番場さんの放った特殊弾で拘束された志臥。
取り囲むハンター達はクロスボウのボルトで狙い、いつでも攻撃できる状況を作っている。
彼らの呼吸の浅さ、汗の匂いが心理状態を目で見るよりも正確に伝えてくる。
「志臥を拘束。作戦の締めに入る」
番場さんが志臥へ近づく。先の遠吠えによるダメージが抜けていないせいか、覚束ない足取りで後を追う。
「ったく。トンチキな武器使いやがって」
「初見殺しは定石だ」
「そいつは同感だ。んで、獣は縛られないってのも……定石だ!」
突如、志臥は全身に力を込めて拘束から抜け出そうと試みた。
ギチギチと血のワイヤーが肉へ食い込み、ポタポタと血が滴るのも構わず志臥は暴れる。
「グゥガァアアア!!」
咆哮。それと共に引きちぎれ、床に広がる血。
番場さんが床の血を操作し、再び拘束しようと試みるも簡単に払いのけられる。
「首輪にしちゃ、ちっと物足りなかったな」
「撃て」
番場さんの号令で、周囲のハンターが一斉射を行い無数のボルトが志臥を襲う。
「舐めるな!」
最初の数本は志臥も迎撃できていた。だが、時間差で放たれるボルトの何本かはその身に食い込み、中を空洞に加工しているから血がダラダラと流れ出る。
血を糧にするヴァンパイアと戦うために作られたその失血ボルトは生物である人狼にも有効だった。
ボルトの対処を優先する志臥へ番場さんは特殊弾で牽制する。
「種がわかれば何でもねぇ」
背後から打ち込まれる番場さんの攻撃に、対処する志臥。脅威となると見定めたのはボルトの装填に時間を有するハンター達だ。
標的にされたことで対応に時間を取られ、気付けば目の前に志臥がいる。
「歯ぁ、食いしばれ!」
豪快な一振りはそれだけで大人を二、三人軽く吹き飛ばし、手足をひしゃげさせる。
「吉田さん!」
壁に激突し力なく倒れる吉田さん。幸いまだ息はあるが重症であることに変わりはない。
「仕掛けるぞ」
「はい!」
先程まで悩んでいた事など忘れ、俺は志臥へ肉薄する。
背後から発砲音が響き、志臥を拘束しようと鞭がしなる。
脅威度が低くとも、無視できない攻撃に意識を割かれる志臥。そうして出来た隙を見逃さず急所を狙って爪を突き立てた。
「お前の攻撃が、一番わかりやすいぜ!」
がら空きに見えた脇腹目掛けて伸ばした腕は志臥の肘と膝に挟まれて防がれる。こちらの攻撃を誘う為、わざと隙を曝したと理解した時には、もう手遅れだった。
バキり、と嫌な音が響き、顔を顰めた瞬間俺の視界がブレる。
「がっ!?」
志臥は器用に体を回転させながら俺の側頭部へ蹴りを叩き込む。
地面に向かって倒れ込んだ俺はそのままバウンドして吹っ飛んでいく。
そのフィジカルと戦闘センスに圧倒される中、どうにか攻略の糸口を探す俺達へ志臥は語り掛ける。
「おいおい。結局一人じゃなにもできねぇか?」
「武、耳を貸すな」
「やっぱりお前は犬だな。さっきの威勢も嘘なんだろ?」
「違う!」
「違わねぇ。テメェがどう思おうと、俺はそう受け取った。文句があるなら実力で黙らしてみろ」
何も言い返せなかった。
俺がどう思っているかなんて関係ない。
結果は、番場さんの助力が無ければ勝負にすらなっていないのだから。
『番場。状況を報告しろ』
ふと、インカムに上層部から連絡が入る。
「現在、志臥と交戦中。負傷者多数です」
「なんだよ、どいつもこいつも犬ばっかだな」
興覚めだと言わんばかりに志臥は地面に寝そべりだす。
『単刀直入に聞く。現在の戦力で志臥の捕獲は可能なのかね?』
「成体となった人狼を侮っていました。作戦遂行は不可能です」
組織の最高戦力とされる俺と番場さんでも勝てない相手。これをひっくり返すなら別の支部から大量に応援を呼び、物量で圧しきるしかない。
そう告げる番場さんへ上層部は言った。
『では作戦を変更する。大上を眷属化し、命がけで志臥を拘束させろ』
「……は?」
ミシリと番場さんの握る拳銃にヒビが入る。
「正気ですか」
『大上には戦力として最後まで役目を果たしてもらう』
「武を捨て駒には……」
『優先順位を間違えるな。成熟した人狼と情報を得るチャンスだぞ』
「番場さん」
俺の呼びかけに反応し、番場さんの瞳がこちらを射抜く。
若い人狼より、成体の強い人狼。
組織はそちらを選べと。俺を犬にして、神風特攻をさせろと言っている。
深い沈黙が互いの間に落ち、誰も動こうとしない。
いや、志臥だけがこの空間でニタニタと事の行く末を見守っている。
「武」
こちらを見つめて動かない番場さん。インカムからは上層部の怒声が聞こえてくる。
志臥の力は想定以上。放置していては多くの犠牲が出る。
ハンターがでれず、民間の被害も増えていくばかり。
ついさっき、助けられなかった人の無残な最期がよぎった。
そして、彼女の笑う顔も。
「……やってください」
「武」
この選択が正しいのかはわからない。
でも、俺は選んだんだ。
俺一人でみんなが、彼女が助かるなら。この道の方が正しい。
「志臥はここで止めなきゃならない。だから俺を、アナタの眷属に!」
「ハァー。お前はその道を行くわけだ」
溜息混じりに志臥が言葉を零すが、もう惑わされない。
これは俺が自分で決めたことだから。
「番場さん。俺が生きてたら、学校に行かせてください」
気に入ってるんです。あの場所が。