人狼は武器です。素材です。それでも俺は人間として生きてみたい。 作:藤原 峯
拷問は、日の出一時間前まで、絶え間なく続いた。
「…………」
叫びすぎて声は出ず、口内は血の味しかしない。
体に張り付いた血は乾き、胸の上下運動に合わせてパリパリと音を立てる。
俺は、何も言わなかった。
アイツ……レヴァンもそこは褒めていたが、反応した言葉から有栖に辿り着かれたのは、俺のミスだ。
「立たねぇのか?」
枕元に立つ志臥が言う。
こうしている間に、レヴァンは有栖を探していることは。
でも、体は言うことを聞かない。
「…………」
「最初に言っとくぜ。これは本意じゃない」
そう言って志臥は、俺の口に複数の錠剤を押し込んだ。
「!?」
「味わうな。全部飲み込め」
次いで鼻を摘ままれながら水を流し込まれる。
窒息しそうになり、反射的に錠剤を飲み込んだ。
抗議の視線を向けるが、志臥は悪びれずにタバコを吸う。
「集落で作った丸薬だ。即効性だが副作用がキツイ」
グツグツと胃の中が燃えるように熱い。
心拍が上がり呼吸も荒く、目に血が集まっているのか視界が赤く染まる。
「がぁああぁっ!」
勢いよく体を起こし、叫ぶ。
傷口から止めどなく血が溢れるが、貧血になる様子もない。
「今回に関しては俺に落ち度がある。行くぞ、時間が無ぇ」
「……どこに」
「番場のところだよ」
志臥から離れ、組織へ帰ろうと決意していたが、同行してくれると聞いて、内心嬉しかった。
志臥と戦う必要がないと、わかったから。
「無理にでも寝とけ。動けてるのは気休めだからな」
山道で揺れる車内で志臥は言う。
言われたとおりに目を瞑り、意識が沈みかけた時、声が聞こえた。
「志臥……すまなかった」
夢を見ている。
幼い自分が誰かに手を引かれ、走っている。
相手の顔は霞んでいてわからない。
「速い……速いよ」
「もう少し。もう少しだけ頑張ってくれ!」
俺も相手も服はボロボロ。裸足で山を進むから痛くて仕方がなかった。
やってきたのは、誰も使わない古井戸。
もう何年も前に枯れたものだ。
「ここに入るんだ」
「怖いよ」
「大丈夫だから」
俺は古井戸に押し込まれ、蓋を被せられそうになったから、怖くて泣いたんだ。
「なんで俺一人」
「みんなも連れてくる。大人しく待つんだ」
泣きじゃくる俺を落とし、蓋が月明かりを消した。
すすり泣く声が反響する中で、俺は独りで耐えたんだ。
でも、どれだけ待っても蓋は開かず、気付けば俺は眠ってしまう。
次に目覚めたときは、知らない天井だった。
あの人は……どうなったんだろうか。
「着いたぜ」
志臥の声で意識が覚醒する。
場所は組織の活動拠点がある街。あと数分も走れば目的地だ。
「ハンターの匂いが薄いな」
窓を開け、志臥が言う。
俺も匂いを嗅ぐが、知っているものは無かった。
「地下施設に行こう。番場さんが居るはずだ」
有栖の安否が気になるが、戦力を揃えてレヴァンに備えないと。
自宅のマンションへ行き、部屋に入る。
久しぶりの我が家は、埃を被っていることはなく、綺麗だった。
「……有栖か」
部屋中に有栖の匂いがついている。
冷蔵庫にも作り置きがあり、彼女が何をしていたのか容易に想像できた。
「無事でいてくれよ」
志臥を連れてエレベーターで地下へ行く。
監視カメラで俺の帰宅は組織も把握しているだろう。
「出迎えがあると思う」
「抵抗はしねぇ」
お互いに、多くを語らなくても理解できる。
短いけど濃密な時間を過ごした証だ。
ドアが開く。
案の定、吉田さんを始め何人かのハンターが銃口を向けていた。
「抵抗する気はありません」
「大上。無事だったのは嬉しいが、どうして志臥といる」
「それも含めて、番場さんに相談があります」
番場さんに用があると伝えると、吉田さんの表情が曇る。
「今は会えない」
「どうしてです?」
「先日の命令違反に加えて、有栖ちゃんがヴァンパイア側にいる。利敵行為を疑われて拘束中だ」
「……は?」
命令違反?利敵行為?
いや、それよりも。
「有栖がヴァンパイアといるって何ですか?」
俺は、間に合わなかったのか?
「ビデオレターだよ。有栖ちゃんからのな」
曰く、番場家はヴァンパイアのレヴァンと内通していたと告白するものらしい。
全てを知っている俺は嘘だと分かるが、上層部が信じてしまうのも分からなくはない。
「……遅かったか」
背後で志臥の溜息が聞こえる。
「誤解です!俺はレヴァンの目的を知っています」
「志臥はヴァンパイア側の人狼だ。行動を共にしているお前を、上は信じない」
「吉田さん!有栖が危険なんだ!」
俺の訴えに吉田さんは視線を逸らす。
彼だって、好きでこんなことをしていないと、匂いでわかる。
「全員、安全装置を解除」
吉田さんの号令に合わせ、ハンター達の殺気が膨れ上がった。
鈍く光るクロスボウが向けられる。
「……吉田さん」
「やれ」
刹那。施設の照明が落ち、暗闇に包まれる。
クロスボウは放たれることはなく、ハンター達は微動だしない。
「電源を落とした。サブ電源に切り替わるまで、数分かかる」
「吉田さん」
「俺達にできるのは、これが限界だ」
タバコに火をつけ、吉田さんが笑う。
「誰も番場さんや、お前を疑っちゃいない。匂いで追えるだろ?行ってこい」
「……ありがとうございます」
俺は、馬鹿だった。
周りのことを全然、見れてなかった。
「裏切り者だな」
後方から志臥が笑いながら話しかけてくる。
「でも、自分で選んだ結果だよ」
番場さんの所まで、もう少しだ。