君の星が輝くように 作:鈴谷
スターライトの担当トレーナーになってから一ヶ月が経った。ここまでは特にトラブルもなく来ており、現在はキャンター2500mにハロン17〜18秒で坂路を1本上がっている。ボイトレとダンスもウマ娘になった時にデフォで植え付けられる才能でもあるんだろうってレベルで順調。特に、歌にいたっては前の世界で所属していた乗馬クラブの屋外スピーカーで無限リピートされていたQueenの曲を完コピしており、Killer Queenを熱唱する令和の女子中学生という珍獣が爆誕した。ただ、I Was Born To Love Youを歌い出した時は感極まって思わず抱き締めてしまった。仕方ないよね。アガペーだよアガペー。
そんなこんながありつつ、本日はチームスピカと初めての合同トレーニングである。坂路1本だけだけども。本来はチームに所属していないウマ娘達が集まってやっている合トレがあり、互助的な意味でも坂路等で併せ馬をするならそちらでやるべきだが、スターライトの脚の事情的に融通を利かせて貰えるチームスピカのご厚意に甘えている形だ。他にも、この時期は他馬と一緒に走る事に慣らす為にキャンターから複数頭で走った方が良いのだけれど、スターライトに関しては馬の時に一度デビューまで経験してるお陰で、そこまで徹底してやらなくても良いので助かっている。複数で走るとどうしてもキャンターを終わらせる頃には馬場に跡が目立ち始めるからね。
「西崎さん、走るタイミングまでワガママ言ってすみませんね」
「おいおい、気にすんなって。こっちも事情は聞かせてもらってるからな」
スターライトがソールオリエンスとレーベンスティールと並びながら坂路を駆け上がっていく。2人と比べてもフォームは安定しているが、若干速い。久し振りに併せウマをしたからか掛かっているんだろう。それでも、スターライトらしいダイナミックな走りが顔を覗かせている。サイレンススズカの様な最速の機能美だったりベガの様な芸術的な美しさはないが、好みの走りだ。
「ふーん、ああいうのが好みなんだ」
隣に来て話し掛けて来るウマ娘がいる。グローリーヴェイズだ。
「そうだな、走りは最高に好みだ。グラスワンダーみたいで格好いいだろ?」
「走り“は”ねぇ……。聞くところによると、大分距離が近いらしいじゃない」
気の所為ではなく、ちょっとトゲのある物言いだ。実際、彼女を横目に見ると若干耳が後に行っている。
「色々あって懐かれてるだけだよ。そんな色恋沙汰みたいなもんじゃない」
「どうだか……」
グローリーヴェイズは去年の現場実習からの付き合いだ。歳も一つしか違わないこともあってかなりフランクに接してくれてる。香港ヴァーズを二連覇した頃からフランクを通り越して熱の籠もった視線をちょくちょく感じる様になった。まあ、触らぬ神に祟りなしということで気が付いていない振りをしているが。
「あなたに相談があるんだけどさ……」
「なんだ? ローテの相談なら受け付けんぞ」
「ちょ、なんでよ!」
「だってお前のトレーナーじゃないしなぁ」
なんでも何も、他所のチームのウマ娘のローテとか口出ししちゃダメでしょJK。去年はスピカにお世話になってたけど、別にそのままサブトレになったわけじゃないからなぁ。そういう事やるのはリギルからサイレンススズカを略奪(合意の移籍)した西崎トレーナーくらいだ。
「去年散々口出しして香港ヴァーズ走らせたのは誰よ! 最後まで責任取りなさいよ!」
「おい、人聞きの__」
__悪いことを、と反論しようとした時、西崎トレーナーから肩を叩かれた。
「俺からも頼むよ。こいつはさ、お前に背中を押して欲しいんだ」
……全く、西崎トレーナーらしいと言えばらしいか。本当なら、他のトレーナーの意見でローテ決めるなんて普通は契約解消レベルなんだがな。そこまで言われちゃ、本気で“ぼくのかんがえたさいきょーろーて”を公開しなければ無作法である。
「……まず、去年提案した通り、今年の初戦をドバイシーマクラシックから始めて、次走で距離は短いけど適正のあるシャティン競馬場のクイーンエリザベスⅡ世カップに行っただろ? ドバイは1着、香港は惜しくも2着だったけど、どちらも素晴らしい走りだったよ。洋芝に適性があるのはまず間違いないよね。だから、取り敢えず今から参戦表明してヨーロッパに飛んでコロネーションカップを走って短期休養。コロネーションカップの成績が良ければキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークスへ。出なかったら次はアメリカのソードダンサーステークスから、出たらジョーハーシュターフクラシックからだ。そしてBCターフに殴り込みを掛けた後、香港ヴァーズを走って年内は終わりだな」
グローリーヴェイズは洋芝が合う。香港が走れてドバイも行けるなら、中東や香港と同じ整備された競馬場で洋芝のアメリカも適性があるだろう。馬と違って検疫が無く移動コストも安かったり、そもそもこちらの世界ではウマ娘のレースは絶大な人気を誇るから賞金も高くて海外に挑戦しやすい。ヨーロッパに関しては、グローリーヴェイズの馬体重はけして重い部類でも無かったので、ワンチャン走れなくはないだろう、と言ったところだ。正直、キングジョージは日本馬での実績が殆どないので、コロネーションカップに勝てなかったらスパッと諦めてアメリカに行った方が無難かな。凱旋門賞? ヨーロッパでも特に重い馬場が得意なドイツ馬が走る、ほぼ確で田んぼになるレースとかウチの娘には走らせませんよ! アレ走ったら年内厳しくなっちゃうしね。
一気に言い切るとグローリーヴェイズは目をパチクリとさせていた。
「えっと、ずっと海外遠征してた方が良いってこと?」
「そうだな。正直、お前の適性にあったレースは日本には無い。去年の時点でも春天と香港ヴァーズどちらがパフォーマンスが良かったかと言われれば、圧倒的に香港ヴァーズだろ? で、今年も同じ様に海外で良く走れているなら、それを信じて外に打って出た方が良い。特に、アメリカの前2つは両取り出来ると思ってる」
紛うことなき本心である。と、ここでドンっと後ろからスターライトが抱き着いて来た。そして、俺の後ろからグローリーヴェイズを覗き見て言った。
「トレーナー浮気ですか?」
なんと人聞きの悪い。お前とそんな惚れた腫れたの関係になった覚えはない。チンコ着いてた記憶があるくせに。俺は覚えてるぞ。去勢する前にクラブのお姉様お牝馬を見てブヒブヒ言ってた事を。
「浮気と言われても、私こそ雨宮の愛バみたいなところあるからねぇ」
「止めろ対抗するな面倒臭い」
今年で19歳の主人公のヒロインが高3と中1とかカスのラブコメ過ぎる。そんなの俺は絶対に認めないし、お前らには雄のイメージしかない。グローリーヴェイズはちゃんと後継を出してくれよな。
「でも、トレーナーの一番好みの走りは私ですよね?」
「雨宮、この際だからはっきりさせなさいよ。誰の走りが一番かを」
面倒臭ぇ! 西崎トレーナーはニヤニヤしながら見てるし、他のウマ娘達も遠巻きに野次馬している。こうなったら前世知識の切り札を使ってはぐからそう。セレクトセール後とかに某掲示板で見かける「この馬は未来のダービー馬だ」的なアレだ。
「そんなのイクイノックスに決まってるだろ! こいつには世界を獲れる素質がある!」
いきなり巻き込まれたイクイノックスはパニックになり、西崎トレーナーはヤレヤレと大袈裟に呆れ、俺はグローリーヴェイズとスターライトに説教された。仕方ないね。
因みに、今までで一番好きなレースはディープインパクトの春天。あれこそ日本近代競馬の結晶。異論は認めない。と言ったらもっと怒られた。あ、でもウマ娘の見た目だけで言ったらルーラーシップが一番(ry