君の星が輝くように 作:鈴谷
時は飛んで朝日杯フューチュリティステークス当日である。あの後、アスター賞も大差レコード勝ちだった。開幕初日の良馬場だから大逃げでぶちかましてこい、と指示を出した結果だ。端から見たらド派手だが、スターライトからしたら接触の危険がない上に開幕週良馬場という前残り確定な状況なら最初から突き離した方がリスクが少ない。本来は末脚を活かした方が良い競馬をするタイプではあるが、安全最優先ということだ。
さて、それでは朝日杯はどう走らせるか、と言えばそもそも走らせたくはない。良馬場ではあるが、10月2週目からの開催でコーナーも直線もボロボロだ。ただ、2歳と言えどGⅠのレースを経験する価値はある。勝負服も作れるしな。そうそう、話は逸れるがこの世界線は勝負服の基準が低い。世代重賞戦は学園から統一の勝負服が貸し出されるし、古馬重賞からは全員自前の勝負服だ。なんなら、世代重賞でもGⅠで連対したり、収得賞金が古馬OPクラスに届いている奴は自前の勝負服を着て走れるし、古馬OP·リステッド競走でも、OPクラス以上の勝ち鞍があればいける。そも、『重賞』である。賞金や歴史と伝統・国際レーティングにより格付けされる、重要な意義を持ったレースに対して、「君たちはGⅠじゃないから体操服で走ってね」とかナメてんのか殺すぞ(過激派)。という訳でスターライトに勝負服を着せる。実際は合わせでもう着た姿は見ているが、GⅠ出走間近となればやはり雰囲気が違う。
「トレーナー、どうですか?」
スターライトがくるりと回る。膝上の白いプリーツスカートがふわりと舞うが見えない。やりおるな……。上はトウカイテイオーと似た礼装タイプの軍服で赤基調、名前に因んだ星の刺繍が控え目に胸元に入っており、白く華やかなフリルタイが堅さを和らげている。
「似合ってるよ。お前らしい」
馬子にも衣装って奴だな。馬だけに。勝負服なんて俺からしたら走りにくい様にしか見えないが、そこら辺はなんかミラクル効果で寧ろパフォーマンスが上がるらしい。
まあ、パフォーマンス向上はどうでもいい。話が逸れ過ぎたが、要はリスクはめっちゃあるけど、いつ引退不可避な怪我をするかも分からないスターライトに可愛い勝負服を着させられる機会があったからリスクを承知で出走させた、ということだ。スターライトもオリジナルの勝負服を着たがってたしな。だから、今日は大袈裟に言えば周ってくるだけでも良い。
「レースプランとしては最後方から。馬場の良いところを通ってコーナーから直線はスムーズに拉致沿いに行け。」
「メイクデビューと同じですね。でも、それだと勝ち負けは厳しくないですか?」
「勝ち負けなんてどうでもいい。今回はお前に勝負服を着せる為だけに登録したんだ。脚元が不安だったら流しても問題ない」
もし外野からとやかく言われても気にする必要はない。その為にトレーナーがいるんだから。
「ふふーん、トレーナーそんなに私の勝負をみたかったんですね」
「そうだよ。さあ、そろそろ時間だ。お前の可愛い勝負服をファンに見せてこい」
「……もう、調子の良いこと言って。私から目を逸らさないで下さいね!」
ちょっと赤らめた顔でそう言ってから控室を出て行った。前世じゃまだチンコ付いてた時期のくせに可愛く成りやがって。
スターライトの後ろ姿を見送ってから関係者室に行く。既に座っていた西崎トレーナーが手招きして来る。隣にはリギルの東条トレーナーもいた。
「初めての担当馬で初GⅠ出走なのに落ち着いてるわね」
「グローリーヴェイズの時に香港まで付いていったりしたので慣れましたよ」
それに、勝つつもりで来たわけじゃ無いので、と付け加えると東条トレーナーは驚いた顔をした。西崎トレーナーは事情を知ってるから「だろうな」って笑っている。
「まさか、記念出走なの?一番人気に推されるくらいなのに?」
「一番人気なのは2走ともド派手だったのと俺の有名税、そしてリギルやスピカからの出走がないからですよ。いつ走れなくなるか分からないから、一度くらい勝負服を着せてやろうかと」
「だろうと思ったわ。レースプランはどうなんだ?」
「基本はメイクデビューと同じです。ただ、最後方から行かせますけど」
「なる程、メディアに書かれてるのより状態が悪いのね……」
あんまり正直に言い過ぎると引退させろって言われるから仕方ないね。ただ、これでもチャンスは一応無いことはない。まず、厨パで有名なチームリギルやスピカが出走してないということが全てだ。自分の記憶を辿ってもこの面子が古馬重賞戦線で主役級の活躍をした記憶はない。
トレーナー同士で雑談に花を咲かせていると、スターライトがパドックに出て来た。勝負服効果かいつもの倍は調子が良さそうだ。彼女の姿をこうやって見ていると、随分遠い所まで来たなという実感が湧いてくる。俺が才能を伸ばすためにしてやれた事はほぼ無い。前の記憶とこいつが喋る様になったから怪我を避けれているだけで、元々この舞台に立っても当然だと言われる程度の素質と血統を持った馬だ。
パドックが終わり誘導ウマ娘達を先頭に本馬場入場へと向かっていく。
「それじゃあ、失礼しますね。返し馬くらいは向こうで見てやろうと思うんで」
そう言って席を立つ。西崎トレーナーが「緊張しすぎんなよ」と声を掛けてくれる。緊張でどうこうという質ではないけれど、イクイノックスがドバイシーマクラシックを走った時はテレビ越しでも過去一の緊張と興奮だったなぁ。知り合いが出資してたから起きて応援してたけど……ってレース前にあんまり他の馬の事を考えていると機嫌が悪くなるから止そう。最近、あいつの練習を見ている最中に他のウマ娘の事とか考えてると何故かバレるんだよなぁ。女の勘とか言って。お前は雄だったろうが。
前の世界で言うところの脱鞍所の所に出る。馬場に出て来たウマ娘たちが次々と目の前を通り過ぎていく。スターライトも非常に軽やかに走り過ぎて行った。俺には気が付かなかった。よく集中できている。後は、その状態を保って周って来てくれればそれで良い。
◇
あの後の事は良く覚えていない。拉致沿いギリギリを走って来たスターライトがそのまま俺に飛び付いて来て、西崎トレーナーとスピカのOG含めた面々に囲まれてスターライトと一緒に胴上げ。表彰式でのインタビューでも言うつもりの無いことまで全部言ってしまったみたいで、翌日の朝刊からネットニュースに至るまでとんでもない大盛り上がりとなった。品の無いゴシップ誌からは『GⅠ本妻杯!グローリーヴェイズVSスターライト!』なんて記事まで出た。周りから好奇の視線が途切れるまで75日……は長いのでサウジに逃げた。お前らイクイノックスの有馬記念の話をしろよ(厄介ファン)。
サウジダービーは順当勝ち。芝馬も走れるダート馬場と適正込みで考えたら薄い面子だったし、NHKマイルや安田記念の頃はどうせ雨が降るし、香港はゴールデンシックスティに勝てるわけないだろ!って事で丁度いい選択肢だったのもある。で、そのまま日本に帰らずドバイに移って調整してドバイワールドカップミーティングと言うわけだ。
「アルクオーツスプリントに出走ということでスプリントはメイクデビュー以来、1200は初ですが勝算はあるのですか?」
「ワンチャン狙いですね。面子が薄いから掲示板以上はあるだろうって魂胆です」
「そ、そうですか……」
今は記者達からインタビューを受けている。もう色々ぶっちゃけちゃったし、遠慮する必要はない。
「NHKや安田は雨降るでしょうし、そうなったら走らせるつもりはないですからね。今年の前半は恐らくこれで終戦です」
「なるほど、脚のことを考えてレースを選んだ結果ということですね」
「それもありますけど、一番はイクイノックスが名実ともに世界最強馬になる歴史的瞬間を見に来たって感じですね」
「えぇ……」
お?なんだ貴様。フライトラインとバーイードが引退した今、世界ランキング実質1位は我らがイクイノックスぞ?何が不満か。ディープインパクトが日本近代競馬の結晶なら、イクイノックスは日本近代競馬の最高到達点。その実力を今夜、全世界が目撃する事になるのだ!
「トレーナーさん、イクイノックスちゃんの事になるとおかしくなるよねぇ」
「お、着替え終わったか」
そこには勝負服に着替えたスターライト。相変わらず、可愛く凛々しい。そして、勝負服の胸元に勲章を模し、前世の誕生石のアクアマリンがあしらわれた星のペンダントが一つ。ちょっと早めの誕生日プレゼントとして贈った、スターライトがGⅠを制した証。あの人参を求めてポケットを弄っていた奴がここまで来るなんて本当に___
「___誇らしいよ、スターライト。」
スターライトが照れた様にありがとうございます、と言う。可愛い。カメラも周ってるし、後で全国のお茶の間に流れるんだろうけど、そこはもう吹っ切れた。多分、いや、きっと。もう一度、君を愛する為にこの世界に産まれて来たんだから。
「さて、最後にリップサービスで次走の想定でも言っておこうか。」
「え!? 私そんなの聞いてないんですけど!」
だって今思いついたしな。プリプリ怒るスターライトを尻目に記者達に向き直った。
「___ジ·エベレスト。スプリント世界最高賞金を獲りに行く」
スターライトの輝きを世界へ刻み込む為に______
おまけ設定集
西崎トレーナー:奥さんはサイレンススズカ。この世界ではチームスピカの2代目トレーナー。主人公が合格する22年前に18歳でトレーナー資格を得た天才。初代スピカトレが西崎トレーナーの祖父と友人だった縁から、子供の頃からレースなどに招待して貰っており、そこからトレーナーを目指し始める。トレーナー専門学校2年生時に教育課程の一環でレース運営の手伝いをしていたところサイレンススズカと出会う。その時に走りについて相談を受けた事が切っ掛けでサイレンススズカがリギルからスピカに移籍する事になった。現場研修ではスピカに付きサイレンススズカの連勝街道を支えるが、運命の日を乗り越えられず挫折。しかし、諦めずリハビリを続ける彼女を見て一念発起。トレーナーになってからはチームスピカのサブトレとして携わり、サイレンススズカを奇跡的な復活へと導く。脚への負担を考えダート転向しドバイワールドカップから始動。主戦場をアメリカへと移し再びの連勝街道の末、Tiznowを僅か1cm差で凌ぎ切り日本勢初ブリダーズカップクラシック制覇の偉業を成し遂げた。そして翌年、卒業時にサイレンススズカから逆プロポーズを受け結婚することになった。偉業を成し遂げたばかりな上に2歳差ということもあり、日本中がお祝いムードだったとか。因みに、サイレンススズカが若き日の西崎トレーナーに一目惚れした事が、リギルからスピカへの移籍理由の一つなのは有名な話。なお、去年はダノンデサイルとメイショウタバルが加入し、今年はクロワデュノールとエンブロイダリーが入って来る予定である。厨パァ!
東条トレーナー:22年前に18歳でトレーナーになった天才の片割れ。チームリギルの2代目トレーナー。西崎トレーナーに淡い恋心を抱いていたがサイレンススズカに完敗した。が、吹っ切れたお陰でOG連中の紹介のもと結婚した。スピカとは別ベクトルで癖のある奴が来るので苦労していたが、ゴールドシップを見てステイゴールドがドリームジャーニーとオルフェーヴルの方を紹介してきた事を感謝した。後々、主人公からリバティアイランドの脚元についてそれとなく助言されていた事で悲劇を回避する事になる。なお、去年はジャスティンミラノとジャンタルマンタルが加入し、今年はマスカレードボールとミュージアムマイルが入る予定の模様。この厨パがぁ!
グローリーヴェイズ:メジロ家の御令嬢。主人公が手を出した結果、当時の世界最強馬の称号を手にした。お家の力を使ってスターライト付きで良いから主人公を手に入れようとしている。多分上手くいく。現在は世間的な外堀を埋めにかかっており、メジロ家が全面的にバックアップしている。本人曰く、自分を全肯定してくれた上で運命を変えてくれた1歳年上の顔の良い男に惚れない訳がない。最近、顔が好みと発覚したスピカOGのルーラーシップと主人公がよく面子を集めてボードゲームで遊んでいるので危機感を覚えている。
イクイノックス:主人公の最推し。ドバイシーマクラシックで名実ともに世界最強馬になった日本近代競馬の最高到達点。主人公を筆頭とした連中に胴上げされて赤面しているところを全世界に中継される。真顔で延々とベタ褒めされる事が恥ずかしいだけで、主人公の事を異性として意識している訳では無い。
スターライト:主人公の前世のペット。今生でもペットの自覚がある。前は同じところが3度砕けて主人公の膝の上に頭を乗せて息をひきとった。馬の感覚が残っているが良いところのお嬢様なのでちゃんと女の子である。ただ、主人公の事は旦那様というよりは御主人様だと思ってるのでグローリーヴェイズが盗らないのであれば吝かではない。主人公がくれた給料3ヶ月分どころじゃない勲章風ペンダントでウマ娘パワーが爆上がりして快進撃が始まる。
主人公:スターライトに会うためにトレーナー試験を最短で突破した狂人。実はボドゲオタク。前世では死んだわけではなく、気が付いたら生まれ変わっていた。ちゃんとした才能あるやつ大体見た目が良いアニメ世界あるあるなアレでイケメンになった。自覚はある。給料3ヶ月分どころじゃない勲章ペンダントをスターライトにプレゼントしたが、本当に誇らしいだけであり本質的にペットとして見ている。スターライトが居なければグローリーヴェイズとくっついているが、ペットの面倒は最後まで見なくてはいけないという飼い主の信念から答えをなぁなぁにして引き伸ばしている。ペットを愛するのは飼い主の義務だから仕方ないね。既に成人しているのでちょくちょくトレーナー同士の飲み会に参加している。今度、成人したグローリーヴェイズとサシで飲みに行く。酒に酔ってポロっとスターライトと一緒で良いならと漏らす。年貢の納め時である。