人狼は武器です。素材です。それでも俺は人間として生きてみたい。 作:藤原 峯
同郷なのかと訊ねられた志臥は、木に背を預けて言った。
「それを知ってどうする」
「どうするって……」
「互いに故郷はねぇ。俺は好きにやってるし、お前はハンター組織にいる。それ以上でも以下でもねぇ」
過去のことはもう関係ない。
そう言いたげだが、遠い目をしている志臥は過去を思い出に出来ていないように思える。
「志臥って人狼について、教えてくれよ。凪」
「……志臥は臆病だった。だが、妙に頑固なところがある。普通のガキだ。あの日……ヴァンパイアに襲われた集落を、手を引いて走ったんだ。森の中にある古井戸に押し込んで、蓋をした」
手を引かれ、古井戸に隠された。何度か見た夢が脳裏によぎる。
そして凪はポツポツと、故郷が滅んだ日の話をしてくれた。
志臥を隠してからは、集落に戻り戦闘に参加したと。
「相手の攻撃が目の前に迫ってな、親父が俺を吹き飛ばしたんだ。その衝撃で瓦礫に埋もれて気を失った。目が覚めた時には、あの集落だった。交流のあった集落が襲撃を受けたってことで応援に来てくれたそうだ。それで俺を見つけて保護してくれた」
「その時、志臥は?」
「怪我をおして古井戸に行ったさ。でも、いなかったんだ。周囲には大量の足跡があったから、連れ去られたと判断した」
俺は自身の故郷について、記憶が殆どない。
一番古い記憶は組織の医務室だ。目覚めたときには番場さんがいて、色々と説明してもらった。
あの夢が、そうなのだとすれば……
「俺がお前に肩入れしたのは、罪滅ぼしみたいなもんだ。志臥が今も生きていれば、お前くらいの年だから」
救えなかった弟分と俺を重ねただけ。
凪はそう言うが、俺は違う可能性を考える。
「凪。やっぱり俺は……」
「黙れ」
鋭い視線が俺を睨みつける。
初めて会った時を思い出す、重くて冷たい強者の圧だ。
「お前は大上 武だ。その可能性があるとしても、俺は認めねぇ」
「ごめん。俺は大上 武。そしてアンタは……志臥だ」
もう、俺達は同じ道を進むことはない。
それぞれの生き方を見つけているから。
「また、会えるか?」
「集落で成人の儀をやるときに、顔を出してやるよ」
「人狼の成人っていつさ?」
「爪を折った奴に認められた時だ」
あの日、仕来りと言って爪を折ったのは、そういう意味だったのか。
俺が志臥に認められる日。そんな日を迎えるために。
「いつか、志臥を倒せるくらいに強くなるよ」
「人間の成人式までに、叶う事を祈ってやる」
互いに笑って、握手を交わす。
手が離れると同時、志臥は姿を消した。
「……ありがとう。アニキ」
初めて呼んだその呼称は、妙に馴染んだ。
「もういいのか?」
踵を返し、施設へ戻って来た俺へ、番場さんが声をかける。
「はい。俺も帰ります」
「俺もお前も、組織から処罰を受ける。無駄な抵抗はせず、有用性を示して生き延びろ」
普段の番場さんから言われることのない指示に、思わず笑ってしまう。
「す、すいません。ハハッ」
「……ヘリが来ている。さっさとしろ」
ヘリへ乗り込む番場さんの後に続くが、ふと立ち止まる。
志臥の消えていった方向を見つめ、遠吠えを繰り返す。
返事が返ってこなくてもいい。これは、俺が彼に行う別れの歌なのだから。