とある街中のカードショップ。
そこでは十数人程度の子どもたちが、大きく仕切られた部屋を覗き込んでいて。
部屋の中では2人の少年が向かい合っていた。
1人は眼鏡をかけた少年。
もう1人は、赤いサンバイザーの少年。
2人の腕には似たような機械が付いており、そこからカード引いたり、機械の板状の部品へ置いたりしている。
その動作に合わせて、周囲の様子は目まぐるしく変わっていた。
角張った骨人間が矢を放つ。
仮面をつけた戦士がそれを払いのける。
樹木でできた小柄な怪物が、松明を投げる。
プルプルと震えるスライムが、空高く投げ飛ばされる。
カードを捲り、コストやクリーチャーを配置して戦わせ、相手のライフを削る。
【
頭文字をとって"
————アタシたちが"彼女"と出逢うきっかけとなるゲームだ。
ファイト開始から9ターン目。
更地になった自分のメインゾーンとその向こう、相手の場にいるクリーチャーを眺める。
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<サバイブロック・ドッグ>
(青)(1)2/2
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<サバイブロック・ウォリアー>
(青)(3)3/3
場にいる間、このカード以外の<サバイブロック>クリーチャーにパワー+1の修正を行う。
このカードが破壊された場合、デッキからコスト2以下の<サバイブロック>クリーチャー1体を場に出す。
それは場に出たターンに攻撃できない。
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ウォリアーの効果でドッグはパワーが3点へ修正されており、合計6点。
1体のクリーチャーも居ない俺では防ぐ術はないが、ここを耐えきれば……
「僕のターン!」
タイチと呼ばれていた眼鏡の少年が2つのデッキからカードを引く。
「……色彩セット。合計3つ起動して、<要石の儀式>を発動。墓地のスケルトンを蘇生だ!」
すると周辺に散らばっていた骨が1つに集まり、やがて人型を形成する。
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<サバイブロック・スケルトン>
(黒)1/0 【速攻】
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角張った灰色の骨で構成されたそれは、ケタケタと音を立てて弓を構える。
「最初の時と姿が違う?」
よく見れば最初に場に出た時と比べて、骨の総量が増えたように見える。
「<要石の儀式>の効果で、スケルトンはパワーとタフネスに+1の修正を受けてるからね」
タイチは手札から2枚目のカードを取り出す。
「さらに、3コストで魔法<サバイブロック・レイドバトル>発動! このターン、場の<サバイブロック>クリーチャーにパワー+2と【貫通】を与える!」
「<火責めの陣形>に近い効果……!」
「それと違って、僕のは1コスト低く使えるテーマ専用の優れものさ! そしてウォリアーの効果で、場のクリーチャーはパワー+1点!」
相手の場のクリーチャーたちが黒く染まり、目に赤い光が漲る。
「さぁ、バトルだ。パワー5点となったドッグとスケルトン、そしてウォリアーで総攻撃だ!」
……まずい。
今の俺のライフは13枚。
この攻撃が全て通れば、負ける。
「まずはドッグの攻撃!」
狂犬と化した四角い獣が飛びかかり、鋭い牙で噛みつかれる。
「ダメージチェック……色彩、色彩……呪言<藁の手>! 墓地に落ちたことで効果が発動し、1枚ドロー!」
コストゾーンに色彩が4枚追加され、墓地に落ちた呪言でメインデッキからカードを引く。
「続けてスケルトンの攻撃、5点ダメージだ!」
続けて黒い骨となったスケルトン。
手には弓からボウガンらしきものに変化しており、5連続で矢を撃たれた。
「落ちたのは色彩と……魔石もか」
追加で4枚の色彩がセットされる。
3枚目に魔石が出たが、呪言と違って効果は発動しないため、そのまま墓地へ落ちる。
ここまで合計10ダメージ。
ライフデッキは、残り3枚。
「ウォリアーの攻撃で、とどめ!」
ウォリアーは他の2体と異なり、全身を不思議な色合いに光る黒い鎧に包んでいた。
鎧と同じ雰囲気を持つ剣を構え、体を切り抜かれる。
残り3枚のライフカードが1枚ずつ捲られ……!
「ウォリアーの攻撃で墓地に落ちた<間一髪>を発動。ダメージは1点になる!」
「うわ、デッキに残ってたんだ。ターンエンド」
文字通り間一髪のタイミングで最後の呪言が発動し、他の2枚がライフデッキに戻り、シャッフルされる。
それにしても<間一髪>が残っているのをすっかり忘れていた。
確かデッキ構築し直す時に、あいつに1枚入れてもらったんだっけ。
『ライフデッキに色彩ばかりじゃ、あっという間にライフが無くなっちゃうわよ!』
おかげで首の皮1枚繋がった。
後でお礼を言っとかないとなぁ。
「すぅ……よしっ」
改めて、状況を見る。
相手がエンドフェイズを宣言したことで、10ターン目……つまりはこちらの番になる。
クリーチャーの居ないメインゾーン。
このターンで引いてしまえば残り1枚となるライフデッキ。
文字通り紙一重と言っていい状況だ。
「レディ……」
対して、相手のライフは11枚。
場にはパワーは高いが
前のターンは耐え切ったが、次はそうもいかない。
次の相手のターンで俺のライフは削り切られてしまうか、ターンをスキップしてのドローによるライフアウトとなる。
つまり……勝つためには、このターンで決着をつけなくてはいけない。
「アップキープ」
大量に失ったライフによって増えたコストゾーンにより、複数のカードを発動できる。
そんな俺の手札には、赤の色彩と魔法が2枚、そして低コストのクリーチャー<受粉ゴブリン>が1体。
足りない。
手札の<受粉ゴブリン>のパワーは1点。
仮に手札のカードで強化してファイターへ攻撃しても、半分以上ある相手のライフは削り切れない。
だけど、デッキに眠る"あのクリーチャー"を引くことができれば、勝機はある。
「ドローフェイズ」
手順ミスをしないよう各フェイズを順に宣言し、デッキへ手を伸ばした。
「メインとライフを、ドロー!」
引けたカードは……魔法カードと、色彩。
「色彩をセット」
クリーチャーカードは、引けなかった。
「そのまま1コストを生成」
「手札から<研究査読>をプレイ。デッキから2枚ドローする!」
「
デッキに指を当て、静かに引き抜く。
1枚目は魔法カード。
そして、2枚目。
そこに描かれたものを見て、思わず笑みがこぼれた。
「その後、手札からカードを2枚墓地へ送る」
捨てたのは、元々持っていたカード2枚。
賭けには……すでに勝っている。
「赤の色彩を起動、1コストで<受粉ゴブリン>を召喚」
地面から生えるように、亜人を模した植物が姿を現す。
「そして赤を含む色彩5枚を起動して、合計5コストを生成!」
ゴブリンが地面のある一点を見つめると、そこに向かって拳を強く叩きつける。
一瞬の静寂。
直後、拳の叩きつけられた地面を中心に大きな地割れが起きる。
「<眠れし利剣クリカラ>を召喚!」
大地から炎が噴き上がる。
同時に、炎の中から巨大な影が姿を現す。
全身を黒い鱗で覆われているそれは、やがて炎から這い出ると、俺の背後へと降り立った。
俺のデッキの、エースクリーチャー。
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<眠れし利剣クリカラ>
(赤)(赤)(3) 7/3 【飛行】
唯一無二の契約のクリーチャー
このカードが場に出た場合、相手のレディ状態のクリーチャー1体をステイさせる。
このカードが戦闘する時、他のカードの効果を受けない。
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「コスト5で、パワー7!? だけど召喚酔いで動けないなら……!」
クリーチャーは召喚直後は動けない。
どんなに強い力があっても、動けなければ意味がない。
それが、今のままなら。
「色彩3つを起動して墓地の<燃え盛る突進>をプレイ! 俺のクリーチャー1体を選択し、はターンが終わるまでパワーが3点上がり、【速攻】を得る!」
「なっ!?」
動けないなら、動けるようにすればいい。
【速攻】を得た竜の眼は大きく開かれ、全身の炎が勢いを増す。
これでクリカラのパワーは10点。
「さらに手札から<衝撃>を発動! ファイターに2点のダメージだ!」
クリカラが火球を生み出し、相手ファイターへ向けて放つ。
「ああ、<間一髪>が……!」
相手のデッキにも入っていた<間一髪>のカードが墓地へ落ちていく。
これによって、ダメージは1点となり、相手の残りライフは……10枚!
「……ま、まだだ! 手札から瞬間魔法<とんぼ返り>でクリカラを選択して手札に戻す! これでもう攻撃はできない!」
これが切り札と言わんばかりに、バウンスカードを掲げる姿を見て。
「——
「ここで、打ち消しカード!?」
クリカラに向かって激しい突風が放たれるが、場のゴブリンが自分を燃やし、大きな火柱となって打ち消した。
バウンスカードを使用したことで、相手の手札は1枚。
攻撃に対してカウンターができるカードを握っているとしても、コストゾーンの色彩は全てステイ済み。
場に動けるクリーチャーも居ない。
「勝負だ、<眠れし利剣クリカラ>で攻撃!」
阻むものはなくなった。
指示を受けた竜が空へ舞い昇る。
「……次は勝ちます!」
「!」
眼鏡の少年が真っ直ぐこちらを見つめている。
少し悔しそうで。
それでも、笑っている顔を見て。
「ああ、またやろうな!」
俺も笑って返事をした。
燃え盛る炎が空を赫く染めあげる。
それはさながら、空へ打ち上がる花火のように。
「破邪炎天象!」
そして、流れ落ちる星のように。
相手ファイターのライフを、全て消し飛ばした。
「対戦ありがとう。熱いファイトだったぜ」
◆
少しずつ赤みを帯びて暗くなる街中。
行き交う人の数もそこそこ多い大通りを歩きながら、カードショップでの戦いを振り返る。
<サバイブロック>を使っていたタイチという少年は、訪れたお店の中でもファイトが強い子らしく、かなりギリギリの戦いだった。
その後、観戦していたファイターたちと2、3回ほどファイトをしたが、結構上手い子ばかりで勝ち負け関係なく楽しめた。
「また今度行ってみようかな」
「……行くのは別にいいけれど、先に確認することがあるでしょ」
「あー、そうだっけフタバ」
隣を歩く少女——フタバが溜め息をつく。
「テルのデッキの調子よ。アタシが組み直したそのデッキ、前のと比べてどう?」
「そうだなぁ……あ、トレードしてもらった<間一髪>や<研究査読>、かなり役に立った」
「それはそうよ。というか今まで魔法どころかまともな<呪言>すら入れてなかった方がびっくりしたんだから」
「ははは……」
ゴブプラ入りブレイバーデッキ。
同じ赤系、そして低コストで出せるクリーチャーの多い<ブレイバー>と<
サポートカードには同色の<衝撃>や<燃え盛る突進>だけでなく、青系の<研究査読>、<献身の証明>も入れることでデッキの回しやすさや妨害への突破力も高めている。
そしてフィニッシャーには<眠れし利剣クリカラ>が入っているが、これは1枚持っていないため、引き当てるまでに時間がかかるのがちょっとした難点だ。
「俺が組んでたデッキよりずっと回しやすいと思う。ありがとう」
「……それなら、良いんだけど」
髪をくるくると弄りながら、「でも」と付け加える。
「もう少し他のカードへの関心とデッキ構築力を身につけてほしいかな」
「うぐ……」
耳が痛い話だ。
出会った当初はともかく、交流を重ねていくうちにカードの話をするようになってからはかなり口酸っぱく言われた。
『なにこのデッキ、ほぼクリーチャーしかいないじゃない!』
『テーマがバラけすぎ、もう少し纏まりがあるように揃えるわよ! 家のカード全部持ってきて!』
『せっかく妨害や展開に使える魔法カードがあるんだから、しっかり入れないと』
『<クリカラ>ねぇ……これ、ゴブプラの<受粉ゴブリン>とか入れると少しは出しやすくなるんじゃない?』
そうして2人でデッキを考えて、何度も回して、ようやく今の形に落ち着いた。
……思い出せば出すほど、当時の俺って随分雑に作ったデッキ回してたんだなぁ。
「……可能な限り、善処してみる」
「よし。それじゃあ今度ちゃんとできてるか抜き打ちテストするからね」
「えぇ……? テストとかそんなに得意じゃないんだけどなぁ」
「学校の授業よりは分かりやすいわよ。多分」
多分ってなんだ、どんな問題を出す気だ。
最近デッキに入れたカードや学んだ回し方でも記憶が怪しいのに、全く知らないテーマの問題とか出てきたら答えられる気がしないぞ。
「何よその顔……心配しなくても詰めファイト形式よ。そんなに不満なら筆記にする?」
「い、いやいや。筆記は勘弁、ファイトの方で!」
「あはは、冗談よ」
冗談に聞こえなかったんだけど。
振り回される俺を見るなり彼女はころころと笑っていた。
そんな他愛のない会話をしながら歩いているうちに、夕焼けがビルの向こうへ沈んでいくのが見えた。
そろそろ帰らないといけない時間だ。
「今日はもう日が暮れるし、また明日の放課後にデッキの調整を頼——」
頼んでいいか、と伝えようとして。
≪……ぁ≫
「…………?」
足を止めて振り返る。
「うん、明日の放課後……どうしたの?」
「いや……」
振り返った先には今し方通り過ぎた道がある。
特に変わったところもなく、誰かが後ろにいたわけでもない。
何故そうしたのか自分でもよくわからない。
だけどひとつ、わかるとすれば。
「なんか、聞こえた気がして」
「なんかって、何も聞こえ——」
≪わ…………か……≫
「悪ぃフタバ、少し野暮用!」
「えっ、何……って、どこ行くの!?」
そう思った時には、体が動き出していた。
「ちょっと、野暮用って……もう!」
◆
ビルの影に覆われ、夜に染まっていく街を進む。
大通りから離れるうちに街灯は減り、人影が少なくなっていく。
普段は通らない全く知らない道。
だけど、この先から呼んでいる。
説明できない、何かを辿っている。
そうして、しばらく歩いた先。
日は沈んで、人気のない薄暗い夜道。
街灯が1つ照らすその下に。
「……女の、子?」
————黒い少女が泣いていた。
夜の中にありながら、夜より深い黒を纏った少女。
その頬から、静かに零れるものを流しながら。
≪…………≫
少女は、静かに俺を見つめていた。
「……君が、呼んだのか?」
その問いかけに、彼女は答えない。
正確にはわからないのだろうか。
少し首を傾げるような仕草をして、一歩を踏み出し。
つまづくように姿勢を崩した。
「っ、危なっ……!」
咄嗟に手を伸ばす。
彼女の驚く表情が一瞬見えて。
伸ばした手の先に、少女の姿は無かった。
「…………は?」
何が起きたのか。
確かに今、少女は目の前にいた。
それが、一瞬で消えた……?
まるでそこに居なかったように。
幽霊か、立体映像のような不可解な出来事。
困惑しているうちに、気がついた。
右手にある、違和感に。
「ぉーい! ……はぁ、やっと追いついた。こんなところまで走ってたなんて」
「……あ、フタバ」
背中越しに、声をかけられたと思えば、そこには同級生の姿。
どうやら追いかけてきたらしい。
「追いかけるのが大変だったわよ……ほとんどまっすぐ進んでたみたいだから見失わずに済んだけど」
そうして近寄るフタバは。
「あれ、何そのカード?」
俺の右手にある、1枚のカードに目を向けた。
見た目はLifeのカードと同じデザイン。
名前があり、イラストがあり、効果テキストがある。
裏面も共通の絵柄が使われている。
そこまではいい。
問題は————
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<■■■■・■■■■■■へメラ>
(■)(黒)(5) 5/7 ■■■■■
唯一無二の■■■クリーチャー
このカードは<
■■■■<楔カウンター>2個ごとに、このカードの召喚コストを1つ減らすことができる。(最大3コスト)
このカードが場に出たとき、■■■■<楔カウンター>を1つ乗せる。
起動:■■■■<楔カウンター>を3つ消費し、墓地のクリーチャー1枚を場に呼び出す。それは次の自分のアップキープに墓地に戻る。
この能力はターン中に2回まで使用できる。ただし同名のクリーチャーは連続で選べない。
■■■■
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カードのあちこちで、文字化けを起こしていることだ。
「……<ヘメラ>、か」
カード名にも文字化けが入っているが、名前だけは確認できる。
恐らくこのカードの名前で間違いないはずだ。
「何なんだろうこのカード。もしかしてエラー品って奴か?」
「え、エラー品!? ちょっと見せて」
エラー品のカードと聞いてフタバが興味が湧いたらしい。
そのまま彼女に持っていたカードを渡す。
Lifeのカードはパックから出るか、カードショップで購入するくらいしか入手する方法はない。
他にも大会などの景品や、ちょっとした伝手があれば手に入ることもあるらしいが、デザインとして文字化けを起こしたカードというのは見たことがない。
ある意味ではレアカードのよう「エラー品って、
「どこがって……名前も効果内容も黒塗りになってるところがあるだろ?」
カードを見つめるフタバ。
だけどその反応が妙で、一緒にカードを見たが、やはりテキストには黒塗りされたような文字化けがある。
あるの、だが。
「<
じっくり鑑賞をし始めた彼女の様子に反して、俺は底知れない不気味さを感じていた。
依然として、俺の目には文字化けしたカードが見えていて。
そのイラスト部分には、黒い少女が眠っていた。
繰り返す日常、変わらない生活。
そこで未知と出会ったなら、冒険の幕は上がっている。