君の星が輝くように   作:鈴谷

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君の星が輝くように 4

 8月。西崎トレーナーにスピカと一緒に合宿しないかと誘われたが断った。浜辺とかそういった所でスターライトを走らせたらまず脚が砕ける。学生だし思い出を作らせてもやりたいが、そこは譲れない。その代わり、という訳でもないが、夏休み期間をフルに使って北海道に来ている。宿泊地はスターライトの実家が持っている別荘だ。若い男女2人で合宿とか端から見たら完全にアレだが、心配なら親御さんも不定期で顔を出して貰えれば……と話したらすんなり許可が出た。出発する前、グローリーヴェイズは凄い顔をしていた。

 実際のところ他意はなく、単純に馬にとって暑さが最大の敵だからというのが理由だ。この世界のウマ娘ではあまり言及されていないが、人の身体で馬のスペックを引き出すんだから運動の熱量は当然大きいだろうし、そもそもウマ娘の平熱は馬並みだ。であるならば、ウマ娘も馬と同じ様に暑さに弱く熱中症になった時のリスクが人間より大きいと考えるべきだろう。脚元に爆弾を抱えているのだから、他の部分で気を付けておくに越したことはない。

 

「トレーナー、どうでしたか?」

 

「ラスト2ハロンしっかり16、15と加速ラップを踏めてたよ」

 

 今は北海道開催期間中でトレセン学園生にURAの設備が開放されているから、というのも後押しした。というか、URAってなってるけど、これノーザンファーム空港やんけ!である。天候に左右されない屋根付き坂路とかスターライトが最も必要とするものだ。

 メニューはキャンター2000mと坂路16~15まで進んだ。1歳の8月と考えたら進みすぎのレベルだが、流石に馬とウマ娘では生きている時間軸が違うから成長の度合いも違う。スケジュール的には10月にはゲート試験をパスして本格的な追切を開始。年明けくらいには模擬レースを一発カマしてから6月デビューを予定している。

 

「そうじゃなくて、褒めて欲しいんですけど!」

 

 スターライトが抱き着いてきて頭をグリグリと押し付けて来る。相変わらずだ。頭をポンポンっと叩いてから引き剥がし、ポケットに入れておいた容器から人参スティックを取り出すとスターライトの口に突っ込んだ。

 

「むぐッ!? ……これじゃあ餌付けじゃないですか」

 

「甘えながらポケットの人参をサーチしてた奴が良く言うわ」

 

「それは馬の頃でしょ!」

 

「今も大して変わらんやろがい」

 

「むう、つれませんねぇ」

 

 拗ねた様に人参スティックの入った容器をひったくってポリポリ食い始めた。…·少し煮詰まっている様だ。馬はトレセンの様な馬口密度の環境に長く居続けると煮詰まってカリカリしだすのが多いが、ウマ娘はウマ娘で適度な友達との交流が不可欠なのだろう。夏休みも半分が過ぎたところだ。手配しておいて良かったかな。

 

「そうそう、今日からスピカの面々がグローリーヴェイズの調整ついでに1週間こっちで合宿するからよろしくな」

 

「え゛!? 聞いてないんですけど!」

 

「サプライズだ。因みに、親御さんから許可が出たから同じ屋根の下だぞ」

 

「泥棒猫2匹が同じ屋根の下!?」

 

 あんまりな反応である。

 

「流石にイクイノックスに泥棒猫はやめなさい。世界最強馬に失礼だろ」

 

「トレーナーさんのイクイノックスさんへの矢印が強過ぎるのがいけないとおもいまーす。そもそも、そんなに強かったんですか?」

 

「仕方ない。みんなが来るまで時間がある。イクイノックスの凄さを語ってやろう___」

 

 イクイノックスが頭角を現したのはデビュー2戦目の東京スポーツ杯だ。上がり32.9という圧倒的なパフォーマンスを見せて圧勝。ただ、身体が出来上がっておらず背腰を中心に極度の疲労が溜まった事で年内休養、前哨戦を走ると春クラシックを走り切れない懸念からそのまま皐月賞へ直行した。それから2戦はルメールの騎乗ミスで2着に終わるが___ん?何?強火ファン過ぎてキモいって? 言っとけ___GⅠ戴冠を目指して出走した秋天ではイクイノックスの末脚を信じて___ドバイシーマクラシックで持ったまんまで圧倒的なパフォーマンスを___

 

 

 

「雨宮聞いたぞ。大分、イクイノックスにお熱らしいじゃないか」

 

「止めて下さいよ、西崎さん。才能を評価してるだけです」

 

 あれからチームスピカが合流して荷解きやら買い出しやらがあって現在ちょっと早めの晩飯を兼ねたバーベキュー中だ。途中、スターライトに語った熱量が漏れてイクイノックスが赤面したり他のみんながドン引きしたのは御愛嬌である。

 

「それにしても、未デビューのウマ娘でどうやったら1時間も語れるんだよ。ストーカーか?」

 

「天丼ですよ、それ。まあ、企業秘密ってやつです」

 

「……流石にイクイノックスはやらんぞ?」

 

「そんな気はないです。俺の馬じゃない」

 

「グローリーヴェイズなら良いぞ」

 

「ギスるから要りません」

 

 お前になら任せても良いんだけどなぁ、と西崎トレーナーは言うけれど、世間的に仲が宜しい(意味深)と思われてる他チームの活躍馬を引っこ抜くなんて外聞が悪過ぎる。ただでさえ品の無い週刊誌に色々とあることないこと書かれた事があるんだから。

 

「要らないって、流石にもうちょっと言い方があるんじゃないの?」

 

 肉を大量に確保したグローリーヴェイズが不機嫌そうに音をたてながら隣へ座ってきた。肉を1枚頂戴するが、もっと取って良いわよと皿によそってくれる。優しい。

 

「改めて、キングジョージおめでとう」

 

「当然よ。あなたがイケるって言ったんだもの」

 

 そう言いつつグローリーヴェイズが得意気に胸を張る。

 だが、それは違う。結果が伴ったのはグローリーヴェイズの努力と西崎トレーナーの独創的なトレーニングのお陰だ。ただ日本から向こうに行っただけじゃ、ヨーロッパ特有の自然の丘を利用した極端な勾配は克服出来ない。

 そう、まさに予想外だ。試金石と称してコロネーションカップを走らせたが、エプソム競馬場はアスコット競馬場より更に高低差が大きい。ただ、時期的に修正が効くのとアメリカの芝より権威が高いからワンチャン走れたらお徳ってノリだった。まさかあそこまで強い競馬をするとは……。

 

「お前の手柄に違いない。 俺だってヴェイズに高いヨーロッパの馬場適正があるなんて思ってなかったしな」

 

「そうは言ってもですねぇ、ワンチャン走れそうだし、もし本当に走れたら格好良いしお徳だよなって考えで提案しただけで、俺だってあそこまで完璧に走れるとは思ってなかったですよ」

 

 2人揃って「お前マジか……」って顔で絶句してる。いやいや、むしろこんな「ぼくのかんがえたさいきょーろーて」を大真面目に提案する方がおかしいと思うんだけどな。

 向こうを見るとスターライトを含めたみんながこちらを気にせず楽しげに肉を焼いている。流石は人外のスペックを発揮するアスリートと言った所で、高校生のガチ体育会系より食欲旺盛だ。

 

「グローリーヴェイズは混ざらなくて良いのか?」

 

 そう聞くと「高校生は3年の私しかいないし、捌けた方が気をはらなくていいでしょ」と肩をすくめた。西崎トレーナーが変にぶっ飛んだ練習をしてるせいで、波長の合う連中が厳選された少数精鋭チームにどうしてもなってしまうから仕方ないっちゃ仕方ない。OG達が合いそうな奴を紹介してぶち込んでるからチームとしての体裁を保っているのが現状だ。

 スターライト達を眺めていると西崎トレーナーが少し声を潜めて聞いてきた。スターライトは贔屓目抜きにどんなもんだ、と。

 

「単純に速さのスペックだけならアドマイヤマーズに迫るものを持っていると思います。ただ、脚元がどうしようもないですね。本人も自覚してますが」

 

 ヴェイズがスピードに追い付いて行かない感じ? と聞いてくるが、そんなものではない。

 

「みんながダートでキャンターしてる時に後方を走らせると足跡に躓いた勢いでワンチャン骨が砕けちゃうかもしれないレベル」

 

 前の世界でもキャンターの動画では毎回必ず先頭を走っていたし、乗馬として乗っていた頃も良く躓く馬だった。

 西崎トレーナーが眉を顰めて先を促して来る。当然の反応だ。本来なら競走馬に成れるレベルの強度ではない。幾らリスクを全て把握して回避する様に努力したとしても危険は常に付きまとう。そして、レース中に脚が砕ければ、後の人生にまで影響を及ぼす後遺症が残るかもしれない。ならば、そのリスクが現実になる前にターフを去らせるのが指導者としての役目だ。しかし、俺は私利私欲でここまで来たトレーナーなのでね。

 

「走らせますよ。俺も、あの娘も、それを理解した上で可能性を見ることを選択した」

 

「もしもの時はどうする」

 

「責任を取って生涯を伴にしますよ。若造と言えど大人なのでね」

 

 前世でもそうしたように。

 

「ちょっと! 私はどうするのよ!」

 

「愛人で」

 

 パシンっと頭を引っ叩かれた。

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