君の星が輝くように 作:鈴谷
原作:ウマ娘プリティーダービー
タグ:オリ主 転生 性転換 トレーナー主人公 オリジナルウマ娘 オリジナル設定 史実馬ウマ娘化 公式ウマ娘名前以外登場無し 時系列史実準拠 アニメトレーナー
競走馬の世界は厳しい。例え、勝ち上がる力を持っていようと、運に恵まれなかったり適正を把握するのが遅れたり、そして身体が持たなかったり。無数の馬たちが毎年、中央競馬からフェードアウトしていく。中には地方競馬へ流れて行くものもいるが、頭角を現すのはほんの一握りだ。場所は変われど熾烈な競争の世界で有ることに変わりはない。
ウマ娘ではその辺の事情は大分マイルドに暈してある。プリティーだし。そもそもネームドは上澄みも上澄み、砂に紛れた砂金の様な存在だ。そして、彼女たちの足下に無数に散らばる、モブウマ娘たちの砕けた夢がフォーカスされる事は殆ど無い。プリティーじゃないし。
でも、だからこそ、向こうの世界を知る者として救い上げてやりたい。人の様にコミュニケーションが取れれば、人の様に身体の違和感を伝えてくれれば、レースに掛ける情熱を人の様に分かり合えたのならば! それならば、お前の運命を少しでも____
◇
今年から新人トレーナーとして中央トレセン学園に務める事になった。
前世では競馬とは無縁の仕事どころか、学生時代に途中でドロップアウトしたせいでトレーナーの勉強は大分苦労した。人生二度目の強くてニューゲーム状態で勉強を出来る時にやる大切さを理解してなかったら、とてもじゃないが中卒からトレーナー専門学校行ってストレート合格なんて不可能だった。最後の方なんか血尿が出て、入院からの出席日数不足であわや落単なんていう状況にまで追い込まれた。
しかし、それも一つの目標があったから耐えられた。
スターライト。トレーナー全員に配られた今年の入学者の資料に載っている栗毛のウマ娘。馬からウマ娘になったところで共通点が無くなって見た目からはサッパリ判断が付かないが、それでも分かる。ゲームの中でも競走馬の時に血縁関係があったウマ娘同士が何故か親近感を覚える、と言った描写があったが、それと似た様なものだろう。彼女__向こうではチンコが付いていたので彼になるが、スターライトは自分が一口馬主として最初で最後に出資した馬であり、後に乗馬として所有した馬だ。(因みに、置いていた乗馬クラブの他馬の迷惑になるのでタマタマはグッバイフォーエバーした。)
子供の頃から乗馬をしていた俺は馬主になる事に憧れていた。そして、二十歳になった頃に疑似体験出来るものとして出会ったのが一口馬主だった。当時は大学生だったが、1頭だけなら余裕がありそうだ、と無知なりに血統やニックスを吟味して出資した。
学生ということで時間もあったから、北海道まで愛車のバイクで牧場見学ついでのツーリングも良くした。多分、スターライトの一口を持っている人の中では一番会いに行っただろう。彼の牧場での評価は上々で、母系の特徴がよく出ていてスピード能力が高く、このまま順調に行けば早期デビュー出来るだろうと言われていた。実際に所属クラブの中では一番進捗が良く、そろそろ本州移動へなんて話も出ていた。
最初の不幸はそんな矢先だった。運動中、馬場に脚を取られ前足を骨折。ボルトを3本も打ち込む大怪我だった。母系の悪い部分が出た。競走能力に影響する可能性が高い部位であり、全治9ヶ月。まだまだ新馬戦も始まらない時期ではあったが、すでに暗雲が立ち込めていた。
デビューは結局新馬戦には間に合わず、3歳未勝利芝1600m。不良馬場だった。スターライトが走った最初で最後のレースだ。道中は中団に構え、直線に入ると大外を回って一気に加速して先頭を捉えに掛かった。血統に違わぬ脚で勝利を確信したその時、二度目の不幸が彼を襲った。坂を登り切った時に脚を取られバランスを崩し失速。以前骨折した箇所に再び亀裂が入ったのだ。追加でボルトを打ち込むことで対処は可能だったが、再発の危険性が高く人馬共に危険なため競走能力喪失と診断を受けた。
これがスターライトの競走馬生だ。その後はなんやかんやあって手元に置くことになったが、そこは割愛する。まあ、詰まる所、このまま自分が関わらなければ、スターライトは怪我の影響で全く爪跡を残せずに消えていくその他大勢のモブウマ娘に過ぎないと言うことだ。
しかし、その結末には納得が出来ない。スペシャル牝系やミエスク牝系、ハイクレア牝系の様な圧倒的な華やかさはないものの、スターライトの牝系も重賞馬を多数輩出している名牝系だ。そして、その牝系に相応しい能力の片鱗をスターライトは見せていた。だから、この世界で結末も原因も知っている自分の手でやり直せるなら、少なくとも納得出来るところまで走らせてやりたい。その一心だけで、ここまでやってきたのだ。問題があるとすれば__
「どうやって声掛けるかなぁ」
___新人トレーナーの自分がどうやって担当するか、だ。
名門というほどではないにしろ、元馬のファミリーラインを反映してか、普通に良いところのお嬢様だし、トップクラスでは無いものの入試時の走りから中堅どころのトレーナーからは注目されている。話しかけさえすれば前世の縁で向こうも感じるところがあるだろうから何とかなるだろうけど、一般的にトレーナーが声を掛けるタイミングは模擬レースを走った後だ。新人トレーナーの自分がそれを待たずに声を掛けるなんて、端から見たら怪しさ満点の行動だ。
だが、模擬レースが終わるまで待ってはいられない。スターライトが最初の骨折をしたのは本州移動前だ。こちらの世界に当てはめるなら、模擬レースに備えるトレーニングの段階で怪我をする可能性が高い。それを阻止する為にも早急に彼女のトレーナーにならないといけない。
「よお、雨宮! そんなに熱心に見てるってことはその子スカウトするのか? 気が早いな!」
「ちょっと、声がデカいですよ西崎さん……。」
皆さんご存知、アニメの主役チーム·スピカ担当の通称沖野トレーナーこと西崎リョウだ。去年の現場実習の頃から俺の新人指導を担当してくれている。ちょっと世界線がアニメとは違うがチームスピカは顕在で、現状の活躍馬だとグローリーヴェイズに今年に入って重賞を勝った未来の年度代表馬エフフォーリア。更にユーバーレーベンと今年デビューのイクイノックスとセリフォス、何なら去年までアドマイヤマーズとサートゥルナーリアもチームスピカだった。流石はリギルに次ぐ厨パっすわ……。
「……正直に話すとこの娘にスカウトを掛けようとしてます。感覚的なもので言語化は難しいですけど、この娘しか有り得ないってレベルですね」
「お前がそう感じたなら正しいだろうな。他の新人よりは名前売れてるんだから、この後すぐに声かけてくれば良い。」
「行けますかねぇ、それで……」
「行けるさ、お前なら。中央に入って来るようなウマ娘はアンテナ張ってるんだからお前の事も知ってるはずだ。」
正直に話したが何ともノリの軽い……。或いは、面識のないウマ娘のトモを揉みしだきに行く狂人にアドバイスを求めるのが間違いだったか。
確かに、自分の知名度は同期の新人よりも名前は売れている。そもそも、18歳で中央のトレーナーになるのが10年ぶりくらいらしいし、去年の実習の時にグローリーヴェイズをジャパンカップではなく香港ヴァーズを走る様に説得して無事連覇を達成した時にちょろっと名前が流れたのだ。こちらの世界では煩わしい流行り病も無く、けれども馬生の運命に釣られていたので、一度も走ったことのない東京競馬場よりもシャティン競馬場の方が君に似合ってる、とか、君の名前からして香港ヴァーズを勝つべくして産まれてきたようなもの、とか、君ならURA初の同一GⅠ三連覇を絶対に達成出来る、とかおだてまくってその気にさせたのだ。17歳から現場実習に入ってるのが珍しかったのも相まって何度か取材を受ける機会もあった。
しかし、その程度の実績でセオリーに逆らってスカウトをするなんて、逆に調子に乗っていると思われないか。そう悶々としていると、失礼します、という声と共にウマ娘が入ってきた。
「スターライト……?」
彼女と目があった。少し微笑んだ彼女は一直線にこちらへ歩いてくる。
ついに、目の前まで来た彼女が口を開く。
「私のトレーナーになって下さい!」