人狼は武器です。素材です。それでも俺は人間として生きてみたい。 作:藤原 峯
「アンタ、いつまで寝てんのよ」
布団を勢いよく剥ぎ取られ、寒さに目を覚ます。俺の眠りを妨げた犯人はそのままカーテンも開けて室内へ日光を取り入れた。
「……おはよう、有栖」
「もう昼過ぎよ!バカ」
顔を洗ってこいと言われ、覚束ない足取りで洗面所へ向かう。
組織から自宅謹慎を言い渡されていたのが、昨日終わった。
レヴァンを討伐後、組織に戻って聴取を受ける予定だったのだが、丸薬の効果が切れて意識を失ってしまった。
目が覚めてからは自宅と取調室を往復する毎日。志臥と行動したことや人狼の集落について。レヴァンと接触して組織に来たことや討伐に至るまで。
組織が気にしていたのは、集落の場所と志臥の行方について。
どちらも知らないの一点張りを通したが、どう判断されたのかはイマイチ分からない。
「やっぱ、違和感あるな」
鏡に映るのは、黒い革製のチョーカー。中は金属製で、見た目に反して重い。
機能はGPSと遠隔操作で作動する爆弾。端的に言えば組織から付けられた首輪だ。
レヴァンに脅された有栖のビデオレターにより、組織へ番場さんの能力が露見したので、俺を眷属にする代替案だと吉田さんは言っていた。
狙いは俺を追跡することで、集落や志臥の情報を得ようとしているとも教えてくれたのは感謝している。
リビングへ戻ると、手際よく有栖がキッチンへ立ち料理をしていた。
「献立は?」
「ベーコンエッグとトースト」
「ご機嫌な朝食じゃん」
「昼食よ」
他愛無い会話を交わしつつ、準備を手伝い向かい合って椅子へ腰かける。
あの日、俺と有栖が送れなかった日常が帰ってきた。
「それ、人権問題でしょ」
有栖が首輪を見て言う。
「人狼に人権はないでしょ」
「戸籍があるんだからあるわよ」
有栖は首輪に納得がいっていないようで、その後も組織に対しての文句を言い続ける。
「……学校、どうするの?」
「休み明けから通う」
「辞めないんだ」
「友達がいるから」
組織は俺の通学を認めてくれた。
首輪という物理的手段だけじゃない、有栖や学校生活を通して居場所を作って精神的にも裏切れないようにするためだ。
組織は俺に信用が無いみたいだけど、安心してほしい。俺は今の立場を捨てる気はない。
「この後はどうするの?」
「地下に行って、挨拶回りかな。今夜から復帰するし」
「あっそ」
地下へ行くのを有栖はあまり好まない。自分が組織の関係者ではあるが、一員ではないことに疎外感を覚えるからだ。
あの一件以降、有栖は前にも増して、近くにいるようになったと思う。
理由を訊いても、きっと有栖は答えない。でも以前より近くにいる時間が増えたのは間違いない。
「今度の休みは、番場さんも連れて出かけよう」
「そうね。映画でも遊園地でも、何でもいいから三人で行きましょ」
心の傷が癒えるのは、いつになるだろう。
無理なく笑える日が来ることを祈って、俺は有栖と別れた。
番場さんに会う為に、あの日協力してくれた人達へお礼と今後について話をして回る。
話して分かったことは、みんな良い人だということだ。少なくとも、俺が思っていたような人たちではなかった。こっちが勝手に距離を取っていたこと。向こうもどう接すればいいか分からなかったことが招いていた不和だった。
どちらかが歩み寄れば、何てことはない問題を勝手に大事にしていたんだ。
「前より、居心地がいいですよ」
「良かったじゃないか」
最後に訪れた番場さんへ道中で何を話したかを伝える。
番場さんはレヴァンへの内通容疑は晴れたが、命令無視と虚偽申告により降格。現場指揮から前線要員として駆り出されることになった。
空いたスポットには吉田さんが収まるらしく、番場さんから引き継ぎ中とのことだ。
「ヴァンパイアは今、どうなってるんです?」
久しぶりの現場について、俺は訊ねた。
「レヴァンの眷属化による支配が解かれ、以前よりも秩序が無い。ボスが不在であることからウチは近隣の支部と合併し、共同でヴァンパイアを殲滅する予定だ」
拳銃の手入れと弾倉のチェックをしながら、番場さんは答える。
「作戦はどうします?」
「セオリー通り。お前の嗅覚を使ってのサーチ&デストロイだ。コンビネーションの確認もしつつ狩るぞ」
人外である俺と番場さんは、人間とは連携に支障が出ると判断されバディを組むことになった。
今までより対等で、フランクな関係は少しだけ、志臥と過ごした日々を思い出す。
「後方で指示出しじゃなく、背中を預ける番場さんは新鮮ですね」
「心配しなくても、直ぐに味がしなくなる」
軽口を叩き合いながら、番場さんを背負って夜を駆ける。
以前より組織でのしがらみは増えたけど、何も気にならない。
誰に言われたとかではなく、自分で決めたことだから。