人狼は武器です。素材です。それでも俺は人間として生きてみたい。 作:藤原 峯
レヴァンが日光を克服した。
それはつまり、日の出まで耐えるという目的が、レヴァンを討伐することへ切り替わったことを示す。
今のレヴァンは宙に浮かせていた血、鎧、短剣を失い、番場さんの攻撃で火傷を負っていたが回復しつつある。
輸血パックのようなものを持っていない限り、体内の血液しか使えるものがないはずだ。
「すまんが、限界だ」
番場さんの声と共に、俺と志臥の鎧が液体へ戻り、パシャリと地面へ染みとなる。
先の攻撃は、番場さんにとってもリスクがあったのだろう。肩で息をしている姿は少し、痛々しい。
「向こうも似たようなもんだろ」
志臥は首を鳴らし地面を踏みしめる。音を置き去りにする勢いでレヴァンへ接近する。
俺も追随し、挟撃した。
「舐めないでくれ」
レヴァンの肉体を突き破り、全身から剣山が生えてくる。
鎧を持たない俺達に、防御ではなく攻撃を選択したのだろう。ここから体勢を変えることは難しく、俺の拳は剣山に触れた。
「がっ!?」
「「「!?」」」
誰も、予想していなかった。
俺と志臥の攻撃はレヴァンの血を砕き、志臥は背中を、俺の拳はレヴァンの頬にめり込んだ。
前後からの攻撃により、錐揉みして吹き飛んでいくレヴァン。
一瞬、眷属にされるのではと冷や汗をかいたのだが、拳には傷はない。
「どうしたんだ?」
「手応えが無かったが、ダメージが原因とは思えねぇ」
困惑する俺達よりも、殴り飛ばされたレヴァンのほうが、狼狽えていた。
「硬度が低い……速度も……密度も……なにもかも!」
全身を襲う苦痛に呻きながら、レヴァンは自問自答を繰り返す。
「成功。いや、アイツに言わせれば失敗だろうな」
「番場!何が言いたい!?」
「有栖の血液から、日光耐性の因子を抽出したつもりだったが、混血の特性を全て得たのだろう」
レヴァンは実験の成果確認を自身で行った。恐らく、配下が日光を克服することを恐れたんだ。
でも、結果は見ての通り。
……つまりレヴァンは。
「後天的に混血になった。俺よりも半端な存在だ」
「ふざけるなぁあっ!」
激昂したレヴァンが、血で長大な刃を作り出す。
しかし、それには先程の大木を薙ぎ倒したような威圧感はない。薄く、ただ大きいだけの鈍らに感じられた。
さらに、血液を使い過ぎたのか、レヴァンの右腕はミイラのように干からびている。
振るわれた刃に速度は無く、余裕を持って回避することに成功した。
刃は木を薙ぎ倒すどころか中程で止まり、衝撃で砕ける。
「混血にあれほどの操作はできん。もう以前の力は無い」
「呆気ないな。こんな終わりとはな」
誰もが勝ちを確信した中、レヴァンは現実を受け入れられないでいた。
「ありえない。こんなこと、あってたまるか!」
半狂乱になりつつも、レヴァンは血で作った杭を飛ばしてくるが、途中で血液に戻り地面の染みとなる。
みるみる痩せ細り、パキパキと皮膚が乾いていく様は哀れだった。
「……興覚めだ。とどめは好きにしろ」
志臥はそう言ってタバコに火をつける。
俺は番場さんへ視線を向けると、暫く考えた後でこう言った。
「あそこまで血を使えば何も出来ん。拘束して情報を引き出す」
周囲から最早、脅威と見なされない自身の立場を払拭するかのように、レヴァンは肉薄してくる。
血を失い、生気が無くなりつつあっても、ヴァンパイア。
高い身体能力を以って振るわれた拳が俺に迫るが、当たることはない。
「……ダメだな」
膂力に任せた暴力は、確かな技術には通じない。
レヴァンの攻撃を捌き、鳩尾へ拳を叩き込む。
「ガハッ」
足が浮き、肺の空気を押し出されたレヴァンは地面に蹲る。
人狼の膂力で本気を出せば、殺してしまいかねないと判断し、変身を解く。
レヴァンは涎を垂らし、血走った眼で俺を睨んだ。
「俺を見下すな!獣風情がっ!?」
起き上がろうとした初動を、膝で顎を蹴り上げて潰す。
流れる動作で拳と蹴りを叩き込み、数発浴びせるとレヴァンは大の字で倒れた。
決着が付いたのを確認した番場さんは懐から通信機を取り出し、連絡を取り始めたので、俺は声をかける。
「有栖を探しに行ってきます」
手を上げたのを確認してから、施設へ向かい歩いて行く。
途中、レヴァンの横を通り過ぎる。空を見上げ、ブツブツと呟く彼を見て立ち止まる。
「有栖を生かしてくれて、ありがとう」
俺の言葉は、もうレヴァンには届いていなかった。
でも、返事が無いことに俺は何も思わない。
「……こっちか」
通路は咽返る血の匂いに溢れているが、微かに香る有栖の匂いを辿り進んで行く。
辿り着いたのは、最初にレヴァンがいた部屋。
何もないように思えたが、床の隙間から匂いがしている。周辺を叩くと乾いた音がするので、下へ続いていると考え床を破壊した。
「隠し階段」
想定通り、床の下には階段が続いており部屋に繋がっていた。
中は簡素な作りをしており、最低限の居住スペースとなっている。
「有栖!」
ベッドには有栖が横たわっていた。
貧血だろうか、顔が少し青い。
「帰ろう、有栖。俺達の家に」
眠ったままの有栖を抱え、施設を後にする。
外に出ると番場さんがレヴァンを拘束し終えたのか、志臥とタバコを吸っていた。
「もうすぐ迎えのヘリが来る」
「俺はお役御免だからな、ここらでバックレさせてもらう」
二人の視線が俺に向けられる。
どうするのか、ここで決めろということだろう。
ハンターとして組織に戻るのか、人狼として志臥と行くのか。
「少し、志臥と話をさせてください」
答えは決まっている。
ただ、確認したいことがあるだけ。
「なんだ?別れの挨拶か?」
番場さんから離れた場所へ歩く。もう日の出と呼べる時間は過ぎており、森の営みが始まっていた。
「前にも言ったけど、俺は組織に戻る」
「……そうだな。手前で決めたことだ。文句はねぇ」
「一つ、聞いていいか?」
振り返り、志臥を見つめる。
真面目な話と察してくれたのか、タバコを消して俺と視線がぶつかった。
「俺の故郷……ヴァンパイアに襲われて、壊滅したらしい」
「だから組織にいたんだろ?」
居心地の悪そうに視線を逸らす志臥。
「アンタの故郷……もう無いって」
「……昔の話だ」
確証がある訳じゃない。でも、聞いておきたい。
「俺達、同郷なのか?」
その時の、志臥の表情を俺はきっと忘れられないと思う。
嬉しさと哀しさ。それ以外にも色んな感情が綯い交ぜになった表情を浮かべていたのだから。