人狼は死ねば素材になる世界で……   作:藤原 峯

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人狼は揺らいでいる

 番場さんの執務室へ行くと、既に何名かが中に居た。同じ班の吉田さんをはじめ射撃に定評のあるベテランと、身体能力の高い若手や中堅が集められている。

 

「大上、こっちだ」

 

 吉田さんの手招きに従い空いている席へ座り、暫く待っていると壮年の男性がノックもせずに入室した。

 

「楽にしてくれ」

 

 椅子から立ち上がる番場さんに倣い全員が立って頭を下げる。

 この男性は上層部の人間で、番場さんの上司になるらしい。

 男性はそのまま番場さんの椅子へ腰かけると葉巻を取り出した。

 

「昨日の今日ではあるが、逸れ人狼……志臥と言ったか。コイツによる被害は見過ごせない。だから早急に対策を講じる」

 

「緊急なので資料はない。全員、頭に叩き込めよ」

 

 男性の傍に立つ番場さんから声が飛ぶ。

 

「人狼である志臥は昼も俺達を襲える。夜になればヴァンパイアの増援が来ることを想定し、戦闘は日中に行うこととする」

 

 この発言に室内はざわめきが起こる。あれだけ隠密行動を徹底していた組織が白昼堂々と戦闘を行うと宣言したからだ。

 

「でも、どうやって志臥を見つけるんです?人間体は誰も知らんでしょう」

 

「確かに、監視カメラが使えないんじゃ非効率だ」

 

 対面で零れたその言葉を、俺は聞き逃せなかった。

 今ここで志臥の人間体を知っていると報告すべきだろうか?そう思ったが、俺は沈黙を選んだ。

 この作戦へ納得いかない本心から出た惨めな抵抗だ。

 

「人間体が不明でカメラが使えないこともだが、志臥は武……大上よりも索敵範囲が広い。我々が先手を取ることは現状不可能だ」

 

 人間にとって人狼もヴァンパイアも上位存在だ。そんな相手に先手を取れない事がどれほど不利になるのか、理解していない人間はここにいない。

 

「そこで、我々は賭けに出る。そこのガキを使ってな」

 

 男性は濃い煙を吐き出しながら葉巻で俺を刺し示す。

 

「重傷者からの報告ではガキを探しているらしい。だから囮にして志臥を釣り出す」

 

「我々は志臥の索敵範囲外に待機し、武が接敵次第、対応に向かう予定だ」

 

「志臥が出現すれば周辺を封鎖するよう警察とは協議済みだ。待機組は景気よく車をぶっ飛ばせ」

 

 つまり、応援が来るまでは一人で戦う必要がある。

 戦う際の意識が少し変化した程度で、俺と志臥の力量差は全く埋まっていない。それでも、死なないために何とかするしかない。

 

「あとは遠距離から足止めして番場が眷属化して作戦は成功。ヴァンパイアの情報も得られるって算段だ」

 

「これ以上組織を崩壊させるわけにはいかない。いつもの狩りとは勝手が違うが、頼む」

 

 番場さんの言葉に各々が返事をし、ミーティングは終わりを迎える。

 残されたのは俺と番場さんのみ。

 昨日もここには居たが、今日は空気が重苦しい。上層部の人間が残した葉巻の煙だけが理由ではない事は明白だ。

 

「志臥の件、本気ですか?」

 

「説明した通りだ」

 

「上の決定じゃありません。番場さんに聞いてるんです」

 

 俺の問い掛けに答えるつもりは無いと言わんばかりに番場さんはタバコに火をつける。

 その拒絶とも取れる姿勢に俺は語気を荒げてしまう。

 

「俺を犬にしないのに、志臥は犬にしようってんですか!」

 

「お前と志臥では事情が違う」

 

 分かっている。そんな事は言われなくても分かっているんだ。

 

「でも、同じ人狼ですよ」

 

 沈黙が部屋を包み、タバコのチリチリと焼ける音と匂いが五感を刺激する。

 

「犬にするんですね」

 

「……武」

 

「俺が成体になって、手が付けられなくなったら犬にするんですか?」

 

 それでも、自分の未来が志臥と重ならないなんて言い切れない。

 

「将来お前をどうするのか、最終的に判断するのは上だ。俺は俺の意見を伝える事しかできん」

 

 結局、組織に属する以上、俺も番場さんも変わらないのだろう。

 思いを伝える事はできても、上が許さなければ叶わない。

 

「俺だって組織の一員です。囮は犬らしく、キッチリとやりますよ」

 

 何か言いたげな番場さんの言葉を遮り、俺は部屋を後にした。

 行き場のない感情を消そうと、一心不乱にトレーニングをするも気分は晴れない。

 人狼として自由に生きる志臥と、飼い殺しにされている俺。

 俺を犬にしない番場さんでさえ、組織という飼い主がいる犬だった。

 なら、俺はどうなんだ?

 首輪を外せば自由になれる。

 でも、その自由を選べば学校には通えない。柏木さんにも会えず、有栖と離れることになる。

 柏木さんと友達でいるには、首輪を付けていなければならない。

 かといって首輪を外したところで、待っているのは自由じゃない。

 素材として狩られるか、眷属にされて本当に犬になるかだ。

 

「なんだよ……それ」

 

 自分で考えておきながら、無性に腹が立った。

 そんな思考がグルグルと回り続け、自分がどうすればいいのか分からなくなる。

 ただ、常に心の中心にあるのは学校へ行きたいという感情……いや、そうじゃない。

 

「俺は、彼女に会いたい」

 

 友達に会って、連絡先を交換したい。俺の方から今度は一歩、歩み寄りたい。

 有栖に今度こそ胸を張って、友達が出来たぞと伝えたい。

 そのためにも志臥はどうにかしなければいけない。

 彼の自由を奪ってまで学校へ通いたいのか。

 自分の手で決着を付けられなくても、本当にいいのか。

 何が正しくて、何が間違っているのか。

 今の俺には答えが出せなかった。

 

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