそう!?」
「えーっと…他のスウェイラーさん達にも手伝って貰ってますから、10分くらいかと!」
2人の無線に割り込むようにして、大人の女性らしき声も加わる。
「アタシ達も協力して作業に取り掛かってるけどさ…さっすが企業のセキュリティよね、ファイアウォールが分厚いのなんの!まだ乗っ取るまでまだちょっと掛かるわ!それまでお願い!人喰い狼!」
「だーれが人喰い狼…よっ!」
返事をしながら小型フォージの群れを斬り抜け、プラズマタレットの弾幕距離まで誘い込むと掃射させて着実に殲滅していく。
「あーもう、数が多い!どうにかしないとバッテリーも切れちゃうし…そこの人!弾丸は大丈夫なの!?」
「おお、俺か?あと数発って所だな。まさかこの大群を相手するなんて思ってなかったもんで弾薬も最低限しか…持ってきて無いな!」
合間に手榴弾を群れに投げてそれを射撃、爆発させると纏めて消していく。…が、それでも尚小型の群れは勢いを止めずに向かって来る。爆心地の中心から湧き出るようにまるで無限のフォージが存在しているようだった。
「噂には聞いてたけどほんっっとにキリがない…!爆心地付近のフォージに手を出すなって言うのはホントらしいわね、でも悪足掻きを止める気はないけど」
「勿論、俺も此処で死ぬような運命は御免だ!」
弾丸が尽きたカウボーイは、ホルスターに銃を戻すともう片方の懐から何やら筒状のモノを取り出した。側面にはスイッチらしきのが見られ、それを男が押すと赤い光を起こしながら投げ縄が生成される。
「コイツは虎の子だったんだが…イーハァ!!」
掛け声のようなものを出すと、カウボーイが群れに向かって突進。プラズマロープを振り回して小型の群れを蹴散らしていき、バチバチッと焼き切れる音と共に赤熱した死体が地面に散らばった。まるで鞭のようにしなるプラズマは相手を断ち切る猛威として暴れている。その様子はさながら暴れ馬に鞭を振るうカウボーイだ。
「すごいじゃない、まるでワイアット・アープ…!」
そして、B車両の方も佳境を迎えていた。
「クソったれのファイアウォール…解除!この車両の基幹システムに接続できるわよ、手動操縦の項目を探して切り替えな!」
「わっ、わかりました!ええと操縦システム、これだ。手動操縦に…切り替えました!運転席の人はスイッチを押してください!」
『来たぜ来たぜ来たぜーーっモニターがバチバチ光ってやがる…こちら運転席!動くかどうか試してみる!』
点灯したモニターを操作し、エンジンを起動させると振動と共に車両が生き返った事を確認したカーチと他のスウェイラーは急いでB車両に集まる事にした。
「急げ急げ!この車両はもうダメだ!破棄するぞ!」
「わかってるって!押すなよ押すな──うわぁっ!?」
A車両のチームも抜け出そうとしたが、プラズマタレットを撃たなくなった隙に物陰から迫っていたフォージの数体に襲われるとそのまま他の小型に群がられてしまい、あっという間に黒い浪に呑まれてしまった。
「しまった!A車両が…っ」
無線から聞こえる悲鳴に目を閉じ、しかし立ち止まっている暇は無いと前を向きエンジンを鳴らすB車両へ駆け寄りジャンプして搭乗用の梯子へ飛び移る。遅れて彼女の後ろからカウボーイの男も駆け寄って無事に梯子をよじ登るとプラズマタレットに付いて残りのスウェイラーが避難できるように弾幕を張り続けた。
そして生き残った彼らを乗せて、A車両とC車両は放置されたまま爆心地から逃げるのであった。満身創痍の彼らは空をあえぐようにしてその場にへたり込むと緊張した身体を元に戻すようにして各々休憩を取っていた。
命の危険を前にして泣いている者、
恐らくは恋人であったろう同僚を亡くした者、
フォージに襲われ重傷を負った者など悲しみの渦が巻いていたものの、それと同時に爆心地をくぐり抜けた安堵感もこみ上げていた。
「とりあえず、コルテミ社との通信を回復させよう。少し…待っててくれ」
車両のモニター室で途切れた通信を繋ぐように、一人のスウェイラーが操作している。
【──通信が回復しました。コルテミ社に接続中…】
しばらくした後、まくし立てるようなコルテミ社の人間からの無線が入った。
『いったい何があったのです!?状況を報告してください!弊社の新型兵器は無事なのですか!?』
「…順を追って説明しよう、俺たちはフォージの襲撃を受けた。クソったれな爆心地の横を走ってたらイキナリだ。足止めを食らってハウラー級のEMP攻撃によって通信が切断された。後は各々…やれることをやって今やっとこさ東のメトロポリスに向かってるよ。目的のブツは無事だ」
『…確かに、こちらでモニターする限り新型兵器の反応は健在ですね。A車両とC車両を失ったのは仕方ありません、スウェイラーの皆様ご苦労様でした。向こうで納品を確認次第報酬を振り込ませて頂きます』
「…チッ。死ぬほど頑張ったのは現場の俺たちなんだがな」
一方的に切られた無線に対して忌々しそうに舌打ちをしながら、スウェイラーは椅子に座り込むと天を仰いだ。
「だよなー、このまんま家に帰ってビールでも飲みてえ気分だぜ。東のメトロポリスにうまいビールが無いもんかね…ん?──おいおい冗談だろ、?待て待て待て待て!!!」
「どうした!?……バカな、このエリアで……」
「最悪ね、こんな所でコイツが居るなんて…!」
スウェイラー達が一斉にして見つめていたのは、悠然と車両の進行方向を歩いている巨人のようなフォージ…その名もトール級の影だった。全長100m、太陽を背にして逆光を浴びながら歩く姿はもはや神々しさすら感じる程であり、地面に足が付くたびに地鳴りのような音が鳴り響く。ズシン、ズシン、と大地の怒りを表すような歩行だった。
「コイツとやり合うなんてのは無茶だ…!トール級の討伐報告なんて見たことも聞いたこともねえぞ…」
「と、飛ばせ飛ばせ!気づかれる前に足元を抜けるんだよ!」
「無理だ!もし踏まれでもしたらこんな車両ぺしゃんこになっちまうじゃねえか…!畜生、こんな所で死ぬのか俺たち!」
車両のモニター室で言い争う中、車両外の足場に居たスウェイラー達は諦めたような顔をしていた。
「…無理ね。過去にトール級を排除出来たのは一度だけしかないって聞いたことがある」
「その方法も、各国がまだ生き残っていた時代に保有していた大陸間弾道ミサイルを数十発ぶつけてやっと跡形もなく消えたって報告だしな…正真正銘の動く災害だ。まさか爆心地の外で見かける事になるとはな」
フーッ、と煙草に火をつけて一服しているカウボーイは諦めたような声色で説明した。最期の一服なのだろうな、と誰もが一目で分かるような仕草だった。
それを分かっているのか、いないのか。はたまたこれが運命なのか目の前のトール級はのっぺらぼうの様な顔をこちらに向けて、複数の異形な目を開けて見つめて来た。そしてスウェイラー達を嘲笑うかのようにゆっくりと、確実に踏み潰すようにして歩幅を詰めてくる。
「──見つかっちまった。もう、終わりだ…!」
運転席の男はあまりの恐怖心で震えてしまい、アクセルを踏むことすら出来なくなっていた。ガチガチと歯が震え涙が溢れているのだ、生物的な本能で恐怖に身体が染まりきってしまいどうすることも出来ない。
誰もが死を覚悟した、その時である。
突如としてコンテナの天蓋が開き、中から現れたのは…
白い曲線美を備えた十字架のような棺らしき物体だった。その中央には丸い緑色の球体が埋め込まれており、中で何かの機械が動いているのが目に見える。
「お、おい誰だ!勝手に操作したのは!?コンテナが開いちまってるぞ!閉じないとトール級に目をつけられる!」
「俺じゃねえ…!何も操作してねえぞ!?まさか本社の奴ら……」
モニター室が右往左往している所、一部のスウェイラー達はなぜ勝手にコンテナが開き新型兵器が露出したのかをなんとなくは理解していた。
「ここで性能を確かめる気…?」
「破壊兵器のような見た目…では無さそうだな。寧ろ…制御装置のようにも見えるが、吉と出るか凶と出るか」
カウボーイの男は煙草を一本吸い終えると、事の成り行きを見守るようにして見上げている。ユラもブレードには手を添えているが抜こうとする意思は無かった。例えそのような事をした所で時間稼ぎにもならないのだから。
【F・CANCELLER──作動します】
メッセージのようなものが聞こえ、球体部分に浮き上がるようにして文字が出力されるとそれらは棺の周囲を回転するようにして増えていく。すると段々と棺からは緑色の淡い光が漏れ始め、周囲に一度だけ広範囲のフラッシュを起こした。
「く、っ!?」「め、目が!」「眩しっ…!」
目も眩むような一瞬の光がトール級を照らすと、まるで糸の切れてしまった人形のようにその場で停止した。車両を掴んで握り潰そうとしていた六本の指を備えた手は、届く直前で止まっておりピクリとも動かない。
棺は依然として淡い光を放ちながら、電子音を放ちつつ作動音を響かせている。
「なん、なんだこれは…いったい、コルテミ社の奴らは何を作ってやがるんだ…!?」
命が助かったのも束の間、得体の知れない機械を前にして全員が固まるしか無かった。