劇場版風ウルトラマンブレーザー
自己解釈あり。
苦手な方は自衛お願いします。

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第1話

 籠目 籠目

 籠の中の鳥は いついつ出やる

 

 【死した者に会えないなど】

 

 夜明けの晩に

 つるとかめがすべった

 

 【一体誰が決めたのか】

 

 うしろのしょうめんだぁれ

 

 【愛しいあなたに、逢いにいきます】

 

 

 【【会いたい……。今一度、愛しいあなたに】】

 

 

 囲め 囲め

 籠の中の鳥は いついつ出やる

 

 【生きる者に会えないなど】

 

 夜明けの晩に

 つるとかめがすべった

 

 【一体誰が決めたのか】

 

 うしろのしょうめんだぁれ

 

 【愛しいあなたに、逢いにいきます】

 

 

 

 

『本日未明、島根県○○で男性が意識不明で倒れているところを発見されました。外傷はなく、原因の特定が急がれるとのことです。また、連日同じような意識不明者が発見されていることから、警察は双方の関連性の捜査及び、事件やテロの可能性も視野に入れ、調査を進めてい』 

 朝から流れる嫌なニュースを、サトコはテレビを消すことで遮った。

「最近こんなニュースばっかりね。あなたも気をつけて」

「あぁ、サトコも外に出る時は気をつけて。ジュンにもよく言っといて」

「うん。あ、そろそろ行かないと遅刻しちゃう」

「ほんとだ。じゃあ行ってくるよ」

「いってらっしゃい」

 いつも通りの平和な朝が慌ただしく過ぎていく。

 

 

「そういえば最近の意識不明者発見の話、噂になってますよ。尾ひれ背びれのおまけ付きで」

「さすがエミさん耳が早ーい!で、どんな話なんです?」

「なんでも、発見者の話だと、鳴き声のような歌声のような変な音が聞こえた後に人が倒れる音がした、とか、黒いモヤが被害者の周りを漂ってたとか」

「うわぁ、オカルトチックぅ……」

「なんや、うちの管轄ではなさそうですね」

「どこの管轄って言われたらそれはそれで困りますけどね」

 さほど気に留める必要すら感じない噂話が刹那的に世間を騒がせ、駆け抜けるように消えていく。

 いつものことだ。

 上官2人は部下たちの噂話を聞き流し、資料を手に取る。

「さ、お喋りは終わりだ。ミーティング始めるぞ」

「今日の内容の確認から。今日は……」

 

 

「は………?例の連続意識不明者発見の件を……?」

 突然お呼び出しを食らったゲントは上司であるハルノ司令の前で思わず指示を聞き返す。あれやこれやとお叱りの予測を立てていただけにとんだ肩透かしだが、お叱りのほうがマシだったかもしれない。

「最近は怪獣災害も幸い少しばかり落ち着いている。それに、原因が分からない点から、怪獣のなんらかの生態が関係しているのではないかと意見が上がった。黒いモヤの目撃証言もある」

 誰だ、そんな余計なことを言い出したのは。

 そんな気持ちを押し込めて思案を巡らせる。

「少し落ち着いているだけで出現がないわけでは……それにしても、黒いモヤですか……噂になっているやつですね」

 エミが仕入れてきた情報とも言い難い噂の断片を思い出して、ただの尾ひれじゃなかったのかとそこには素直に驚く。

「黒いモヤに関しては一応信憑性があるが、音に関してはどうだか……聞いた者は酔っていたようだし、何かを聞き違えた可能性のほうが高いだろう」

「しかし、ここからでは出張るには少し遠いのでは」

「だとしても放置はできない。なにしろ、状況が一致している遺体発見の例もある。公にはされていないが。現地でのスキャニング及び調査、対応を任せる」

 死人まで出ていると寝耳に水なことまで言われて戸惑うが、命令であるなら仕方がないと割り切ってSKaRDCPに戻る通路を辿る。

「俺たちの仕事は怪獣対応だってのに」

 いつかのセリフをもう一度吐き出して蟀谷を揉む。

 さてどうしたものか。

 CPに入り、部下たちにその旨を伝え、ひとまずエミは現地調査、スキャニングにモッピーとアースガロンを投入する。もちろん調査を長期にしてその間に何かあっては困るので、ひとまずアースガロンの投入はこの1回、1日限りの予定だ。

 テルアキ、ヤスノブがアースガロンに搭乗、モッピーにエミ、ゲントとアンリはひとまずCP待機とし、アースガロン帰投後はエミが引き続き現地調査を行う手はずとなっている。

 飛び立つアースガロンたちを見送り、これから送られてくるであろう情報の精査のための準備と、こちらはこちらで、散らばっている噂たちを集める作業に取りかかった。

 

 調べにかかってみれば、思った以上に噂の拡散が進んでいた。

 尾ひれどころか、その話は一体どこから派生したのか、というほどのものまで。

 黒い靄の中からナイフを持った女に追いかけられただの、子どもが手招きをしてくるだの、たくさんの手に掴まれそうになっただの怪談としてはありがちな話ばかり何パターンも。

 一貫しているのは、そのどれもが黒いモヤの中にそれらがいたのだということと怪奇現象のさなかに聞こえる歌のような音。

「黒いモヤに歌ねぇ……」

「不気味ではありますけど、主要なワードを残して枝分かれってありがちですよね」

 PCとのにらめっこに疲れた眉間をもみながら、どうしたものかとため息を付く。

 アースガロンを用いたスキャニングのデータには特に変わったところはなく、そろそろ帰投指示を出さなければならない。

 エミには引き続き現地での聞き込みやモッピーをあてがっての調査を続けてもらうが、他2人には戻ってきてもらわなくては。

「こちらゲント。アースガロン及び搭乗者2名は速やかに帰投。エミは引き続き、現地での調査を続行で頼む」

『『『ウィルコー』』』

 打てば響くように返ってくる返答に満足し、通信を一度切った。

「アンリ、今日の情報をまとめるぞ」

「ウィルコー」

 ざっと印刷してまとめた噂たちや、現地組から送られてきたデータを、条件をつけて分類分けしファイリングしていく。

 特に噂は、真偽を問う意味でも、黒いモヤや歌らしい音の有無、襲われた等の証言内容の分類ととにかく条件を分けるのが大変だった。

 そこから思い出したように地上に現れる怪獣を対処しつつ、情報収集を進めていくという日々が続く。果たして自分たちの仕事とはいったい。そんな気持ちにもなるが悲しいかな、上の指示には従わねばならない。とはいえ、特に進展があるわけでもなく、新たな被害者発見のニュースを見るたびに焦燥感を感じるしかなかった。

『ゲント隊長。少し今までと違う証言が』

 一報つきで送られてきたその証言。

 被害者が自分から黒いモヤに入っていくのを見た、という証言だ。その証言を元に近辺の監視カメラをあたった所、その様子が辛うじて記録されたそれらしい動画データも見つかった。

「これまでの証言では、すでにモヤに取り巻かれていたというものばかりでしたが」

「自分から入っていくて、そない危ないこと普通します?」

「でもこの監視カメラの映像、黒いモヤなんて映ってませんよ」

 そう、映っていないのだ。映っているのは被害者が虚空に向かって手を伸ばし、ある一点に踏み込んだところでバタリと倒れる、そんな映像。黒いモヤなんて映っていない。

「一番ありそうなのは、幻覚作用のある毒を発生させる怪獣、でしょうか」

 これが怪獣の生態由来の現象であるのなら、ですが。テルアキが難しい顔で映像からゲントに視線を移す。

「目撃者の黒いモヤの証言は、距離が離れてたから軽度の症状が出た……?」

「てことは、被害者にはもっと違う何かが見えてて、それに近づこうとしてモヤに入って……」

 それだ!とアンリとヤスノブがお互いを指さし合って「納得!」という清々しい顔をしている。断定までの思考に挟むのはワンクッションじゃ足りなさそうだ、スリークッションくらい設置しておくように。

 よくわからない指示が脳内を駆け抜けたところで推測の域を出ない考えをいったん横に置いておく。

「可能性としてはあり得るが、それと断定して動くのは危険だ。引き続き、情報収集と精査。あと、遺体発見現場周辺に異常がないかだな」

「ここからでは少し遠いのがやはり難点ですね」

「怪獣対応もありますし、総出で調査に向かうわけにはいきませんからね」

「ていうか、よく分からないから押し付けとこ、みたいに思われてません?」

 一瞬の沈黙。

「さ、仕事に戻るぞ」

 その件については、考えないことにしたのだった。

 

 黒い靄や心神喪失者が発見される頻度が増えてきた。

 あるエリアを中心に、円を描くように。

 鬱陶しい虫がいつの間にか消えていた。ゴミを荒らすカラスが一斉に消えて、道端がきれいだ。野良猫が消えた。ペットたちが不安げに鳴き、気性が荒くなり、脱走する。

 少しずつ。少しずつ。生き物の気配が消えていく。

 黒いモヤが少しずつ。少しずつ。ゆっくりと広がっていくのにいち早く気づくものはいない。

 街から人が出て行っていることを報告し、一時帰還命令を受けたエミは日暮れ前にSKaRDCPに戻っていた。

「それで、異変の分布円中心には何がある?」

「パワースポット的な観光地がありますね。黄泉平坂っていう」

「パワースポットか……その地域のことを少し調べよう。伝承があるのであれば、ドルゴのときみたいに何か情報があるかも……」

「ゲント隊長!兵庫県淡路に巨大生物現出!!」

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「なんだと!?」

 思考が事件の方に向いているタイミングで、あまりにも突然の怪獣現出に、一瞬だけ、思考が止まった。

「……………早急に対応するぞ。3分で出る!」

「「「「ウィルコー!」」」」

 気合の入った返答のもと、準備を迅速に整え、各々が配置につく。

 巨大な怪獣が、暴れるでもなく真っ直ぐ街をすり潰しながら歩いている。

「暴れているわけではなさそうだが……」

「あの巨体が移動してるだけで被害は甚大ですね……」

 装備を携えて散開、怪獣の気を引くように狙撃を開始する。それに合わせてアースガロンが怪獣の前に立ち塞がった。

 巨大な怪獣と巨大な鋼の獣がぶつかり合う。

 だが、何かがおかしい。

 この違和感はなんだ。

 少し考えてソレに気づく。

 この怪獣は戦うことを目的としていない。

 ただ、進む。それだけを目的に動いているように見えた。

 己に向けられる砲撃、銃撃を歯牙にも掛けず、アースガロンを押しのけ、弾き飛ばし、まっすぐに進む。銃撃を続けながら、その効果の薄さに歯噛みする。

「どこに向かってるんだ」

『……………隊長、このまままっすぐ行けば、調査中の事件の発生エリアがあります』

 まさか、関係があるのだろうか。

 ポケットの中の相棒を確かめるように撫でた。

 押さえ込もうと奮闘するアースガロンと、それを振り切ろうとする怪獣。

「〜〜〜〜〜〜」

 怪獣から、鳴き声が哀しげに響く。

 どこか懐かしい旋律。歌のような、音。

 その声に応えるように、背後、怪獣が向かおうとした先から同じ旋律が響く。

 黒いモヤがドームのように大きく渦巻くのが見えた。同時に黒いモヤの中からも同じような旋律が聞こえた気がした。

「一体何が起こってるんだ……!」

 何かが起こるにしても、早急に目の前の怪獣を退けなければ。

「ブレーザー!」

 声に応えて、光が左腕に収束する。腕に加わる重みは、命を守る意志の重さ。物理的な重さに慣れても、重みの特別には慣れない。

「いくぞ、ブレーザー!」

 赤と青の閃光を宿した眩い光が空を裂いて怪獣の前に立ちはだかった。

「ルロロロロロロロロイ!!!!」

 鋭い咆哮が旋律を引き裂く。初めて、怪獣の動きが、足が明確に止まる。黒い靄のドームから響く旋律も心なし小さくなっている。

 怪獣が鳴く。まるで呼び鳴きだ。それも、恋しいものを呼び慕うような。

「ルロロロロロイ!!ロロロロロロロロロォ!!!」

 まるでそれを遮るように、ブレーザーが咆哮を叩きつける。

 怪獣が、行くべき方向を見失ったように視線をウロウロとさせ、足を引く。抵抗が緩み、アースガロンがブレーザーの手を借りて怪獣を市街地から押し出した。

 このまま地中に帰ってくれれば。だが、現に被害が出ている以上、そのままにしておくわけにも行かない。

 改めて戦闘態勢を取れば、怪獣は戦意を失ったように穴を掘り始め、あっという間に地中にその姿を消した。

 アースガロンとブレーザーが顔を見合わせるが、怪獣がいないなら仕方がない。

 アースガロンは帰投、ブレーザーは一度飛び立った。

 

「一体何だったんだ……」

 怪獣が潜っていった穴の周りを哨戒する軍部の様子を映像で見ながら、CP内で1人蟀谷を揉む。

 ブレーザーの咆哮で恐れをなして逃げた、というふうには見えなかった。

 では、なぜあの怪獣は逃げたのか。あの黒い靄との関係は何なのか。黒い靄そのものは何なのか。

 黒い靄が渦巻く方を見る。大きく膨れ上がったそれ。

 何かしら理由をつけて、あちらも見に行きたい。さてどうしようかと考えていると、突然聞き覚えのある声がゲントを呼んだ。

「ゲント殿。ブレーザー殿」

 声も特徴的な呼び方も、心当たりは1人しかいない。だが、その1人は、もういないはずだ。

「ザンギル……?」

 CP内を見回せば、黒い靄に包まれた戦友の剣豪がそこにいた。

「あぁ、よかった。ようやく声が届いた。いや、良くはないのであるが」

 慌てて近づこうとするゲントを、ザンギルは手で制す。

「近づいてはならん。この瘴気は死者のものなれば、生者は触れてはならん」

「瘴気……?」

 物語の中でしか聞かないような単語に眉をひそめる。

「瘴気は死者の気配。生者には毒。触れればただではすまん」

 黒い靄があると思われる場所に手を伸ばした被害者が倒れる映像が脳裏を過ぎる。

「一体、何が起きてるんだ。何か知っているのか」

「然り。先の戦いで亡者がこちらに出てから、境界が曖昧になっている。だからこそ、こうして話しに来たのだ、ゲント殿」

 ザンギルが語るに曰く。

 死した伴侶を求めるがゆえ、生ける伴侶を求めるがゆえに、その情念から生と死の概念をもその身に宿した2匹の怪物がいたのだと。

 歌うような声で呼び合い、幾度となく引かれ合い、惹かれ合い、そして再びと逢うことができないことを骨身に染みて、そして嘆き続ける哀れな怪物。

「[[rb:童歌 > わらべうた]]に似ているだろう」

 この星の人間は不思議だな。

「その旋律に、[[rb:詩 > うた]]を付けた」

 

 かごめ かごめ

 

「夜明けの晩。後ろの正面。正反対の事柄が同時に存在し、

鶴と亀が滑る。めでたいものが滑る。反転する」

 

 この歌は。

 

「死者と、生者を入れ替える。あるいは、生死の概念を否定する」

 

 ゾクリ、と背中を冷たいものが滑り落ちる。

 

「気をつけられよ。瘴気に触れてはならん。イザナギを、イザナミに会わせてはならん」

 

 愛しきものを想うことすら業と化した哀れな獣。

 愛しきものを想うことすら罪と化した哀しき獣。

 

「業想獣イザナギ。罪想獣イザナミ」

 

 かつてこの星の人間は、あれらをそう呼んでいた。

 

「ブレーザー殿であれば、多少は瘴気の中でも動けるであろう。だが、それもそう長くはないと思われる。

よいか、ゲント殿。あれらを倒すことはできぬ。再び眠らせるか、あるいは完全に消滅させてやるか。

死したイザナミを生き返らせるか、死の概念がないイザナギを殺すかしか、あれらを満足させることはできん。

厄介な相手だ、俺もあの中からできることをしよう」

 どうか無事で。武運を。

 ザンギルの姿が黒い靄と共に消えた。

 ザンギルがいた場所を見つめ、改めて頭の中で現状を整理する。

「………………」

 イザナギを足止めする役割と、イザナミを対応する役割。最低でもこの2つは必須だ。

 イザナミの相手は、ザンギルの言うとおりであればブレーザーしかできない。

 アースガロンと、ブレーザーで、二手に。

 隊長の不在をどうする。そもそもあの中で本当にブレーザーが動けるのか。動けるのならどのくらい。

 怪獣が。イザナギが動き出すまでに動きを決めて、手を打たなければならない。

 時間はない。

「……………SKaRD総員。至急CPに集合してくれ」

 無線で通達するその声は酷く静かだった。

「すまない、ブレーザー」

 できること、使える手でたった一つ。信頼一つで動ける手がある。

「また一番危険な場所に来てもらうことになりそうだぁっっっち!!!」

 じゅっ!と、不意打ちの発熱が太腿を焼いた。

「あっつぃ……なに、なんだよ……」

 もー……と、相棒を目の前に掲げる。

「そんなことで謝るなって?いや、さすがに入るだけで危険だと分かってるところだし……あっついって!!!」

 器用にストーンでお手玉をする。相変わらずめちゃくちゃ熱い。それでも、大事な相棒を落っことすようなヘマはしない。

「そうだな。危ないのは俺も同じ、か。けど、前にも言ったように俺はお前を離す気はないからな。お前も離すなよ」

 そう念を押せば、今度はじんわりと熱が伝わってくる。

 たとえどれほどの危険の中でも、俺たちは独りになることだけは絶対にない。

 イザナギとイザナミ。彼らもまた、そうでありたかったのだろうけれど。

 

 SKaRDCPに戻れば、見慣れた顔ぶれがすでに揃っていた。

「ゲント隊長、急に全員を呼び集めるなんて、何かありましたか?」

 テルアキが副隊長として口火を切る。

「新しく情報が手に入った。これをもとに、今後の動きを伝える」

 は?え?と部下たちが顔を見合わせる。

「情報、ですか……?上層部から?」

「いや。だが信用できる情報だ」

 あの黒い靄に触れてはいけないこと。怪獣を靄の中に入れてはいけないこと。ブレーザーだけはあの中でも少しの時間は動けるであろうこと。

「怪獣出現時はヤスノブ、アンリ、アースガロンで出撃。エミはその援護、テルアキ、お前には現場指揮を任せる。絶対にあの怪獣をあの黒い靄に近づかせるな」

「隊長はどうされるのですか。なぜ私に指揮を」

 鋭い目で見据えられる。

「………………俺は、ブレーザーと共にあの中に入る。だから、現場指揮はお前に任せる」

「ちょっと待ってください。あれに触ったらダメだと言ったのは隊長やないですか!」

「そうですよ!ブレーザーさんだけに危険なことを任せるのは気は引けますけど、あまりにも危険すぎます」

「それに、どうやってブレーザーさんにあの中に入るよう頼むんですか。彼が来てからこうやって作戦会議が出来る余裕はないですよ。そんな危険なところに、行ってください!だけで行ってもらうのも失礼ですし」

「あまりにも危険すぎます。聞き入れられません」

 しん、と沈黙が下りる。緊張で口の中が乾く。

「ブレーザーには、すでにあの中に入ることで了承を得ている」

 いったいいつ。どこで。どうやって。ぽかんとする部下たちの顔が雄弁にそう語りかけてくる。ただ、テルアキだけが静かにゲントの目を見つめていた。

「ここから先は絶対に他言無用だ。お前たちを信頼している」

 一人一人と目を合わせる。

 ブレーザーストーンを、震えそうになる手に乗せて彼らに前に出した。

「黙っていてすまない」

 手の中に視線が集中するのがわかる。

「ブレーザーは、俺の中にいる」

 どれだけのリスクを考えても、これを伝えることが大前提での作戦立案が一番迅速に動ける手だった。

 その手を取れるほど、彼らを信頼している。

「…………そんな気はしていましたが、やはりでしたか」

 冷静さを取り戻したテルアキの言葉に、今度はゲントがぽかんとする。

「気づいてたのか……?」

「そんな気がする、程度です。確信はなかったですから」

「確かに、ブレーザーさんがいる時にゲント隊長が連絡取れた[[rb:例> ためし]]がありませんでしたね……」

 テルアキの言葉と、エミの納得、まさかそんな反応が返ってくるとは思っていなかったゲントが気を取り直すまで数秒かかった。

「……………と、とにかく。俺とブレーザーがあの中に入る間、こちらのことはお前たちに任せたい」

 これが最善手のはずだ。一刻も早く、あの黒い靄、瘴気の元を断つ。

「頼むぞ、テルアキ。エミ。アンリ。ヤスノブ」

「…………分かりました。ただし。ゲント隊長」

「なんだ」

「必ず生きて帰ってきてください。全員無事に帰還、の中に、あなたとブレーザーも含まれていることをお忘れなく」

 じんわりとした喜びの熱を手に感じながら、分かってる、と、頷きを返した。

 

 まず、中はどうなっているのか。どのくらいの時間、あの中で活動できるのか。その確認をしなければならない。

「ブレーザー。まずは偵察だ、慎重にいこう」

 ゲントの声に応えてブレーザーブレスがゲントの腕に現れる。

 光を遮る黒い靄の中に閃光が踏み込んだ。

 昏い。冥い。

 先が見えないわけではない。だが、どうしようもなく暗い。

 あまり境界から離れないようしながら歩き出す。

 体が重い。これでは戦いにくい。

「ルロォ……」

 丹碧の狩人が足音を立てずに進んでいく。

 かすかな何かの音が耳をかすめて足を止めた。

 目には何かがいるようには見えない。生き物がいるような音もしない。なのに、ナニカがいる。

 重心を落とし、腕を構える。

 ブォンっと大きなものが空気を切る音がして、反射的にそれを叩き落とす。

 ひとつ、ふたつ、みっつ。

 感触から、触手の類だろうか。

 敵の影すら分からないせいで、敵の形状が分からない。何撃か目のそれを叩き落としそこねて身体に衝撃が走る。

 一撃で膝をつくほどではない。

 攻撃するべき本体を探さなければ。

 ブレーザーはその手に光の槍を作り出し、それを握った。

 槍の光が辺りを照らす。

 無数と言うには少ないが、決して少なくはない太い触手がイルーゴよろしく蠢いている。

 イザナミというのは、よほど大きな姿をしているのだろうか。

 あまり奥には踏み込めないが、敵を知らなければならない。

「ルロロロロロイ!!」

 静かすぎる空間を咆哮が轟く。槍が触手と暗闇を薙ぎ払う。

 孤軍奮闘、奥に進むにも撤退するにもなかなか難しい状況だ。

 一斉に攻撃してくるわけではない。だが、勢いで切り抜けるのはリスクが高かった。

 切り抜ける手を探しながら、触手を切り払い、掴んで叩き落としと戦い続ける。

 カラータイマーが赤く光り始める。

 外での戦いに比べるとやはり断然に早い。

 再び跳躍しようとした瞬間に、強く足を引っ張られて慌てて足元を見た。

 小さな黒い手が無数にブレーザーの足を掴んでいる。触手ではない、手だ。

 小さな手とは思えない力で足を固定されている。

「ブレーザー殿!」

 触手の群れを切り裂いて、ザンギルが走ってくる。

「遅くなってあいすまぬ。大丈夫であるか」

 足元をつかむ小さな手をザンギルの刃が切り払う。

「ルロロィ」

「一度撤退されよ。道は開こうぞ」

 ギラリと光る刃を翻し、迫る触手を斬り払うザンギルの後を駆ける。

 もう少し。もう少しで境界を越える。

 背後で、複数回の轟音が轟いた。

 ちらりと振り向けば、立ち上る土埃。

 目を凝らそうと足を止めたブレーザーの背中をザンギルがドンと押す。

 外だ。

 突然押されたせいでもんどり打って地面を転がるのと、エネルギーが尽きるのがほぼ同時か。

 ゲントが起き上がり、ザンギルを見上げる。

「すまんな、ゲント殿」

「いや、助かったよ。ありがとう」

「礼には及ばん。最後に手を貸したのは俺ではないのだから」

「え……じゃあ誰が……」

 向こう側で手を貸してくれるような仲間が、いただろうか。

「決戦の時が来れば、[[rb:見 > まみ]]えることもあるであろう」

 早く帰るといい。イザナギが動き出す前に。イザナミが鳴く前に。

 晴れてきた土煙の向こうにはえぐれた地面があるだけで、触手も、その誰かもいない。

「生者の気配は死者には眩しい。お前たちが入ってくればすぐにイザナミには分かるだろう。すぐに合流できるよう、ここで待つ」

「分かった」

 ゲントが[[rb:踵 > きびす]]を返すのを見届けて、ザンギルも闇の中に消えていった。

 

「あの触手の数を相手にするのに技を出すエネルギーを考えると、この偵察以上に使える時間は少ないな……」

 

「ゲント隊長。怪獣が活動を開始したようです」

 テルアキがそう伝えてくる。

「分かった。じゃあ打ち合わせ通り、こっちは任せる。向こうには……」

 鋭い目で、黒い靄を睨む。部下たちが見た隊長の目は、片目だけ青く輝いて見えた。

「俺たちが行く」

「ご武運を」

「お前たちも。いいな、全員、必ず無事に帰還する!」

「「「「ウィルコー!!」」」」

 手早く装備を固めて、それぞれの役目を全うするために動く部下たちの背中に、ゲントもまた、背中を向ける。指輪とブレスレットに触れてその存在を確認する。人々を、家族を守る。

「行くぞ、ブレーザー」

 ゲントの左腕に光が集う。形をなしたブレーザーの意思に自分の意思を重ねて。

 チルソナイトソードを手にしたウルトラマンブレーザーが、瘴気に足を踏み入れた。

「イザナギが動き出したか」

 ブレーザーがそちらに視線を向ければ、当たり前のようにザンギルがそこにいた。

「今一度、共に戦おうぞ」

 差し出されたザンギルの剣に、チルソナイトソードを重ねる。

「イザナミの本体はこの奥、中心部だ。行くぞ」

 大地を蹴って、剣士と狩人は並んで走る。

 時間が限られているのだ。急がねば。万が一、この中で自分が力尽きれば、ゲントがこの中に生身で取り残されることになる。それに、外の[[rb:鋼の戦友 > アースガロン]]も気になる。

 また触手が襲ってくるが、貫くことを主とした槍ではなく、切り開くための剣を振るえばさほど手間取ることなく斬り伏せることができた。

 だが数が多い。

 思うように進めない。

 ズルリ、ベシャリと何かを引きずるような音がする。近づいてくる。

 その音が近づくにつれ、触手の攻撃性が増し、防戦を強いられる。

「ブレーザー殿。イザナミが来るぞ」

「ロォィ……」

 じりっと身構えるその視線の先。

 ドロリとした体から、何かが落ちるたびにベシャリベシャリと音がする。

[uploadedimage:18961835]

「哀れな」

 這いずり、身体から腐った肉を落とし、再生した肉もまた腐り。それでも伴侶を求めてここまで来たのだろう。

 その姿はおぞましく哀しく、それでも美しかった。

 だが、その美しさを支える願いを叶えてやるわけにはいかないのだ。

 ギリと刃を構える。

 無数の触手にイザナミの本体。

 目も手も手数も足りない。

 数の暴力はいつだって理不尽だ。

 奥に進んでいたはずなのに、もう境界まで押し返されていたらしい。瘴気の壁の向こう、うっすらとアースガロンとイザナギが戦っているのが見えた。

「ブレーザー殿!」

「ルロロロロロロロロロロイ!!!!!!」

 ザンギルの真空すら切り裂くような高速の斬撃が触手の群れを切り裂いてイザナミまでの道を作る。その道を雷光が駆ける。

 届いた。

 イザナミのジュクジュクとした身体に深く深く刃を突き立て、凄まじい腐臭に肉が焦げる匂いが加わった。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

 名状しがたい悲鳴が上がれば、瘴気の向こうでイザナギが旋律を吠える。

 痛みにのたうつイザナミの触手がブレーザーの体を打ち据えて弾き飛ばした。激しい衝撃の中でもチルソナイトソードを放すことなく、黒い地面を転がる。

 体勢を崩したブレーザーの前にすかさず滑り込んだザンギルが時間を稼ぐ。

 だが、数の暴力は圧倒的で、覆すにはどうしても手が足りない。あの一撃で仕留められなかったのは痛い。

 触手がブレーザーとザンギルに向かって降ってくる。

 体制が整いきらないブレーザーと、それを庇うザンギルでは、避けられない。

 触手を見上げるその視界。

 少し暗い赤と青の閃光が、寸分違わず触手たちに着弾し、轟音を立てた。

「ウルルルロァァァァァイ!!!!」

 ブレーザーによく似た、咆哮。

 この声は覚えがある。この攻撃にも覚えがある。

 野獣のような俊敏な荒々しい“黒”がブレーザーとザンギルの前に大地を揺るがせて着地する。

 ゲントには、その背中にもう一つの背中がダブって見えた。

『ジン……?』

「ルロァ……」

 かつて、ブレーザーを模して造られ、地球の闇を宿した、名もなき彼がそこにいた。

『なんでこいつがここに』

「番人殿。助太刀感謝する」

 黒い彼にザンギルが頭を下げる。

「グルルァ」

 

「よぉ、相棒」

「じ、ジン……なのか……?」

 光の中で、かつての相棒と向かい合わせに立つ。

「随分大変なことになっちまったが、それでもまたお前と一緒に立てるなんてな」

「なんでお前が……それに、なんであいつが」

「一緒に戦ってくれるみたいだ。お前の相棒と同じで、俺の相棒も本質は守るものだからな」

 紫がかった光の中で、ジンが笑う。

「だが……」

「ゲント。最初は何も分からないのはお前も同じだっただろう。分かるのは、一緒に戦おうとしてくれてるってことだけ。信じろ。こいつも……俺の相棒も、“ブレーザー”だ」

 あぁ、かつて、共に前線を駆けた彼の瞳そのもの。この瞳の強い光が、自分の命を繋いでくれた。

 この死してなお変わらぬ相棒が、黒い彼を信じるのなら。

「…………分かった。お前とブレーザーを信じよう」

 ブレーザーを模したものであるのなら、在り方もきっと。ブレーザーが守る者であるのだから、彼もまた。

 同じ光の中にありながら、決して破れぬ境界の壁越しに拳を合わせる。

 熱を感じることも、合わせた拳を感じる事も出来ないが、それでも彼が目の前にいる。

 二人の相棒が傍にいる。

 これほど心強いことが他にあるものか。

 

「ルロロロロロロイ!!!」

「グルルァァァイ!!!」

 吠える。吼える。咆える。

 猛る。

 重力を無視した身軽すぎる動きで黒い彼が大きく跳躍し、触手を鷲掴み、全身をしならせて上に登っていく。

 戦いにおいて、高い位置を取ることは基本的にそのまま優位を示す。

 光の槍を夜空の星のごとく頭上に展開し、流星群のごとく降り注がせる。

 イザナミが鳴く。触手が本体を守るように動けば、ブレーザーとザンギルのいる場所からは触手がかなり減った。

 黒い彼が作ったその道を見誤ることなどない。

 駆ける。翔ける。

 襲ってくる残りの触手をザンギルが切り捨て、ブレーザーはまっすぐになんの憂いもなく駆け抜ける。

 再びチルソナイトソードを突き立てる。だが、これだけでは倒しきれない。

 ならば。

 雷光を走らせるチルソナイトソードから手を離し、掌をイザナミに向ける。

 煌々と輝く丹碧の槍。それを突き立てる。

 イザナミが大きく暴れ、押し込むのにうまく力を込められない。

 出来るのなら舌打ちしたい気分だ。

 その隣に、だんっと黒い影が降り立ち、作り主以外が触れればダメージを負う槍を握り、共に突き立てる。

 その手が焼けていないのは、彼がブレーザーであるという証明と彼が敵ではないという証明の一つで。

 2人のブレーザーの力で押し込められた光の槍に、イザナミが凄まじい悲鳴を上げた。

 瘴気の向こう、戦闘の衝撃が激しくなる。

 伴侶の危機にイザナギがより激しく抵抗しているに違いない。アースガロンの咆哮も聞こえる。

 そろそろアースガロンの稼働エネルギーも厳しいかもしれない。

 荒れ狂う触手がブレーザーたちに向けて横薙ぎに払われたのを、チルソナイトソードだけ引っ掴んで二人揃ってその場から飛び退いた。

 胸元の青い光が赤く点滅し始める。アースガロンの残存エネルギーを気にしている場合ではなかったらしい。

 時間もない、出し惜しみはもうなしだ。

 ブレーザーの中でゲントはもう一人の相棒を呼ぶ。それに応えて現れたファードランは力強く羽ばたきながらイザナギに一撃いれてアースガロンを刹那的に援護し、境界の瘴気ごと触手を焼き払い、ブレーザーを包む。

 寒くて暗くて命のないこの場で、熱く輝く炎の龍。炎と光は命の象徴だ。

 銀と丹碧の狩人が、炎と光の戦士へ。

 チルソファードランサーが炎と雷を噴き上げれば、触手が慄いたようにブレーザーたちから少しだけ距離を取った。

 ほんの少しの猶予が生まれる。

 黒い彼が、じっとブレーザーの胸元を見つめた。

 赤く光るそれ。

 曲がりなりにもかつて戦ったのだ、彼もその意味を知っている。

「グルォァ」

 赤い鎧に守られた赤く点滅する光にそっと触れる。ほんの少し、ブレーザーが身を引いた。だが、黒い彼は構わず手を伸ばしてくる。

 触手もイザナミも、この炎の光に近づけないようで手を出しあぐねているかのように近づこうとしては引いていく。

 あれらに対して、炎は有効らしい。だが

「ブレーザー殿。これ以上はこちらでの活動は厳しかろう。その姿は、命の気配が強すぎるようだ」

 イザナミに踏み出そうとしたブレーザーを言葉で押し留めるザンギル。胸に触れていた手に力を込めて押し留める黒い彼。簡単に押し留められることに戸惑った。

 重く感じた体は、足は、いつしか環境のせいではなくなっていたようだ。

 もう一度足を踏み出そうとすると、簡単に膝が折れた。

 胸の光の点滅が早くなっている。

「番人殿」

 

「お前は引いたほうがよさそうだな」

「なぜだ、ジン。あの反応、明らかにファードランの力が有効だ」

「あぁ。だが、もしここでお前のブレーザーが力尽きれば、この瘴気の中でお前は生きていられない。お前のその力は、イザナミに有効だが同時に死の領域では自分の命を削る」

「だが……!」

「それに、お前の仲間たちもそろそろ限界だろう。お前がこっちにいてくれれば確かに心強いし、お前と並んで戦えるのは悪くないけどな」

 今のお前のいるべき場所は。

「心配するな。俺のブレーザーも強いんだ。ブレーザーの強さはお前も知ってるだろう」

 向こうに戻れば、まだお前たちは戦える。

「こっちは俺が行く。向こうは任せるぞ、相棒」

 生きていたジンが最後に言った言葉。

 つまりこれは

「ここでまた道は分かれる、か」

「あぁ」

「……………そうか。分かった」

 光の中で、互いに背を向ける。

「ジン」

「なんだ」

「すまない」

「何度も聞いた。しつこいぞ」

「………ありがとう」

「それも、何度も聞いた」

「……………………ジン」

「なんだよ」

「お前が相棒でよかったよ」

「…………恥ずかしいやつだな」

 俺もそう思ってるよ。

「じゃあ、行くか」

「あぁ」

「こっちは」

「あっちは」

「「俺たちが行く」」

 

 黒い彼が、ブレーザーの胸、心臓部を強く押す。

「ゲント殿。ブレーザー殿。助力、感謝する」

 境界の外。

 うるさいほどに鳴っていた胸元の光が少し落ち着いた。あの空間はやはり生けるものには毒だったらしい。

「ブレーザーさん!ゲント隊長!」

 アースガロンがイザナギをなんとか抑え込んでいる姿が目の前にある。

「ルロロロロロイ!!」

 イザナギを蹴り押すことでアースガロンから引き剥がす。

 アースガロンがブレーザーの隣に並んだ。

 瘴気の壁の向こうで、ブレーザーの背中に背中を向けて黒い彼が、アースガロンの背中に背中を向けてザンギルが立つ。

「グルォァァァァ!!」

 黒い彼の咆哮、その咆哮にちらりと後ろを確認する。

 背中を守る彼の姿が、紫色の光を纏う。

 それはまるで、ファードランアーマーのような。

 背中の装甲から伸びる2本の触覚には見覚えがあった。敏捷性に富んだ体を砦のように固めるその装甲にも。

「ゴンギルガン、か……?」

 ブレーザーの中でゲントが呟いた。

 子どもの純粋な寂しさを怒りにして生まれた悲しき怪獣。かつて、自分たちが倒した。

 それが、今は黒い彼を守っている。

「そうか……」

 寂しさを埋めるような出逢いがあったのか。怒りを鎮める、仕合わせを見つけたのか。

 死んだ先で、というのは、皮肉かもれないが。

 ぐいっと、鎧を整える。

「ルロロロロロァァァァァイ!!!!!!!」

「グルォァァァァォォォォ!!!!!!!」

 2つの咆哮が混じり合う。

 

「参る」

 ザンギルが鋭い斬撃で黒い彼に道を作る。俊敏性がいささか落ちているものの、それでも軽い身のこなしで黒い彼がその道を駆け抜ける。

 イザナミの触手がイザナミの顔らしき場所を守るように固まっていく。

 背中の装甲から伸びる触覚からバチバチと紫の雷光が迸る。赤と青の光の槍が次々に触手の壁に降り注ぎ、抉っていく。

 その槍たちが抉ったところに、間髪入れずに跳躍から膝を叩き込む。

 黒い彼のその背中を守る剣豪は、瘴気の向こうのブレーザー達を見た。

 

 [[rb:鋼の獣 > アースガロン]]がアースガンで牽制を行いつつ、イザナギに接近し、ガシリと掴みかかる。

 活動できる時間は残り少ない。だが、ここで引き下がるわけには行かない。

 アースガロンに続いて接近し、チルソファードランサーを叩き込めば、タイミングを見計らってアースガロンが怪獣から離れる。

 激しい爆炎を叩きつけ、チルソファードランサーを突き立てた。

 伴侶の悲痛な悲鳴に、イザナギの動きはなお激しくなっている。イザナミの方も動きが激しくなっているようだ。

 生きていればこそ、イザナギの疲労やダメージも蓄積されているはずだ。だというのに、この力は。

「すまない……だが、どうしても……」

 会わせてはやれない。合わせてはやれない。

 脳裏に妻の姿が過ぎる。

 この2体のこの姿。何が業か。何が罪か。

 想うことが罪業であるなど。

 ただただ、あまりにも。

 それでも、自分たちは生きているものを守らねばならない。後ろで戦う彼らは死したものの安寧を守らねばならない。

 生と死の概念の崩壊など、誰も望んでないでいない。おそらく、イザナギとイザナミでさえ。

 ただ逢いたくて。ただ触れたくて。

 それが叶わない[[rb:性 > さが]]を得てしまったがゆえに。

 イザナギがブレーザーにむけて強靭な尻尾を叩きつけようとするのをアースガロンが立ちはだかって受け止める。ファードランがブレーザーから飛び立ってイザナギに強烈なタックルをぶつける。

「すまない」

 指輪とブレスレットが強い光を放つ。

「すまない」

 瘴気の壁の向こうで、背中に気配を感じる。

 

 強い光を宿した左腕を掲げる。

 顎を模したようなアーマーに紫電が蓄えられる。

 

 烈しい光の奔流が、イザナギとイザナミを飲み込んだ。

 

 爆音も爆炎もなく、静かにその姿が消えていく。

 

 消滅することが幸せなのかは分からないが、このままこの世界で会えない伴侶を偲び続けて嘆き続けるよりは。

 イザナギがいた場所に、儀式を捧げる。

 次はどうか、もっと幸せに。

 

 

 黒い靄が引いていく。

 境界のすぐ向こうに、人影が2つ。

「ジン。ザンギル」

「また助けられたな、ゲント殿。ブレーザー殿」

「相変わらず無茶し通しだけどな」

「お前にだけは言われたくないぞ、ジン」

 ジンの後ろに、黒い彼がうっすらと見える。

「…………彼は」

「番人殿か」

「番人……」

「彼はもともとはこちら側を守る番人であったのだ。それに体という器ができただけのこと」

「もとの役目に、ウルトラマンブレーザーの在り方が加わった。元の番人であればもう少し静観してたかもな」

 であれば、助けてくれたのはブレーザー自身でもあったのか。

 ブレーザーストーンをそっと握る。

「ジン殿。長居はできぬ」

「おっと。そうだな。そろそろ行くか」

「!もう、逝くのか」

「あぁ。前の戦いをきっかけにイザナギとイザナミが目覚め、境界が曖昧になったからここにいられた。その2体が消えた以上は、あるべき場所に戻るのが筋ってもんだろ」

「ゲント殿、前に俺が遺したあの石はまだ持っておるか」

「あ、あぁ……あの怪獣たちの幽霊を、ってやつ」

「そうだ。あれを、黄泉平坂の入口に。道を閉ざす役目を果たすだろう」

「道を、閉ざす……」

「石を置こうと置かなかろうと、道はもう繋げさせないけどな。俺と、俺のブレーザーが」

 だから、何も気にする必要はない。不要な行き来はもともとないのだから。

「お前らしいな。分かった。必ず石を持って行くよ」

 3つの影が頷いた。

「では、ゲント殿。ブレーザー殿。御免」

 ザンギルの影が消える。

「前にも伝えてもらったけどな、ゲント。もう一度言うぞ。謝罪も感謝ももういらん。次の墓参りには、もっと違うことを聞かせてくれ」

 お前の幸せを。

「………あぁ……分かったよ。お前の好物でも持って行くかな」

「いいな、待ってる」

「…………………ジン」

「じゃあな、ゲント」

 お前の幸せを、願っている。

 

 

加護目 加護目

加護の中の鳥居は いついつ出会う

夜明けの番人

鶴と亀が統べた

後ろの少年だぁれ

 

 

 

 

 

『意識不明で入院していた一連の事件の被害者たちが、目を覚ましました。これより警察から順次事情聴取が』

 

「結局、あの黒い靄の中には亡くなった大切な人が見えてたみたいですね。戻ってきた人たちは、背中を押されて戻ってきたと証言する人が多いようです」

「目が覚めなかった……亡くなった人たちは、夢から覚められなかったのかもしれませんね。大切な人といられる夢から」

「それとも………呼ばれちゃったんでしょうかねぇ」

「悲しさや寂しさに負けてしまう人もいるだろうからな……」

 そんな会話を聞きながら、ゲントは手の中の相棒を眺める。

「ところでゲント隊長!そのメダル……?に話しかけたらブレーザーさんに聞こえたりします!?」

「あ、たしかに気になるー!」

「えっ……いや、どうだろう……多分……?」

「隊長、ちょっと貸してください!」

 ブレーザーストーンを持ったゲントの腕をぐいっとニッコニコの笑顔で引く。

 さすがに本当に借りる気までは無いようで何よりだ。

「いてててててて!!!」

 その代わりにちょっとおかしな方向に腕が曲がっている気はするが、それは置いておいて。

「ブレーザーさん!いつも一緒に戦ってくれてありがとうございます!」

「いつもとっても心強くて頼りにしてます!」

「アーくんもお礼言うとります!!あ、もちろん僕も!」

「ちょ、みんな痛い痛い痛い!」

「皆、ゲント隊長の腕が変な曲がり方してるから、一回落ち着こう、な?」

 テルアキの言葉でひとまずゲントの腕は窮地を脱したのだった。

「ありがとう、テルアキ。よかったな、ブレーザーあっっっつ!!!!!!照れてるのか!?照れ隠しか!?あーーーっっっちぃ!!!!」

「ゲント隊長の唐突なあれはブレーザーの仕業やったんやな……」

「照れてるなんてブレーザーさん可愛い!」

「結構感情豊かですね」

「もしかして、前に野菜ジュース強奪したのも!」

「あ、そういうこと!?」

「もしかして壁壊したのも……?」

 不可思議だった謎が解けていく。

「………………………隊長」

「えっ……あ、いや…………か、壁は……ちょっと知らない、なぁ……」

「目が泳いでますよ、隊長」

「隊長、あれの後始末大変だったんですよー!?」

「いや知らないって!な?ブレーザー!………あ、あれ?ちょ、ブレーザー!?」

 今の今まで手の中にいたブレーザーがいない。

 バタバタと体を叩いて探してみれば、普段は入れない尻ポケットに。

「なんで!?」

 実は壁をぶっ壊したことをちょっと気にしているのかもしれない。そう思うと、この相棒が少し可愛くもあるのだ。

 この賑やかな楽しい時間を、命の在り方を紡いで繋いで、そしていつか、向こうに持って行く。

 

 ザンギルの石を手に、黄泉平坂に向かう。

「お前たちに次に会うまでに、話のネタをたくさん作っておかないとな。ジン。ザンギル。………それから、もう一人のブレーザー」

 黄泉平坂に、石を置く。

「千引きの岩にしては、少し小さいんじゃないか」

 石が溶けるように消えるのを見届ける。

 明るい光が黄泉平坂を照らす。一陣の風が吹き抜ける。

 この先には、これまでを生きた命とそれを守る守護者が眠っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この話を思いついた時に最初に思い浮かんだのは、バカでかい桃を担いで走り回る元気なブレくんでしたwwwwwwwww

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