2人は好奇心を抑えきれず、どんどんと同じような世界の隙間にある表と裏の繋がった不思議な場所を探索していく。
それを行うことで、多少人という存在から乖離しようとも。
ある日、見慣れた道で見慣れない建物を見つけた。昨日まで空き地だった場所に堂々と年季が入った昭和風の喫茶店があったのだ。
不思議だろう? そして、底知れない好奇心が湧いてくるだろう。そう、誰しも普通では無いがぱっと見危険そうでないこの現象に抗えやしない。
きっと、1人もしくは友達を誘って入店するだろう。
それが世界の裏側を覗き込んでることを知らないで。
Case.?? 迷子の男
男は困っていた。
先程まで、仕事で溜まったゴミを捨てるために裏口にでたと思っていたのだが、目の前には鬱蒼と生い茂る木たち。後ろを振り返れど、同じような景色が広がっていた。
緊張して握りこんだ手には捨てようと持ってきたゴミ袋しかなかった。
意味の分からない現象に思考停止していたが、何とか最低限周囲を確認することを行った。
周りはさっきと変わらず、生き物がいる気配はしない。上を向けば、木々の隙間から漏れる光でまだ日が出ていることがわかった。情報はないが、日が暮れて、ご飯も何も無い中、冷え込むか分からない森で過ごす可能性があるより、今のうちに動いたそうが良さそうだと判断した男はとりあえず水辺を探しに動き出そうとした。
「おじさん。そっちはダメだよ」
突如後ろから声がかけられて、声にならない声を上げて振り返る。
振り返った先にはお面をつけた大人ではなさそうな小柄な2人組がいた。
「き、君たちは? 一体いつから?」
「名前はこの世に産まれて初めて与えられる祝福であり呪いなんだよ」
「今来たの! それより早く帰りたいなら着いてきてね!」
「着いてきて!」
男の質問は回答としていいか分からないもので返された。
ぴょこぴょこと2人は何も目印がないなか、勝手知ったる道のように迷いなく歩き始めた。
男にはついて行く選択肢しかなかった。
「すまないがここはどこだい?」
「しっ! 静かにして!」
「おじさん狙われてるからダメだよ。ここのことを覚えたらまた呼ばれちゃうよ?」
子供らしき2人にあれこれ指示される現状は耐え難いものだったが、それよりもこの不気味な森を抜けたかった男は全てを呑み込んだ。
黙々と歩いて数十分。光が見えた。
光の先はいつもの見慣れた職場の更衣室だった。
「おじさん。ゴミ捨ては屋外じゃないこと思い出した方がいいよ」
「そうだよ。仕事場に裏口なんて存在しないよ」
ありがとう。と言おうとしたところで落とされた爆弾に光に包まれた男の声は吸い込まれた。
「前に1度、遭遇してた怪異で良かったね」
「それより、やっぱりこっちだと存在が偏るせいでちょっと言動が幼くなりすぎない?」
「仕方ないよ。偏ることにメリットもあるんだし。多少は目を瞑ろう」
2人は目の前で消えた男のことなど忘れたように話した。
そして、会話を切り上げて、後ろからの恨みがましい目線にバイバイと手を振って2人は男が見た景色とは違う光景が映る光に包まれた。
「マスター! 聞いてよ。この前道案内したおじさんが、SNSで失礼なこと書いてるの!」
「おや、こんにちは。元気なのはいいけど、1度落ち着きなさい」
勢いよく喫茶店に飛び込んできたのは、猫のお面をつけた少女だった。
喫茶店のマスターは慣れた手つきで、カウンターに座った少女にレモネードをサーブする。
そうしているとまた誰かが入ってきた。
今度は狐の半面をつけた少年だった。
「置いてくなよ! 幾らここら辺が安全だからと言って離れるのは危ないだろ」
「束縛彼氏みたいなこと言わないでよ。そもそもあんたの方がフラフラどっか行きがちじゃん」
返された言葉に反論がでないのか目線を逸らして少年は大人しく少女の隣に席に着いた。
「マスター、ごめん。こいつがうるさかったでしょ? また、くだらないSNSの俺たちの噂で怒ってるんだ」
「君たちが来るとお店が一気に明るく感じて、来てくれて嬉しいよ。それで、今日はどうしたんだい?」
「それがね! この前道案内したおじさんが、SNSで私たちのこと新種の怪異だとか書いてるの。助けてあげたのに失礼だし、1番最悪なのは小学生の年齢だと間違えられてること! 確かにここ以外の裏側だと基本的に存在が偏りがちだから仕方ないけど「はいはい。もういいでしょ。俺たちはそこに重きを置いてないからいいでしょ」それもそうね。とはならないわよ! この手の書き込みが大衆の認識になると私たちの偏り方にも影響でるじゃない!」
はぁはぁと一息で叫んで疲れたのか、お面をずらして目の前の飲み物を大人しく少女は飲んだ。
そこにまたしてもマスターは注文もなく少年の前に烏龍茶にしては黒い気がする飲み物を置いた。
「メイ。君の懸念もわかるけど、君自身が揺らがなければ大丈夫さ。それに今日は先代から教えてもらった特性カレーを作ったんだ。試食してくれないかい?」
「「食べる!」」
ニコニコと提案された試食にアキラとメイは同時に返事をした。
2人ともカウンターの座高の高い椅子により、足が地面に着かない。その足はカレーが楽しみなのかお行儀悪くゆらゆらとさせていた。
「ねぇ、早くその野焼きのような臭いがする飲み物飲んでよ。せっかくのカレーが台無しになっちゃう」
メイは隣に座るアキラの目の前に置かれた飲み物に目線をやって言った。
「えぇー。せっかくカレーと一緒に飲もうと思ったのに。美味しいものと面白い飲み物を楽しめてダブルでハッピーじゃん」
そう言いつつ、臭いは否定できないのか大人しく口をつけた。
「えっ、正露丸のような味がする。でも梅の味もする」
恐る恐る飲んだアキラはなんとも言えない顔になったが、思ったより行けると感じたのか普通に飲んでいる。
「それは、酸梅湯という中国の薬膳ドリンクだよ。薬膳を除いたらただの梅ジュースになるよ。さぁ、できたから、飲み物は横に避けてね」
そう言って、2人の目の前にカレーを配膳してくれる。
2人は興味深いドリンクのことは一旦忘れたのか、一瞬にして美味しそうな香りを放つカレーの虜になった。
子供は珍味よりも好物の方が優先順位は高いものである。
表側で騒がれている2人組の怪異の正体が、カレーの虜になっている光景を見て、マスターは苦笑した。