都市伝説解体センター再びGRなし(HAPPYEND確定)(長編)
の、ゲームに存在しないグッドエンドルート。
pixivの投稿したものの後日談です。

こちらは福来あざみが「最後の解体」を行わなかった場合の
ルートになります。

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「福来あざみ」が何も知らないまま、その夜は終わった。
その後、タイトルにある本編を経て夏を迎えた彼ら。
どんな夏祭りとエピソード待っているのか。


都市伝説解体センター再びGRなし(夏祭り)(後日談)

都市伝説解体センター再びGRなし(夏祭り)(後日談)

 

パタン、とメモ帳を閉じる。

それは調査の時、あざみーが使っていた物だ。

SAMEZIMAの管理人とのやり取りの時、「なくしてしまった」、と

彼女は認識している。

今は使っているのは、センター長からプレゼントされた新しい物だ。

あたしが隠し持っている理由。

センターが悪評を流された頃、メモに渉が混じり始めたからだ。

最後に向けて一人で推理する中、あざみーが気づかなかった事を

彼が付け足しているのだが、当然、他人にそんな事は出来ない。

だから、これを彼女が見つける日は来ない・・・。

 

 

「リビングは、あちーね。」

 

Tシャツにショートパンツという格好のジャスミン。

それぞれの部屋にエアコンはあるものの、誰もいなかった

リビングにはまだ少し暑さが残っている。

 

「透けてますよ。」

 

うっすらTシャツの下のブラが見える。

 

「二人っきりだしいいじゃん。」

 

「もう。ジャスミンさんったら、私生活は適当なんだから。」

 

公安の凛々しさは何処へやらだ。

 

あざみは何処からか送られてくる、ヒラヒラの夏バージョン。

日焼けを知らない白い足と、半袖から伸びる華奢な腕。

 

「お、朝御飯、用意してくれてたの?」

 

テーブルに、パンやお茶のセットが並んでいる。

 

「簡単ですけど。」

 

あざみーが微笑む。

 

フランスパンの薄切りに、レタスとハムをのせたもの。

それとスクランブルエッグ。

ふわふわのそれが、彼女が料理の腕を上げたのを物語っている。

教え甲斐があるなあ。

 

「うん、美味しい。」

 

えへへ、と照れる顔を眺める。

 

「休みとれたし、何処か行こうか?」

 

砂糖とミルクたっぷりのアイスティーのグラス。

その中の氷がカラリと音を立てる。

 

「お仕事、一段落着いたんですか?」

 

はずんだ声。

 

「うん。だから行きたいとこ、付き合うよ?」

 

「じゃあ、今夜、夏祭り行きませんか?

センター長さんも誘って。」

 

興奮であざみーの頬が紅潮する。

 

「お?」

 

「実はちょっと調べてて。浴衣のレンタルも駅でやってるんですよ。」

 

どうかなー?と、指をくるくるさせている。

 

あちらこちらに貼られていた、お祭りのポスター。

興味深そうに眺めていたから、そろそろだと思ってたよ。

渉からもネットで調べてるって聞いてる。

 

と、ここであざみーの表情が止まる。

 

「来たね。」

 

相手が渉に変わるのを確認して声を掛ける。

 

「ええ。私の浴衣も用意しましたし、問題はないでしょう。」

「忙しかった理由は、黒沢優弥の件でしたか?」

 

「ああ。黒沢の奴、やっぱり例のパスワードデバイスで得た情報、

売り渡してたよ。相手がジマーとも知らずにね。」

 

「そうですか。」

 

「まあ、SAMEZIMAの管理人も絡んでた件、って事でお呼びがかかったけど、

ジマーの動きも鈍ってきたし、問題はないと思うよ。」

 

渉がゆっくり目を閉じた後、あざみーは何も知らずにカップを片付け

始めた。

 

「じゃあ、センターに寄ってこうか。」

 

「はい。用意しますね。」

 

 

センタービル前。

 

「誘ってきますね。」

 

エレベーターへ向かうあざみー。

 

 

センター内。

 

穏やかな明かりの下で呼び掛ける。

 

「センター長さーん。」

 

「見つかっていませんよね?」

 

廻屋が涼しげな半袖のシャツ姿で現れる。

 

「はい。」

 

あざみが元気良く答える。

 

新しいビルにセンターが移ってからは、場所を知られないよう

慎重に出入りしている。

ジャスミンが前は知らなかった、別の出入り口も利用して。

 

ー最も、その為の仕掛けは怠ってはいませんが。

 

「今の幸せを、壊されるわけにはいきませんからね。」

 

あざみの口から、そんな彼の言葉が漏れる。

 

「?」

 

僅かな違和感に首を傾げるあざみ。

 

ーおっと、つい油断してしまいましたか。

 

「今日は調査依頼はありませんよ。どうしたんですか?」

 

疑問を感じる前に、廻屋は彼女を現実へと引き戻した。

 

「あの、今日、夏祭りがあるんです。

ジャスミンさんと三人で行きませんか?」

 

廻屋の手前にある机に、手をついて前のめりになって。

 

「ああ、今晩でしたね。構いませんよ。」

「こんな事もあろうかと、浴衣は用意してありますし。」

 

「さすがセンター長さん。千里眼ですか?」

 

「ええ、そういう事です。」

 

「あざみさん達が浴衣を選んだ後、迎えに来てもらえますか?」

 

「そうですね。裏に車まわしてもらいます。」

 

センター長の乗り気な様子に、あざみが嬉しそうに微笑む。

 

「では、後ほど。」

 

エレベーターへ向かうあざみの中で、

 

「さて、夏祭りですか。どんなストーリーにしましょうか。」

 

廻屋の声が響いた。

 

 

センタービル前。

 

「センター長さん、浴衣用意してたみたいです。」

 

「へえ、意外とお祭りに行く気あったのかもね。」

 

 

駅ナカの特設会場。

 

「どーお?」

 

紺色の生地に大きな赤い百合が咲いている。

 

「素敵です!」

「私はこれにしました。」

 

くるりと回って見せるあざみーのは、白地に撫子が咲いている。

 

「いいじゃん。」

「じゃ、センター長、迎えに行こうか。」

 

「はい!」

 

 

夏祭り会場に向かう車の中。

 

「たくさん、屋台出るみたいなんですよ。

花火も楽しみです。」

 

うきうきした様子に、頷きながらハンドルを操る。

 

と、隣の空気が変わる。

 

「楽しそうね。」

 

「歩、か。お祭りには参加するの?」

 

「私はいいわ。甘い物でもおみやげに買って来てくれる?」

 

「わかった、約束するよ。」

 

ふっと軽い笑いと共に気配が消えた。

 

「で、今日はどんなシナリオか、聞かせてくれる?」

 

代わりに現れた渉に尋ねた。

 

夏祭り会場。

 

「センター長さん、車酔いとか大丈夫ですか?」

 

バンを降りた廻屋にあざみが駆け寄る。

 

「意外と快適でしたよ。」

 

安心させるような涼しい声が応える。

 

「何とかなって良かったよ。」

「あざみー、でもこの話をする時は内緒に、って言ってね。」

「あんまりやっちゃいけない事だから。」

 

「わかりました!」

 

ジャスミンの言葉に、あざみが力強く返事をする。

 

バンのトラックの荷台のような部分に、車椅子を固定して、

廻屋がそのまま乗って此処まで来ていた。

 

「・・・という設定です。」

 

脳内会話を終えた渉が説明してくれた。

 

「結構、無謀な事してるよね。」

 

呆れ気味に言うと、

 

「先を考えての事です。」

「あざみさんは、佐藤美桜に夏祭りの話をするでしょう。」

「その時、『センター長さんはどうやって行ったの?』、と聞かれては

困りますからね。」

 

「ああ、確かに。」

 

「彼女には、『自分が会ったのは、SAMEZIMAの管理人。福来あざみは無関係。』

という暗示をかけています。」

「あざみさんが渡した手紙も廃棄させましたし、問題はないでしょう。」

「疑いを持つような発言は控えさせたいので。」

 

あざみー本人が覚えていない、じゃ、まずいか。

 

って、

 

「その話、初耳なんだけど。」

 

渉をじろりと睨む。

 

「もう隠し事ないよね?」

 

「おや、言い忘れていましたか。ええ、勿論ありませんよ。」

 

その笑顔が曲者(くせもの)なんだよなあ。

 

 

「凄い人混みですねー。」

 

あざみーが目を丸くしている。

 

「私はあちらで待っていますから、

食べる物、買って来て貰えますか?」

 

「わかりました!」

 

 

屋台巡り。

 

「じゃ、色々回ろうか。」

 

「あ、クレープありますよ!」

 

目移りするあざみー。

 

「フラッペ、冷たいー。」

 

「甘い物好きだねえ。」

 

「センター長さんには、焼きそばとたこ焼き。

皆で食べましょうね。」

 

「うんうん。」

 

と、あざみーが遠い目をした。

 

「どした?」

 

「私、前にもこんな風に、誰かとお祭りに来たような気がするんです。

でも、誰とだろう?」

 

小首を傾げるその姿に、背中を冷たいものが走る。

 

「へ、へえー。」

 

声の震えをこらえる。

 

『落ち着いて下さい。大丈夫ですよ。』

 

耳慣れた声音。

背中に回される手の感触。

 

「悪い。油断した。」

 

小声で応える。

 

『彼女には忘れていてもらいましょう。

あれは歩さんのものだ。』

 

「あ、あれは何の屋台でしょう?」

 

手が離れた時には、疑問を忘れたあざみーが、興味を惹かれた

方を指差していた。

 

「お、金魚掬いか。」

「あたしの腕前見せてやる。」

 

気づかれないように息を吐くと、浴衣の袖を捲った。

 

「ジャスミンさん、頑張ってー。」

 

あざみーの声援を背にポイを握る。

 

ージャスミンは知らない。

彼女の背に置かれた廻屋の手。

それはかつて、罪悪感に苦しんでいた、福来あざみを救った時と同じ、

優しさに満ちたものである事を。

 

 

人混みから少し離れた場所。

 

「で、渉は待ち合わせがあるんだっけ?」

 

紺の無地の浴衣に着替え、車椅子に座っている渉。

 

「ええ。ここら辺にも謂(いわ)れがあるようで、

案内してくれるフォロワーさんがいまして。」

「あざみさんは熟睡中ですから、ご心配なく。」

 

「そっか。」

「さっきは助かったよ。サンキュー。」

 

「お互い様ですよ。」

「ーそれより、頼みましたよ。」

 

 

数十分後。

 

「まあ、察してるんだろうなあ。」

 

軽く溜め息をつき、周りに聞こえるように、わざと声を大きくする。

 

「・・・そろそろ飽きてきたんだけど。」

 

周囲で動く人影。

 

「用があるのは廻屋だけだ。邪魔するな。」

 

男の低い声。

 

ーでしょうね。

恨み買ってそうだもんなあ、渉のやつ。

あたしも表の仕事じゃ、心当たりあるんだけど。

 

「ああ、あたしがいると追えないか。」

「でも残念。通してやる気はない。」

「相手してやるよ、このジャスミン様が。」

 

自分の口元が歪むのがわかった。

 

 

「おやおや。」

 

数分後、話を聞き終えた渉が戻って来た。

 

「お帰り。」

 

「浴衣でこれを?」

 

あたしの足元には、5人の男が地面に転がっている。

 

「まあね。レンタルだから気を遣ったよ。

時間潰しにはなったかな。」

 

一人が体を起こす。

 

「何なんだよ、お前。」

 

「んー? 紹介動画でも言った通り、福来あざみのボディーガード

兼運転手だけど。」

 

「嘘つけ。手慣れ過ぎだろ。」

 

その言葉に肩をすくめる。答えるわけないだろ。

 

「俺たちはジマーだ。こんな事して仲間が黙ってないからな。」

 

「そ、そうだ。」

 

『嘘ですね。』

 

その場が凍りつきそうな声音に、全員の顔がそちらを向く。

それまで黙っていた渉が、冷笑を浮かべている。

 

「貴方がたには狂気が足りない。」

 

「嘘だって証拠があるのか!?」

 

最初の奴が気色ばむが、

 

「主張するのは結構ですが、そうなると、爆破テロを実行するような、

犯罪集団の一員という事になります。」

「警察の扱いも変わって来るでしょうねえ。」

 

「まあ、襲って来たって証拠もあるし。」

 

あたしがスマホをタップすれば、男の台詞が流れる。

 

「ろ、録音したのかっ。」

 

「まあね。最近、物騒だから、念のため。」

 

「さて。」

 

渉の口調が飄々としたものに変化する。

 

「皆さんは、センターアンチといったところでしょうか。

ー会場にお越しになった方もいるようですし。」

 

誰かが息を飲む。

 

「彼女との破局はお気の毒ですが、それを私のせいにされて

も困ります。」

 

別の一人に目を向けて、

 

「あなたはコンビニバイトのストレス発散ですか?」

「そちらの方はー。」

 

「な、何で知ってるんだ!?」」

 

一人がわめく。

 

「どうして?」

 

渉が指先を組んで微笑む。

 

「お忘れですか? 私は千里眼の持ち主。

容易(たやす)い事です。」

 

「ー後は警察の仕事かな。」

 

あたしは、制服警官が駆け寄って来るのを見やる。

 

ーあれ以来、素顔で動画解説するようになった渉。

その影響はなかなかのものだ。

狙われる危険性も増している。

上が神経質になりそうだな、また。

もっとも、連中が知らない『真実』はもっとヤバいけどね。

 

 

「あれ?」

 

あざみは突っ伏していたテーブルから顔を上げた。

 

「また寝てたね。」

 

ジャスミンが寝ぼけまなこの頬を軽くつつく。

 

「ご、ごめんなさい!」

「私、どのくらい、寝てました!?」

 

「んー、数十分ってとこかな?」

 

ジャスミンが腕時計を見やる。

 

「ふふ、構いませんよ。」

 

廻屋がラムネの瓶を傾けながら微笑む。

 

テーブルに、たこ焼き、焼きそば、飲み物。

 

あざみは、その様子を物珍しそうに見つめた。

 

「何か?」

 

「い、いえ。」

 

慌てて首を振る。

 

何時も現実感が薄いセンター長さんと、ラムネの取り合わせに、

目を奪われていたなんて言えない。

 

「そう言えばあざみさん、知っていますか?」

「ファイヤーたこ焼きという物もあるんですよ。」

 

「え?」

 

「キムチと辛いソースがかかっている、結構辛いとか。」

 

「か、辛いんですか・・・。」

 

たこ焼きを一口ほおり込む様(さま)に、口の中がぴりぴりするような感覚。

慌ててジュースを口に運ぶ。

 

ーこんな普通の話もするんだ。何だか不思議。

 

「センター長さん、今日はお喋りですね。」

 

 

「と、こんな話をしたのですが。」

 

二人の脳内会話を後で聞いた。

その日の流れはだいたい渉が決めているが、実際の会話には、

あざみーの意思も入って進む。

 

「リップサービスが、過ぎたのかもしれません。」

 

あざみーの考えている事は、そのまま渉へ伝わる。

都市伝説以外の話をした事で、らしくないと思われたのを気にしている。

まあ普通は、雑談をそうは言わないんだけどね。

渉に人間味が増すと、あざみーからはそう映るのか。

うーん、難しいな。

 

 

「わあ。すごい。」

 

あざみーが夜空を見上げて歓声を上げる。

 

「うん、いいね。」

 

花火があたし達を照らす。

 

あざみーの手を握る。

握り返される暖かさ。

皆、ずっと一緒だよ。

 

 

セーフティハウス、リビング。

 

「美味しい紅茶ですね。」

 

廻屋が一口飲んで微笑む。

 

「ですよね。ジャスミンさんのおすすめなんです。」

 

あざみが嬉しそうに答える。

 

「でも意外でした。センター長さんも甘い物好きなんですね。」

 

「ええ。洋菓子も和菓子もけっこう食べますよ。」

 

「そうそう、美味しい和菓子屋さんの噂を聞きました。

今度一緒に行きましょうか?」

 

「ほんとですか!? 行きたいです!!」

 

目の前にはコンビニスイーツが並んでいる。

 

「これ、人気らしいよ。」

 

ジャスミンがその中の一つを手に取る。

 

「あ、一口くださーい。」

 

「じゃ、あーん。」

 

「あーん。美味しい!」

 

満面の笑みを浮かべるあざみを見ながら、

 

「富入警視監はお元気ですか?」

 

廻屋が話題をふる。

 

「ああ。何時通り、冷静そのものだね。」

 

ジャスミンが応える。

 

「今年の夏は暑いですからね。夏ばて等しないといいのですが。

黒づくめの服装には堪えるでしょう。」

「そうそう、黒づくめといえば、こんな話があるんですよ・・・。」

 

 

そんな脳内会話の裏では、

 

「じゃ、撮影もあるし、とりあえずセンターかな。」

 

「ええ。」

 

そんなあたしと渉の会話があった。

 

 

その夜、ネットに幾つかの画像が上がった。

あざみとジャスミンが笑い合うものや、車椅子に浴衣姿で座る廻屋。

三人がたこ焼きを食べる姿は、勿論合成だが、例のポスターがそうで

あったように、それに気づいた者はいない。

 

「センターは、傍目から見れば両手に花、ですね。」

 

自分で上げた画像を眺めて渉が微笑む。

 

「・・・これって、あいつらみたいなの、煽ってない?」

 

指差しながら聞けば、

 

「そう言う反応も面白いものですよ。」

 

とまた、妖しい笑みを浮かべる。

 

仮面を取った時と言い、収集つかなくも良いと思ってるな、こいつ。

まあ、あたしも知らないけどね、後の事なんて。

あざみーがこれが本当の事だと思ってくれればいい。

 

 

翌日。朝食の後、水羊羹をつつきながら、あざみーが楽しそうに話している。

 

「センター長さんが来てくれるなんて。」

「でも、隙あらば都市伝説、語られて困っちゃいます。

昨日だってー。」

 

「ああ、ブラックメンだっけ?」

 

「富入さんを思い出して、つい聞いちゃいましたけど。」

 

もう、と頬を膨らませている。リスみたいだ。

 

「・・・もしかして、体調良くないですか?」

 

あざみーが小首を傾げる。

 

「あ、ああ。夏バテかな。水羊羹、あたしの分も食べていいよ。」

 

誤魔化し笑いをする。

 

原因はわかっている。昨日の焼きそばとたこ焼きだ。

お茶会は兎も角、3人分のそれを誰が食べるか、と言ったらあたしになる。

あざみーに無理はさせられないし、買う時に人数分ないのはおかしい。

 

くー、お腹が重い。

 

金魚鉢を見ながら密かに嘆く。

中では4匹の金魚が泳いでいる。

 

 

「美味しい和菓子もいいけどさ。

このままだとあざみーが、真ん丸たぬきにならない?」

 

「・・・それは困りますね。痩せレシピでも考案しますか。」

 

「それにしても凄いね。」

「連中、完全に千里眼、信じてたよ。」

 

取り調べに大人しく応じたと聞いている。

 

「こういう事態は想定していましたからね。」

 

渉がふふ、と答える。

 

「ネットで愚痴る奴が悪いのよ。」

自分でばらしてるじゃない。」

 

歩が呆れ気味に答える。

その手にはお土産のチュロスが握られている。

パンプキン味はお気に召したようで、あっという間に半分位に。

 

「いや、それでも情報収集能力には感心するよ。

あたし一人じゃ無理だ。」

 

「ジャスミンは自分の心配をしてなさい。ちゃんと胃薬飲むのよ。」

 

説教されてしまった。ごもっとも。

 

「あ、もう一本あるよ。こっちの味は・・・。」

 

今は歩が食べるのを眺めるだけにしておく。

 

 

とある喫茶店。

以前、巡屋渉と富入警視監が会話していた場所。

 

「歩は、如月歩は、自分が存在しなくてもいい、とまで考えている節が

あります。」

 

自分をジャスミンと呼ぶ、数少ない一人の精神科医の前で、彼女が呟く。

 

「夏祭りの時も、『福来あざみ』の幸せを優先して、閉じ籠って

しまったそうですね。」

 

「はい。」

 

報告というより、友人に悩みを打ち明けるような様子に、精神科医は黙って

耳を傾ける。

 

「もっと自分を大事にして欲しいんです。」

 

「貴女の想いは、如月歩さんにも伝わっていると思いますよ。」

「ただ、それに応えるべきかどうか、彼女はまだ迷っているのかもしれません。」

 

「迷っている?」

 

「恐らくは、再び失う恐怖が彼女の中にある。

7年前のような事が起こったらー。」

 

「!!」

 

「『福来あざみ』という、もう一人の自分の幸せを願うと同時に、

歩さんは逃げているのかもしれません。」

「その不安から。」

 

「彼女にとって、貴女は唯一の身内と言っていい存在です。

その喪失は想像を絶する。」

 

「・・・」

 

「彼女を安心させてあげて下さい。

例え自分が、公安という危険な仕事をしていても、決していなくなったりは

しないと。」

 

 

数日後、少し離れた街を、見目のよい女性が浴衣姿で歩いていた。

長い金髪と、彼女より背の高い切れ長の瞳の二人。

片方がもう一人を「歩」、と呼んでいたという。




この季節にピッタリのテーマでお届け。
廻屋とジャスミンはどうやって、福来あざみとの
日常を守って行くのか。
それを夏祭りを絡めて描きました。

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