人狼は武器です。素材です。それでも俺は人間として生きてみたい。   作:藤原 峯

13 / 20
人狼は否定される

 ヴァンパイアが眷属を作る方法を、俺は知らない。だから、できることは目を閉じて耐えることだけ。

 傷を付けられる?血を飲ませられる?何をされても動揺しない。

 そう固く決意をしたのに、何も起きない。

 視界を閉じても、まだかまだかと、鼻と耳が番場さんの動きをついつい追ってしまう。

 しかし、待てども番場さんは動かない。

 

「その気はない」

 

「……え?」

 

「武、お前のそれを覚悟とは呼ばん」

 

『何をしている番場。命令に従え!』

 

「大上武を眷属化する気はありません」

 

『……情が移ったか?小を捨て大を取る。死ねば素材。保護した時点でその話だった筈だ』

 

 インカムからは上層部の怒声が届いているが、俺も番場さんも取り合わない。互いの視線が交差する中、番場さんは声を発する。

 

「俺にお前を眷属化する意思はない。勿論、志臥を見逃すつもりもない」

 

 番場さんの宣告に志臥がニタニタと笑いながら立ち上がる。

 

「もう少しお利巧かと思ったが。面白味があるな」

 

「そう言うキサマは自由すぎるな。余裕の表れか?」

 

 拳銃へ弾倉を込め直した番場さんは銃口を志臥へ向けた。

 

「同じ手は通じないぜ?」

 

「俺だって馬鹿じゃないさ」

 

 余裕の表情を浮かべる志臥に対し、番場さんは冷めた表情でそう告げる。

 

「……え!?」

 

 パンッパンッと乾いた音が響くと同時、腹部に衝撃が走る。

 番場さんの構えた拳銃は俺に向けられており、硝煙がゆらゆらと立ち上っていた。

 

「呆けるな、武。反撃の時間だ」

 

 肉体にめり込んでいた特殊弾から、血が流れだし全身を包む。

 爪はより長く、鋭く。毛皮はより強靭に。

 

「これは、凄い」

 

 全身を覆う真紅の鎧に、戸惑いより先に興奮が込み上げた。

 

「ハッ。それで勝てるなら、苦労はしねぇぜ?」

 

 志臥が大きく息を吸い込む。先ほどの遠吠えを用いた遠距離攻撃。

 

「音の攻撃!」

 

 短く発する俺の言葉を察して、番場さんは血の鎧で耳を塞いでくれる。

 

「―――ッ!!!」

 

 ビリビリと全身を揺さぶる衝撃。多少視界は揺れるが問題ない。

 

「ガハッ」

 

 背後で番場さんが血を吐いたのが分かる。咄嗟の判断で俺を優先してくれたのだ。

 

「うおおおおっ!」

 

 肉薄し、致命傷ではなく、傷を負わせることを目的とした爪による横薙ぎ。

 傷口から血が入れば、あとは番場さんのほうで眷属にできるはず。

 

「遅い!」

 

 遠吠えのダメージによって、わずかに鈍った爪はは、志臥に届かない。

 

「いや、それでいい」

 

 後退し、紙一重で躱した志臥に爪から伸びた血が、肘と膝の関節へ深く突き刺さる。

 更に全身の鎧が無数の杭となり志臥へ突き刺さった。

 

「ぐおおおぉうう」

 

「関節を全て貫いた。もう動けん」

 

 三半規管がやられたのだろう。よろよろと歩きながら番場さんは近づいてくる。

 

「こちら番場。志臥の拘束に成功」

 

『……言いたいことは山ほどあるが、それは後だ。よくやった』

 

 早く眷属にしろ。上層部からの指示を聞いたはずなのに、番場さんは動かない。

 

「番場さん?」

 

 バシャリと水音が響くと、志臥を貫いていた血の杭が水溜まりを作る。

 

「番場さん!」

 

 片膝を付き、荒い呼吸を繰り返す番場さんの顔は、土気色をしていた。

 

「情けない。俺の方が保たんとはな」

 

「流石に俺も焦ったぜ」

 

 動く度にあちこちから血を吹き出しつつも、志臥が立ち上がる。

 

「お前、ただのヴァンパイアじゃねぇな」

 

「それは、お互い様だろう?人狼がヴァンパイアを食べるなんて聞いたことない」

 

「あ?人間より高カロリーなんだから、普通に食うぞ。俺達は」

 

 知らなかった。得体の知れない恐怖を与えた志臥の行動は、人狼としては当たり前だったなんて。

 

「でも、感染が」

 

「死んだヴァンパイアに、眷属化させる能力は無ぇ。死体は余すことなく食料だ」

 

「人間とは違い、人狼には耐性があるのか」

 

 番場さんもまさかの告白に目を見開く。俺は組織で人間がヴァンパイアに感染する方法を聞いていたから、人狼も同じだと思い込んでいた。

 

「俺を捕まえるために精鋭を寄越したんだろ?なら、俺の仕事は終いだ」

 

 変身を解き、タバコを吸い始める志臥。

 緊張感の霧散した影響か、俺も変身が解けてしまう。

 

「仕事って何の話だ?」

 

「さっきも言ったが、利害関係の一致だ。お前らの戦力を削ぐ。代わりにボウズへ手出しさせない」

 

 志臥が組織を襲ったのは、俺が原因?

 

「もう、我々を襲うつもりは無いと?」

 

「ああ。用心しろよ?雇い主が動き出すぜ」

 

 戦力が大幅に低下した状況で、ヴァンパイアが攻勢に出る。

 志臥の情報がどこまで正しいのかは不明だが、備えなければならない。

 

「にしても、自分から犬になろうとするのは意外だったぜ。覚悟は立派なもんだ」

 

 ニヤリと笑う志臥の視線が、俺を射抜く。

 結果を見れば、俺は眷属になっていないし志臥も無事で、もう暴れないという。

 ヴァンパイアの動きは気になる。

 納得できるわけじゃない。それでも、これ以上被害が増えないなら最悪の結末ではない。

 

「だが、こっちの世界を知らねぇのに決断するのは、いただけねぇ」

 

「は?」

 

「おい、ヴァンパイア。頑張って居場所を守ってやれよ?」

 

「どういうつもりだ?」

 

 番場さんの答えを待たず、志臥の姿がブレたかと思えば、奴は目の前に立っていた。

 

「コイツを暫く借りるぜ」

 

 鈍い衝撃と共に、俺の視界は暗転した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。