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セイ 回想1
私って、死にたかったんだ。
目の前に迫る自動車から私はどうしても目を離すことができなかった。
逃げようなんて全く思わなかった。
私はこれまで、自らの意志で行動したことなんて無かった気がする。ひたすら流されながら生きてきた。何となく、空虚な感情を抱いている実感はあったけれど、それが希死念慮であったなんてまったく分からなかった。
願いが叶いそうになってようやく、自らの願いを理解できるのならば、叶えるための努力なんてしようがなかった。
これまでの人生、自らの願いは全く分からなかった。やりたいことは何もない。やりたくないことは全部だ。何にでもなれるのならば、私は何にもなりたくなかった。何でもできるのならば、私は何もしないことを選択するだろう。
生まれてきたことが間違いだったのだろうと思う。こんな私と関係性を深めるに至った、あらゆる人々に申し訳なさを感じる。こんな私に、いくらか、大なり小なりの時間を費やしてもらったのだから。
私はかなり早い段階で自らの願い、夢に気づけた。将来の夢の欄に何を書けばいいのか、悩むことはもう無いし、そもそもそんな機会に怯える必要もなくなる。
「私の願いが分からないから、私の願いを見つけて、できたらそれを叶えてほしい。」という、神社に行く度に願っていたのが成就したのかもしれない。随分無責任な願いだった。ただ、そんな形でしか私は願いようがなかったのだ。
スローモーションになった世界で、私は私のこれまでに思いを馳せていた。まるで、「これまでの人生を振り返りなさい」と神様に指示されているように。私はその指示に従うことは無かったけれど。
ぼーっと車をただ見つめていると段々近付いてきているのが分かる。せっかくなんだから、私から迎えに行ってあげようと思った。それが初めての、自らの意志による行動だったのかもしれない。でも、実際はいつも通り、何もできなくて、ただ待つだけだった。そして、そんな、私の最初にして、最後になったはずの行動すらも起こせなかった私には相応しい結果になったんだと思う。
私が車と重なる直前、その瞬間人かも分からなかった
世間一般的には望ましいことが起こって、私的には望ましくないことが起こったのは分かった。
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レイ 手記1
これからどう振る舞っていけばいいんだろう。その日はサングラスを掛けて、深く帽子を被って、ダボダボのパーカーを着る、そんな変装の正装みたいな服装で、私は昼下がりの道を歩いていた。
「変装したところでどうせ気付かれないのでは?」と感じる自分と、「流石にこれぐらい有名になれば気付かれるでしょ」と感じる自分が頭の中で戦っていた。
ある程度は有名になっていると自負している。そして、その度合いが自らの本来の魅力よりかなり上の方へ行ってしまっている、ということも。本当は喜ぶべきなんだろう。私はどうしても喜べなかった。いずれ下に突き落とされるならば、一時限りの上に上げないでほしい。
私なんかが意見するなんて烏滸がましいということを知っていたから、基本は私より上の人たちの意見を取り入れてきた。きっと、一応芸能人と呼ばれる身分に属する人間としては、まったく適していない考えなのだろう。そして、そんな自己主張の少ないキャラを舞台裏の人たちの前で演じていたから、きっと、都合のいい奴だと思われて、今みたいな、引っ張りだこというわけではもちろんないけど、暇をしないぐらいには忙しくなったのかもしれない。
一応アイドルなんだから、もっと仕事にわがままになってよかったのかな。でも、私ごときがワガママになっても嫌われて、見限られて終わるだけだ。
その瞬間は、まるで舞台のワンシーンかのようだった。ヒロインが車に轢かれそうになっている、そんな王道のワンシーンに私は飛び込んだようだった。そのヒロインは、何を考えているのか私にはまったく分からなかった。車はヒロインに向かってどんどん迫って来ているにも関わらず、ヒロインは全く逃げようともせず、顔色を変えることもなく、ただその向かって来る車をボーッと眺めているのだ。私には、ヒロインは王子様が現れ、颯爽と自らのピンチを救ってくれるということを確信しているように見えた。ただ、私から見える舞台には、立っているのはヒロインだけで、王子様なんてどこにも見当たらなかった。私は観客のはずだった。でも、ヒロインから一番近いのは私だった。
気付いたら体が動いていた。恥ずかしい表現だけど、そうとしか言いようがない。私は、轢かれそうになっている少女と車の間に割って入った。すぐに私は強い衝撃を受けた。そして、その座っている少女の側へ飛んでいってしまった。やばい、と思ったけれど私にはどうしようもなかった。少女へぶつかる瞬間、少女の顔が見えた。少女は何だか驚いた顔をしていた。やっぱり私なんかが王子様役なんて似合わないよね、なんて思いを抱いてしまった。でも、舞台に立った以上、途中でやめるなんてことしたくなかった。ぶつかった後、その少女を抱き抱えるような形になって、私が下になるように、私はその少女と共に落下した。背中に衝撃を受けたのを覚えている。少女から受ける衝撃があまりに軽くて、凄く心配になったことも。
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セイ 回想2
私は数日ほど目を覚まさなかったらしかった。私は全治2ヶ月ほどの怪我を負っていた。数か所の骨折と、擦りむいたことによる出血で、命に別状はなかったらしい。案外そんなものなんだ、と思ってしまった。そもそも死にようがなかったのかもしれない。
死とは思っていたより身近で、思っているより遠いものらしい。
しばらくして、私を助けてくれた人に感謝を伝えに行くことになった。私の両親だったりは既に何度もその人に感謝しに行っていた。その人は全治1ヶ月ほどの怪我をしたらしかった。私がその人に庇われる形で助けられたのに、私の方が怪我が重いんだ。その人は何がしたかったんだろう。良くないことは分かってる。でも、そう思ってしまう。
私を助けてくれた人はアイドルの人らしかった。そして結構有名なアイドルだったらしい。名前を聞いても私は知らなかった。世間では今回の、アイドルが一般人を助けたというニュースで持ちきりらしく、その私を助けたアイドルがめちゃくちゃ注目の的になっているらしかった。私を自らの好感度稼ぎのダシにしたかったのだろうか。私にそんなこと考える権利なんて無いことは分かってる。私は
「救ってほしいなんて言ってない。」そんなこと、言えるはずがない。
ただ、私が死ぬまでの間、一生呪ってやろうとは決意した。その人にとっては身から出た錆だろうと思う。だってその人がその行為を行わなかったのならば、私はもう存在していないはずなんだから。
車いすに乗せられて、相手の病室まで向かった。個室だった。その人はベッドで本を読んでいた。
私を助けたというアイドルは、私と同じような目をしていた。
運命なんてもの感じなかった。私が感じたのは憎悪だけだった。
何で、勝手に私を助けておいて、あなたは喜んでいないんだ。
まるでどっちも損をしている、みたいじゃないか。
あんたが勝手に私を巻き込んだ結果なんだから、せめてあなたは喜んでよ。
本当は私から発言するべきだったんだろうけど、先に私を助けたアイドルが「助かってよかったです」、みたいなことを濁った眼を隠して、言ってきた。そして、私の後ろにいた私の両親が「本当に、娘を助けていただきありがとうございました‼」なんて大きな声で返して、私にも感謝を伝えるよう言ってくるから、傍から見ればきっと嫌々言うような形で、私も目の前の人に感謝を伝えた。本当は、私は最初はまず感謝を伝えようと思っていた。実際にはできなかったのだから、言い訳にもならないんだろうけど。思いを正しく伝えるのは苦手だ。
その後、定期的に気まずい空気に包まれながら、いくつか色々話をした。アイドルの方も本心を隠しながら話しているんだろうな、とは思った。相手も色々思う所があったみたいで、私を救ったヒーローとして話しかけてくることはまったくなかった。最初は相当な恨みを込めて相手を呪っていたはずなのに、段々話しているとその思いが薄れていっていることが分かった。報われない者同士頑張ろう、みたいな仲間意識でも持ってしまったのだろうか。もしくは、相手は苦しんでいるから恨まなくていいや、なんて風に感じたのだろうか。
それからは、私は足を骨折していて移動が難しかったから、その相手のアイドルの方が毎日、私の方に来てくれて色々話をする、なんて日々が続いた。最初の方は、私を勝手に救ってきた憎い相手なんだと思いながら、そっけなく返したりしていた気がする。でも、段々私の方から勝手に絆されに行って、最後の方は私がずっと話して、それをレイは微笑みながら聞いてくれて、みたいな構図になっていた。レイがいなくなるといつも、あんなに私から話してよかったのか、私はレイの話を聞けていたか、なんて風に悩み始めて、今度こそもっと落ち着いて話そうなんて一人考えていた。
頭の中では私はレイと、上手く話せていたのに、いざ声に出すと止まれなくなる。
勝手に嫌って、勝手に好いて、私は一人で何をしているんだろう。
そんな私を滑稽だと笑ってくれる相手すら私には存在しないのだ。
私より先にレイは退院した。最後の日、レイは私と別れることを寂しそうにしているように見えた。本当かどうかは分からないけど。なぜか今になって、レイに対する不信感が積もり出していた。恩知らずにも程があると思う。こんなんだから、私はいつまで経っても一人なんだろう。
寂しかった。あまりにその思いが強かったから、レイにも私の思いは伝わったと思う。レイは最後に私にレイの連絡先を教えてくれた。そして、抱きしめてくれた。私はどれくらいの強さで抱きしめ返せばよいのか分からなかった。私の今の思いをそのまま形にするのはきっと重すぎるだろう。でも、レイに私の思いをある程度は分かって欲しい。そして躊躇しているうちに、抱擁の時間が終わってしまった。
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レイ 手記2
私が目を覚ますと、救急車の中で運ばれている最中だった。
私の意識が回復したことに救急隊の方が気づくと、大丈夫か、意識の混濁は無いかみたいなことを聞かれて、私は指示通りに答えて、そういったことは何にもないことが分かると、救急隊の方は安心したようだった。そして、もう少しで搬送先の病院に着くから、安心してほしいと言ってくれた。私はどうしても私が勝手に助けてしまったあの少女の容態について聞いておきたくて、救急隊の方に尋ねると、「あなたの咄嗟の判断のおかげで、命に別状はありませんでした。」と教えてくれた。
私のおかげであの子は助かった、とはどうしても思えなかった。
あの子の最後の、私に見せた表情が、私の脳裏から離れなかった。
あの子は何を考えていたのだろうか。私の行ったことは間違っていなかっただろうか。
でも、助けてしまった以上、責任は取りたいと思う。
私は骨折もなく、捻挫と数か所の擦り傷で済んだ。先生曰く、無意識に受け身を取ったんだろうということだった。アイドルとして活動している以上色々トレーニングはしていたけれど、それがきっと役に立ったのだろう。あの子は数か所骨折があったらしく、私より怪我の程度が重そうだった。私は本当にあの子を助けることができたのだろうか。私のせいで、本来よりも重たい怪我になったのではないのか。そんな疑念が晴れなかった。病院の先生達、そしてその少女の両親から感謝をされたけど、私は曖昧に笑うしかできなかった。「あなたのおかげです。あなたが居なければ、娘はどうなっていたか...」少女の両親には特に何度も感謝された。最初は戸惑いの思いが強かったけれど、段々申し訳なさも感じるようになってしまった。
私の病室に私の助けた少女が車いすに乗って訪れた。その姿を見ても、私の行ったことが正しかったと思うことができなかった。その少女は以前と変わらず、何を考えているのか私には分からなかった。「助かってよかったです。」私はそう言った後、その言い方が良くなかったことに気づいた。何助けた気になっているんだ。それを判断するのは少女側だろう、と。その言葉に続く形で、少女の両親はまた頭を下げて感謝を伝えてくれた。そして、それに続く形で、少女も私に「助けていただいて、有難うございます。」と言ってくれた。少女はセイという名前らしかった。私はレイという名前だから、似てるね。みたいなことを私が言うと、セイは申し訳なさそうに笑った。ミステリアスな雰囲気を纏いつつも、私の質問に精一杯答えてくれた。あまりに包み隠さず答えてくれるものだから、勝手にセイにすごく信頼されている感覚を覚えた。私は、勝手にセイのことを放っておけないと感じてしまった。
私は別に自由に病院内を歩くことを許可されていたので、毎日セイの病室に向かってベッドに横になっているセイと色々話をした。私が行くと、セイは急いでくつろいでいる姿勢を直そうとあたふたしていて、普通の姿勢でいいよなんて私が行ってみても、「来てくれたんだからそうはいきません」なんて言って聞かず、座りなおしたうえで私と話してくれる。律儀な子だなと思った。セイは18歳で今高校3年生らしい。私の一つ下だった。女子高に通っていること。なかなかクラスに馴染めていないこと。大学に進学するか迷っていること。一方、働くにしても何をしたいのかが分からないこと。質問をするのは私からだが、一度質問をするとセイはそのことについて色々答えてくれて、そして悩んでいることについて私に相談してくれた。まるで、私に妹ができたような感覚だった。
私は退院の時を迎えた。最後にセイに会いに行ったとき、きっと出会ってすぐの頃ならば分からなかったのだろうけど、セイも私と別れることに対して寂しさを抱いてくれていることが分かった。それが、無性に嬉しかった。ああ、セイも私との時間を良いものだと思ってくれていたんだ、と分かって。私は最後に、セイと連絡先を交換した。色々手続きを済ませ、退院した後、さすがに仕事もしばらくなかったから一旦自宅に帰り、1か月ぶりで、慣れ親しんでいたはずなのに現在違和感を覚えてしまっている自室のベッドに寝転がり、セイに「レイです。よろしくね。」なんてメッセージを送った。10分ぐらいして、「セイです。よろしくお願いします。」と返信が来た。そして、続けて何か送ろうと思って、結局言うことも無くて送らなかった。嘘、送れなかった。
私から連絡するんじゃなく、私のことをどれだけ想っているか確かめるために、セイから連絡が来るのを待とう。そう思って、1週間ぐらい待ってみた。ただ、きっとそうなるだろうと予想はしていたけれど、セイから連絡は来なかった。やっぱり私から連絡しなきゃ。そう思って何か送ろうとしたけれど、本当にセイは私と話すことを望んでいるのか。1週間連絡が無かったことが何よりの答えでは。もう少し待ってみてもいいんじゃない?。みたいな思いが溢れてきてしまう。このままではいけない。それだけは分かる。でも、どうしてもその先に進む勇気が出ない。
セイに連絡を送ってから長い時間が経ってしまった。セイからの連絡も来ることは無かった。連絡を送るのか、それとももう連絡を取ることを諦めるのか、どっちか決めようと思って、もうセイとは連絡を取らないでおこう。その方が互いにとっていいだろう、なんて決意してみて、でもしばらくすればやっぱり連絡を取ろうなんて思って、でも結局送る勇気もなくて、私はそんなことを繰り返していた。やっぱり、私は私なんだ。慰めなのか自嘲なのか、そんなことを思った。
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セイ 回想3
レイが居なくなってからの1か月を、私はきっと誰よりも無為に過ごした。最初の1週目ぐらいでほとんど直りきっていて、残りの3瞬間ぐらいは私がここにいる意味が分からなかった。早く退院させてくださいなんて言えるはずもなく、私は退院までを待っていた。正直、入院中は何にもしなくていいんだから羨ましいな、と思う時もあった。ただ、そんな思いは今回の経験で消え去った。何にもしなくていいのは好きだけど、何にもしてはいけないのは嫌いだ。どこまでワガママなんだろう。
退院後、私の家族だったり親戚だったりを呼んでパーティーみたいなものが開かれた。きっと私の退院おめでとう会でもあったんだと思う。皆が、私の退院を祝ってくれた。そして、それと同時に皆がせっかく助けられたんだから、頑張らないとなみたいなことを言ってきた。それはその飲み会の場だけでなく、学校の先生だったり、近所の誰かだったりと言った、私とほとんど関係性が無いだろうという人たちにまで言われた。私が助けられたことと、私が頑張ることにどのような論理的な繋がりがあるのか説明してほしかった。何当たり前のように言ってきているのか。そんな思いを抱かずにはいられなかった。きっと、論理を越えた、
私はこれまでも、無気力な人間であったと思う。ただ、最低限取り繕うぐらいの理性は残されていたんだろう。ぎりぎり健全な、見る人によっては異常であったかもしれないが、それぐらいの人間を演じるだけの希望はあった。でも、もう無理だった。何にもやりたくなかった。学校を途中で抜け出すことも増えた。色々好きにやった。不自然なほど、誰にも何にも言われなかった。もちろんそんな私に話しかけてくれる人もいなくなった。家でも同じように、ぼーっとすることが増えた。きっと私の問題行動に対して報告は言っているのだろうけれど、誰も何も言わなかった。私は狂ってしまったということで、精神科にでも連れていかれるのではないか、そんなことを思ったりもしたが、両親はこんな私に対してしばらく距離を取ることにしたようだった。しばらくかどうかも分からない、永遠に距離を取ることにしたのかもしれない。このままじゃ良くない。それだけは分かった。どうすればいいのかなんてずっと前から分かっている。ただ、それをやるだけの希望は私にはもう無いのだ。
私は狂っているのか。狂ったふりをしているだけなのか。分からなかった。
事故から2か月ぐらい経って、当初騒がれていた「事故に遭いそうな少女を救ったアイドル」なんてニュースもほぼ見なくなって、SNSでもその話題に関してはだんだん忘れ去られてきているように見えた頃、レイをテレビで見ることが増えた。随分人気者になっていた。そんな姿を見ると、ああ、私にはそもそも似合わない人だったんだなと実感してしまう。レイは相変わらず、笑っていなかった。最後の方は、レイは私に笑みを浮かべてくれていたように思う。でも、テレビに映るレイは、笑っていなかった。じゃあ、私の方がテレビに出ているレイ以外よりはレイに好まれているんだ。そう思うと、少しうれしくなった。でも、それは私がレイとある程度の時間を共にしたからなんだろうと思う。運命なんてものじゃないんだろう。むしろ、あれだけの期間私はレイを独り占めできていたのに、それにしては全然レイの本心を知ることはできなかった。私じゃない誰かに、いつかレイは救われるんだろう。私はレイを救いたいのか、もちろん救えるのなら救いたい。でも、きっと今はそれよりも、レイに私を救ってほしいなんて思いの方が強い。あんだけ最初は救われたことを恨んでいたのに。あれもただの
それならば、私は実際には何にも感じることができていないんだろう。
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レイ 手記3
退院して1週間ぐらいすると、段々仕事が入り始めた。以前と変わらないくらいの仕事量だった。そして、それはかなり仕事をマネージャーだったりが選んでくれた上での話だった。私の行った行為は、人々の琴線に触れてしまったらしかった。「少女を助けたアイドル」みたいなテーマでしばらくはニュースで持ち切りらしかった。入院中の最初の方は、テレビを見ているとほとんどの確率でそのニュースを目にしてしまい、私はそのニュースを見ることができずにテレビを消してしまっていた。私は私に対するそんなニュースを許可したことはなかったように思うのだが、プラスなニュースの場合はほとんど当人の同意なく
ようやくそんな
「ヒーロー様」「聖女様」なんて言われて、きっと引きつっていたのだろう笑みを浮かべながら「辞めてください」なんて言って、助けた時どんなこと考えていたの?なんて聞かれて、きっとこんな答えを求められているんだろうなんて考えながら「周りに私しかいなくて、私がやらないとと思って、気づいたら勝手に足が動いていました。」なんて答える。ずっとそんなことを繰り返していたように思う。マネージャーから、「素の自分でいいよ」なんて言われたから、演じることなく、そりゃ多少の打算はあったけれど、基本は素の私で答えることができた。
テレビにおいて、自分を出すことを許されるのは本当にごく一部の、誰もからも求められる、そんな人たちだけらしい。この空間のほとんどは虚構なんだ。お金になる以外に、この空間に何の意味があるのだろう。傲慢にも、収録中にそんなことを思ってしまうこともあった。
「事故に遭いそうな少女を助けたアイドル」なんてインパクトを抱えて出演しているはずなのに、それでもきっと番組全体としては盛り上がっていなかったんだろうと思う。ただでさえ本来の自分と気づかないだろう程に着飾って、世界からメイクを施してもらっているにも関わらず、そんな自分でも無理だった。メインとして出演するという得難い経験を経て私の感じた実感とは、私はどこまでも小市民であるということだった。盛り上がっていない原因のほとんどは私なのに、周りの人たちは「あなたのせいじゃない」、「周りがもっと頑張るべきだった」なんて庇ってくれるのが、余計に私をしんどくさせた。私が自分自身の魅力の無さに気づいてしまえば、まだ視聴率を取れて金になる「事故に遭いそうな少女を助けた
私はこれからどうなるのだろう。しばらくすれば、私を特集した番組がいくつも放送されるのだろう。でもそれも長くは続かない。私はきっとそのチャンスを生かすことはできないだろうから。ほとんどの人にもうバレているんだろう。私に大した魅力はないという私にはどうしようもなく感じてしまう事実に。そして、その番組を見た人々からもいい反応はもらえることなく、関係者、そして視聴者共に意見が揃ってしまった以上その意見に従う他なくて、私はすぐに消えていくんだ。テレビからまず消えて、そして人々の記憶からも。私が
もしあの時、セイを庇って私が
私は生きている以上、これから下がっていく一方なのだ。だったら、早いうちに終わってしまうことがこんな私の悩みの唯一の解決策なのでは。でも、最後にまた評価を上げる、もしくは留まらせるような形の退場なんてめったにない。評価を下げることを恐れている以上、私は退場する覚悟がなっていないということなんだろう。あの瞬間が、最初で最後のチャンスだったのかもしれない。
セイに出会えた。良かったことはこれだけだ。悪かったことなんて数え切れない。セイにすごく失礼な考えをしてしまっていることは自覚している。ただ、一度考えてしまえばもう止めることができなかった。
私が助けたのだから、せめてセイから連絡を返すぐらいのことはするべきだろう。
ああ、セイに出会えただけじゃ、どうしても足りないよ。
その、埋め合わせを、全ての始まりだった、セイがしてよ。
ねえ、セイ。あなたは私を、どんな風に見ているの。
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セイとレイ セイ側
「やっぱここにいたんだ。」
車が何台か通り過ぎる様を私は眺めていた。
私はレイに意味深なメッセージを送ってすぐ、夜の街を飛び出していた。
そして今、私が轢かれそうになってレイに助けてもらった場所に来ていた。
レイに私を見つけてほしかったんだ。そのために、これほど恣意的な行動を取った。
これだけやっても、漫画やアニメじゃないんだしきっとレイがここに来ることなんて無いんだろう。
それでも、私は、こんな私をレイに見つけてもらえる、なんてことを夢見ていたんだ。
だから、きっとこれは夢なんだと思う。
「...良く分かったね。」
レイの声に対して、私は爆発しそうになる心臓を抑えて、平穏を装いながら言った。
レイの顔を見るとにやけてしまいそうだったから、顔を上げることはなかった。
「私に来てほしそうだったからさ。」
「...バレた?」
茶目っ気を出す感じで言ってみた。実際にそうできていたかは分からないけど。
「さすがに分かるよ。何か色々悩んでんだろうなーて感じが、文面から凄い感じたよ。」
「...1行だけじゃん。」
「何で私を助けたの?」私はそれだけをレイに送った。
ずっと気になっていたことだ。私を助けた結果レイは人気者になったのに、人気者のなった現在のレイをレイは気に入ってないように見えたから。「私がヒーローです」みたいな振る舞いをレイはあまりしなかった。だからこそ私はレイを嫌いにならなかったのだけど。ただ、それでもレイがおせっかいで死にたかった自分を助けた、という事実は揺るがない。むしろそういった振る舞いをしてくれたほうが思うがままに私を勝手に助けた自称ヒーローを恨むことができた。でもレイはそんなことをせずに、ただのレイとして私と色々話してくれた。その結果、私は勝手にレイに好意を寄せるまでになった。じゃあ、レイは何を考えて私を助けてくれたのだろう。
「相当心配したんだからね。セイは目を離したすきに何かとんでもないことをしでかしそうな雰囲気があるからさ。」
「...私なんて、何もできないよ。」
自嘲気味に私が言うと、レイは私を前から抱きしめてくれた。今度はもう躊躇わなかった。私の思いを伝えるつもりで、ぎゅーっと私も抱きしめ返した。そして、しばらくすると「力強すぎて痛いよ。」とレイに言われてしまった。私の思いは伝わったのだろうか。そして私はレイの目を見た。やっぱり恥ずかしくてすぐに目を逸らしてしまった。レイが目の前にいる。それだけで、もうなんでも良かった。
「...ずっと辛かったんだけど、レイに会えたらもう何でも良くなった。だから、ずっとどこにもいかないでほしい。」
告白のつもりはなかったが、私の本心のままに吐いた言葉は告白以外の何物でもなかった。
「もちろん。私も改めて、セイが好きなんだってセイに会えて分かったよ。」
レイはそう言って私にウィンクをした。その余裕が、すごく格好良く見えた。
少し前までは、世界には絶望しかなくて、私の思いはそんな世界をこれから長い間生きていかなければならない、という憂鬱で全て占められていたように思う。でも、今になっては、そんな憂鬱はただのごっこ遊びのようで、その実感すら私の中から消え失せてしまっていた。私にとってレイはそれほどの存在なんだ。その事実は実はすごく恐ろしいことのように感じたけど、気づかないふりをすることにした。今は、この幸せに浸っていたかったから。
今度は私からレイを抱きしめた。実際には私がレイに抱き着いたような感じだ。それを、レイは受け止めてくれた。抱きしめ加減は未だ分からなかったけど、レイに何も言われなかったから大丈夫だったのだろうと思う。
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セイとレイ レイ側
「だーれだ?」
私がベンチに座ってぽけーっと待っていると、そんな声と共に私の視界が塞がれた。
「もう来たんだ。早いね、セイ。」
「えー。もっと乗ってよー。」
私が平常運転の感じで返すと、セイは文句を言いたそうな表情をしながら私の隣に座る。
あの日から、セイは変わった。というか、これが素で、今までは隠していたのだと思う。
「いつもそれやってくるけど、そろそろ飽きない?」
「レイと一緒にできるなら何でも楽しいよ。」
こんな風に、恥ずかしい言葉も平然と言ってくる。
私のことをこれほど好いてくれているというのは嬉しいけど、あまりにひっきりなしに伝えてくるものだから逆に心配になってしまう。何か裏があるように感じてしまうのだ。セイは自分自身をすごく卑下してしまっていて、そんな自分を誤魔化すために過剰なまでに明るく振る舞って、そして私に過剰なまでの愛の言葉を伝えてくれている。そうでもしないと、自分が私に釣り合わないと感じてしまうから。考えすぎなのならば別にいいのだが、どうしても私はセイのことになると色々不安になってしまう。本当にセイは幸せなのだろうか、笑えているのだろうか。私の幸せとセイの幸せは今ではほぼイコールなのだ。
「...ねえ、レイ。」
「どうしたの、セイ?」
セイが私の部屋に遊びに来ていて、2人でベッドに入ってもうすぐ寝ようとなった時、レイは覚悟を決めたような表情をしていた。
「もし、私と一緒にいる時間が楽しくなった時は、すぐに言ってほしい。私はレイの重荷になりたくないからさ。その後の私のことなんて考えなくていいから。」
私が何も言えずにいるとセイは続ける。
「ごめんね。こんなこと急に言っちゃって。本当に、ごめん。」
どんな言葉もその返答として相応しくないように思えた。だから、私はセイの細い首に手を回して、少し震えている唇に口づけを交わした。セイの唇は乾燥していて、少しでも私の潤いをセイに与えてあげたかった。セイは目を瞑っていた。私はそんなセイを口づけの間、ずっと見ていた。
「大丈夫だよ。私もセイのこと、セイが私に向けてくれる気持ちに負けないぐらい好きだから。」
「...ほんと?きっと私相当重いよ?きっと、全然健全じゃない。」
「大丈夫。私もきっと変わらないさ。私たち、お似合いだよ。」
「...ありがとう。でも、最後にもう一度だけ確認させてほしい。きっと、今の私ですらかなり取り繕った私だよ?本当の私なんて、こんなものじゃない。これから、私はどんどん醜くなっていく。美しくなることなんてない。そんな私でも、本当に大丈夫?」
「うん。大丈夫。それとも、そんな私を信じれない?」
「...それ、ずるい。それを言われると、私何にも言えなくなっちゃう。」
セイは笑った。
「私を信じてほしいな。絶対にセイを一人にはしないから。」
しばらくしてセイは眠った。私はセイの寝顔をしばらく眺めていた。セイは自らの想いを伝えきれたのか、健やかな寝顔だった。そんな顔を、私は守りたいと思った。起こさないように、セイの頬に私の手を当ててみた。セイは確かにそこに存在していた。それが、何だか不思議なような感じがした。
「おやすみ。」
ささやき声で私はセイにおやすみを告げた。
一つのベッドに2人で眠るなんてこと私はあまりは得意ではないように思っていたけれど、セイと一緒に眠ることは何の苦でもなかった。むしろ一時も離れたくなかった。