キャリア警察官であり警視庁公安部の桜祐警視は、警視庁刑事部で凶悪犯罪への対処を学んでいた。
メイドカフェへのストーカーを阻止する中で、桜警視は政府の陰謀に気づく。
警視庁に衝撃が走った。
「えっ! 僕がメイドさんになって潜入捜査するんですか?」
警視庁刑事部捜査一課管理官であり、公安部公安総務課管理官でもある桜祐警視は、都内メイドカフェへの潜入捜査を、義父の村上武雄警視正から言いつけられた。
政治宗教テロを取り締まる警備公安警察と、凶悪犯罪を取り締まる刑事警察の人事交流が図られて以来、本来は刑事部の担当である脅迫、殺人などの捜査を桜祐は学んでいる。それは桜祐を将来の警視総監候補として育てたい警察庁の意向であり親心であった。
「そうだ! 先日メイドカフェ従業員AがネットアイドルBとの結婚で店を卒業するとSNSで発表した際、脅迫的な投稿があってな……仮にそいつをCと呼ぶが」
スクショではなく、村上警視正は昭和世代らしく、わざわざ印刷したSNS画面を見せる。
村上は歌い手をネットアイドルと表現したようだが、桜祐はいちいち指摘しなかった。
「それがこの投稿ですか」
そこには。
『Aは僕を裏切ってBを選んだ!この**女! 僕は許さないぞ復讐してやる!』
逆恨みそのものだ。見るに堪えない。
「典型的なストーカーですね」
「ただ気になるのは、歌い手Bが元めろすたのメンバーであり、黒部勇人内閣総理大臣と知り合いだということだ。その線も一応調べてもらいたい」
黒部勇人は、今でこそ黒部新造元内閣総理大臣との血縁が証明された政治家だが、元は歌い手グループめろすたのセンターである。
「かしこまりました」
「3日後にAの卒業記念イベントだ。メイドカフェに潜入捜査しろ」
* *
「オムライスに魔法をかけちゃいまあす♡おいしくなーれ♡萌え萌えきゅん」(な、なんで僕がこんな)
桜祐が猫耳メイドになってから1時間後のことだった。
「きゃーっ!」
とうとうAに凶器の包丁が向けられた。
Cがストーカーとなり、現れたのだ。
「Aちゃん! 天国でも一緒だよ! デュフフフ!」
Cは包丁を構え、気持ち悪い笑い方で心中しようとしている。
桜祐はすぐさま身を翻し、メイド服のスカートが風圧でめくれ上がる。可愛いかぼちゃパンツが丸見えだが、プロの公安警察官である桜祐警視は今は任務しか考えない。
女の子みたいに白くなめらかな太ももに装着した拳銃を抜き放ち、犯人Cの凶器を銃撃ではたき落とす──
発砲!
甲高い金属音で凶器が床に転がり、Cは手の甲を押さえて桜祐を睨む。
「動くな! 警視庁だ!」
桜祐警視のアクションを合図に、警察官が一斉に突入した。
「C! 殺人未遂、ストーカー規制法違反、銃刀法違反で逮捕する!」
Cに手錠がかけられると、客がどよめいた。
スマホで写真を撮る者もいた。
* *
桜祐警視はすでに過去の大立ち回りで身バレしている。
メイドカフェでのストーカー殺人未遂を逮捕。一部始終を捉えた動画の一件や二件、ネットに出回っていると思ったが……出回っていなかった。
誰かからの圧力か。政府筋の圧力か。
桜祐警視は、その黒幕を探るべく、永田町へと向かった。
* *
永田町の国会議事堂近く、議員会館の黒部勇人の部屋には、桜祐警視が押しかけていた。
「黒部内閣総理大臣」
「何だこんなところまで」
「黒部総理に、歌い手Bのことを聞きたいと思いまして」
「それが?」
「総理は歌い手めろすた時代、アマチュアからプロになる段階においてBを同じ活躍の舞台に引き上げなかった。BはメイドのAにこのことを相談し、いつしかふたりは恋仲となりました」
このことを桜祐はめろすたリスナーである妻の桜春から聞いた。
「何が言いたい」
桜祐は内閣総理大臣の圧にも負けない。
「Cの逮捕が明るみに出れば、めろすた時代、仲間を捨てたことが明らかとなる。黒部内閣総理大臣、あなたはこの事件をもみ消すため、警察庁を使ってネットニュースを削除させましたね?」
「だから何だ」
「私は警察官です。追及しますよ。どこまでも」
信頼していた総理大臣に失望の眼差しを向けた桜祐警視は、次いで宣戦布告し、部屋を去った。
政治と警察。この二者は主従関係ではないと、桜祐は信じている。
黒部総理大臣が権力を乱用するのであれば、桜祐警視は裁きを下すだろう……