人狼は武器です。素材です。それでも俺は人間として生きてみたい。 作:藤原 峯
「番場さんの血が、必要?」
「君も知っているだろうが、番場家は代々日光を克服している。混血になり失ったモノはあるだろうが、得たモノも大きい」
混血……番場さんが?
「何の話をしているんだ」
「……秘密主義は相変わらずか。番場家について何を知っている?」
古くから人間側に付き、組織でもそれなりの権力を保持している。
でも、番場さんは組織のトップじゃないから、誰かの指示に従う存在だ。
「人間についたヴァンパイアとしか」
「末端にはその程度か。正しくは人間に恋した初代以降、番場家は混血なんだよ」
だから血液の操作が不得手。
だから傷の再生が遅い。
だから、だから、だから、だから、だから、だから……
レヴァンから語られる、混血のヴァンパイアが低俗で、半端な存在である理由の数々。
「日光の克服は唯一の利点だが、まともな眷属を作れないのはナンセンスだ」
「何だって?」
まともな眷属を作れない……番場さんが?
「種として繁栄するのに、我々は眷属を作る進化をした。だが、混血は人間の血が働くのか、眷属の知性が獣以下だ」
あの日、番場さんは俺を眷属にしなかったんじゃない。
……できなかったんだ。
上層部は誰も知らないんだろう。知っていたなら、俺を眷属になんて命令しない。
いや、捨て駒扱いでいいなら、知能がなくてもよかったのか?
俺を眷属にしなかったのは、保身のため?俺のため?
番場さんの行動理念が、わからなくなる。
いや、初めから理解しようとしていたか?
纏まらない思考を遮ったのは、レヴァンの言葉だった。
「日光耐性の因子を見つけることが出来れば、霊長の座は我々になる。数だけの劣等種に、我が物顔されることもなくなる」
こいつは、なんなんだ。
口では種族のためと言いつつ、自分が上になることしか考えていない。
どこまでも独善的で、勝手だ。
「それで、父親を殺したのか」
「老人は駄目だね。どんどん穏健派になるんだから、嫌になるよ」
何てことないようにレヴァンは言う。
「話を戻そう。志臥が君を同行させたんだ。取引といこう」
「やっと本題か」
背後でタバコを吹かしていた志臥が俺の前に出る。
「前の戦闘で、連中の戦力はガタガタだ。志臥には番場の誘拐を頼みたい」
目的を聞いた瞬間、敵意が溢れ、レヴァンを睨む。
「落ち着け少年。君が生きているのは、志臥のお蔭だと忘れるな」
足元に広がる血溜まり。
いつでもお前を殺せるのだと、レヴァンからの警告に俺は動けなくなる。
「で、どうかな?」
レヴァンからの依頼。志臥は何も答えずタバコを吸い続ける。
「一から十を俺に頼るのは、気に入らねぇ」
タバコを踏み消し、端的に答える志臥。
「交渉は決裂かい?」
「奴を攫うってのはな。それ以外は内容によるぜ」
「待てよ」
志臥がレヴァンに付かれると、組織は負ける。
何とかして、志臥とレヴァンを引き離さないと。
「日光を克服してるのは、番場さんだけじゃないだろ」
「少なくとも、私は彼しか知らない。何十年と探してね」
レヴァンの言葉に、俺は引っかかりを覚える。
まさか、こいつは有栖を知らない?
有栖は組織に保護されているが、属せず普通の生活を送っている。
だからコイツは混血のヴァンパイアが番場さんしかいないと思っているんだ。
「……若いな」
レヴァンの呟きに、志臥は溜息を吐いた。
「誰かの顔が浮かんだな?彼に両親はいない。父が誤って殺したからだ」
足元に広がる血が鎖へ変わり手足を拘束する。
「番場家は組織で保護されている孤独な家系だ。いるとすれば弟か、妹か……」
ダメだとわかっていても、妹という単語に反応してしまう。
「なるほど、妹がいるのか」
答えに辿り着かれ、後悔に顔が歪む。
プレゼントが望んでいた物だとわかった子供のような、無邪気な笑みを浮かべてレヴァンは声を上げる。
「組織にいないなら、敢えて在野へ放っているのか!……君と交友があるなら、年齢も絞り込めるな」
ギチギチと鎖が軋み、手足の骨が砕かれる。
「ガアァ!?」
「おい、手を出さない契約だぜ?」
志臥の問い掛けに、レヴァンは飄々と答える。
「私は組織の戦力を削れと言ったんだ。それは、殺してくれという意味だったんだがね」
「……俺の落ち度だって?」
志臥の纏う圧が上がっていく。
「いやいや。認識の違いを話しているのさ」
レヴァンは邪悪な笑みを浮かべ、クツクツと喉を鳴らす。
「君はハンターに手心を加えた。私も手を出さないと契約したが、それを命まで奪わないことだと認識したのだよ」
書面を交わさない、口頭での契約。
認識の違いだと言われれば、志臥でも強くは出られない。
志臥が言い返さない。
それだけで、どちらに分があるのかは分かった。
「……志臥」
どうにか助けてくれないかと、志臥へ視線を送る。
しかし、彼はバツが悪そうに眼を逸らし、タバコに火をつけ背を向けた。
「人間への拷問は苦手だが、人狼の君なら耐えられるだろう」
地面に倒れ、半身が血に沈む。
パキパキと音を立て、血は数々の拷問器具に形を変える。
「安心しろ、殺しはしない」
「……再起不能にはするなよ」
志臥の静かな声は、苦痛に消され届かない。
山奥のトンネルに、俺の声が木霊する。
陽が上るまで、まだまだ長い。