君の星が輝くように 作:鈴谷
「良かったじゃないか、逆指名が来て。スカウトしに行く手間が省けたな。」
「他人事だからって西崎さんは軽いよ……」
あの後、当然の様に逆指名された事が学園中に広まり奇異の目で見られる事になった。新人トレーナー含め逆指名自体はちょくちょくあることだが、入学初日に面識のない新人トレーナーを逆指名して承諾されるなんて学園始まって以来初じゃないか、と西崎トレーナーに笑われた。つい先程、西崎トレーナーに付き添って貰って秋川学園長に専属トレーナー契約の書類を提出して承諾されたので、目下最大の悩みであったスターライトとの関係の構築は半日も経たずして解決した。
「スターライトの併走とかは西崎さんの所に新しく入る娘達と一緒にさせて貰って良いですかね。」
「おう、良いぜ。スピカのみんなもお前の事は半分チームの一員くらいに思ってるからな。」
「因みに、今年新しく入って来る娘とかはもう決まってるんですか?」
「実はキタサンとテイオーから紹介されててな。ソールオリエンスとレーベンスティールって娘が入る予定だ。」
「……」
相変わらず引きが強すぎる。重賞馬しかいないじゃないか!
「あの二人が推すだけあって、光るものを持ってるぜ。スターライトの方はどうなんだ、お前見立ては。」
「スターライトはですねぇ___」
まず、脚元が弱い。骨折したのは躓いたりバランスを崩した事が原因だが、不運だったで片付けるよりは脚元の弱さと合わさって起きたものだ、と考えるべきだろう。走法も悪い。大きく前足を上げ地面を強く搔き込む様なダイナミックな走りをしていた。普通は良い走りをする、で終わってしまうが、脚元の弱さを合わせて考えると負担が大きいリスクのある走り方だ。とは言え、スターライトの良さでもあるから、そこのリスクはこちらで調整するしか無いだろう。だが、それを考慮しても活躍できる資質は十分あると思っている。怪我さえしなければGⅠにすら手が届く資質だ。
暫くして語り終えると西崎トレーナーがちょっと引いた顔でこちらを見ていた。
「お前、ストーカーでもしてたのか?」
何を失礼な。前世での縁があるだけである。こちら風に言うなら、ビビッと来たってやつだ。少なくとも、面識のないウマ娘のトモをいきなり触りに行くよりかはまともなはずだ。
「おーい、トレーナー!」
声の方を見るとスターライトが居た。時間的にもトレーニング設備等の案内が終わってすぐ探しに来たんだろう。
「それじゃあ、西崎さん。トレーナー室の確認やスターライトとの話し合いもあるのでこれで失礼しますね。」
西崎トレーナーにお礼を言ってスターライトの方に向かう。西崎トレーナーは、間違いを起こさないようにな! と言ってチーム室の方へ去って行った。絶対に勘違いしてやがる。
トレーナー室へ向かう途中、スターライトはずっとご機嫌だった。何を喋る訳でもなかったが、隣を歩いている彼女は尻尾を高く上げてリズム良く動かしていた。すれ違う生徒たちからの視線が強くなる。絶対に勘違いされてるわこれ。
トレーナー室に入ってドアを閉めるとスターライトが抱き着いて来た。頭をぐりぐりと押し付けて来る。
「ライト、とこまで覚えてるんだ。」
頭をポンポンと愛撫する。昔も良く頭を押し付けて来てニンジン寄越せと甘えて来た事を思い出す。ここまで来たら答えはもう明白だった。
「全部、覚えてます。貴方が撫でてくれて、最期の眠りについた時まで……。」
「そうか……。」
それが良いのか悪いのか。こっちも写真を見ただけで分かったんだ。メディアに露出していた分、スターライトの方が早く見つけた事だろう。今生も走る気があったかどうかは知らないが、もしかしたら俺のせいで生き方を変えてしまったかもしれない。
スターライトの気が済むまで暫く抱き締めて撫でてやった。泣きはしていない様なのがせめてもの救いだ。これで、泣いたあとを残して帰らせた日には即日秋川学園長に呼び出しを食らうだろう。
「落ち着いたか?」
「うん、満足した。」
暫くして、スターライトが顔を離した。その顔はいかにも満足しましたという表情をしていて、なんというか馬味が強い。記憶が色濃く残っているせいだろうか。
「それじゃあ、今後の方針について話そうか。」
「ええ!? ここから積もる話とかラブロマンスとか始まったりするんじゃないの!?」
「日が暮れるし、お前向こうじゃチンコ付いてただろ!」
「そんなぁ……」
積もる話はこれからしていけば良い。ダンスレッスンやボイストレーニングを含めても時間は有り余る。ウマ娘のゲームやアニメだと毎日の様にトレーニングをしていたが、俺はそれに追随するつもりはない。あれらはウマ娘が馬ではなく人になったことで、人が行うトレーニングのイメージから抜け出せていないのだと思っている。
馬、特にサラブレッドの脚は脆いが、この世界にその認識はない。ウマ娘と言ったらヒトより強くて丈夫というのが一般的な認識だ。俺にとってはそれが恐ろしくてたまらない。本来、走るのに特化したウマがそれ以外のスポーツをするなんて、一体どれ程の負荷が脚に掛かるのか。ましてや、アスファルトの一般公道を時速40キロで走るなんて自殺行為にしか見えない。この世界でウマ娘が意思疎通が出来るにも関わらず、前の世界と同じ様に故障する者が絶えないのはそこに原因があると、少なくとも自分は確信している。
ウマは馬のトレーニングをするべきだ。その上で補助として人のトレーニングを取り入れる。スターライトの練習メニューもその考えを元に構築した。
「まず、デビューは来年の6月東京芝1400mを目標とする。その為には、前の様に骨折する事だけは絶対に避けなければいけない。」
「避けるって言っても方法はあるの? 感覚だけど、こっちの私も多分脚元弱いよ?」
「極端な方法だが、お前には整備された直後のコースのみ走ってもらう。基本は坂路、雨の日はポリトラック。その為には前の様に日の出前の早朝からになるが、起きれそうか?」
「大丈夫だよ! 四時前にはもう起きてるから!」
やっぱり馬じゃないか。
ウマ娘の生活リズムはヒトと変わらない。コースでのトレーニングも基本的に放課後に行われる。その為、早朝にトレーニングを行えば荒れていないコースを独り占めすることができるのだ。スターライトの怪我の要因を考えれば、他のウマ娘が走った後の荒れた馬場を普段から使いたくはない。半月に一回は併走でレースの感覚を培って行くために放課後にも一本走る事にはなるだろうが、それでもハロー掛け直後を狙って行うなど細心の注意を払いたい。
「練習メニューはキャンター3000mにハロン20秒で坂路を1本を隔日で一ヶ月ほど行う。併せ馬でのトレーニングをする日は朝の坂路を省くが、やるのは来月以降になるだろうな。ボイトレとダンスも隔日で交互に行う。何か聞きたいことはあるか?」
「ないよ。あなたに付いていけば間違いないからね!」
「ちっとは疑うとかないのか?」
「ないよ。最後まで愛してくれた人だもの。」
「……そうかい」
なら、裏切らない様にしないとな。